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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
桃李満門だった私達と紫苑

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155/192

第155話 桃李満門だった私達と蘭②

(りょう)も、ですか?」


急に足場が見えなくなったような不安を隠し、私はただ平静を保つ為だけにオウム返しのような質問をする。それでも声はどうしても震えて、シンクに寄りかかるようにしか立てない程、足には力が入らない。


何故そこまで動揺しているのか、自分でも理解出来ない。ただ、きっと一果が原因である事は間違いなかった。


「うん。涼も。勿論、人の血は吸わないように縛る必要はあると思うけどさ。血液パックでも、一応吸血衝動を抑えられたんでしょ?」


二葉(ふたば)の部屋から盗み聞きた、涼との会話を思い返す。


「で、すが、結局、満ち足りないと……そうだ、『血液パックでは飢えは満たされない』と言っていたのですよ!そんな化物を生かせと言うのですか?」


どうだ、と言わんばかりに私は一果に言い放った。どうだ、やっぱり殺さなければいけない化物ではないですかと、私は安堵の笑みがこぼれる。


「でも、むーちゃんは連れ去られた後も、血を吸われなかったのです。……死にたがっていたのは、むしろむーちゃんの方だったのです。」


槿(むくげ)への怒りとも悲しみともつかない表情を見せながら、それでも彼女は私の敵になった。


「それ、は……槿さんだったからですよ。あれが他の人ならば、きっとそうはならなかった!」


「それこそ、誓いをたてさせればいいのです。『直接人から血を吸わない』と。そうすれば、涼も人を殺さなくて済むのです。」


「それは、誓わせます。でも、それはあくまで一時的な措置で、天竺葵(てんじくあおい)大司教からの指示があるまでの一時的なものでーーー」


「『殺せ』って言われたら、殺せるの?」


「殺し……ますよ!絶対。化物を殺すのは、私の使命です。」


そうだ。それが、私の使命だ。私はヴァンパイア・ハンターだ。唯一生き残った、現代までその使命を受け継いだ。



「めーちゃんが殺すのは、化物じゃないですよ。『岸根(きしね)涼』です。めーちゃんは、『涼』を、殺せるのですか?」




そう言った二葉は、私を傷付ける意図ではなく、純粋に心配しているようだった。私は、苛立ちを覚える。二葉の言葉に対してすぐに答える事が出来ない私に、苛立った。



「……出来ます。」



数秒迷って、絞り出した言葉はそれだった。夢の中ですら揺らいでいた決意は、口に出すとなお一層薄っぺらかった。2人も、そんな私に同情するような表情を浮かべる。


「何が、言いたいのですか。」


この怒りが八つ当たりだと分かっている。それでも、私はその怒りをぶつけた。震える足を、その言葉を吐き出すために、怒りで誤魔化した。


「私が殺せないとでも言いたいのですか?出来ますよ。吸血鬼を殺す為だけに、私の命はあります。それが、私の使命です。」


「……分かったのです。でも、涼は人をもう殺すつもりがないなら、生かしておいてもいいと思うのです。」


「……一果も、同じ考えなんですね。」


「そう、だね。大体一緒。」


遠慮がちに、それでも一果が同意して、2人共涼の事を殺したくないという事が伝わる。


「……馬鹿げてますよ。吸血鬼が生きているという事が、どれだけ人名を危険に晒す行為なのか、分かっているでしょう。いくら彼がーーー。」


私は、この先の言葉が言えなかった。今、涼の性格について言及すれば、ただでさえ孤立した決意が揺らいでしまいそうだった。



「……検討します。槿に関しては。」


それだけ言って、私はリビングのドアを開ける。


「え、ちょっと、れーくん?」


慌てた様子で、一果は引き止めるように私の肩に手を置いた。



「少し、考える為に外に出ます。昼は要りません。夜までには戻ります。」



手を払いもせず、ただ歩いてその手を外した。一果も、私を追いかけることはせずに、ただその場で立ち尽くしていた。




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