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「なんで! なんで! なんで! なんで! なんで!!」



 早すぎる。早すぎる早すぎる早すぎる。どうしてこうも、運命は僕を落ち着かせてくれないのか。



「栄光の門よ開け、我が名はエミリオ・ブランジェ。彼方より来たりし外界の神よ、我は奏でる者、外界讃えし奏者なり!」


 唱えながら、チョークで床に書きなぐる。

 魔方陣。それはただの、魔力集約装置。

 一定範囲内の余剰魔力を集め、術者に委譲する単純な術式。


「これでも足りないか! クッソ!!」


 術式起動は感知した。それでも、まだまだ足りない。

 まだ完成していない6歳の体では、貯蔵できる魔力に限界があるのだ。ならば、委譲術式だけでは足りない。


「永久の門よ開け、我が名はエミリオ・ブランジェ。彼方から覗きし外界の神よ、我は防人なり、祖を害する者を打ち滅ぼさん」


 二番目の魔方陣によって、魔力を拡散させる。半径50m以内から掻き集めた魔力を、部屋に放出する。

 そうしてまた最初の魔方陣を起動。キャパシティ限界まで貯め込み、魔力過剰による吐き気を抑えてまだ続ける。


「ナルコティクスオープン――フォーセルフ」


 毒属性麻薬系統。ゲーム内での自分が、最も得意とした魔法系統。

 麻薬系統魔法のゲーム内の性能は、デメリットのある支援系。ただしこの魔法の扱いは、ゲーム内とこの世界で大きく異なっていた。


「う……うぇえ……」


 我慢できず、吐瀉物を撒き散らす。必死に描いた魔方陣がぐちゃぐちゃだが、もう役目は果たしてくれている。服もズボンも汚れてしまった。今朝食べたものが、全て出るまで嘔吐は止まらない。

 もう胃液しか出なくなったところで、ようやく吐き気は収まった。

 ゲーム内では詠唱など必要ない。マウス操作やキーボード操作で発動できた魔法でも、この世界においてはその発動方法を使えない。イメージ補完の為に口に出して詠唱するか、脳内で詠唱して最後の一節だけを口に出すか、それか全てを脳内で完結させるか。

 僕はまだ、全てのイメージを脳内で完結させることはできない。詠唱だけでなく、魔法陣を書かなければまとに発動させられない魔法も多い。


 ゲーム内でステータスへのデメリットだったものは、こちらでは肉体へのダメージとなる。

 分かっていた。この世界において少なくない数実験をしたのだから、それは分かっていたのだ。

 吐き気は収まるが、酒酔いのように視点が定まらない。ふわふわと飛んでいきそうな思考を、必死に繋ぎとめる。


 毒属性麻薬系統、地属性門系統。どちらもゲーム内ではあまり人気のあった魔法ではない。麻薬系統は支援能力が高いがデメリットが大きく強敵相手には使いづらいし、門系統はとにかく詠唱が長く準備時間も発動時間も長いので即応性に欠ける。

 門系統などは、ファーストキャラで数回触った程度のものだ。しかしこの世界においては違う。

 いくら詠唱が長かろうと、いくら時間がかかろうと、いくら準備が必要だろうと、発動に必要な魔力さえ賄えば、本人のステータスとは別の能力値を参照して魔法が使えるのは、門系統独自の性能なのだ。


 そう。


「6歳児でも、使える――ッ!」


 1歳だろうが、6歳だろうが、30歳だろうが100歳だろうが門系統は変わらない。

 本人のステータス、スキル、習熟度に何も依存しない唯一の魔法系統。

 得意とするのは魔力の操作。同じことを成せる魔法は他系統にどれだけでも存在する。ただそれを、本人のステータスに依存せず使えるということだけだ。


 魔力は貯めて、部屋に押し込んだ。それらを全て使用した麻薬系統魔法によって、自身の保有魔力も限界値まで底上げができた。

 なら最後だ。トドメの一発。今出せる、最大の効果を発揮する魔法。


「異相の門よ開け!我が名はエミリオ・ブランジェ。彼方より来たりし外界の神よ、鏡合わせの異相の神よ!我は汝の贄となる者、汝は我を喰らう者!我が魂を喰らい給え、代わりに力を授け給え、この身を異相へ移し給えッ!!!」


