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一話 ここってどこ?

はじめまして、あおさと申します。

歴史物ではございませんが是非ご覧ください!

「天下の悪女」──そう呼ばれることを、彼女はとうに受け入れていた。

室町幕府第八代将軍の正室、日野富子。我が子・義尚を将軍の座につけるためになりふり構わず動き、結果として応仁の乱という未曾有の戦火を引き起こした。戦乱の中で米を買い占め、関所を設けて関銭を取り、蔵が床抜けするほどの巨万の富を築き上げた。

しかし、その執念の果てに得たものは孤独だった。溺愛し、人生のすべてを懸けて将軍にした我が子には疎まれ、顔を合わせることすら拒まれた。金と権力に群がっていた公家や側近たちも、裏では彼女を守銭奴と嘲笑った。

(……結局、妾の人生は何だったのだろうか。妾は何のために生きてきたのじゃ。義尚、何故妾を見捨てたのじゃ。みな、何故妾から離れていったのじゃ)

莫大な銭の山に囲まれながら、わずかな側近に見守られ富子は冷たい床の上で静かに息を引き取った。


一方、遠く離れた奥州の地、そして時代も遥か下った江戸の世。

「奥州の独眼竜」と恐れられた男、伊達政宗は、泰平の世の中で静かに目を閉じようとしていた。

曽祖父・稙宗と祖父・晴宗の代に起きた「天文の乱」で衰弱しきっていた伊達家を立て直し、不慮の事故により実の父・輝宗を討つという凄惨な覚悟を経て、奥州を席巻した。米沢から岩出山、そして仙台に転封され、常に天下に覇を成そうと牙を磨いていた。

だが、時すでに遅し。覇王・織田信長、天下人・豊臣秀吉、そして神君・徳川家康。彼ら三英傑より数年早く生まれていれば天下を獲っていたと評された才覚は、ついに天下の中央で花開くことはなかった。

晩年は趣味の料理を振る舞い、泰平の世を風流に生きたが、心の奥底で燃え続ける「天下への野望」の残り火が消えることはなかった。

(……あと二十年、いや十年早く生まれていれば。猿や狸親父なぞ、俺の敵ではなかった。おのれ……おのれ……。)

その無念を胸の奥にしまい込み、独眼の竜は眠りについた。


2人の御霊が冥界を彷徨う。

そして神のイタズラか、何かの事故なのか。

天国や地獄へ魂は行くことなく、別世界へと魂は吸い込まれていく。


ここはとある異世界。

現代でいうと「ファンタジー世界」のよくありきたりな世界である。


頬を撫でる柔らかい風と、青々とした草の匂い。

どこまでも高く澄み切った空の下、見知らぬ大草原の真ん中で、二つの御霊は奇妙な形で目を覚ました。

「……んむ?」

「……う……」

最初に意識を取り戻したのは富子だった。温かい何かに包み込まれている感覚。目を開けると、そこには見知らぬ若い男の顔があった。

男の腕は富子の細い腰をしっかりと抱き寄せ、富子自身も男の広い胸に腕を回してしがみついている。つまり、二人は草原に横たわったまま、これ以上ないほど密着して抱き合っていたのだ。

「なっ……!?」

状況を理解した瞬間、富子の全身の血が沸騰した。

「無礼者ぉぉっ!!」

バチンッ! と小気味良い平手打ちの音が草原に響き渡る。

「痛えっ!? なにすんだこの女!」

顔を押さえて跳ね起きたのは、右目に眼帯をつけた若武者だった。

富子も慌てて身を起こし、着物の乱れを直す。その時、ふと自分の手を見て息を呑んだ。病魔に侵され、老いさらばえていたはずの肌が、陶器のように白く張り詰めている。視界の隅に映る自分の髪も、艶やかな黒髪だ。

(これは……妾がまだ、若かりし頃の姿……?)

