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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
咲く花と、散る桜

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第164話 虚実古樹の私と岸根涼

いつものように、木曜日の夜に目を覚ますと、木々のせせらぎと、獣の声だけがいつもの如く聞こえる。


違うのは、脈打つことの無い私の心臓が、早鐘を打っているかのような高揚感がこの身体に走っているということ。



遂に、遂に、だ。小躍りしたくなる程に、この高揚を身体の中で収めておくのは容易ではなかった。



「ああ……!!」


それでも漏れ出た昂りを握り潰すかのように、私は両の手を力強く握り、拳を作る。



私は、賭けに勝った。(りょう)は、アキレアは、私の最後の光は。まだ生きている。吸血鬼である事を除けば、だが。



また一つ、私の光に近づいたはずだ、そう考えてから、彼が本当に私の望み通りになったかすら分からない事に気が付いた。もしかしたら、彼は死ななかっただけで、前と変わらないわがままな死にたがりのままかもしれない。


パソコンを立ち上げて通話アプリを開く。時間はまだ1時になったばかりで、彼の姿を見れるまで、まだ2時間近くある。先週のように彼のマンションに直接行こうかとも思ったが、もしかしたら彼が教団に拘束されている可能性すらある。


そうであった場合、彼が通話をかける事ができるかすら分からないが。その場合は、契約を果たせずに死んだ彼の弔い合戦でもするか。心の底にある感情を嘲笑うようにそんな事を考える。



時計の針はちっとも進まない。待つ時間の長さは4000年生きたところで早くなるものでもないらしい。他の4000歳がどのようにその退屈を埋めているのか、聞けるものなら聞いてみたい。恐らく、いないだろうけれど。



結局、この2時間の暇を埋める為に何もする事が思い浮かばず、ただパソコン画面を退屈に眺めていた。


すると、不意に彼からの着信がかかってくる。ずっと画面を眺めていた私が何故不意を突かれたのかというと、その着信がかかってきた時間が2時40分、つまり3時の20分も前だったからだ。彼は、今まで3時丁度にしか電話をかけてくる事がなかった。


それなのに、こんなに早く彼がかけてくるとは。期待と不安で震えた手で着信をとる。



画面に映された彼の顔を見て、私は声を上げそうになる。ああ、ギルと同じ目だ!!



「やあ、今日は随分と早かったじゃないか。」


何故かはよく分からないが、私は平静を装って彼にいつもの調子で笑いかける。そんな私を見ても表情を変えない彼に、私はまた嬉しくなる。


連花(れんげ)から聞いた。私を元にして、他の人間を甦らせるつもりらしいな。」


「なんだい、そんなつまらない話をする為に、早く電話をかけてくれたのかい?これでも私は君が生きている事をこの一週間、ずっと願っていたんだよ?君を見捨てた司教様とは違って。」



私を睨みつけるように見つめたあと、気持ちを落ち着けるように深く息を吐いた。


「……一つだけ言わせてもらう。私は、もう君の思い通りになるつもりはない。」



真っ直ぐにこちらを見つめる彼に、私は思わず吹き出した。既に、私の思い通りだと言うのに。どこまで行っても、君も、君の周りの人間も、私の手のひらで踊っているに過ぎないと言うのに。


「いいよ。いいじゃないか!せいぜい足掻いて見せてくれよ。ここ200年位で一番面白いよ!やっぱり君が一番素敵だ!」



今生きている人間では、だが。片眉を上げる彼を尻目にわたしは続けた。


「ところで、随分いい目になったじゃないか。」


あくまでついで、という風に本題に入る。


「どうしたんだい?何か心境の変化が?」


「……まあ、色々とあってな。もう少し、生きてみる事にした。それだけだ。」


「ーーーへえ。」



私は思わず笑みがこぼれた。彼の言った言葉は、大した問題ではない。彼のその瞳に宿る、2つの光。私を見つめ、刺すように鋭い瞳と、人間に対して語っている時の、包むような優しい瞳。私が彼を選んだ時と同じ。ギルと似た目だ。



「死ぬのは諦めたのかい?それとも、『やっぱり怖いから辞める』となったのかい?」


煽るようにした私の言葉も、彼は動じずに答えた。


「死ぬのは今でも怖い。だが、無駄に生きるつもりもない。」



ああ、今日は、本当にいい日だ。


「それなら、勝負は続行だ。来年の12月が楽しみだよ。」



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