27・アカリの過去
病室のドアを開けるとノートパソコンを見つめるパジャマ姿のボサボサの髪のサクラと目が合う。
「明理、ごめんね。わざわざ来てもらって」
サクラは申し訳なさそうに歯に噛んで謝る。学校のプリントを持って来ただけで謝らないでほしい。
「もう来る度に謝らなくて良いって、それより今日は調子大丈夫?」
「うん、これ見てたら元気になったよ!」
病院のベットの備え付けの机の上にノートパソコンが置いてあった。
私はベットに座っているサクラの横に座り画面を見ると、綺麗な草原や西洋風の建物の画像が何枚も並んでいた。
「また見てたの?【Equip Adventure World】の画像。飽きないわね」
「飽きないよ。それより明理、このゲーム名ってフルで言ってて舌噛まない?みんな略して【EAW】って言うのに」
「滑舌は良い方だからね。サクラが調子が良い理由ってこれだけ?」
「あとね!今日発表されたんだけど、1年後に新作が出るんだよ!もう嬉しくて!また新しい景色や戦ってるのを見れるのが楽しみなんだ!」
サクラはノートパソコンの画面に出ている公式サイトの記事を指差す。
「ホント、心臓が弱くなかったら…明理と一緒にゲーム出来るのに…」
「……」
「あっ、ごめん暗くしちゃって!気にしないで。それに1ヶ月後の手術で治るかも知れないってお母さんも言ってたし!諦めなかったらきっと大丈夫だよね!」
「そうよ!きっと大丈夫よ!手術して一緒にやりましょ!」
「うん!私、行ってみたい場所があるの!」
ノートパソコンに文字を入力し、画面を見せてくる。
画面には空に浮かぶ島が映されていた。
「私、天空に浮かぶ島って憧れるんだ〜!絶対に島に行って上空から景色を見るの!」
サクラは目をキラキラさせながら話す。
「きっと行けるわ!その時は2人で行きましょう!」
「うん!明理ちゃんと私ならきっと行けるよね!」
1ヶ月後、手術は成功した。だけど私たちの願いは叶わなかった。
サクラの心臓は手術により日常生活を送るのには問題はなくなったが、【Equip Adventure World】をするのは難しいそうだ。
「ごめんね。明理…約束したのに」
退院後、申し訳なさそうにサクラは謝る。
手術が成功して入院中にお見舞いに行く度に何度も同じ内容で謝られた。サクラは悪くない。だから謝らないでほしい。
「私は良いの、サクラこそ大丈夫?あんなに楽しみにしてたのに」
「うん、私は大丈夫だよ!それに私はいつもどおり新作の【EAW】の画像が見れれたら大丈夫だから!」
「…本当に出来ないの?少しだけでもさ」
「出来るよ…3分間だけね。私も病院で聞いてみたら、先生にそう言われちゃった。先生も調べてくれたみたいで、戦闘や走るのもダメで、歩いたり景色だけ見る事くらいしか出来ないんだって、それだと最初の街を歩いて終わっちゃうよね。でもさ!1度だけでも空に浮かぶ島に行って見たかったな…」
サクラの目から一粒の涙が頬を伝って落ちる。やはり諦めきれず悔しいのだろう…。
『諦めなかったらきっと大丈夫だよね!』あの時笑っていたサクラの顔を思い出す。
私はその時ある事を思いついた。
「サクラ…。私が連れて行ってあげる」
「え?どういうこと?」
「私が空に浮かぶ島まで攻略して、その島でサクラにヘッドギアを貸したら3分間だけ景色が見れるんじゃない?」
「それなら、たしかに大丈夫だけど。良いの?明理、私なんかのために…」
「ええ!親友の為だもの、もちろんよ!だからサクラ!諦めないで!諦めなかったらきっと大丈夫だから!」
サクラはポロポロと涙を流す。
「ごめんね、明理…」
「もう謝らないで、サクラは私に何も悪いことしてないんだから。今までずっと私は私のしたい事をやってきただけだから」
「うん、分かった…ありがとう!」
私はサクラと別れ、急いで家に帰り親に頼み込み、何とか必要な機材を買ってもらった。奇跡的に在庫僅かのゲーム機も予約することができた。
月日は流れ、私とサクラは中学を卒業した。サクラとは同じ高校に入学する。
「今日だよね、【N−EAW】が届くのって?」
「ええ、もう届いてる頃だと思うけど」
「明理、頑張ってね!家で応援してるから!ちゃんと知らべた通りのジョブにしないとダメだよ。あと、小さくて可愛い女の子がいても変なことしちゃダメだよ!」
「だ、大丈夫よ!しないわよ!」
サクラには私の事はお見通しのようだ。2人で【NーEAW】に関して調べ、どのジョブが良いのかどんな加護があるのかも調べた。
