26・祝勝会
アカリとエリーの3人でご飯屋さんに向かう。
歩いている時に気付いたが、ナイトはフィールドから出ると戻っていた。それなのにエリーは召喚されたままなのは何故だろう。
聞こうと思ったが、横でアカリと楽しそうに話しているので後で聞こう。
「ん?アカリ、あの人知り合いか?」
「え?」
少し離れた所から、冒険者の装備をした女の子のプレイヤーが手を振りながら走って来る。
「あ…。彼女は話していた、最初にガブリとゴブリと戦った格闘家の女の子だ!」
「あの子がか」
女の子は俺たちの前まで辿り着く。
「アカリさん!お久しぶりっす!って言ってもゲーム内で1日ぶりっすけどね!」
「え、ええ、カカネさん。それより走って来てどうしたの?」
「アカリさん!もう1回あの兄弟にリベンジしましょう!自分悔しいっす!」
カカネさんって名前なのか。ショートヘアで赤い髪が特徴的な元気な女の子だな、体育会系感が凄い。こんな後輩がほしいものだ。
「ごめんなさい…実はもう…」
「もしかして!クリアしちゃったんすか?!すげー!誰と一緒に行ったんすか!!」
「この子とよ」
やっと俺を紹介してくれるようだ。アカリは屈んで俺の頭を撫でてくる。
「え?!その子って!も、もしかして、ウワサの妖精の召喚士さんじゃないっすか!初めて見たー!!ウワサ以上にヤバイくらい可愛いっすね!」
「ふふふ、そうね。可愛いわね」
「本当に可愛いっすよ!人形みたいっていうかヤバイくらい可愛いっすね!顔の作りが別次元っすよ!」
「ふ、ふふ、そうね。ほ、本当に可愛いわね」
俺の頭を撫でているアカリの顔が近いし、息が荒い気がする。
「でも良かったっすよ、こんな可愛い子とクリアしたみたいで、アカリさんはラッキーっすよ!」
「カカネさん、言い過ぎですよ。俺なんて足引っ張てしまいましたし」
「お〜、俺っ子!良いっすね!でも結果的に勝っててんすから良いじゃないっすか!」
「そうですかね〜、そんなに可愛いって言われると照れますよ」
マリアが可愛いのは当たり前のことだが、やはり身内を褒めれるているようで嬉しいものだ。
「アカリさんから見て、マリーちゃんはどうっすか?」
「そうね、でもマリー君は可愛いだけじゃないのよ!もちろん可愛いわよ!でもそれだけじゃなく、めちゃくちゃ優しくて包容力があって、私はこの子に褒められるために私は頑張れるって言っても過言ではないわ!それに髪がサラサラで、サイズ感も本当に完璧で!それに今も凄く良い匂いで、完全に私のタイプよ!」
「「「………」」」
「あ…」
俺、エリー、カカネさんが圧倒されて黙る。
アカリは戦いぶりについて聞かれたのに、何故か俺の可愛いさについて熱く語った。
本人も空気を察した様だがもう遅い。
「あ、あの、違うのよ…別にそういうのじゃなくて…」
「アカリさん…自分、フレンド待たせてるんで行きますね…失礼しました」
カカネさんは下に目を逸らしながら、俺たちを一切見ずに、来た方向に早歩きで立ち去って行った。
「マ、マリー君、これは違うの…」
「まあ、人それぞれですから。行きましょうか、アカリさん」
「どうして敬語なの!距離を開けないで!」
アカリをパーティーに誘うか迷っているが、本当に誘って大丈夫なのだろうか…。誘う話は店でデザートを食べながらする事にしよう。
そんな事もありながら、ご飯屋さんに到着する。行く道中ずっと俺を1人して、アカリはエリーにどうしたら良いのかを相談していた。
店内に入り案内され、席に着く。対面して座り、机の上でエリーが渋い色の座布団に座る。
「……」
「……」
「……」
