第148話 桃李満門だった私達と勿忘②
「というわけで、連絡が取れるまでは涼と槿の処遇は保留となります。」
私がそう言うと、2人は小さく頷く。神妙な面持ちにはどこか安堵が見える。私よりも彼女達の方が彼等と関わる機会が多いし、きっと私と似た気持ちなのだろう。
まあ、彼女達も主に心配しているのは槿の処遇なのだろうが。
一瞬涼に同情しそうになるが、そうなったのも自業自得だし、そもそも彼が吸血鬼だったのを思い出してその思いを振り切る
「ちなみに今2人が作ろうとしている食事はーーー。」
「ああこれ?5人分作っているけど、もしかして今日いらなかった?」
「いえ、むしろ私が作ろうと思っていたので、とても助かります。ありがとうございます。」
そう言って少し照れたように手を振る一果を二葉が冷めた目で見つめる。私達の関係は昔から変わらないな、と今日見た夢の影響もあってか、少し懐かしい気持ちになる。
「では、月下槿の朝食は私が持っていきましょう。ついでに先程の話を彼女にも伝えておきたいので。」
正直、保留している今の状況で顔を合わせるのは気まずいだろう、という私なりの配慮でもある。つい数日前までは友人関係であったはずだ。
それに、もし特にお咎めなしだった場合、あまり突き放し過ぎると関係の修復に時間がかかる。それはそれで考えものだ。
「私も行きます。」
そう言った二葉の声は、普段の冷めているがどこか楽しそうなトーンではなく、どこか怒気のようなものが込められているように感じた。
「別に、私だけでも問題ありませんが……。」
「昨日、色々あったので健康状態のチェックもしたいのです。それだとめーちゃんだけだとできないのです。」
二葉の言う事は一理ある。が、少し態度が気になる。ふと一果の方に目線をやると、私に目線で合図を送っていた。
読み解くと、どうやら昨日から槿に怒っているらしい。二葉の気持ちは理解出来るし共感出来るが、彼女がこんなに怒っているのは珍しいような気がする。
「一応言っておきますが、私にも伝わるのですよ、それ。」
「そうですが、口に出されるよりはマシでしょう。」
「口に出されるより癇に障るのです。」
「じゃあ口に出して言うね。なんか昨日から怒ってるんだよね、つ、……槿の事で。」
案の定、言葉にして出されたら出されたで二葉は顔をしかめる。が、気にせず話を続ける事にした。
「どうやらそのようですね。今日はやたらと珍しい事が起こりますね。」
天竺葵大司教に連絡がつかなかった事といい、二葉が拗ねたことといい。
「それにしても、二葉がそれ程怒っているのも珍しい。念の為、理由を聞いてみてもよろしいでしょうか?」
「……言いたくないのです。それに今怒っている人が2人増えました。しばらく許さないのです。」
口をへの字に曲げて、二葉はそっぽを向く。私と一果は顔を見合わせて、困ったように笑う。こうして拗ねられるのは初めてじゃないので慣れたものだ。
「分かりました。しばらく許さなくて構いませんので、食事を持っていくのを手伝って頂けますか?」
「ご飯作るのも私がやるからさ。お願いしていい?」
「……分かりました。」
拗ねながらも二葉は承諾してくれた。こうして放っておけば、数分後には拗ねていたことを忘れている。
あまり引きずらない。それが二葉のいい所だ。
そんな二葉が引き摺る理由が少し気になるが、また質問して拗ねられるのも嫌だし、私は特に言及しない事にした。




