最終話 このシェルターの定員は1000人です。例外は認めません
ミナと二人でデルタシェルターから少し離れた場所に待機する。
儀式で送り出される人が今日地上にくると分かったので、それを待っていた。
なぜハッキリわかったのかというと、自動工場を利用して通信機器を開発したことでデルタシェルターとの通信が回復したからだ。
これでデルタとやりとりができるようになった。
「いつも何人くらい外に出るんですか?」
「20人から30人くらいかな。二年に一度くらいのペースでシェルターから地上に送られるんだ」
「結構多いんですね」
「シェルターは1000人が定員で、毎年それなりに子供が生まれてるからどうしてもな」
この数に関してはデルタも苦慮したと思う。少なすぎたら次の定員まですぐだし、かといってあんまり多ければ住民の不安を助長することになりかねない。
その辺を天秤にかけた結果なんだと思う。
デルタシェルターの入り口にあるエレベーターが動き出す。
デルタが俺たちのことを一応伝えてくれるらしいが……。
正直どうなるかは分からない。
シェルター内では拒絶されたこともまだ記憶に新しい。
「きっと大丈夫です。誰だって、長生きしたいと思ってます」
「そうだな。全員は無理かもしれないが、少しでも賛同してくれたら何か変わるかもしれない」
エレベーターの入り口が開き、下から大勢の防毒スーツを着た人たちが姿を現す。
予想通り20人ほどの人数だった。
初めての地上に圧倒されつつも、戸惑っているのがスーツ越しにも見ていて伝わってくる。
「俺もあんな感じだったのかな」
「カイトさんの時とそっくりですね。でも初めての地上なんですから、やっぱりそうなりますよ」
「太陽を見た瞬間は時が止まったような気がしたもんな。やっぱり地下のシェルターでどれだけそっくりに再現しても別物だよ」
彼らのそばには大量の物資も積んである。
食料に水。それから役に立ちそうな物を色々だ。
それを使って本来なら近くの新しいシェルター建設現場に移動し、抗ウィルス剤が切れるまで働き死を迎える。
だが、俺たちはウィルスを克服するためのワクチンを製造することに成功した。
ウィルスに汚染されていない今の彼らの状態なら苦痛もなく摂取し、ウィルスに対抗できるようになる。
デルタは彼らに選択の自由を与えると言っていた。
従来の儀式を行うか、あるいはワクチンを受け入れて地上に適応するか。
その上で無理強いすることは禁止されている。
ある意味、彼らが生き延びるかどうかは俺たちの説得にかかっていると言ってもいい。
責任は重大だった。
彼らが移動を始める前に接触するため、身を潜めていた場所から立ち上がり近づく。
ある程度近づいた辺りで、彼らもこっちに気付いた。
何人かはスーツを着ていない俺たちにぎょっとしたようだ。
まぁ、スーツがないと危険って散々シェルターで言われたんだから当然の反応か。
「デルタシェルターから儀式で送り出された皆さん、こんにちは。基デルタシェルターの住人のカイトです。……俺の声は聞こえてますか?」
「大丈夫、聞こえているよ」
奥から一人の男性の声が聞こえた。
どうやら今回の儀式で一番の年長者のようで、代表の人らしい。
「君はカイト君か。他所のシェルターから来た人と駆け落ちしたっていう」
「駆け落ち……」
そういう風に伝わっていたのか。
ある意味そう見えても仕方ないのかもしれない。
スーツ越しでも会話は問題ないようでホッとした。
「では私たちがウィルスを体内から除去できるワクチンを開発したということは聞いてますか?」
「外に出る際にデルタから聞いている。その上で、ワクチンを接種するかどうかは各自の意思に任せるとも。私としては正直本当かどうか信じられない。デルタが選択肢を委ねるということはある程度は信憑性はあるということなのだろうが……」
「まあ、そう言われるとは思ってました。成功例はまだ俺たちだけですから。ただ、皆さんはこのままだと抗ウィルス剤の数がそのまま生きられるかどうかになってしまいます。今までの儀式の人たちと同じように。だとしたら、もしもの可能性に賭けてくれると思ってます」
