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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
咲く花と、散る桜

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186/188

第186話 虚実古樹の私が、恐怖を用いる理由。

荒れた道に、馬車が揺れる。ただ茫然と外を眺めていた私の身体は、その度に小さく宙に浮いた。



「本日は、申し訳ございませんでした。」


突然、マリアが謝罪を口にする。ヴラドの城を出てから、私は『もう終わった。』と言っただけで、それ以外口を開いていなかった。


「別、君のせいじゃないさ。そもそも君が気に掛けなければ、私は彼に何もしなかっただろうしね。」


そう答えながら、私は窓の外に目を向け、先程までの事を思い返していた。


「結局、ヴラドはなんでああなってしまったんだい?」


「……存じていなかったのですか?」


「興味もなかったからね。おおよそ、事情は分かっているけれど。君の口から聞いた方が間違いがなさそうだ。」


渇いた笑いを私は浮かべる。どうやら私は落ち込んでいるらしい。こんな気持ちも3000年ぶりだ。思わず道路に落ちている人間の死体にすら寄り添ってしまいそうになるほどだ。まあ、絶対にそんなことはしないけれど。落ち込んで、自信を無くしている。



「ご存知だと思われますが、ヴラド様は勢力を拡大されておいででした。眷属も力が及ぶ土地も増やしました。ですが昨今の流行り病のせいで人間は数を減らし、ヴラド様は常に眷属達の食料に苦心されているようでした。」


「まあ、だろうね。そもそも第10眷属なんて作るくらいならグールの方が幾分ましだろうに。」


「グールでは言葉を話すことが出来ませんので。」


「分かっているさ。余計な茶々を入れてすまなかったね。続きを頼むよ。」


口を尖らせながらいじけて答える。ふふ、という笑い声が聞こえて横目を向けると、マリアが口元に手を当てて笑っていた。



「主よ、それでは続きを話させて頂きます。ヴラド様は快楽目的の吸血をしないように言い渡しましたが、それでもするものが多くおりました。ですので、直接『命令』をかけようとされたらしいのですが、すると統治を放置して、逃げ出されることが多くあったとの事でした。」



「へえ、ヴラドの眷属と言えば、彼に忠誠を誓った者が多くいたはずだが。」


「仰る通りでございます、主よ。上位の眷属は現在でも高い忠誠を誓っておりますが、下位の者に関しては、ほとんどヴラド様に会う機会もなく、ただ上位存在として人を殺す快楽に溺れたものばかりでしたので。」



その辺のヴァンパイア・ハンターに負ける程度の実力しかない癖に、と思うが、だからこそ一時の快楽に溺れるのかもしれない。吸血鬼として上に行くことが出来ないから、快楽に溺れて劣等感を誤魔化す。得てして弱者はそういうものだ。



「それで、部下に裏切られ続けた結果、ああなったわけか。『自分には王の器がない』とでも思って病んだのか。」


「仰る通りでございます、主よ。加えて、ご自身の夢の困難さに心が折れたのかと。」



おおよそ、私が想像していた通りではあった。そんなもので挫けるなんて情けないな、と彼に半ば八つ当たり気味に怒りを覚える。次会った時は、散々からかう事を胸に誓い、私はそこでようやくマリアに目を向ける。




「それで、君の眼にはどこまで見えていたんだい?」


マリアは言葉を詰まらせ、唾を飲み込む。前に置いた指を小さく絡ませた彼女は珍しく緊張しているらしい。どうやら本心らしいその反応に、私の溜飲は少し下がった。



「……私は、「『何も見えていない。』そう言った途端、私は君を殺す。それがたとえ、本当でも。脅しじゃない、という事くらい、君の慧眼なら分かるだろう?」



私の言葉に、マリアの手足は恐怖に震える。


ヴラド相手ではそうもいかないが、自身の眷属であれば殺す方法なんていくらでもある。殺意が彼女の鈍らせる。自身の信じていた神よりも自らの命を大切にする女だ。だから私は、マリアの本心を聞くために彼女を脅した。



「……先程まで、『怒っていない』と仰っておられたと思いますが。」


震える声でマリアは訊ねる。私はそれを鼻で笑った。



「『君のせいではない』としか言っていないよ、私は。けれどまあ、別に君に腹を立てているわけではないよ。少し思い出しただけさ。眷属を従えるには、恐怖が一番手っ取り早いってね。特に、独断で動く者には。」



ヴラドの失敗は、その恐怖すら届かない範囲まで眷属を増やしてしまった事。私はそんな失敗はしない。


「それは、遂に王として君臨してくださる、という事でしょうか?」



おずおずと訊ねる彼女の声は、震えながらもどこか嬉しそうだった。


「話を逸らすなよ。君は、一体どこまで予想していたのか。私はそう聞いているんだ。」


彼女の態度に違和感を覚えるが、私は逸れた話を戻した。マリアは笑みを嚙み殺しながら、明るい口調で答える。



「おおよそ、全てでございます、主よ。」




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