11_エピローグ(sideリアム)
結婚後、しばらくしてハンナが家業を継ぐことになり、だったら僕の実家の人脈を使って手伝いたいと申し出た。
僕が人目に晒されるのを嫌っているハンナは当初乗り気ではなかったが、僕を閉じ込めるのも違うと葛藤して僕を尊重し「手伝ってくれたらすごく嬉しい」と笑って言ってくれた。
のだけど……。
「どうしても行かないとだめ?」
学生時代なら絶対に「ダメですか?」と言っていた口調が砕け、さらに、かつて僕が彼女にしてみせたような上目遣いの甘えた仕草をしてくる。
僕の仕草を完璧に真似て、自分のモノにする学習能力もさることながら、夫婦そして番として対等になったことによる『甘え』が愛おしい。だけど、こればかりは流されてあげられない。
「ダメ。ハンナも同伴なんだから問題ないだろう?」
「それは、そうだけれど……」
実家のツテで参加するパーティーへと赴く道中、ハンナは心配し過ぎるのも良くないけど、やっぱり心配だと言いながら馬車の中で僕に抱き着いて離れなかった。
αとして成熟してきたからか、番関係になったからかは分からないけれどハンナはこうして僕への執着を露わにするようになった。
それが僕にとっては心地がいいので、そのままにしている。
まぁ、僕を男として立ててくれているから、彼女のαの本能でもあるこうした執着心をたまには満たしてあげないとフェアじゃないし。Ωとしてαに囲われる気持ちというのも、もう嫌悪すべきものでもない。
お互いに本能に抗わない。それが二人のルールになった。
ベッドの上でもそれは変わらずで、日によって主導権が変わることもある。まあ、ハンナが本当にαとして僕を組み敷くのを嫌そうにするので、大体は僕が男として彼女を抱くことが多いけれど。
「僕はハンナの番で、ハンナは僕の番。それ以前に夫婦だ。何を心配することがあるんだい?」
「不埒な方はいるでしょう?無理やりとか……。そもそも、リアムはご令嬢にとっても人気なの?分かってる??」
「そっくりそのまま返すよ、ハンナ。君は男女問わず人気だ」
「いいえ、リアムの方が人気よ。男性やα特有の威圧感とかが無いから、物語の王子様のようって憧れるご令嬢がたくさんいるんだもの。初恋泥棒の名前をほしいままにしていると思うの」
「商家仕込みの対人スキルと、αのきらめくオーラで、どんな相手でも一発で虜にする君が言うかい?」
「私はそんなことしていないわ」
「しているよ、君は魅力的なんだよ。自覚して欲しい」
「……私はリアム以上の魅力的な人っていうのはよくわからないし、私は普通よ」
「はぁ……」
「なんでため息をつくの!?」
「無自覚め」と鼻をつまんで、それからキスをする。
こんなに可愛い君を誰も狙っていないなんてあるわけがない。
僕は自覚があるからいいけれど、ハンナの場合は無自覚だから困るのだ。
トラブルにはなっていないし、その無自覚こそがハンナの魅力だけれど、それでも隣にいる僕は気が気じゃない。
僕のフェロモンをべったりつけたって、βはそれが分からないし、αなんて意にも介さない。
学生時代にあげたチョーカーは日常的に使ってくれているけれど、それでも気に食わないので軽く嫉妬させてハンナの注意を僕に向けるように仕向けている。
が、それもハンナは気づいていない。
「もう!リップを塗りなおさないといけないじゃない!」
「乱れた唇で参加して、見せつけてやろうよ」
「じゃあ、参加しない方がいいじゃない」
「ハンナ、僕は君に貰った自由を謳歌してはダメなの?」
「……嬉しいけど、嬉しくない!」
「うん、分かってる。でも、僕は君と一緒にどこまでも遠くに行きたい。ごめんね、我がままで」
殊勝にそういえば、ハンナは言葉を詰まらせ僕に抱き着いてくる。
「ううぅ、威嚇のフェロモンつけてやりたい……」と言うけれど、ごめんね?と言って背中を撫でておいた。
僕たちはどこまで行ってもαとΩだ。
でも、その本能と一緒に生きて行くと決めた日から男と女で、最愛のパートナーでもある。
今はまだハンナに我慢させることが多いけれど、きっといつかハンナに振り回される日が来るんだろうなと思う。
成熟はしたけれど、まだ完成されていない初々しいαのハンナ。
今はその初々しさが出来るだけ長く続くことを祈るだけだ。
きっと完成されてしまったら、誰も彼女の魅力に抗えないから。
「ハンナ、まだ可愛い君でいてね?」
「可愛くしてたら、パーティーに行かなくてもいい?」
「それはだーめ」
「うぅぅ……」
くっついて離れないハンナを宥め、「僕がベッドから離さないと怒るくせに」と耳元で囁けば「だっ、あれは!?」と顔を赤くするハンナを笑ってあげた。




