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前世を思い出した。最悪のタイミングだった。大好きなケーキを頬張らんとするその時、地味OLの一生なんてものを思い出してしまったの。至福の時が一変、地獄に突き落とされた気分。大泣きして決意した。今世は悔いのない人生を生きよう!周りには怯える召使いたち。わがまま娘の癇癪玉がまた破裂した、とでも思っていそうだ。私の名前はベアトリス・モリアーティ。悪名高きモリアーティ家の一人娘。さぁ、今日から新たな人生のスタートよ!
まず初めに向かったのは敷地内にある庭師の小屋。ここには物語の中心となる登場人物がいるはず。汗を拭う横顔は泥に塗れているが、美、美少年〜っ。流石は主要キャラ。顔の造形が桁違いである。けれどもネロが私を睨む目は冷たい。好感度は当然のことながら最悪。だって彼を日陰者にしたのは私。
「あの野良犬が屋敷の中にいるだけでもぞっとするわ」
彼を見た時の私の第一声。あぁ、一度口に出した言葉は決して元に戻せない。格言にもある通り。ーー覆水盆に返らず、って言うものね。初対面での印象が最悪だということはわかってるの。
「ねぇ、仲直りしてあげても良くってよ!」
顎を逸らして言ってみた。効果は抜群。少年は嫌〜なものを見た顔をしたわ。お野菜を目にした時の私と一緒ね。
「貴方にチャンスをあげると言ってるの。貴方、今日からわたくしのお友達になりなさい」
ふふん、とネロを見ると私のことをお野菜を、いいえ大嫌いなお魚を見る目で見ているわ。なんてこと。絶世の美少女作戦が効かないなんて。
いやよ。彼がいないと私の運命は確実に死!
「う、うえぇーーん」
「!?」
突然大泣きした令嬢に、ネロはぎょっとしたようだ。
「お嬢様如何なされましたか!?」
執事長を始め使用人達が慌てふためいて駆けつけて来る。あぁ、大事になってしまったわ。きっとネロは困ってしまうわね。だけど私の涙は止まらなかった。
「お前、お嬢様に何を!?」
「俺は何もしてません。触れてすらいませんよ。それとも、〝野良犬〟は近くにいるだけで罪ですか?」
弁明をするネロの声はどこか遠い。うぇええんと泣き続ける私の顔は、きっと、ちっとも、可愛くなんてなかった。絶世の美少女作戦は失敗に終わってしまったのだ。
世界はベアトリス・モリアーティに優しくない。常識よ。私は嫌われて者の悪女で、このままではバッドエンド真っしぐら。だってここは乙女ゲームの世界なんですもの!




