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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
桃李満門だった私達と紫苑

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第154話 桃李満門だった私達と蘭①

槿(むくげ)の朝食を持って行き、私と一果(いちか)二葉(ふたば)はリビングで朝食を取った。


昨日の朝食の一件から、槿への食事は私と一果が運んでいる。流石にあれだけ大喧嘩をした後に持って行くつもりはないのか、二葉も特にその事に特に文句を言ってこなかった。なので、今日も槿の所へは私と一果で朝食を持って行った。


槿も少しこの状況に慣れたのか、昨日よりも怯えた様子は見えない。未だに(りょう)が起きてこないと伝えた際は、流石に少し不安げな様子ではあったが、『本来吸血鬼はそういうものなのですから、何らふしぎではありません。貴方も存じているでしょう。』と詭弁を述べると、納得したようだった。


ちなみに、常磐(ときわ)司祭には、槿の現状を『体調不良で入院する程ではないから自室療養をしている』と伝えた。人を疑わない性格をしている彼は、その言葉で納得してくれた。


「そういえばさ。」


食事の最中、一果は不意にそう切り出した。私は白米を搔き込む手を止めて、彼女の方に目線を向ける。


「結局、大司教からの連絡ってまだないままなの?」


「ああ。残念ながらまだ折り返しはありません。」


「そうだったのですか?……流石に、何かあったか心配なのです。」


そう言って二葉は不安げな表情を浮かべる。彼女の言う事も最もだ。実際、私も同じ気持ちになった。



「ですが、もし何かあったとしても、残念ながら連絡がなければ私達に出来ることは何もありません。それよりも、私達は当面の問題の対処に当たることにしましょう。」



そう言いながら、不安を呑み込むように残った朝食を勢いよく掻き込んで、全て平らげると、私は「ごちそうさまでした。」と手を合わせた。


「当面の問題って、つ、……槿と(りょう)の事?」


食器を片付けてている私に、一果は訊ねる。分別をつけるためなのだろうが、毎回呼び間違えるくらいならあだ名で呼んでしまえばいいのに、と私は心の中でため息を吐く。


「ええ。このままいつ連絡がつくか分からない状況が続く可能性もありますから、一度私達で暫定の処分を決めましょう。当然、処分とは言っても不可逆なもの以外になりますが。」



食器を洗いながら、顔だけ向け、やらなければならないな、という半ば義務感のように口にする。


つまり結局は大したことが出来ない、という事には変わりがない。涼の存在を明らかにしていいかも分からない以上、あくまで保留中の私達のスタンスと教会内でのルールを決める程度の事しか出来ないが、それでもこのままズルズルと何も決めないまま曖昧な状態を進めるよりは幾分かマシに思えた。



「それは、めーちゃんが全部決めるのですか?役職が一番上ですし。」


「全てと言うと語弊がありますが、最終的な決定は私が下す形になるでしょう。ですが、何か意見があれば聞きますよ。」


洗い終えた皿と調理器具を水切りラックに置くと、丁度2人も食べ終えたらしく、食器を持ってきた。「私が洗いますよ」と告げて受け取って洗う。


「ちなみに、れーくんはどうするつもりなの?」


ありがとうと言った後、一果は私に訊ねる。どこかその言い方が緊張を隠しているような上ずった声をしていて少し気になる。



「……そうですね。槿は現状維持でいいでしょう。涼は……難しいですね。どうにかして拘束をしたいのですが、物理的には不可能ですから、誓いを立てさせら事で実質的に拘束するしかないですね。」


もっとも、そうするには涼の協力が必要だ。正しく自縄自縛の行為をさせるというのも間抜けな話だ。そこまで協力的ならば、契約の必要があるのか、とも思わなくもないが、理性が飛ぶ可能性もある。だからこそ誓わせる必要がある。



「……ねえ、れーくん。」


一果は、いつになく真剣な表情をしていた。



「なんでしょう。」


「れーくんは、どうしたいの?2人のこと。」



「……槿さんは、人の法で裁いて、涼は殺すべき、だと思っています。エディンムのことさえなければ、今すぐに。」


吸血鬼と、その協力者なのだから、それなりの処分は当然だ。私の頭は、冷静にそう言った。食器を洗う手の震えには気が付かないまま。



「それ、本心?」


「何が言いたいのですか?」


一果は、すぐに答えなかった。その理由が分かって、私は全ての洗い物が終わっても、水を流したままのシンクを眺めていた。



「れーくんが正しいよ。教団としても、エクソシストとしても。私も、そう思う。でも、私はそうしたくない。」


ついに決意したように、一果の声は芯が通ったものになる。あなたは、こっち側だったのではないですか?


あなたまでそちらに行ってしまっては、今の私の味方は、過去にしか居なくなってしまうでは無いですか。




「2人が今まで通り過ごせるように、天竺葵大司教に相談しない?処分とか、そういうのはなしにしてさ。」


私は、すぐには答えられなかった。身体すらもすぐには動かない。震える手で蛇口を閉めて、彼女の方に身体を向ける。


一果の目には、微かな罪悪感が見えるが、それでも強い決意が見れた。二葉の方を見ると、彼女も同様の気持ちなのがわかった。私達は、昔からの中で、目を見れば相手の言いたいことが分かる。


その癖、私の隠している本心までは見えないのか、見えた上でそういう言い方をするのか。


私の口から、あなた達と同じ事が言えるわけないじゃないですか。私は、最後のヴァンパイア・ハンターなのですから。私の両親は、吸血鬼のせいで死んだのですよ。





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