代表の男性はしばらく沈黙する。
代表である彼の意見は他の人たちに間違いなく影響するので、それを踏まえて考えているのだろう。
「少し時間をくれないか。デルタにワクチンのことを聞かされてまだそれほど時間が経っていない。エレベーターの中で少し話をしたが、全員の意見がまとまってないんだ」
「どうぞ。俺たちはいくらでも待ちますよ」
しばらくして、全員がワクチンを受けることに承諾した。
ホッとした。ワクチンを受けないことを選んだ人がいたら、見殺しになるんじゃないかと気にしていたからだ。
やっぱり、いくら儀式だと聞かされて覚悟を決めても死ぬのは皆怖いんだと思う。
俺も抗ウィルス剤の数が残り少なくなってきた時は頭がおかしくなりそうだった。
「まずスーツを脱いでも大丈夫な場所に移動します」
農場の近くにプレハブ小屋を用意した。
これだけの人数が入ると狭苦しいが、あんまり大きいのは資材が足りなくて用意できなかったので仕方ない。
消毒を済ませて、スーツを脱いでもらう。
30代の働き盛りの人が多い。
デルタシェルターの平均年齢よりは少し上だろう。
スーツを脱ぐときは不安そうだったが、どうせいつかは脱がなければならないのだ。
まず代表の人にワクチンを接種してもらう。
俺たちの時とは違い、大きな副作用が出ることもなく無事成功した。
その様子に勇気付けられたのか、それほど時間がかかることなく全員の処置が完了する。
「これで本当にウィルスで死なないのか?」
「はい、問題ありません。たた、ウィルスを直接体内に取り込むとワクチンがウィルスを追い出すために苦痛を感じる場合があるので注意してください。水は浄化済みのものを飲むようにすれば問題ないと思います」
「なるほど……分かった。他にも決まりがあれば教えてくれ」
これまで得た経験などを話し、これからの作業を手伝ってくれると約束してくれた。
彼らの分の食料もデルタシェルターから多めに配給されており、農園が軌道に乗るまで問題なさそうだった。
儀式の人たちと合流し、資材を集めたり農園を拡張して地上に多くの人たちが住めるように必死に働いた。
多分、それが俺に課せられた役目だと思うから。
地上での生活は一筋縄ではいかなかった。
簡単な薬はミナが作れるのだが、風邪のような病でも命を落としそうになったり。
あるいは野生の獣と争いになったり。
苦労の連続だったが、協力して乗り越えた。
そして、ある日の夜。
デルタシェルターから連絡があった。
ミナと二人で連絡をとる。
事務的なやり取りを済ませて、雑談に入った。
「その様子だと、苦労しているようですね、カイトさん」
「皆手伝ってくれてるから、なんとかなってるよ。ほら、見てくれよこのトマト。デルタシェルターのトマトより大きいんだ。地上で初めて収穫できた」
「ワクチンを作っても、それで終わりじゃないんだって実感しました。むしろこれからが大事なんだって」
「ある程度はこっちからも支援します。デルタシェルターからの受け入れ先になって貰わなければ困りますから。それと……」
デルタが少し考えこむようにして、間を置く。
「二人の子供はいつ頃生まれますか?」
さらっとそんなことを言った。
もしかして、そういう関係になったことにもう気付いているのか?
「折角ですから、私が名前を考えたいのですけど」
「ま、まだ決めてないからダメです!」
ミナは慌ててデルタとの通信を消した。
これからどうなるのかは分からない。
しかしデルタシェルターの定員が1000人を超えても、その人たちを受け入れられる場所は作れたと思う。
これからきっと俺が想像を絶するほど長い時間をかけて、その場所は広がっていくのだと思う。
勇気を出して、あの時ミナと行くことを選んでよかった。
隣にいるミナを見て、改めて俺はそう思う。
後のことは、その時の人たちに任せるとしよう。
デルタもきっと、力を貸してくれる。