 光が、見えた。

 見えるのは、魔力の帯。通常目には見えないそれは、異相門を発動した時だけに見えるもの。

 およそ認識できる全ての魔力の流れを、視覚化するのが副次効果。

 そしてその本質は。


「……これだ」


 一本の帯、太くて赤黒いそれに触れ、掴み、引き千切る。


 建物のどこかから、悲鳴が聞こえた。大人の声、聞いたことがないほど大きな声。

 その声は叫び、叫び、叫び、途絶えた。


「……まずは一人」


 一人、殺した。対抗手段を持たない者なら、確実に絶命する。

 常に金欠で、教会からの資金援助で成り立ってる小さな孤児院を襲うような輩が、完璧な魔力防護をしているはずもない。

 それを成せるほどの魔法使いならば、そもそも悲鳴は聞こえなかったはずだ。


「……次」


 確認した襲撃者は7人。

 ユーグを殺したあの男、ジノを殺したあの男、アゼリアを殺したあの男。

 アリを、ミミを、ミレンを殺したあの男。

 ああ、駄目だ駄目だ駄目だ。

 あの場で自分が抵抗しようが、皆が死ぬのは止められなかった。もっと魔法の扱いが上手くなっていれば違っていたかもしれない。けれど6歳の僕では、大人の魔法使いに正面切って対峙するほどの実力はなかった。


 だから、逃げた。皆を置いて、逃げ出した。


 だって、だって、だってしょうがないじゃないか。対面して勝てなくとも、隠れた状態で一方的に攻撃するこ とができるなら、それをするしかないじゃないか。こんなところで無駄死にするわけにはいかないのだ。

 だから、仕方がない。仕方がなかったんだ。


「う、うう……」


 3年間。たった3年の付き合い。

 それでも彼らは、僕のことを家族として迎え入れてくれた。家族のように、家族以上に愛してくれた。


 けれど。

 けれど、彼らはもう居ない。

 全員、殺されてしまった。


 一人くらいは逃げた者が居るかもしれない。けれど、見つかるのは時間の問題だろう。

 僕のように、予め逃げる場所を作っていたわけではないのだ。

 書庫の隣にある小部屋。改築により、廊下に繋がる扉、外に繋がる窓を全て壁で塞がれ、20年以上使われていなかった、誰も知らない小さな部屋。

 扉はなく、外界と繋がる窓はなく、忘れられた小部屋。

 それを見つけたのは偶然だった。書庫と寝室の間に、やけに空間があるなと気付いたのも、書庫で偶然、孤児院の構造図を見つけたから。

 そこを隠れ家にしたのも、いざという時の為で。

 天井裏や床下に道を作らず、隣の書庫から転移魔法を用いて入室する方法を使ったのも、全てはこの時の為だ。


 それでも、それでも、それでも。


 使う日が来ないことを、祈っていたのだ。

 こんな日が来ないまま日常が続くことを、祈っていたのだ。


「ごめん、ごめん……」


 1本、また1本と魔力の帯を千切っていく。その度に建物には悲鳴が、絶叫が響き渡るが、彼らへ向けた謝罪の言葉は出てこない。


 謝罪は全て、見捨ててしまった子供達への言葉だ。


「ユーグ、ジノ、アゼリア、アリ、ミミ、ミレン、アシル、ゴーチェ――――――――」


 子供たちの名前も、顔も、性格も。

 全部、全部忘れない。忘れないよう、名前を繰り返す。


 魔力の帯を千切る。千切る。千切る。

 異相門は、ゲームにおいては珍しい即死効果を持つ魔法だった。

 ただし複雑な魔方陣が必要で、詠唱時間は長く、そして耐性を持っていれば簡単に防げるような粗末なもの。

 それでも、この世界においては数少ない、魔法使いを一撃で死に至らしめる手段なのだ。

 異相門によって視認できるようになる帯は、そのまま魔法使いに繋がっている。範囲内全ての魔法使いにその帯は繋がっており、それを千切ることで帯を通じて術者周辺の魔力を強制的に送り込み、対象を魔力負荷で死亡させる。

