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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
咲く花と、散る桜

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第174話 桃李満門だった私達と痛み、熱

読んでくださりありがとうございます。昨日に引き続き補足です。一果視点です。

『これにて、ペンギンショーは終了となります。皆様!頑張ってくれたペンギン君達に、今一度大きな拍手をお願いします!』


飼育員さんのその言葉に、私は大きな拍手を送る。割れんばかりの拍手を気にも留めず、首をキョロキョロと動かすペンギンの可愛らしさに私はまた癒された。


いいな、ペンギン。可愛くて。どことなく、模様も修道服みたいで可愛いし。


一度、天竺葵(てんじくあおい)さんに相談してみようかな。幼稚園児がよく乗せられているカートで連れていかれるペンギンに手を振りながらそんな事を考えてから、私ははっとした。そういえば、れーくんとちばきちの後をつけていたんだった。



イヤホンから流れてくる音声から、恐らく2人はそう離れていない。慌てて周りを見渡すと、すぐ傍でマップを見ているれーくんの姿が見えた。良かった。2人もすぐには動かなかったらしい。


たとえ見失ったとしても見つける方法はあるけれど、その姿が見られないとも限らない。初めて見るペンギンショーとはいえ、油断しすぎたな、と反省した。


『わ、私も……れ、連花(れんげ)さんと、ここ、来れてよかったです……!』


小春(こはる)さん……。嬉しいです。』



私がそんなことを考えている間にも、甘い会話をする2人に、私の心は深く抉られる。


ああ、なんて甘美な痛みなんだろう。神に仕える身でありながら、思わずこの希釈されていない快楽に溺れてしまいたくなる。衆人環視の中でなければ、私はそうしていたのかもしれない。


会話でここまでクるのだから、プロポーズなんて聞いた暁にはどうなってしまうのだろう。2人が辛うじて目視できる程度の距離を保ったまま後を尾ける私は、想像だけで、胸に空いた大きな穴を歪な熱が注がれたような感覚に陥り、それを必死で抑えるように胸の前で強く拳を握る。


本当に、今日は来てよかった。こんな思いが出来ることなんて、そうある訳がない。きっとこれは、一生の思い出になる。



そんな感慨にふけっていると、ふと、私と彼らの間にいる2人の女性が目に入った。歳は私とそう違いがないくらいだろう。なにやら、2人、というよりつばきちの方を見て、ひそひそと話しているように見えた。


その表情が悪意に満ちた、嘲笑うようなものに見えて、私は少し嫌な気持ちになる。もしかしたら、『釣り合って無くない?』とか、そんな会話をしているんじゃないだろうか、なんて邪推する。


確かにれーくんはかっこいいけれど、つばきちだって負けず劣らず可愛くてお似合いだ。そんなことを言われる筋合いはない。だからこそ私はこんなに辛くて興奮する思いをしているんだから。



きっと気のせいだろう、と思う事にした。もし本当に気のせいだったら、こんなに失礼なこともない。勝手に言っている言葉を代弁して、勝手に憤慨しているんだから。



『申し訳ないのですが、少しお手洗いに行っても構いませんか?』


きっとれーくんはつばきちに気を遣って自分から言い出したのだろう。伊達に女社会で生きていないな、と私は感心する。


『全然大丈夫ですよ!じゃあ、私はここで待っていますね!』


そう言ってつばきちはトイレの前にある柱へ向かった。そういう時は、一応自分もトイレに行って化粧が崩れてないか確認した方がいいよ、とアドバイスをしてあげたくなるが、今ここで私が出てきたら、私達のストーカー行為がバレてしまう。そうなると、流石にいい思いはしないだろう。


まあ、私はアドバイスが出来るような立場ではないけれど。さっきのアドバイスもれーくんとの架空デートで思いついたことだし。自分でそんなことを考えて、勝手に2人との立場の差を実感して虚しい気持ちになり、また私の胸が疼いた。


『こういうの』も、私は好きなのか。自分の性癖への理解を深めながらつばきちを見張っていると、先程の2人が近づいていくところが見えた。


何だろう、と思い、会話が聞こえるように、耳に差したイヤホンを強く抑える。


つばきちはしばらく接近してくる2人いに気付いていないようだったが、すぐ真横に立たれた辺りで驚いたように2人に目線を向けて、困惑するような表情を見せたと思ったら、すぐにその表情が怯えたものに変わった。



『久しぶりじゃん。小春でしょ、あんた。』


『なん……で……。』


『敬語ぉ!忘れたの?』


『ご、ごめんなさい!!』



必死に頭を下げる、つばきちのその様子で、私は察した。彼女達は、つばきちの中学時代の同級生だ。前に聞いたことがある。


自殺寸前まで、彼女をいじめた、同級生だ。


どろりとした熱い鉛のようなものが、私の胃に流れ込んだように思えた。これは、明確な怒りだった。


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