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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
虚実古樹の私

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第193話 虚実古樹の私と、隠される本音

ベッドで横たわるマリアを、私はただ眺めていた。目をレース地で隠しているから、普段と何も変わらないその寝顔は、見ていて別に楽しいものでもなかった。人形とさして変わらない。けれど、私はただ眺めていた。



「あ、えっ?」


間抜けな声が、横たわる人形から聞こえる。どうやら、彼女は目を覚ましたらしい。上体を起こして、数秒呆けたように前を見つめたあと、慌ててマリアはベッドから降りようとした。



「おはよう、マリア。」


「え?あ、お、おはよう御座います、主よ。今日も私めが生きているのは主のおかげでございます。」



私の言葉でようやくすぐ横に私がいることに気が付いたのか、一瞬驚いたような様子を見せた後慌てて私に向けて祈るように手を合わせる。



「目覚めからそんな重い感謝をされる私の身にもなってくれよ。というか、君は自分がなんで倒れていたのかも分かっていないだろう。」


「仰る通りでございます、主よ。恐らく、寝不足で倒れた、と言う事はおおよそ察しているのですが。」


「……じゃあ、分かっているじゃないか。君が倒れたと報告があってね。とは言っても、寝ていたのは2日だけだけれど。」


少し寝たからか、以前見た時よりも彼女は多少持ち直したように見えた。少なくとも、目の焦点が合っている。


「ああ、私は2日も無駄にしてしまったのですか。」


嘆きながら、ベッドを降りて部屋から出て行こうとする彼女の腕を私は掴んだ。マリアは振り向いて、驚いたような表情を浮かべる。


「そ、そんな!畏れ多くございます!」


「いいから。落ち着きなよ。手を繋いだくらいでそんな慌てなくても、おぼこすぎるだろう……いや、未通女(おぼこ)だったね。失礼したよ。」


掴んでいた手を離して、おどけるように両手を挙げる。マリアは頬に手を当てて、赤らむ顔を隠すような表情をしたが、血の通っていない顔は全く赤くなっていない。吸血鬼になって長いだろうに、と少し呆れる。



「とにかく、君は一度落ち着くべきだ。そんな気絶するくらい限界な脳みそで黒死病の原因を探ろうとしたところで、分かる訳がないだろう。寝不足で気絶する吸血鬼なんて初めて見たよ。今は休むべきだ。」



「ですが、主よ。」


「命令という形にしてもいいよ。どうしても休むのが嫌だ、と言うのならば。」


「……承知いたしました。ですが……。」


渋々、と言う様子で承諾したマリアだが、それでもまだ何か言いたげだった。私は思わずため息を吐く。仕方ない、と私は口を開いた。



「ただ休むのが嫌ならば、私の話し相手を数刻程頼むよ。どうしても暇でね。」


「それは、是非ともそうさせていただきたいのですが……。」


「家畜の世話は君が他の眷属がしてるよ。君がよく頼んでいる……名前は忘れたけれど。とにかく、彼に頼んでおいた。他に何か心配があるのならば、言ってみるといい。」



そこまで言うと、マリアは再び驚いて、嬉しそうに微笑みながら口元に手を当てる。



「お優しいのですね。」


「それはそうさ。こう見えて、私は部下想いで通っているんだ。優しくするさ。特に頑張りすぎて倒れた部下にはね。優秀な部下であれば尚更さ。」



フフ、と彼女は小さく笑い、ふらつく足取りでベッドに戻っていった。


「主に労わっていただけるのでしたら、私めは何度でもこの身を捧げましょう。」


「『もうするな』と私は言っているんだ。次やったら罰を与えるからね。」


「それは楽しみでございます。どのような罰を与えていただけるのでしょうか。」



恍惚とした表情を浮かべるマリアを見て、そういえば、彼女は元々聖十字教団だったな、と思い出した。何故敬虔な聖職者は被虐趣味のある者が多いのか。私には理解に苦しむ。


「喜んだら罰じゃないだろう。」


「貴方様から頂けるものは、全て私の幸福でございます、主よ。」


ベッドに横になりながら、祈るように手を組むマリアを見て、死んでいるみたいだな、とどうでもいい事を考える。もう、死んでいるけれど。



「それで、今度は君は何に焦っているんだい?」


「……もちろん、家畜の為でございます。ようやく飼育に適した人種に変わりつつありますので、今全滅すれば、また現在の状態まで回帰するのに百年は要します。」


「それだけじゃないだろう。君は、何を隠している?」


「……それは。」


マリアは言いづらそうに目を逸らす。無理に聞き出そうとも思ったが、もしかしたら言わないのには何か意味があるのかもしれない。だから、私は質問を変えることにした。



「君は、何のためにこんなことをしているんだい?」




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