「それじゃあ、サクラ。春休み中はたまにしか会えないけど…」
「気にしないで!私の為でもあるんだし、それじゃあ!明理、どれだけ強い敵や理不尽な目に遭っても頑張ってね!」
「もちろんよ!たまに写真を送るから、待っててね。バイバイ!」
「うん、楽しみにしてるね!バイバイ!」
そうして私の冒険は始まった。
それからは酷いものだった。第3のジョブで変なモノを貰い。最初のハイオークの時に『マルチ』を選択してしまい、そのせいで知らないプレイヤーに赤ちゃん言葉でおしゃぶりをしているところを見られてしまった。恥ずかしくて私はボス戦の途中でログアウトしてしまいマイルームからもう1度やり直してダンジョンに向かう羽目になった。
ダンジョンに向かう道中、街で黒髪のサイドテールの少女に声を誘われたがサクラの言葉思い出し、少女の見た目がタイプだったが断り、2回目のダンジョンは『ソロ』にして戦神童子で余裕で勝った。
第2の街はPvPをしないと進めないようで、私のレベルが8というのもあり見つけた対戦相手もレベルが8で強く、戦神童子を使わざる負えなかった。
対戦相手はおしゃぶりを咥えた私に動揺したようで、何とか勝てた。動揺した時の対戦相手の引いたような顔とリアクションが忘れられず私は逃げるように次の街に向かった。
そうして着いた第3の街ではミッションクエストで知らないプレイヤーと一緒に戦わなくてはいけないようで、凄く憂鬱だった。
偶然知り合った女の子と一緒に挑戦したが負けた。
聞いた情報と違うのもあって負けたのもあるが、私が戦神童子を使わなかったのも大きい。
もう負けて良いと思った。未だに第2の街で戦神童子を見た対戦相手の引いた顔が忘れられず、戦神童子を見られて引かれるくらいなら負けてしまった方がマシだった。
ゲーム内で1日経ち、あの兄弟を相手に戦神童子を出さなくても余裕で勝てる強そうなプレイヤーを探し歩く。
すると、飲食店の前で小さな妖精と銀髪の少女が口論している。
私は口論を止めるため、それと少しだけ…もしかしたら戦神童子を受け入れてほしいという淡い思いを込めて、おしゃぶりをして止めに入った。
すると2人は仲直りした。良かった!それに、この2人はおしゃぶりをした私を引くこともなく普通に喋ってくれている。
銀髪の少女は巷で噂の『妖精の召喚士』だ。私は勝てるかどうかは分からなかったが、妖精の召喚士に賭けることにした。
それにしても本っっっっっ当に可愛い!!!
近くで見ると天使だ。微かに良い匂いもするし、声も可愛い。こんな子とパーティーを組めれたら幸せだろうなぁ…。
欲望を抑え込み、マリーとガブリ兄弟と戦う事を約束して、ガブリとゴブリに戦いを挑む。
結果は最悪だった。もしかしたら召喚獣が強いのかもと思ったが、そうでもなかった。
マリーも炎の檻に閉じ込められ、召喚獣もボロボロで結果は明らかになったので、私は降参することを提案する。
するとマリーは作戦があると言い、諦めなかった。それどころか見たこともないジョブの力で召喚獣と武器を合体させガブリを倒してしまった。
私は…一体何をしているんだと思った。大人ぶって諦めて降参を提案し結果、私は邪魔をしているだけだ。
悔しかった…申し訳なかった。だから私は戦いに参加させてほしいと頭を下げた。それが自己中心的な行動というのを百も承知で。
案の定、マリー君は怒った。それもそうだ、大切な仲間が死んでしまったのだから。
それでも頭を下げ、私がどうしてこのゲームをしているのかを聞いてもらい、その流れで私の戦神童子のジョブについて話そうかと思っているとエリー君から指摘されてしまった。
形はどうあれ戦神童子を見せてゴブリを倒し、許して守ることに成功した。
戦闘後の『よしよし』は最高の時間だった。是が非でもマリー君とパーティーを組もうと決意したが、私の失態によりマリー君が変態を見るような目で私を見ている気がする。
終わった…。諦めよう。マリーは私の事など、どうでも良いのだろう。
もう良いか、明日からもソロで頑張ろう、もう諦めてしまおう…。
「アカリさ、もう諦めるなよ。戦神童子で苦労したのは分かったけどさ、諦めなかったらきっと大丈夫だって!な?!」
頭の中でサクラの声が聞こえた。私が忘れていた言葉。
「諦めなかったらきっと大丈夫…」
私は諦めず勇気を出して、マリーのパーティーに入れてもらえるように頼もうと決意した。




