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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
流れ出る血潮

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第124話 薄明のあなたと、桃李満門だった私達②

朝の4時。私は浅い眠りから目を覚ました。


今日私は、金良(かなよし)さんを天に召す。聖十字教団の信徒として、エクソシストとして。



部屋を出ると、示し合わせたかのように一果(いちか)がドアを開ける。


「……おはよ。」



「……おはようです。」


少しだけ、一果はバツが悪そうな表情で、私に挨拶を返した。一果は、何も悪くない。けれど、そういう態度を取られると、彼女を責めていいと勘違いしてしまいそうになる。



「一果が気にすることじゃないのです。いずれこうなる恋なのです。」



相手を想っている間は楽しいけれど、幽霊と人では長く続くことは無い。愛とも呼べないこの感情に溺れる程愚かではないけれど、この胸の痛みを覚えていられるほど賢くはない、私がすべて悪いのだから。




風呂場で、冷水で体を清め、私は新しいシスター服に着替える。教団の調査では彼はまだ人を殺していない。きっと出現する場所が人口がそれ程多くない範囲だったこと、それに時間が朝方だったこともあって、霊感の強い人でなければ見ることが出来なかったことが幸いした。



けれど、彼は、教会にいるシスターを誘う程に見境なくなくなっている。悪霊化する一歩手前だろう。



そうなれば、彼は死後、まさしく地獄を見ることになってしまう。そうなる前に、私が救う必要がある。



胸元の十字架を握る手に力が入る。一果は心配そうに私を覗きながら、



「やっぱりさ、私が除霊しようか?まだ対話で何とかなるけれど、辛いっしょ?」



と提案してきた。


「あまり私を舐めないでほしいのです。余裕で割り切っているのです。」


「うわー、悪い女だ。お姉ちゃん怖ーい。」




わざとおどけた調子でそう言う一果に少し救われる。一果に合わせて笑った後、私は深く息を吸って、覚悟を決めた。



この想いを、今日終わらせる。そして、金良さんを天に送る。それが、私が彼にできる、精一杯だから。




ーーーーーー



「ねえ、本当に私、いた方が良いの?」



微かに白み始める空に、槿(むくげ)は心配そうな目で私を見つめる。邪魔じゃない?彼女は暗にそう言っていた。



起きたばかりの時は少し楽しそうだった彼女だったが、私と一果の緊張した様子を見て、不安が増したらしい。



「むーちゃんが見ていてくれた方が、心強いのです。」


これは、本心だった。今回行う対話式の除霊だと、彼女にはここにいてもらった方がいい。



「それなら、いいんだけれど。…………あともう一つ、聞きたいんだけれど。」



不安げな表情で、首を振って自身の周りを確認して、彼女は続けた。



「私の周りのこのゲームとか、ぬいぐるみとかって、何?」



槿の座っているシートの上には、私の好きなゲームや好きなキャラクターのぬいぐるみがいくつも置いてある。



「乙女ゲームと推しのぬいなのです。」


「それは、わかる、かな。そうじゃなくて。」



何故ここに置いてあるのか、という事が聞きたいのだろう。わかったうえで、少しからかいたくなってわざととぼけて見せた。


案の定困った表情を浮かべる槿が可愛くて、私は頭を撫でながら、説明をした。


「これから、私は『金良(かなよし)辰巳(たつみ)』さんを除霊するわけなのですが、今の所彼には会話が通じます。であれば、強引に聖十字の奇跡で除霊する、いわゆる『お祓い』ではなく、対話によって除霊する『成仏』することが可能なのです。」



「最初の方が確実なんだけどね。ただ強引な分魂が傷つきやすいから、穢れが残ったままになりやすくてさ。そうなると地獄行きだから、極力避けたいんだよねー。」



私と一果の説明に感心したような表情をした後、槿は眉をひそめる。



「これからなにをするかは分かった、けれど。結局私とこの子達がここにいる必要って?」



むーちゃんが『ぬいぐるみ』をこの子って言うの可愛くないですか?


凄い分かる。


と一果とアイコンタクトをしてから、私は彼女の問いに答えた。


「今回対話をする金良さん相手に、私は有利な点と不利な点があるのです。有利な点は『彼を知っている事』、不利な点は『彼を想っている事』です。」


いまいちピンと来ていない顔の槿をよそに、私は説明を続けた。


「まず、有利な点。知っているという事は、単純に切れる手札が多いという事なのです。今回、直接会話した内容と、教団の調査部に依頼して調べてもらった情報から、彼が死んだ理由から、生前の彼の人物像も全て調べたのです。」



そのおかげで、一つ、切り札が手に入った。出来れば、使いたくはないけれど。


「反対に、不利な点。対話中も彼は、私をあの世に連れて行こうとするはずなのです。だからこそ、相手に強い感情があると引っ張られやすい。その対策として、むーちゃんとそのグッズ達なのです。」



私は、彼女を見て、少し微笑んで見せた。


「私が向こうに引っ張られそうな時、好きなものや親しい人がよぎれば、それは私の未練になります。だから、こうして近くにいてくれると、凄く助かるのです。」



「あ、安心してね。金良さん?が来たら私がシートの範囲に強めの結界張るから、つっきーが霊障に当てられる事はないから。」



一果はそう補足する。私たちの言葉を聞いて、槿は役割を果たそうと、ふん、と鼻息を荒くして深く頷いた。



こういう時頑張ろうとするむーちゃん可愛くないですか?


凄くわかる。



と一果とアイコンタクトをして、私は正門付近で金良さんを待った。



すると、いつもの小気味よい、彼の足音が近付いてきた。






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