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人を愛することを諦めたオジサマに、恋をした。  作者: 笛路 @書籍・コミカライズ進行中


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1/3

前編:出逢い

【お題】

・極寒の地

・ガングロイケオジ

・病弱少女




 青白い顔に、空色の瞳、白金色の長い髪。

 雪の精かと思った――――。




 冬になると公道にも雪が降り積もってしまい、辺境は世界から隔離されてしまう。

 そうならないよう、辺境伯の私設騎士団が毎朝当番制で除雪にあたる。

 それぞれの隊で任務はあるのだが、雪掻きの当番はどの隊にも平等に回ってくるのが辛いところ。

 

「隊長、川の中に横転した馬車があります!」

「――チッ!」


 辺境伯の城から馬を一時間ほど走らせたところに、浅い川に掛かった石橋がある。

 川の水は温泉源が近いので凍ることがない。そのおかげで石橋には雪が積もりにくいのだが、夜間の冷え込みで薄氷が張ったようにツルツルと滑る。

 地元の者ならば、冷え込みが酷い日は、夜中から昼前まではこの道を使わない。

 どんなに手慣れていようとも、事故になる可能性が大きいからだ。

 

 つまり、この道を使って事故るのは、辺境外の者。

 馬車の豪華さから考えて、辺境伯でもある我が騎士団長ラインハルト様の客の可能性が高い。


「オラ! 急いで救助にあたれ! 生存者は!?」


 まぁ、いるわきゃぁねぇだろうが、と思いつつ指示。ところが、部下たちがワーワーと騒ぎ始めた。生存者がいるのかよ。


「隊長、俺たち触っていいんすかね? いいんなら触りますけど、なんか首飛びそうですよ?」


 部下の一人がヘラヘラ笑いながら馬車のエンブレムを指差していた。

 まさかの、王族しか使用が許されていない双頭の鷲と、王冠の意匠。


「あークソッ。はいはい俺が責任取りゃいいんだろ?」


 崖下の川に降り、足先が凍りそうな思いをしながら馬車の中を覗いた。

 水深は膝ほどしかないので、生き延びれた者がいたのだろう。


「っ…………こりゃ……」


 白金の長い髪の少女が、真っ青な顔で唇を震わせながら、毛皮に包まり横たわっていた。

 その下には老齢の執事と侍女であろう女の遺体。

 彼らが生命を賭して護ったのだろう。


 毛皮が半分ほど濡れているということは、ドレスもまずいことになっていそうだ。

 そもそも、本人がここまで凍えているのなら、もう毛皮の意味もないだろう。


「城に早馬を出せ! エンブレムと少女の風貌を団長に伝えろ」

「はっ!」


 急いで上半身の衣類を脱ぎ捨て、少女を毛皮から出すと、恐ろしく豪奢なドレスを着ていた。


 ――――こりゃ本気で首が飛ぶぞ。


 正しい脱がせ方なんぞ分からないから、縫い目にナイフを入れてドレスを裂いた。

 コルセットは紐を緩めるだけだから、俺にでも分かる。

 部下たちの「「手慣れるぅ」」という野次を睨んで黙らせ、少女を抱きかかえた。


 あまりにも小さく、細く、軽い。


「コイツ、乳のわりに体重ねぇな。飯食ってんのか?」

「隊長、発言がアウトです」

「あ? お前が責任取るか?」

「多大なる犠牲に感謝ぁぁぁぁぁ!」

「「感謝します!」」


 部隊全員に敬礼された。ほんと、陽気で馬鹿な奴らだ。


 流石に王族の可能性のある少女を裸には出来ない。本来なら濡れた服は剥ぎ取った方が体温を温存しやすいのだが。こればっかりは仕方ない。


「くっそ。冷てぇ!」


 部下に前後から二着のコートで包んでもらい、馬に乗る。


「俺はコレを温めながら先に帰る。お前たちは回収出来るものは回収して、除雪もしてこい! 増援は送る」

「「はっ!」」


 普通に移動すれば一時間だが、愛馬に多少の無理をさせて走れば、二十分ほどで城には着く。

 ただ、軽いとはいえ、二人分の体重はどんなに鍛えている馬でも厳しい。

 早くて三十分だろうな。

 