 構造としては単純なものだ。予め魔力を貯めた空間を作り、帯を経由して本人のキャパシティを超えた量の魔力を送り込むだけの魔法。ゲームにおいて即死は状態異常の一つであり、他の状態異常の対策をしていれば自然と即死も防げる、そんな程度のものだった。


「……少なくともあと一人」


 予め孤児院周辺に仕掛けていた魔力感知網に反応があったのは7人。しかし、帯は6人分しかなかった。

つまり、一人は魔法使いではないか、魔法の訓練をしたことがない人間。もしくは、感知網には引っかかるが何かしらの対策をしており、異相門に反応しない魔法使い。

 どちらにせよ厄介だ。孤児院で隠れ潜んで習得した魔法はどれも対魔法使い用のもので、肉弾戦に向いたものではない。一方的に攻撃できる環境で初めて使えるものばかりだ。

 後者とすると、完全に格上か。ゲーム内では、状態異常対抗をしている相手でも、即死が入らないだけで帯自体は見えたのだ。しかし、特殊なマジックアイテムや強固な魔力障壁を使われている場合だけ見えなくなる。


「行けるかな」


 前者ならば、ずっと隠れているだけでも大丈夫かもしれない。仲間が急に苦しみだして死んだのだからどこかから攻撃されていると考えるのが当たり前だが、手当たり次第に壁を壊しでもしない限りここは見つからないはずだ。

 そんなことをしている間に騒ぎに気付いた住民が通報して衛兵が来るはずだし、それも時間の問題と思われる。

 ただ見落としてはいけないのは、襲撃者がどうしてこんな街中にある孤児院を狙ったのか、だ。

 どこかに資金を隠し持っていることはないから、金目当ての強盗はありえない。子供を誘拐するつもりなら、皆殺しにするわけがない。ならば何らかのトラブルかと言われたら、全くその覚えはない。

 知らないところで孤児院がトラブルを抱えていた可能性は少ない。

 現経営者のアゼリアの相談に乗ったのは資金運用の話くらいで、子供たちが皆殺しにされるほどのトラブルに発展するとは聞いていない。


 となると、予想されるのは二つ。

 何か主張をしたいグループの標的に選ばれたのか。

 それとも、資金提供をしてくれる教会で何らかのトラブルがあったのか、だ。


 どちらにせよ、今は分からない。

 そう、どちらも、今考えることではない。

 今すべきことは、自衛だ。自らの身を守る行動だ。


 残った敵が熟練の魔法使いの可能性、魔法の心得が全くない人間の可能性、そのどちらも考慮した上で動かなくてはならない。

 孤児院に来て3年間、真っ先に覚えたのは毒属性ではなく、地属性門系統の魔法だ。ゲーム内で使った経験は少なくとも、こちらで3年使ってそれなりの習熟度になっていると自負している。

 前世の知識がある毒属性は、前世の知識がある分後回しにできた。自身のドーピング目的で麻薬系統魔法をいくつか使えるようになったが、元の魔法性能も相まって攻撃手段には乏しい。

 どちらも、熟練の魔法使いに挑むには力不足だ。そのような人間を相手に、対魔法防護のない、扉がない部屋という物理的な視覚防護だけでは太刀打ちできない。すぐに見つかってしまうだろう。だから、居場所が見つかる前に行動に移らなくてはならない。


 考えろ、考えろ、考えろ。この部屋は、あとどれだけ持つ? あとどれだけ、見つからない?


