最終話「新しい朝へ」
・今までのあらすじ
空だけしか存在しない世界は今、謎の敵メタドロンに脅かされていた。
竜騎士だった少年カイムは、新たに屍棺機龍という力を得て立ち上がる。
仲間たちと共に戦い、旧世紀の秘密に触れ、メタドロンへの怒りに燃えて戦う。
そんな泣かで、空の底へと落ちかけた浮島を、必死で救おうとした。
その時奇跡が起こって、そして少年は……変わらぬ日常に戻ってきたのだった。
カイムは夢を見ていた。
最後の力を使い切って、ここは天国かとも思った。
だが、違った。
目覚めた時は白い天井が見えて、自分はベッドの上に寝かされていた。そして気付けば、頬に涙の乾いた感触。
「僕は……あれ? いつのまに……?」
どうやらここは、どこかの病室のようだ。
床を伝ってくる振動から、飛翔船、それも軍艦だとわかる。母艦のバハムートの医務室は、まだ世話になったことがないから知らないが、ここがそうかもしれない。
そして、自分が寝ているベッドに身を投げ出し、眠りこけている少女がいた。
それは、同じ孤児院で育った妹分のメイムだった。
「メイム……そっか、心配かけちゃったんだな」
身を起こして、そっとのツインテールの髪に触れる。
メイムは「ん……」と鼻から抜けるような声を零して、起きる様子はなかった。
でも、どうやら無事らしい。
彼女が無事ということは、母艦も助かったということだ。
あのメタドロンの大群は退けられ、アダムもイヴごと破壊された。
だが、バルティア共和国の首都はどうなったのか?
落ちゆく浮島を救えたのだろうか。
そう思っていると、不意に隣で声がした。
「おはようございます、カイム」
突然のことで驚いた。
全く人の気配がしない、それくらい物静かな少女が座っている。静謐とさえ言っていい空気の中で、彼女は手にした何かを静かに噛んでいた。
カイムの視線に気付いて、イデヤはそれを口から話す。
「これですか? ビーフジャーキーです。調理場からもらってきました。食べますか?」
「いや……ずっとここに?」
カイムの声に頷きながら、イデヤは手にしたビーフジャーキーを二つに裂く。
イデヤはこう見えて、とても肉食だ。
動物性のタンパク質が大好きなのである。
彼女は真っ二つになったビーフジャーキーを、難しい顔で交互に見詰める。最近何故か、カイムはイデヤの無表情に感情を拾うことができる気がした。
やや悩んでから、イデヤは大きい方をカイムにくれた。
「しょ、食欲は特に……っていうかこれ、さっき凄く齧ってたよね」
「大丈夫です、まだ味がします。旨味が凝縮されてます。……一週間ぶりですね、カイム」
「えっ?」
「カイムはあのあと気を失って、一週間眠りっぱなしでした」
驚きに右手で顔を覆う。
ひんやりとした義手の硬さが、夢ではないことを教えてくれた。
そして、実際に夢見た中での再会を思い出す。
「……アダムは? セシリア先輩は」
「既に格納庫で、アダムの調査と検証が始まっています。完全に機能を停止、無力化しましたので。セシリア・アーベントは……ごめんなさい。私が殺しました」
「それは違う! もう、死んでたんだ。奴らは、死体を、死人を……」
夢の中で何度も、セシリアに会った。
話したし触れ合った、昔のような二人になった気がした。
そしてそれが、悲しいほどに過去だと今はわかってしまう。
死んだ人間はもう、戻らない。
この世に戻してはいけないのだ。
そんな簡単なことさえも、メタドロンの脅威は覆してくる。
決然たる怒りが湧いて、拳を握れば爪が食い込む。
だが、半分以下になってしまったビーフジャーキーを一口で食べてしまうと、イデヤはいつもの透き通った声で話し出す。
「でも、目が覚めてよかった。もし起きなければ」
「……起きなければ?」
「また鼻を噛みます」
「ごめん、それは困る。そういのさ、メイムやアディに見られたらどうするのさ」
「少し説明が必要になりますね。私のアモンは、それはもう賢い竜でしたので。そう、あれは確か12の時です。その頃、私は」
イデヤは相変わらず、マイペースだ。
とても、絶叫を張り上げ鬼神の如く戦っていた少女とは思えない。
彼女は、その可憐な容姿に不釣り合いな義足で立ち上がった。
そして、そっとドアの方へと歩く。
「みんなに知らせてきます。とても、心配していましたから」
「あ、ありがとう」
「私も、心配しました」
「えっ……? な、なんで、かな」
「……噛みますよ?」
本気ではないが、少しイデヤの気分を損ねたようだ。
だが、彼女がドアを開けると、大勢の人間が病室に雪崩込んできた。
