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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
流れ出る血潮

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第103話 考えられる仮説

私はこの2日、人と同じような時間しか眠れていない事と、過去にそういう事は無かったこと、央の話にもそういう話は無かったという事を話した。


2人は黙って聞いていたが、聞き終えた後、数秒考えるような仕草をした後、槿(むくげ)は口を開いた。



「頼ってくれて嬉しいけれど、連花(れんげ)さんの方が詳しそう、だけれど。」



「連花にも連絡をしたのだが、繋がらなくてな。多分職務中なのだろう。」



「大事な時に役立たずなのがめーちゃんなのです!」


何故かまた嬉しそうに胸を張る。桜桃(さくら)姉妹と連花は仲が間違いなく良いのだが、それはそれとして2人に舐められているのも間違いない。


「3人寄らば、という事なら4人ならば文殊越えを果たせると思うのですが、一果(いちか)も呼びますか?まだ起きているはずです。」


随分と自信が過剰ではあるが、人が多い方が確かに多角的に見れる、というのは確かだ。だが。


「流石に私の睡眠不足の話で、そんなに多くの人を巻き込むのは申し訳ないな。成り行きで二葉(ふたば)も巻き込んでしまったが、そもそも槿に雑談ついでに、程度のつもりだったんだ。」


照れ隠しで話題を切り替えたが、その切り替え方があまり良くなかったな、と反省する。想定していたより深刻な切り出し方になってしまった。


「そうなのですか。まあそう言うなら別にいいです。それにしても暇さえあったら会いに来るとかどれだけむーちゃんの事が好きなんですか。」


「うるさい。」



『雑談ついでに、』という話しをしたからか、少し2人とも肩の力が抜けたように見える。



「でもさ、要は寝不足ってこと、だよね?眠くはないの?」


「ほとんど普段通りだ。多少、頭が重いような気がするが、気のせいと言われれば納得する程度だ。」


私のその答えに、槿は不思議そうに首を傾げる。


「吸血鬼は寝不足に強いとかあるのかな?」


「専門外ですが、聞いたことはないです。『適応』が影響しているのですかね?」



二葉に言われるまでその事に思い至らなかった自分を恥じる。


「そうか。完全に忘れていたな。自分の事にも関わらず。」



「適応って、環境に合わせて身体を変えるとかの、あの適応?」


槿にそう聞かれて、そういえば彼女に話していなかった事に今更気が付く。


「そうだ。(おう)に吸血鬼にされた者は、彼と同じ様に他の吸血鬼よりも弱点への耐性や、自環境への適応しやすい。という特徴がある。」



「へえ、凄いんだ?」


そう言われても想像がしづらいのか、少し疑問形で槿は言った。


「例えるならば、殺虫剤の効かないゴキブリみたいなものらしいです。めーちゃん曰く。」


「おい。」



いくら何でも酷い例えだ。まあ、エクソシストからしたら不快害虫と同程度の存在かもしれないが。



「なるほど、じゃあエクソシストからしたら厄介そうだね。」



しかも、その例えで槿は大体理解したようだ。想い人から不快害虫の例えで納得される私の身にもなって欲しいものだ、と私は深くため息を吐く。



「もちろん、それゆえの弱点も多いがな。本人の意図しない耐性が付いてしまったり、身体能力が衰えやすい、とかな。両方とも実体験だ。」


半ば自虐的に私は言った。身体能力に関しては、衰えた分、活動の際に使用する消費エネルギーが減って人の血を吸う頻度が減った、というメリットもあるが、それを彼女達に言うのは流石に気が引けた。



「じゃあ、今回は日曜日と月曜日で睡眠が短かったから、そのせいで短い睡眠に身体が適応した、とか?」



槿の言ったそれは、充分に考えられた。だがそうなると、やはり月曜日から木曜日の睡眠がノイズになる。それであれば、火曜日時点で現在のリズムになっている方が自然だ。



「なくはないと思うが、少し根拠が乏しいな。それに、一日だけでそうなるのならば、過去にも前例がありそうなものだ。私が聞いたことがない、というだけかもしれないが。」



そうしてしばらく3人で頭を悩ませたが、何もそれらしい仮説は浮かんでこない。



そんな時、私のスマホが振動した。



タイミングからして、彼だろう、と画面を見ると、案の定彼だった。



「殺虫剤からだ。」



「大事な時に役立ってくれたね、ちゃんと。」



そう言って槿は楽しそうな笑みを浮かべた。


「これで文殊越えなのです。」


自信満々にそう胸を張る二葉は、連花を信頼しているのではなく、間違いなく文殊を侮っている。


私は鼻で笑いながら、かかってきた電話をとった。







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