 左腕で少女をしっかりと抱きしめ、右手で愛馬の手綱を握った。




「っ――――え、えっ……? キャァァァァァ!」

「うるせぇ!」


 馬を走らせて十分。

 抱きしめていた少女の身体が少し温まり出したところで、コートの中でもぞもぞと動き始めた。

 そして、この絶叫。

 こっちが絶叫してぇよ。鼓膜が破れるわ。


「えっ、なに、コレ……えっ…………だだだれか、助けてぇぇぇぇぇ! ヨーセフ! カーラ!」

「…………嬢ちゃん、よく聞け。お前らが乗った馬車は川に落ちた。生存者は嬢ちゃんだけだ」


 俺は辺境伯の私設騎士団隊長で、緊急措置で温めながら辺境伯の城に向かっていると説明すると、少女が身体をカタカタと震わせて、啜り泣きを始めた。


「さっき名前を言った二人は、一緒に乗ってたヤツか?」

「……はい。幼いころからずっと……ずっと、側にいてくれた…………大切な二人です」

「だろうな。二人ともお前を抱きしめるように死んでいた。大切な生命を護り抜けたんだ。褒めてやれ」


 ――――俺とは違う、勇敢なやつらだ。


「…………でも、悲しいです」

「ん。泣いていい。ちゃんと弔ってやれ」

「はい」


 グスリグスリと泣く少女の声を聞きながら、もうすぐで城に着くというころ、少女がコートの中からひょこりと顔を出した。


 青白い顔に、潤んだ空色の瞳、白金の艷やかな長い髪。

 雪の精?

 いや、人間か――なんて、馬鹿なことを考えていたら、少女が顔を真っ赤に染めた。


「おう、どうした?」

「あああああのオジサマはなぜ裸なのでしょうか? もしかして…………そういう趣味?」

「……保護対象で良かったな? ここで捨てるところだった」


 腕が空いていたら、脳天に拳骨していたかもしれない。


「ちちちちがうんです! あの、そのっ……」

「まぁ、あんたら王族は慎ましく生きてるだろうから、異性の肌とか見たり触ったりはないだろうな」


 ……この、純情そうな反応をする少女の周りは、特に。


「救命優先とはいえ、俺は処罰対象だしな。お前から口添えしといてくれ、生命は奪わないでおいてやれと」

「えっ、そんな処罰など……」

「中に顔入れて暖まっとけ。まだ手足が冷えてるだろ」

「はい……ありがとう存じます」


 ここまで警戒心がなくて大丈夫なのか? と心配になってきた。全て俺の嘘だとは思わないんだろうか? こりゃあ、マジで深窓の令嬢とか、お姫様とかいうやつなんじゃなかろうか。


「ヴァリオ!」


 城の麓に到着するやいなや、辺境伯兼団長の声が辺りに響いた。正門が開いているのが見えるので、そこから叫んでいるのだろう。

 城に向かうつづら折りの坂を登っていると、増援部隊の面々とすれ違った。

 早馬のヤツいい仕事をするじゃないか。褒美を出してもらおう。


 最後の坂を登り切り正門に入ると、団長と医者や侍女たちが一斉に詰め寄って来た。


「ソフィア殿下はどこだ!?」


 ――――あぁ、やべぇ。


 本気で、やべぇ。

 まさかの『殿下』かよ。

 焦っている感じからして、マジで地位のあるお方のパターンだろうなとは思っていたが。


「緊急措置で……コートの中に入れてます」

「変な着方をしてるなとは思っていたが…………その中に……王女殿下を」


 二枚のコートをボタンでつないでポンチョのようにしていた。前面はもっこりと膨らんでいるし、確かに異様な光景だろうな。


「半裸なんで、何か身体を包めるものをいただけますか」

「…………どっちが半裸だ」

「はははは。俺っすよ。殿下は一応着てます。下着ですけど」

「っ……」


 団長が右手で頭を抱えて唸りつつ、ソフィア殿下を抱えて城内に急げと怒鳴った。


「え? このままですか?」

「他人に肌を見せるよりはマシだろうが」

「ですよねぇ――――」


 


