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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
桃李満門だった私達と紫苑

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第147話 桃李満門だった私達と勿忘

しばらくベッドの上で、一族に課された使命を反芻していたが、すると体に纏わりついていた重い汗が冷えて、気持ちが悪くなってきた。


昨日は風呂に入っていないことに気付いて、私は部屋付きの浴室でシャワーを浴びることにした。


昨日から着ているカソックを脱ごうと、上からボタンを外す。なんでこんなにボタンが多いんだ、といつも脱ぎ着をするたびに億劫な気持ちになるが、それが神父の服装だ、と言われれば納得するしかないし、別にそれに対してごねるつもりもない。職務中以外は着なければいいだけの話だ。


そんな事を考えながら、全て脱いで、浴槽に入り、シャワーを浴びる。冷たい水が出るが、悪夢で火照った身体を冷ますには丁度いいと思い、そのまま温水になるまで身体に当て続ける。



服装と言えば、一果(いちか)二葉(ふたば)は本当に気が知れない。あんなに着るのが面倒くさそうな修道服を毎日来ているなんて。


実際、以前『面倒ではないのか?』と聞いた時、彼女達は『正直、凄い面倒。』『可愛くなければ着ないのです。』と言っていたし、やはり面倒とは思っているようだった。気に入ったデザインというだけで着るのが面倒な服を着続けられるという、彼女達のファッションに関する執念は私には想像も出来ない。


そもそも、修道服をファッション感覚で着るな、という点は一旦置いておく。



ここ2日ほど気を張っていたからか、温水で緩んだ身体はそんなどうでもいい事を考える。


気を抜く段階では無いが、喫緊(きっきん)の問題は去ったと考えてもいい。後は(りょう)槿(むくげ)への処遇をどうするか、だ。



どちらにせよ、一度天竺葵(てんじくあおい)大司教に一度報告をする必要があるな、と少し億劫になる。



その原因は分かってはいる。分かってはいるが、少し認めたくない理由だ。


……天竺葵大司教の指示で、涼と槿の処分が決まってしまうと考えると、あまり気が進まない。


涼は吸血鬼であるし最悪どうでもいいが、槿は人間だ。真名を黙っていることに関しても、私達への悪意であった訳でもないだろう事はわかっている。だからこそ、あまり気が進まない。



が、遅くなればなるほど報告しづらくなるのも事実だ。私はシャワーを止めて、体を拭いて服を着替える。もしかしたら関東支部に行く必要がある事を考慮して、また着るのが面倒なカソックに着替えると、少し早い時間ではあるが、天竺葵大司教に電話をかける。


何度かコール音が鳴るが、繋がらない。しばらくすると、電話は留守番電話になった。


珍しいな、と思わずスマホの画面を見る。なにか重要な用事がある時は不思議な程確実に連絡がつくのだが、今回はそうではないらしい。


珍しいがそういう時もあるか、そう思い、留守電に「早くに申し訳ございません。連花(れんげ)です。報告事項がありますのでお電話致しました。またご連絡します。」と留守番電話を吹き込む。



天竺葵大司教に繋がらないのならば、今私に出来ることは連絡が来るのを待つことか、また電話をかける事くらいだ。


とりあえず食事にしよう。そう思って階段を降りてリビングに行くと丁度一果と二葉が朝食を作り始めようとキッチンの前に立っている所だった。


「おはようございます。随分早いですね。」


普段ならそうでも無いが、彼女達も4時頃まで起きていたはずだ。体臭から、恐らく風呂には入っているようだし、入浴時間の差を考えれば私よりも先に起きたか、かなり遅くに寝たはずだ。


私の声に反応して、2人は私の方に振り向いた。



「おはよー、れーくん。まあ、寝てないしね。」


一果の言葉に二葉が頷く。骨の髄までブラック体質が染みている彼女達に目眩がする。4ヶ月近く現場から離れているのに、習慣は染み付いてしまっているらしい。


「……休める時は休む事も大事ですよ。」


「徹夜なんて慣れっこなので、なんて事ないのです。」


私だって慣れているが、それでも寝ましたよ、と伝えようとしたが、そんな問答は別に今することでは無いので、話題を変えることにした。喫緊の問題は去ったが、そんな問答をしている程悠長な場面でもない、はずだ。



「ところで、月下(つきした)槿(むくげ)岸根(きしね)(りょう)は、見かけましたか?」



「見てないのです。多分、2人ともまだ寝てるのです。」


「起こしてこようか?」


「いえ、大丈夫です。実は、まだ天竺葵大司教と連絡が取れていないので、彼等への処遇が決めかねている状況でして。」


私のその言葉に2人も驚いた表情を浮かべる。


「え、そんな事あるの?」


「あの人に連絡が取れなかった時なんて、一果が酔っ払って電話した時くらいなのです。」


「そんな事をしたのですか!?」


驚いて一果を見ると、いやー、と言いながら頭を搔いて目を逸らす。逆に繋がらなくて良かったですね、と思うが、やはりそれくらい天竺葵大司教と連絡がつかないのは珍しい事態らしい。


……流石に、酔っ払ってかけた電話と同列に見なされていないはずだ。そもそも、電話をかける前に内容を察している前提で仮定しているのがおかしいのだけれど。





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