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このシェルターの定員は1000人です。例外は認めません  作者: HATI


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第38話 徒歩移動の過酷さ

 ホバークラフトでの移動は少し寒い。

 寒いのだが、自然の風を体感できるのはとても気持ちよかった。

 行きはスーツを着ていたので全く感じられなかったのだけど、生身なら思う存分風を浴びられる。


「くちゅん」


 ミナがくしゃみをした。

 ……いくら風が気持ち良くてもやっぱり寒いな。

 なるべく身を寄せ合い、寒さから身を守る。


「こんなに寒いんだな、外って」

「そうですね……。シェルターの中にいると、快適な気温に保たれるのであんまり季節の変化には気付けないです」

「もうちょっと傍に来てくれ。それで少しは温かくなるだろ」

「はい」


 シェルターは人をあらゆる環境から守ってくれる。

 でもそれは、はたして幸せなことなんだろうか。

 毛布を被って身を寄せ合わないと凍えそうな寒さは初めてだ。

 いや、寒いと思ったことすら初めてかもしれない。

 だが、だからこそ他人の体温に安心を覚える。


 守られているだけでは、与えられているだけでは幸福とは呼べないのではないか。

 そんな疑問が頭に浮かんだ。

 だって、そんなの生かされているのと何が違うのだろう。


 ホバークラフトは荷物が行きと比べて軽かったこともあり、調子がいい。

 だがその分燃料の減りも早い。

 多分、減りが早いのは寒いせいもあるのだろう。

 出発から7時間ほど経過し、ホバークラフトの燃料が尽きた。

 移動できた距離はざっと230kmほどだろう。

 残り約70kmか。


「思ったよりは距離が稼げたな」

「重量次第でかなり変わるんですね……」

「とはいえ、ここからは徒歩だな。70kmを徒歩か」


 改めて考えてみると70kmもの距離を歩くのはかなり厳しい。


「目的があったからって、ミナはよく300kmも歩こうと思ったな。ちゃんと疲労とか痛みもあるんだろう?」

「身体はちゃんと有機体……人間ですから、もちろんありますよ。機械の身体ならそういうのとは無縁ですけど、こっちを選んだことに後悔はしていません。それに、カイトさんに会えましたから歩いた甲斐はありました」

「そっか」


 ミナの言葉に少し照れる。

 彼女と一緒に行くことを選んだのは俺だ。

 中身がAIだったからってもう別に怖がる必要はない。


「ただあの時は暖かい時期でスーツだったのもあって、徒歩移動でも支障はなかったんですが……。こうも寒いとちょっと厳しいですね」


 吐息が白い。これが冬か。


「日が落ちるのも早いんだっけか。ある程度進んだら寝る場所を探そう」

「はい。そうしましょう」


 ホバークラフトを置いていく。

 燃料がなければただの置物だ。

 積んでいた荷物を下ろし、背負っていたリュックに積み替える。

 ずしっとした重みを感じた。


「行こう。なるべく進みたい」


 毛布を外套代わりにしてミナと共に歩く。

 誰かに見られたら笑われそうな変な見た目だったが、その心配はしなくてよかった。

 地上には俺たち以外誰もいない。

 ワクチンでこの状況は変わるのだろうか。

 デルタシェルターの人口が増やせるようになれば、時間をかけていけばきっと……。


 しばらく歩いた辺りで、足が痛みだす。

 休憩をとることにした。

 なるべく風をよけられそうな場所を探して、そこで縮こまって寒さをしのぐ。

 ライターがあるので、その辺の枯れ木を集めて焚き火をしようとしたが上手くいかなかった。


「私に任せて下さい」


 ミナは俺が苦戦していたのを見かねて、さっと火をつけた。

 動きに迷いがない。


「コツがあるみたいですね。やったのは初めてでしたが上手くいきました」

「思ったより難しいんだな……」


 火に両手を近づけて炙るように温める。

 消えかけていた指先の感覚が戻ってきた。

 水分補給と、簡単な食事を済ませて足の状態を確認すると、右足にマメができていた。

 こんな距離を歩いたことなんてないから当然か。

 だがマメを潰そうとすると、ミナに止められた。


「そんなやり方じゃ化膿しちゃいます。それとできれば潰さない方がいいんですが、歩いていると勝手に潰れちゃいますし……」


 ミナは針を取り出すと、先端を火に当てる。

 あっという間に火に当たっている場所が赤く染まった。

 熱されているのが分かる。


「……ミナ、それで何をするつもりなんだ?」

「ちょっと痛いですけど我慢してくださいね」

「痛いって何が」


 最後まで言葉を発する前に、針がマメを貫いた。

 熱さと痛みに顔をしかめる。

 その後水で清潔に洗い、絆創膏を貼って包帯を巻いてくれた。


「これで痛みも抑えられたと思います。歩けそうですか?」

「あ、ああ。大丈夫そうだ」


 試しに何度か歩いてみる。

 ジンジンとした感じはするが、そこまで問題はなさそうだ。


「ありがとう」

「いえ。マメができたまま歩くのは辛いですから」


 結局また歩き出すより前に外が暗くなってしまい、今日はここで野宿することにした。

 テントを張り、しっかり固定する。

 夜風はより寒さを増しており、震えあがるほどだ。

 寝る時は寝袋同士を引っ付けてお互いで暖を取る。

 火が消えてしまってからはそうしないととても寒くて眠れない。

 ……家が欲しいな。


 何か話そうと思ったが、長時間歩いたからか疲労の方が強くすぐ眠りについてしまった。


 朝方になると、自然と目が覚めた。

 日の光が差すとやはり温かい。

 ふと隣を見るとミナがいなくなっていた。


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