1-17 初食堂
食堂も購買と同じ様に、多くの生徒達が集まっていたが、流石に対応人数が違うらしい。ざっと見渡しただけだが、空いている席も十分残っていた。
どうやら、食堂に併設されたテラスもあるようで、天気が良いためそちらで食事をしている生徒達も結構いるようだ。
一通り食堂の様子を見回した総児は、入口近くに並んでいる券売機へと向かう。
流石に混雑を想定しているのか、十台以上の券売機が並んでいるため、そこにはあまり人は並んでいない。それよりも、その上に並んでいるメニューを少し離れた所から見つめる緑ネクタイ、リボン達の方が多そうだ。
総児はというと、メニューも確かめずにすぐに券売機の前に立っていた。
前の人が買い終わり、総児の番になる。
A定食、B定食などと定食がまず一段目に並んでいるが、何があるのか分からないのでパス。
そのまま視線を下に滑らせていき、「カレーライス」の文字の上で停止する。
やっぱり無難なところでこれかな、と胸中で呟き、その値段を見て小銭を投入。その文字を押すと、すぐに青いプラスチックの板が出てくる。どうやらこれが食券らしい。
食券を手に取ると、そのまま同じ様に食券を買った人の後ろに続き、列に並ぶ。
そして、列が進むのを待ち始めたところ、横を通り過ぎて行く上級生が目に入る。
それが一人だけならば気にもしなかったのだが、何人ともなると気になってくる。なので、少し体を伸ばして列の先頭の方の様子を探ってみる。
すると、総児を追い越していった上級生は、列を越えてさっさとカウンターから料理を受け取っているではないか。
そこで気が付く。総児の並んでいる列に居るのが、緑色のネクタイとリボンの者達ばかりだということに。
そして、理解する。これも、勝手の分からない新入生が、取り敢えず目の前にある列に並んでいるだけなのだということに。
総児は列から抜け出すと、その列の横を歩いてカウンターの前まで行ってしまう。
カウンターの上には、定食コーナー、ご飯・丼物コーナー、麺類コーナーなどとそれぞれ別々の色の看板が掛けられていた。
今まで総児が並んでいた列は、その中でも一番壁側にある定食コーナーから伸びている。
そこで、丁度定食コーナーの最前列の者が食券と定食を交換しているのが目に入る。総児が持っているのとは違う色の、黄色いプレートだ。
なるほど、と総児は再び上のコーナーの看板を見上げる。
そこにある定食コーナーの看板は黄色く縁取られた物だった。その隣のご飯・丼物の看板は青色だ。
そこでやっと、総児は食堂がどういうシステムになっているのかを理解し、上級生が並ばずにさっさと進んでいた事実に納得した。
「食券の色で、何処で換えるのか分かるのね」
思わず声に出ていた。
そして、三、四人しか並んでいない隣の列へと歩を進める。
自分の番が来て食券を出すと、カウンターの向こう側の割烹着姿のおばちゃんがそれを受け取り、
「はい、カレーね」
と、ほとんど待ち時間もなく、目の前にカレーの盛り付けられてた皿が出される。
前に居た上級生を見習い、横からトレーを取り、その上にカレーを乗せて移動する。
全てのコーナーの前を通り過ぎると、箸やスプーン等、ソースやドレッシング等の調味料がまとめて置かれた台があった。
そこから総児は必要なもの、スプーンを取って席へと向かう。
スムーズに行けばほとんど待ち時間がないところを、なんとも時間を無駄にしてしまったようだ。
ちょっとした脱力感を覚えながら、総児はカレーへとスプーンを伸ばした。
「カレーは食べるものじゃない、飲むものだ」なんていう迷セリフを聞いたことがあるが、そこまで早くなくとも、やはりカレーを食べ終わるのは早かった。
五分も経たない内に皿の中身は空っぽになり、総児は食堂に設置してある給水機からコップに水を汲んできて、席に落ち着いていた。
満腹感に気が緩みがちだったが、それでも総児は、周囲の上級生の会話へと聞き耳を立てていた。
しばらくは周りの様々な会話へと耳を傾けていたが、聞こえてきたのは大体この後どうするのかという話。部活の話だったり、帰って遊びに行く話だったり。
なかなか総児の期待しているような話は聞こえてこない。
十五分程そうしていたが、結局、
「考えが甘かったかな」
総児はそう結論付け、何も収穫のないまま食堂を後にした。