おそらく、17歳前後の頃の身体。

目の前で頬をさすっている眼帯の若武者もまた、同じく17歳ほどの精悍な顔つきをしていた。

「いきなり引っ叩くたぁ、いい度胸してんじゃねえか。お前、誰の許しを得て俺の……いや、ここは何処だ?」

若武者は文句を言いかけて、周囲の異様さに気づいた。空には翼長が数丈はあろうかという巨大なトカゲのような生物が飛び交い、遠くに見える山々は日本のそれとはまったく違う、瑠璃色に輝く奇岩の峰だった。

「妾が問いたいわ! 貴様、どこの馬の骨か知らぬが、この日野富子に気安く触れるとは万死に値するぞ!」

「……は? 日野……富子、だと?」

若武者──伊達政宗の唯一残された左目が、驚愕に見開かれた。

「嘘だろ。日野富子って言やぁ、応仁の乱を引き起こし、幕府を食い物にして銭をかき集めた天下の大悪女じゃねえか。なんでそんな歴史上のババアが、こんな小娘の姿で……」

「歴史上……? ババア……?」

富子のこめかみに青筋が浮かぶ。

「貴様、名を何と申す! その首を撥ねて犬に食わせてやる!」

「へっ、吠えなさんな。俺は伊達藤次郎政宗。奥州探題!伊達政宗だ!」

「伊達……? 奥州探題の伊達か? ならば足利の臣下であろう。妾を誰と心得る!」

「いや、俺の時代に室町幕府なんてとっくに滅んでるぜ。あんたから見りゃ、俺はずっと未来の人間だ」

政宗の言葉に、富子は絶句した。

互いの記憶をすり合わせるうちに、二人は信じがたい結論に行き着く。

金と権力に執着し、孤独に死んだ室町幕府の御台所・日野富子。

天下を夢見ながらも時代に遅れ、鍋を振るって余生を終えた奥州覇者・伊達政宗。

生きた時代も性別も違う二人が、なぜか全盛期である17歳の肉体を与えられ、この人智を超えた異世界へと転生させられたのだと。

「……なるほど。地獄に落ちるかと思いきや、随分と面白い采配をしてくれるわい。」

富子はふふっと妖艶に笑った。若さを取り戻したその美貌は、悪女と呼ばれた底知れぬ凄みを帯びている。

「政宗とやら。お主、天下が欲しかったのだったな?」

「ああ。あと十年早く生まれていれば、間違いなく俺が天下を獲っていた」

政宗はニヤリと笑い、腰に帯びた刀の柄に手をかけた。

「だが、ここなら『遅すぎた』なんて言い訳は必要ねえ。俺の野望を叶えるには、ちょうどいい舞台だ」

「奇遇だな。妾も、前世では随分と窮屈な思いをした。莫大な銭を集めようと、息子を将軍に据えようと、結局は裏切られた。……ならば今度は、この妾自身が、この世界の頂点に立ってやろう」

草原の風が、二人の前髪を激しく揺らす。

天下の悪女と、奥州の独眼竜。

抱き合って目覚めるという最悪の出会いを果たした二人は、決して相容れない強烈なエゴを放ちながらも、奇妙な共犯関係を結ぼうとしていた。

「おい、富子。俺の天下獲り、あんたのその悪知恵と銭勘定で手伝う気はねえか?」

「ふん。奥州の田舎大名が大きく出たな。妾が貴様を天下人にしてやる。だが、富の九割は妾がいただくぞ?」

異世界に放たれた、日本の歴史上最も危険な二人の劇薬。

新たな下剋上の幕が、今ここに上がった。


いかがだったでしょうか?

よくある世界に訪れた悪女日野富子と独眼竜伊達政宗。

接点の全くない偉人同士の物語をぜひ今後ともお楽しみください。

P.S.身体を鍛えてますがなかなか痩せません。脂肪が全く燃えないけど筋肉だけ増えるんだよなぁ

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