第23話「陽キャ女子とイケメンと女子Bとユウナ」
司祭との面会が終わり、信次郎は職員に連れられて教会の廊下を歩いていた。
「連れのところに案内してやろう、しかし、あの坊ちゃんに勝つとはな、お前、騎士団にはいったらどうだ」
(え、異世界で鍬を両手に、騎士やってます。あれ、なんだっけ……14章?)
「いや、俺なんて……」
足元はふらふらで、視界がぼんやりしている。 体のあちこちが痛むのは、決闘の代償だ。
(……まあ、ユウナたちも無事だったし、よかったけど……)
静かな廊下を歩くうちに、信次郎の意識はふっと内側へ沈み込んでいった。
(あの美人の名前聞いてなかったな、勝手に伯爵令嬢とか呼んじゃおう。伯爵令嬢の「痛いの痛いの飛んでいけ」早くください……できれば膝の上で……)
ふと目を覚ますと、見知らぬ天井が目に入った。
薄暗く静かな部屋。高い天井に淡い灯りが揺れている。
(……あれ、俺……倒れたのか?)
ゆっくりと首を動かすと、硬めのベッドの感触と、薄いシーツの肌触りが伝わってくる。
どうやら教会の一室らしい。
しばらく、何もせずに天井を見つめていた。
(……今日は、いろいろあったな……)
記憶の中で、騎士との一戦、ユウナの表情、司祭の視線が、伯爵令嬢の悲しそうな瞳、断片的に浮かんでは消えていく。
信次郎は、ぼんやりと今日一日の出来事をなぞるように思い返していた。
(……なんだったんだ、あれ。イケメン騎士に俺が勝った。そして、ユウナはイケメンを見つめて……泣いてた?)
鍬の感触が、まだ手に残っている。
けれどそれよりも、胸に引っかかっていたのは――あの視線だ。
(学校のクラスにもいたな、イケメンと楽しくおしゃべりする陽キャ女子、そして、それを囲む女子Aと女子B)
(女子Bは、陽キャ女子に適当に相槌をうっている。だが、視線はイケメンにくぎ付け。そして、ユウナは、その女子Bと同じ目をしていた!)
(イケメンとユウナは、たぶん両想いだったんだろう。あれだけ自然で、あれだけ切実で……)
(でも司祭は反対してる。あの感じ、怒ってるというより、諦めきった親の顔だったような……)
あの美人、婚約者だって言ってた。敬語使ってたな。司祭より、立場は上?
(それってつまり……家の都合? 権力? 政略結婚? ……あー、どれもめんどくさそうだ)
(もしやイケメン、まさかの、駆け落ち計画? でもユウナは、現実的だった。……涙目だったのは、悲しみ? それとも……)
信次郎は頬を両手で叩く。
(いやいや、何妄想してんだ……それにしても、そこに、恋のライバル登場? いや、むしろ俺、脇役? 手袋投げ捨てて、決闘って……)
(……いや、ユウナ、さりげなくイケメンに俺が戦闘スキルないことを教えてなかったか?あれって、どっちの応援……?)
(ユウナが手袋くれたのって……いやいやさすがにそれはないだろう、ああ、妄想が暴走している)
天井の灯りが少し揺れている。
ふと、リオンの言葉が蘇る。
『ユウナのこと、託してもいい』
(あの台詞……プライドのある騎士が、負けを飲んでまで、俺にバトンを渡したってことか?)
(演出か? これ、プロレスだった?)
(……だったらユウナとの仲を、世間にアピールしてあわよくば、父親の心変わりを……?)
(いやいや、そんな簡単なもんじゃないだろう)
(でも、ユウナは俺のもとに来たんじゃなくて、リオンに駆け寄ってた……)
(見つめ合ってた……)
(……うーん、うーーーーん、認めたくないが、認めざるを得ない。失・恋・確・定!)
涙で天井がゆらぐ。
(あーーーあ)
顔に手を当てて、大きくため息をつく。
(そういえば、なんで……あの司祭、最初にあったとき、俺とユウナを見て、あんな笑い方したんだ?)
(……もしかして、別の男とよろしくやってるって思った?)
(いやいや、そもそも教会に誘ったのって……監視するため? 囲い込み? え、ユウナに逆ハーレム計画とか?)
(・15章:『異世界転生者を助けたら、教会で逆ハーレム状態で困っています』――って、なんかこっちの話のほうが気になる。早く公開して!)
(司祭、ちょい悪?……いや、悪くないのか……イケメンは婚約者いるんだもんな……)
(あの日に焼けた顔、実はまじめに農家を回って、祈ってて……町の外も清潔にしている?)
(伯爵令嬢も、町をまわって、辻清潔魔法してて……まじめに町を守ろうとしてた?)
それが、あたりまえのように、静かに暮らしを支えている人たち。
(……なんか、誰も、悪くないじゃん、みんな、いい人なんじゃ)
(そして、おれは……)
(……異世界からきて、身分違いの切ない恋物語を……)
(……ぶち壊した?)




