第12話 イヌミミ少女の過去 ◇
わたしは不還の森に側近い狼人族の集落に生まれました。
でも、わたしは物心ついたころから村の大人だけでなく、両親からも素気無く扱われていました。
着るものはいつもお下がりで、それも姉兄のものばかりか弟妹のものであったことも少なくありません。
食事は力の強い父や男兄弟から順に質の良いものを多く与えられ、わたしはいつも一番味気ないところばかりでした。
家ではいつも隅に追いやられ、村どころか家の中でも厄介者扱い。
事実、父はいつもこう言っていました。
「役立たずのくせに食わせてやってるだけ感謝しろっ」
わたし自身そうだなって思いました。
捨てられず、毎日食べ物にありつけているのは父を始めとして狩りに出てくれている家族のおかげであり、自分がしている家事手伝いなんて毎日の食事代にも足りないようなちっぽけなことでした。
弟や妹たちが成長すると狩りに出るようになりました。最初は緊張していたようでしたが、父を始めとした村の大人たちと一緒になって森へ出かけていき、見事獲物を捕らえてくるようになりました。一人前として認められたのです。
でも、わたしは狩りには出られませんでした。
それはわたしの扱いが悪かったからではありません。
わたしが狩りに出られないと分かっていたからわたしの扱いが悪かったのです。
だから、どうしても村においてわたしは厄介者の無駄飯ぐらいでした。
それは狩りに出られないから――。
生まれながら、狼人族特有の身体能力を身に宿していなかったから。
それがわかったのは一歳頃のことだそうです。
狼人族は生後十ヵ月、遅くとも満一歳になる頃にはその身体性能故に立つことができるようになり、その後数週間で歩けるようになります。
しかし、わたしは一歳になっても立つことはできず、また、二歳になる頃にようやく立って歩けるようになったそうです。これではヒューマン族と大して変わりありません。
このことからわたしが無能であると明確になったのです。
成長した今を以てしてもわたしはヒューマンと変わらない身体能力しかありません。
ですから、狼人族としての働きを期待されてもわたしにはそれに応えることができません。
なぜなら、そのための身体性能がわたしにはないからです。
ある日のことです。
わたしは洗濯用に水を汲みに行った帰りに村の入口で何かに蹴躓いてしまいました。重たい水を抱えていたわたしは、バランスが上手く取れずに水をぶちまけながら転んでしまいます。しかも、運の悪いことに躓いた棒状のものが足に絡まってしまっていたものだから、倒れた拍子にそれを宙に放ってしまいました。
それが、これから狩りに出ようかという村の男衆の脚に……その、刺さってしまったのです。
わたしが躓いたそれは狩りに出ようとしていた彼らの槍だったのです。
不幸にもその男は大怪我を負ってしまいました。
とはいえ、わたしたち狼人族の身体機能であれば、数週間もすれば完治できるけがでした。
しかし、それでもしばらく彼は狩りに出ることができません。
それも村のタダ飯食らいのわたしのせいで。
客観的に言って、武器を無造作に放置しておいた彼らに過失がなかったとは言えないと思います。だけど、村のみんなはわたしを責めました。お前のせいで大怪我をした、お前がいなければこんなことにはならなかった、役立たずは引っ込んでいろ、消えろ、と……。
当然でしょう。狩りに出られないわたしのせいで狩りに出ようかという村の男が一人、しばらくとはいえ狩りに出られなくなったのです。
そういう訳で村の厄介者のわたしはこの事件によって村を追い出されました。
両親すらも蔑みの目で見降ろして庇ってはくれませんでした。
村を出て、それから色々あって奴隷となることになりました。
ですが、これまでの人生の中で、わたしが誰かから一人の人間として扱ってもらえたことはありませんでした。一度たりとも。
そう。あのときを除いて――。
五年前の不還の森。
ご主人様と初めて出会ったあのとき。
苦しみ飢え乾いていたご主人様にわたしは水と食べ物を届けていましたよね。
あのとき、生まれて初めて感謝の言葉をいただきました。
嬉しかった。
あのとき、初めて誰かの役に立つことができた。必要とされた。
って。
だから、何度ご主人様が「関わるな」「放っておけ」と仰られても、ご主人様の許に通いました。
毎日。毎日です。
後にも先にもあのときだけだったから。
誰かの役に立てた実感があったのは。
わたしが生まれた意味があったんだって、自分で感じることができたのは――。