「あ、そっか」


 単純な見落とし。

 敵を殺すには、敵を直接狙わなければならないという、簡単な勘違い。

 異相門による即死が通る相手だから、直接攻撃しないといけないと思考が固まってしまっていたが故の見落としだ。


「違う、違う、違う。そうじゃない。他にもやりようがある」


 敵が、僕よりこの家を知っているはずがない。それを活かして今は隠れ潜めているが、知識が使えるのは隠れる時だけではない。

 この知識は、攻撃する時も使えるのだ。

 建物の構造、空気の流れ、窓の配置、扉の配置、部屋の配置。

 全て、全て頭に叩き込んだものだ。いざという時、動けるように。


「……ごめんね」


 残った魔力は心もとない。かき集めた空間魔力のほとんどは異相門に使ってしまったから、外から回収する手段も乏しい。

 ならば更に、更にだ。外から魔力を集めれば良い。見つかっても構わない。敵より早く動ければ、勝てるのなら。


「原初の門よ開け、我が名はエミリオ・ブランジェ。彼方より来たりし外界の神よ、我は常世を照らす者。世を照らす光なり」


 空間魔力を集約する魔法でも、それを一か所に押し固める魔法でも、魔力を逆流させる魔法でもない。

 地属性門系統、魔方陣や長々とした詠唱が必要な門系統では、最も簡素な基礎魔法。


「集まれ、集まれ、集まれ」


 枯渇した魔力が、回復していくのが分かる。

 空間に残っていない、自身にも残っていない、そんな魔力を回復させる手段は、簡単なものだ。


「皆、――ありがとう」


 魔力の源は、死者だ。

 ゲーム内では、HPが0になったエネミーが消滅するまでの間や、周辺に死亡したプレイヤーが居る時に使える、単純な魔力回復手段。

 死者から魔力を吸い上げ、自らの糧とする。ゲーム中ではどの魔法系統にも存在したありふれた魔法だが、使おうと考えたことはなかった。


 ここには、人しか居ないから。

 ゴブリンも、オークも、スライムすらも居ない。

 人間しか存在しない場所だ。そんなところで死者から魔力を吸い上げることなど、考えるはずがないのだ。


「うん、充分」


 魔力の流れを追えるほどの魔法使いなら、今ので居場所が見つかったかもしれない。それとも、全く何も感じなかったかもしれない。

 どちらでも構わない。


「息をする生物なら――」


 どれだけの状態異常耐性があろうが、魔力防護があろうが、有効な攻撃手段というのは存在するのだ。


「ナルコティクス、オープン――」


 ナルコティクスオープン。それは麻薬系統魔法の起動キー。

 他の魔法と違って、統一された魔法名のない麻薬系統魔法においては、唯一皆が知っていた単語。


 麻薬系統魔法は、基本的にはバフが得意な支援魔法という扱いをされる。

 しかし、それを極めたプレイヤーなら、デバフにも、スリップダメージにも使える、優秀な魔法なのだ。

 デメリットとメリットを、範囲と効果を、対象と空間を。それら全てを決める構成体を脳内で選択、確定させ、そうしてようやく目的の効果を発動させる魔法。


「広く、広く、広く、広く。風に流れて、流れて、流れて」


 眼を瞑って、イメージする。

 詠唱はもうない。口にするのは、イメージの補強故だ。


 風に乗って、それは流れる。空気よりほんの少しだけ軽く、煙より重いそれは、無色透明、視界に捉えることができないほど小さな粒子。

 微風でも飛散するほど細かくした、合成麻薬。


「飛べ、飛べ、飛べ、飛べ」


 眼を瞑っていても、どこに何があるか分かる。3年間暮らした家だからだ。

 風の流れで、どこの扉が空いているか、どこの窓が空いているのかが分かる。風に流され、時には逆らい、建物全てに合成麻薬を行き渡らせる。

 僕が今居る、この小部屋を除いた全てに。


「もっと、もっと、もっと」