 ◇◇◇




 覚えているのは、低い位置にある大きな満月と、揺れる馬車。そして、ヨーセフとカーラの『姫様!』という声。


 気付いたときには、ミントとウッディーな匂いに包まれて、太い腕に抱きしめられていました。

 自分以外の素肌の感覚と激しい揺れ。

 暗闇で襲われている!? そう思って叫ぶと、伯父様の部下で、川に転落していた馬車から私を救出したことをオジサマが教えてくださいました。

 共に乗っていたヨーセフとカーラは……既に事切れていた、と。

 オジサマは、悲しいと泣く私に、優しい言葉をかけてくださいました。


「ん。泣いていい。ちゃんと弔ってやれ」

「はい」


 どうにか息が落ち着いたときに、お礼を言っていないことに気付きました。

 慌てて包まれた布らしきものから顔を出すと、浅黒く焼けた肌のオジサマが、お月様のような金色の瞳を丸くして見つめ返して来ました。

 ウェーブした赤茶けた髪を風に靡かせた、顎髭の壮年の男性。触れているのは、素肌……。

 そこでなぜこの人は裸なのかと大慌て。


「……保護対象で良かったな? ここで捨てるところだった」


 全身が粟立つような低い声でそう言われてしまい必死に言い訳をしていると、オジサマにクスリと笑われて、揶揄われていたことに気付きました。


「中に顔入れて暖まっとけ。まだ手足が冷えてるだろ」


 手足はジンジンと痺れたように痛く、身体も凍えるような寒さを感じてはいたのですが、オジサマから伝わる熱のおかげか、安心したせいなのか、一気に眠気が来てしまいました。




 目覚めたら、フカフカのベッド。

 起き上がってカーラを呼ぼうとしたところで、ベッドの横に座っていたラインハルト伯父様と目が合い、カーラはもういないのだと理解。


「目覚めたね」

「ラインハルトおじ……さま」

「何があったか聞かせてくれないかな? なぜ、ソフィア殿下は従者のみでこのような無謀な行動に?」


 私がここに来た理由。それは、長年の病が原因でした。

 国王陛下と正妃である両親の下に第一王女として産まれたものの、幼いころから病弱なせいで、公務などには一切関わることなく育てられていました。

 正妃であるお母様も病弱で、私を産んでしばらくして亡くなったことと、私もお母様の遺伝なのか病弱だったため、お父様は側妃を迎えることに。

 側妃であるデボラ妃は、男子三人を産みました。


 国の法律では第一子が国王になるのですが、私がこのような状態なので、二十歳を迎えるときに王位継承権を放棄する予定でした。

 なぜ二十歳かというと、わが国では二十歳が正式な継承権保持者と名乗れるからです。それまでは予定というか、仮初めの状態。


 もうすぐ二十歳の誕生日だというころに、あまりにも長い間患っていた肺の病が悪化。

 咳をするたびに血を吐いてしまい、私の生命はもう長くないのだろうと思っていたのですが、真っ青な顔をした侍医が、床に頭を擦り付けて泣いて謝罪してきました。

 ずっと幼いころから薬と言って飲ませていたのは、毒でした、と。

 緩やかに緩やかに弱らせ、私が二十歳になるころに殺すようにと、デボラ妃から指示されていたそうです。

 

「……ハァ。だから苦手なんだよね」


 伯父様はお父様の弟ではあるのですが、正妃の子。お父さまは側妃の子になります。

 正妃がなかなか妊娠せず、お祖父様が側妃を迎えて先に産まれたのがお父様。

 長子継承を推す勢力と正妃の子を推す勢力で、内戦になりかけて伯父様が身を引き辺境に籠もったという経緯があります。


「簡単に、側妃を――と娶るから碌なことにならない。なぜ学ばないんだろうね」


 呆れたように言いつつ、私がここに逃げてきた理由を理解してくださり、保護を約束してくださいました。


「凍傷になりかけている程度で済んでよかったよ。手足は暫く痒みが出るらしい。他に体調に異変はないかい?」

「息苦しいのはずっとなのですが、以前より随分とマシです」

「そうか、良かった」


 もうしばらく寝ていなさいと言われたのですが、気になることがあり伯父様に確認しました。


「あの、助けてくださった浅黒い肌のオジサマは――」

「気にせず、寝ていなさい」


 にこりと笑っているのに、追随を許さない為政者の顔と声の伯父様。

 お父様がどうとかの思いはないのですが、伯父様にはお父様にない、人を従わせる何かがあります。


 オジサマ……大丈夫でしょうか?




短編に纏まらなかったので、前中後の短期連載です。


お題は、藤也いらいち様(https://mypage.syosetu.com/1955250/)にいただきました!

妄想爆裂するお題、ありがとぉうぅぅぅぅ!

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