リュミアやアディータ、それに整備の面々である。驚いたことに、ブリッジ要員までチラホラと見受けられる。誰もが皆、折り重なって悲鳴やうめき声をあげていた。
その騒ぎで、メイムもムニャムニャと目を覚ます。
「あ……お兄ちゃんっ! よかったあ、起きたんだ。もぉ、バカァ!」
「ごめん、メイム。心配かけちゃったね」
「わたしは平気、いつものことだから。でも、みんなが」
改めて見れば、立ち上がったリュミアが真っ先に駆け寄ってきた。彼女の眼鏡の奥で、片方だけ瞳が潤んで揺れていた。義眼と違って、生まれながらの眼からは涙が溢れそうだ。
「カイム君、なんて無茶をしたの! もぉ……お姉さん、怒ってるんですからね! 君の判断力は信用してるけど、一言相談して頂戴!」
「す、すみません! ……以前、セシリア先輩にも同じことを何度も」
「……彼女のことは残念だったわ。遺体はできるだけ集めたから、改めてリヴァリースの土地で弔ってあげなきゃ」
「やっぱり、死んでたんですよね」
「ええ。そして、その遺体からアダムはかなりの情報を吸い上げていたみたいね。そういうこと、平気でするのよ……メタドロンって」
リュミアの笑顔が陰りを帯びた。
そういえば、彼女の右目が義眼になってしまった訳をまだ、聞いていない。
そしてそれは、あまりにも冷徹で冷酷な、メタドロンの所業だと察することができた。
だが、彼女はすぐに微笑み抱き締めてくれた。
妙に気安くて、家族のように親身になってくれる。
セシリアのことを思い出したが、カイムは今はリュミアに感謝した。
しかし、アディータは不機嫌そうである。
「で? アンタ、アレはなに? 参號騎、大変なことになってんだけど」
「あっ、ジークヒルト! どうしてるかな」
「格納庫に運んだけど、コクピットのハッチを開けてくれないの。あの双頭の、人龍? だっけ? 意志があるのよ。多分、アンタ以外を中に入れないつもりね」
餌は食べるんだけど、とアディータは肩を竦めた。
それでカイムは、そっとリュミアやメイムを引き剥がす。ベッドを飛び降り、居並ぶ面々に頭を下げるや、走り出した。
すぐに着いてきたのは、イデヤとアディータだった。
「カイム、格納庫へ。そこにあの子がいます」
「それよりアンタ、なんで裸なのよ! エッチ!」
「落ち着いて下さい、アディ。カイムはちゃんとトランクスをはいてます」
「そういう問題じゃないっての!」
二人共、元気そうでよかった。
アディータは、大好きな姉を二度も失ったのだ。一度だって耐えられない苦痛を、無理矢理繰り返させられたのである。それでも、自分が決着をつけねばと無理をしてくれた。
だから、全てを背負ってイデヤが手を下したのだ。
「二人共、なんか……今まで通りだね。よかったよ。それより――ッ!」
不意に、カイムは脚を止めた。
小さな丸窓の中に、外の景色が見えたからだ。
青い空。
眩しい日差し。
快晴の空に雲は高く、ゆっくりとたゆたっている。
そして、少し上下に離れてしまったが、二つの浮島が重なるようにして浮いていた。バルティア共和国の首都、元は一つに繋がっていた土地である。
ここからでもカイムの視力では、新しくケーブルを渡して交通手段を確保した人々がいた。少し危なっかしいが、既にゴンドラの類が行き来している。
「無事、だったんだ」
「まーね。アンタが押し上げたんじゃん? 最後のなにあれ、火を吹いたわ。ビックリって感じ」
「勿論、私やアディ、多くの竜騎士たちが手伝ってくれました。だから今、あそこに辛うじてあの大地は浮いています」
カイムたちが戦った、その意味が、証が目の前にあった。
食い入る用に三人で、額を寄せ合って窓に張り付く。
だが、そんな穏やかな時間も長くは続かなかった。
突然警報が鳴り出し、その緊張感に不釣り合いな声がボソボソとスピーカーから響く。
『あー、ん、んっ……リュミア君、どこかね。その……敵襲、みたいだ。メタドロン、数は……沢山。早くブリッジに戻ってくれ給え』
その声は、イデヤの父アッシュだ。
心なしか、世間や常識とは距離を置いてる男の声はぼんやりしてて、ぼやけて聴こえる。だが、彼が伝える危機は本物だ。
まだ、この空には敵がいる。
この空に浮かぶ大地の欠片は、絶えず天敵に脅かされているのだ。
「行こう、イデヤ! アディも! メタドロンは、叩いて潰すあっ! 僕たちで空を守るんだ!」
頷きを拾って走り出す。
その先では既に、格納庫から響く竜の咆吼……時代の防人として覚醒した人龍ジークヒルトの雄叫びが二重に連なり聴こえてくる。
終わらぬ戦いの中で、その意義を確かめる戦いは続くのだった。
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