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槁木死灰の私から  作者: 案山子 劣四
流れ出る血潮

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第102話 語られる愛嬌

「そこ、かけてください。」


二葉(ふたば)に促されるままに、私は彼女の部屋のソファに腰かけた。


槿(むくげ)の部屋と同じ造りをしているが、槿の部屋と比べると家具のデザインにも拘っていそうだし、やゲーム、CD、DVD等が大量に並んでおり、どうぶつの森や2頭身の人間のぬいぐるみやら、アニメキャラと思わしき男性の壁紙が貼ってあったりと、彼女の色が感じられる。


神職に就いている者の部屋にしては欲に塗れすぎている、というどうしようもない欠点を抱えているが。


辛うじて端の方に小さい祭壇があるが、神職らしさと言えばそれくらいだ。



「女性の部屋をまじまじと見るのは失礼なのです。」


そう言いながらベッドの上で胡座をかく彼女がそんな事を気にするようには思えないが、言っていること自体は間違いではないのだろう。


「すまないな。女性の扱いには慣れていないんだ。」


「どこかいやらしいですね。その言い方。」



いつものようにじとっとした目で平然と言う彼女が、やそんな事を気にするとはやはり思えない。



そんな事を考えると、パタパタと、小さな足音が廊下から聞こえた。槿の足音だ。わざわざ一度私を二葉の部屋に入れて、自らは自室に戻ったらしい。



「槿はどうしたんだ?怒っている、とかでなければ良いのだが。」


お互い話題に出さなかったが、やはりこの前の事について、彼女は思う所があったのだろうか、と少し不安になる。


そんな私を、二葉冷めた目で見つめ、深くため息を吐いた。



「本当に女心が分からないのですね。この童貞吸血鬼。」


「その通りだな。そうでなければ今頃グールだ。」


私の言葉を聞いて、二葉のため息は一層深いものとなった。



「……今日のむーちゃんの服装、というか部屋着ですが。あれを見て、どう思いましたか?」



謎の赤い缶が並んだ服装を思い返す。いつもに比べて、大分ラフな服装ではあった。


「普段の印象とは違うが、ああいう服装も悪くないな。新鮮だ。」



私のその言葉を聞いて、変わらず冷めた目線のまま、少し二葉は顔を赤らめた。



「隙あらば惚気けますねこのバカップルは……。」


という事は、槿も普段私のことを何か話しているのだろうか、と少し気になるが、それを聞くのは流石に少し気恥ずかしい。


そんな私を気にもとめず、二葉は小さく咳払いをして再び口を開いた。



「じゃあ聞きますが、普段の印象はどんな感じなのです?」


「普段の印象か。」


いざそう問われると、すぐに思いつかない。あまり良い言い方をしてまたからかわれる、というのも私としても本意では無い。


「……落ち着いた、印象だな。あとそうだ。寝巻きは質の良さそうなものを着ているな、と以前思った事がある。」


「それなのです!」


勢いよく私に向けて人差し指を突き出す。


「人に向けて指を差すのは失礼だと教わらなかったか?」


人ではないが。


「人ではないのでセーフです。」


セーフでもないと思うが。


彼女は流石に無礼だと思ったのか差した指を下ろして、とにかく、と先程の話を続けた。



「むーちゃんは(りょう)に可愛く見られたいので、あなたが来る時はいつも可愛い寝巻きを着ていたのです。ですが、今日はいつも来ない日だと思って油断していたのです。」



なるほど、それで先程急いで服装を見えないようにして、顔だけ出していたのか。しかし、彼女がそんな努力をしていたなど、つゆにも思わなかった。しかし、言われてみればやたらとパジャマの種類が豊富だった気がする。



「槿は偉いな。」


私はせいぜい上着がコートがジャケットかの違いしかないというのに。


「そうなのです!むーちゃんは偉くて可愛いのです!」


そう言って、何故か誇らしげに胸を張る。


「では、そんなむーちゃんが何故部屋に戻ったか、もうお分かりですね!?」


「着替えのためか。」



「その通りなのです!」



また二葉は私を指差す。何故こんなにもこいつは気分が高揚しているんだと疑問を感じながら、眼前の指を手で払った。


「それで、女心に詳しい二葉様に教えを乞いたいのだが、私にどうしろと言うんだ。」


「いや、それは特にないのです。むーちゃんが可愛い努力をしている、という事を伝えたかったのです。強いて言えば、もっとよく見ろ、というアドバイスです。」


「…まあ、君の言う通りではあるな。実際、そう思ってくれているのは喜ばしくはある。」


「…………いつも思うのですが、実は涼の方がむーちゃん大好きですよね。」



口元を抑え、からかうような視線を向ける彼女を無視して、無理やり話を変えた。こういう手合いは相手にするだけ損をする、と言うのを300年間の経験から知っている。


「そういえば、連花はーーー」


連花は何をしているか聞こうと思った瞬間、控えめな足音が聞こえ、そのすぐ後にドアを2回ノックする音が聞こえた。


「どうぞです。」


ゆっくりとドアが開き、その向こうには案の定槿がどこか気まずそうに入ってきた。



「待たせたよね。ごめんね。」


先程の姿を見られた、という恥ずかしさがあるのだろう。少しだけ顔を赤らめている彼女は、白いワンピースの寝巻きに着替えていた。



好意的に思われたい、という彼女の気持ちは嬉しくもあるが、反面申し訳なくもある。


かといってその気持ちを無下にして『次から普段通りでいい』、というのも少し違うな、と頭を悩ませていると、二葉が一瞬横目で私を見たあとに口を開いた。


「さっき涼がむーちゃんのさっきの服装、『新鮮で可愛い』って言ってましたよ。」


「おい。せめてそういう会話は私がいなくなってからやってくれ。」



「え、本当に?」


そう聞きながら、槿は複雑そうな顔をする。普段の服装を褒められて嬉しい気持ちと、気を抜いたところを見られて恥ずかしい、という2つの心が葛藤しているのだろう。



「………すまない。後で二葉がいない時に答えるから、真面目な話に移ってもいいか?」


「え、どうしたの?」


先程まで顔を赤らめていた彼女は、少し不安そうな表情に変わった。人の事だと、ちゃんとそうやって心配出来るんだな、槿も。


「大したことでは無いのだが。実はーーー」





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