あの一緒に戦った時間は何だったんだと思うくらい、最初に食べに来た時とまったく同じで誰も喋らない。
「誰か何か喋れよ!全員恵方巻き咥えてんのかっ!」
「え…!咥えてないわよ」
「知ってるよ!例えたんだよ!それと、もう俺もさっきの事は気にしない様にするから、アカリも気にすんな!」
「本当に!?ありがとう!」
アカリが笑顔になる。やはりクールなタイプの女の子の笑顔はギャップがあって可愛いものだ。笑顔になった経緯は最悪だけど。
「ほら早く注文しようぜ。俺は前の時と同じのにするけど、アカリはどうする?」
「そうね、2つで悩んでるんだけど、店員さんが来るまでに決めるから呼んでもらっても良いわ」
「そうか」
俺はテーブルの端にあったボタンを押す。
すると、直ぐに店員さんが注文を聞きに来た。
「俺はハンバーグとステーキのセットで…アカリは?」
「私は『プレミアムデミグラスハンバーグ~最期の戦いの終わり風~』にしようかしら」
注文を聞き終えると店員さんは厨房へと向かった。
店員さんが完全にいなくなったの確認し俺は言いたかった事を叫ぶ。
「なんだその料理名!1回目は初対面でツッコめなかったけど、今回は言うぞ!なんだそのメニュー!!どこに載ってんだ!そんな料理!」
「この、もう1つのメニューの本に…マリー君、そんなに叫んでどうしたの?なんかあった?」
「なんもないよ!アカリの頼んだやつは、次来た時に頼も!」
言いたいことを言い終えると同時に、店員さんがジュウジュウと音を出している鉄板を2つ持ってくる。
間違えることもなく俺たちの前に置いていき、厨房へと消えていった。
「それじゃあ」
「「「いただきます!」」」
エリーが俺のハンバーグを食べ始める。
俺は内心『たくさん食え食え』と思いながらその光景を眺める。
俺も、ステーキをナイフで切り、このゲーム内で初めて食事をする。
「ウマイ!普通にウマイ!」
「でしょ!これは手が止まらなくなるよ!」
「それは言い過ぎだ、普通に手は止まる!」
「そこは、そうだねとかで良くない!」
「嘘は言いたくないからな」
俺とエリーは3日ぶりのご飯のようにバクバク食べていく。
アカリを見ると俯いている。
「……」
「どうしたんだ?アカリ」
「いや!別に何も!」
アカリの様子が変だ。もしかしてまだ俺に対しての若干の変態発言を気にしてるのか?
でも、それはさっき気にしないって言ったし、あ!分かった!
「そういえば、アカリに言わないといけないことがあったな」
「な、何?もしかして私をパーティーに誘って…」
「もう、俺たちの事は呼び捨てでいいぞ。これ奢ってもらってるし」
「………ありがとう」
あからさまにアカリのテンションが下がった。
呼び捨てにしようか悩んでいたんじゃないのか?もしかして…。
「そうだ、アカリ!こんな事言うの照れるんだけどさ…」
「え!な、なに?!私ならずっとソロだから気にしないで!一緒にパーティーで…」
「デザート頼んでも良いかな?」
「…………どうぞ」
さらにアカリのテンションが下がり、死んだ目で自分が頼んだハンバーグを見ている。
デザートを食べたいので悩んでいたんじゃないのか?
「アカリ。そういえばさ」
「…なに?」
アカリは不機嫌に聞いてくる。
「分かってるわよ…。どうせ…私なんかと、気持ち悪いし……パーティーになりたくないのよ」
なんか小さい声でブツブツ言ってる。
「アカリさ、もう諦めるなよ。戦神童子で苦労したのは分かったけどさ、諦めなかったらきっと大丈夫だって!」
「諦めなかったらきっと大丈夫…」
アカリはボーとしながら俺を見つめる。