 魔力が減っていく。麻薬を散布するだけの行動でも、範囲が広ければ、濃度が高ければ、行使者が魔法使いとして幼ければ、致命的なほどの魔力消費となる。


「あと、あとちょっと」


 眼を瞑っていても分かる。あと二部屋、あと一部屋、あと――


「ふぅ……」


 生者が居るなら、息をする。

 息さえすれば、必ず吸う。

 そんな粒子、そんな細かな合成麻薬。


 幻覚幻聴、体感覚の喪失。中毒症状は一瞬にして現れ、後に自我を喪失させ、やがて死に至らせる。

 この魔法は、状態異常では防げない。魔法の本質はあくまで対象の支援。デメリットを強く、メリットを弱くするよう配合された、結果的にデメリットだけが目立ってしまうプラスの魔法だから。

 状態異常で防げるのはデバフだけだ。バフに内包されるデメリットは、耐性では防げない。対魔法行動全てを防がない限り、この魔法は止められない。難点があるとすれば、細かな範囲設定ができないことだ。


「けれど皆は、もう居ない」


 仲間が居るなら、こんな魔法の使い方はできない。広範囲に即死クラスの猛毒を撒き散らす魔法使いなど、ソロプレイヤーでないと避けられるだけ。

 後衛職でしかない魔法使いでは、仲間を寄せ付けないこんな魔法の行使は行えない。

 仲間が、居るなら。


「誰も居ないなら、良いでしょ」


 皆は死んだ。もう居ない。

 なら、誰かに気を使う必要などない。もしかしたら生存者が居るのかもしれないが、僕にとっては死んだ存在だから。

 もう、弔った。君達は僕の中で生き続ける。

 絶対に忘れない。


「だから、死んでよ」


 襲撃者は誰? 目的は何?

 そんなの、どうでもいい。どうでもいいんだ。

 僕は、


「僕は」


 僕に仇なす者を、絶対に、


「絶対に」


 許さない。許さない。


「許さない!」


 ぐらりと、体が傾いた。

 魔力欠乏症。周囲の死体から集めた魔力を用いても、死体のほとんどは魔法の心得もない子供達だ。

 襲撃者も魔法使いというより、過去に魔法を覚えただけの人間だったのだろう。身体強化の体属性魔法という概念がある世界で、魔法に全く触れてこない人間はあまり多くない。吸収できた魔力は下位エネミーと同程度。数が多いので結果的に量も増えたが、質は大したことがない。

 最後の一人は、もう死んだろうか。分からない。確認する手段はないし、確認しようとも思わない。


「大地の門よ開け、我が名はエミリオ・ブランジェ。彼方より来たりし外界の神よ、我は大地を繋ぎ止める者。我は世界を塞き止める者」


 最初は少しずつ、そしてどんどん大きく。

 つい1時間前まで平和な孤児院であった建物は、上下左右に揺れていく。

 門系統は確かに特殊な魔法系統ではあるが、大元は地属性魔法だ。その為、地震を起こす魔法がいくつか存在する。

 局所的、一ゾーンのみを対象とした地震も、お手の物だ。


 マグニチュード1程度から始まり、魔力を注ぎ続ければ最終的に震度7強くらいになる。ただ今の自分に使えるのは震度6程度で、範囲もごく狭い。残存魔力も少なく、それを長時間維持させるのも困難。

 ただ、それでも十分だ。耐震構造などない純木造家屋は、震度6に耐えられない。

 三階建ての孤児院は、揺れに耐えられず、各所からメキメキと音を立てる。

 崩れる時は、一瞬だ。

 主要の柱が折れた建物は、原型を保てず一気に崩壊する。


「転移の門よ開け、我が名はエミリオ・ブランジェ。彼方より来たりし外界の神よ、我が呼び声に応えし神よ。地を捉えよ、点を捉えよ。我が身を素地へ送りたまえ」


 これで、魔力も打ち止めだ。

 建物は崩れ、木材へと還る。

 かつて孤児院であったそこは、瓦礫と死体の山となった。

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