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2-7 いざ行かん、食堂へ


 と、このまま会話が続くとまずいと思って、総児は早々に本題を切り出す。

「んっと、あんまりゆっくりしてると昼食を食べてる時間が無くなるから、早く学食に行った方が良いんじゃないかな。二人はどうする?」

 正二と清則の答えは予想出来ていたが、一応総児はそう話を振る。

 そして、予想通り、

「いや、俺達は教室で弁当食べてるから良いぜ。だよな、清則?」

「ああ、ちゃんと弁当持って来てあるからな。二人で行ってきな」

 いつも通りの二人の答えだった。

 食堂に行ったからといっても、料理を頼まずにそこのテーブルで持参した弁当を食べる事は悪い事ではない。食堂のメニューを頼む友達と一緒に弁当を食べている生徒というのは、毎日見掛ける光景だ。

 けれども、毎日食堂で昼食を取っている総児だったが、正二と清則の二人が食堂まで来たのを見た事は無い。

 それは、何度かあった雪音が一緒に昼食を食べられない日でも変わらなかったので、ただ二人に気を使っての事ではないという事は分かっている。

 総児の見立てでは、おそらくその理由は弁当の中身に有るのではないかという事になっている。

 二人共、弁当は母親に作って貰っているという事は以前聞いている。

 教室の中、知り合いになら見られてもまぁ仕方が無いとして、食堂に行って弁当を広げていれば不特定多数の生徒にその中身を見られてしまう。

 そうして、その特異な弁当の中身が知らない人達に見られてしまう事を恥ずかしがっているのではないか。

 そう、それだけの物が、母親作の弁当にはあるのではないか。例えば――

 まぁ、母親というものをよく知らない総児の勝手な想像、妄想、憶測ではあるが。

「そっか、んじゃ俺達は行くぜ。また後でな」

「またね」

 総児と雪音は、別れの挨拶をして教室外へと向かって歩き出す。

 その背中へと残る二人の声が届く。

「おーう」

「行ってこい行ってこい」

 そうして、総児達が教室を出た所で、新たな別の声が総児へと届いた。

『福島さんも加藤さんも、何度誘っても一度も御一緒してくれませんね……』

 少し寂しそうに聞こえるその声は、総児と雪音にしか聞こえていない特別な物。

 雪音が現れた時からずっとその後ろにふわふわと浮かんでいる、青白く透き通った人影。

 そう、氷室雪音のエレメンツ、グラキエースの声だった。

 本来、エレメンツはエレメンツ同士か自らのマスターとしかこうして話す事は出来ないのだが、どういう理由か総児もグラキエースと会話する事が出来る。

 そして、この事も、総児が雪音と仲良くしている大きな要因である。

『そうだなぁ。正二も清則も別の友達との付き合いがあるからな。教室で別の奴らと盛り上がってるんだろ』

 総児が頭の中でそう念じると、その言葉はきちんとグラキエースへと届く。

 この会話方法では、そう伝えようと念じた相手のエレメンツにしか言葉が通じないので、内緒話をするのには結構役に立つ。

 そして、今の様な総児の言葉は雪音には聞こえないが、グラキエースを間に挟む事で、声に出す事無く総児の言葉を雪音へと伝える事も出来る。

 とは言っても、それは時間が掛かってしまうので、普段三人で会話する場合は普通に声に出して話すようにしている。

 けれども、

「もー、古賀君! ちゃんと私にも分かる様に言ってよ」

 頬を膨らませながらのリスの様な雪音の言葉に、総児ははっとする。

「ああ、ごめん。つい、そっちの方が楽でやっちゃうんだよな」

 自分でも気が付かない内に、自然とグラキエースとの会話を声に出さないで行ってしまっている事に総児は気付かされる。

「楽なのは分かるけどね。何事も、楽な方楽な方へと行ってると、人間大きくなれないんだよー!」

 説教の様にしてそういった雪音に対して、総児は思わず言い返してしまう。

「つまり、氷室さんはいつも楽ばっかりしているという事かぁ」

 数秒の沈黙の後、雪音は総児の言葉の意味を理解する。

「こ、古賀君!! 大きくって体の大きさの事じゃないからね!」

 怒りを顕わに言い返す小さな雪音の姿が、それにもかかわらず可愛らしく感じてしまい、総児は思わず吹き出してしまう。

「ふっ、ふははははっ、ご、ごめんごめん。分かってるって。くくっ」

「もー! 古賀君! グラちゃんも何か言ってやって!」

『そうですね。総児さんは、もう少しデリカシーというものをですね――』

 そんな感じで会話を交わしながら、三人は食堂へと向かうのであった。



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