↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
crime hazard  作者: さくもり
1/8

1-1

 そこは、とある施設の一角。

 森の小道に沿うように流れる川と、その先に点在する小さな浮島。そこを越えると、森がより深くなり、さらに進むと岩肌が険しい地帯。

 そんな一角を覆うように金網が立ち並び、その一枚一枚に『danger』と記された模様が付いていた。


 一目で危険だとわかるその中に、一つの人影があった。

 その前には、彼より一回り大きく、鋭い牙を携えた四足獣が唸り声をあげている。


 今にも喉元を喰いちぎらんと睨む獣だが、その威圧感に臆する事なく、彼は剣を構えていた。


「…………」


 死の淵に追い込まれているはずだが、その中でも呼吸は落ち着いており、真っ直ぐに獣を見据えていた。

 その姿は一分の隙もなく、逆に獣の方が気圧されているようにすら見える。


「……っ!」


 ーーそしてどちらからともなく、互いを屠るために動く。

 獣の爪が届くより速く、剣が獣を切り裂いた。


「……ふぅ。」


 相対した獣の死を確認し緊張を解くと、短く息を吐いた。


 手にしていた剣をほんの少し強く握ると、柄から一瞬で炎に包まれ、その炎の消失と共に剣も消えていた。


「……さて、流石にこれ以上は試験に響くな。」


 そう言った彼は、気持ち足早にその場を去った。



§



 有史以来、人の営みは「争」の中にあった。

 食料や土地を奪い合い、相容れぬと他者を排斥し合う。それはやがて憎しみとなり、互いに掲げた正義のもと立ち向かった。

 それだけではなく、野生動物やモンスターの襲撃・狩猟に武器を取り、自らを守るために戦い続けた。

 それが落ち着くと、一部は興業となり金を賭け、それまでとは一線を画す争いも生み出される。


 そうした中、力あるものは生き残り、力なきものは淘汰された。

 時代が落ち着き、少なからず手を取り合う者も現れたが、それでも力あるものが正義の時代は続く。

 だからこそ、重宝される職業があった。


 ーーそれこそが「傭兵」


 ーーそして、その最高峰が「Hazard(ハザード)」である。



§



 特殊傭兵育成機関「Graden(グラーデン)」


 「争」に関するあらゆる希求に応えるために存在する「傭兵」

 その中でも高い戦闘力はもちろん、既存部隊との高水準の連携力と順応性、高度な作戦立案と指揮能力を有する傭兵ーー「Hazard」を育成し、運用している機関である。


 Gradenの一つ「Aeria(アーリア)」

 その訓練施設から、一つの人影が姿を現した。

 燃え盛る炎のように赤い髪と、それより深く、しかし澄んだ紅い瞳が特徴的なその人は、先刻四足獣を屠った人物だった。


 その人物はポケットから携帯端末を取り出すと、訓練施設の出入り口に設置してあるリーダーにかざした。リーダーが端末を読み取り、施設のドアが開錠される。

 そして彼がかざしたリーダーのディスプレイに、簡単な一文が表示された。


 『Hazard候補生』

 『カイン・エルステッド』

 『退場』


 彼ーーカインがその扉を通ると、施設のドアは固く閉ざされた。

 先ほどのような四足獣やモンスターが存在し、それらを相手にした訓練も行われる施設。内部でも金網で覆い、それらが外部に出ない対策を取ってはいるが、さらに強固なセキュリティで、Graden全体を守っていた。


 施設を後にしたカインは、そこから見える巨大なエレベーターを囲うような噴水を回り、電子掲示板の元へと向かっていた。


「……もうそろそろのはずだけど。」


 電子掲示板近くに辿り着いたカインは、携帯端末の時間を確認しながらそう呟く。

 そんな彼の周りには、同様に時間を気にしている様子の生徒たち。

 カインはその中に、一人の人物を見つけた。


「ロイド。」


 ロイドと呼ばれた人物はカインの声に振り返ると、その逞しい腕を軽く挙げ応えた。

 逞しい腕を裏付けるような大柄な体躯と、外にハネた眩い金髪が印象的な彼は、少々呆れた表情で返す。


「お前、こんな日にも自主練か?」


「こんな日だから、最終調整はしたいだろ?」


「まぁ否定はしねぇよ。オレも朝に軽く流してきたしな。」


 カインが歩いてきた方向が分かるや否や、軽口で話すロイド。そして自身を棚に上げた発言に、思わず「おい」とカインが軽く脇を小突く。


 和やかな雰囲気でやり取りをしていた二人だが、一瞬でその表情を引き締める。そこに一人の男性が現れたからだ。

 現れた男性はタブレットを小脇に抱え、電子掲示板の前に立つと周りを見渡した。


「……揃っているな。」


 放たれた言葉は酷く冷たく事務的だった。


「既に通達はいっているだろうが、改めて今回の実技試験について説明する。」


 教官と思われる男性はタブレットに視線を落とすと、淡々と内容の説明に入る。



 ーーこの日は、Hazard昇格の実技試験が行われる日であった。



 教官曰く、近隣都市からの強引な合併・統治を拒否した結果、強行手段で自治権が奪われようとしてる街があるのだという。その侵攻の阻止として、AeriaよりHazardが派遣されているらしい。

 今回の実技試験は、その戦地に赴き、現場Hazardの補助と市民の守護が命じられた。

 ……教官が途中、今回の派遣を理事長が破格の値段で受けた事をぼやくが、一同は意に介していなかった。


(……むしろ、あの理事長ならそうだろうな。)


 そんな教官の話を聞き流しながら、カインは理事長の柔和な顔を思い出し、しかし再び教官の話に集中する。


「三人一組の班となって、持ち場に向かってもらう。班分けは、これから掲示するので、それを確認しなさい。」


 そう言って教官がタブレットを操作した。次いで電子掲示板に班分けと氏名が掲示されていく。

 その中から、自身の名前を探すカイン。彼の名前は、思いの外早く見つかった。


『B班』

『班長 バイル・フェストゥム』

『カイン・エルステッド』

『ロイド・ウェンドル』


「……おい、カイン。」


 隣で同じく説明を聞いていたロイドが、カインに小さく声をかける。


「……あぁ。最悪だ……」


 そう返したカインは苦虫を潰したような表情を浮かべた。

 その時……


「……先生、その班変えてくれよ。」


 カインの後ろから声が響き、教官に意見した。辺りの視線も、その者に集中する。


「バイル・フェストゥム、これは決定事項だ。変更はない。」


 声の主ーーバイルの意見を、是非もなく一刀両断する男性教官。

 だがバイルは臆する事なく更に続ける。


「こいつらが班員じゃあ、受かる試験も受からない。」


「はぁ?!」


 カインたちを指差しそう言うバイルに対し、ロイドが声を荒げる。

 今にも殴りかからん勢いのロイドを制し、バイルと向き合うカイン。


「そんなに言うなら、その上で合格を勝ち取ってみろよ。それとも、そんなに試験に自信がないか?だったら早々に辞退しな。」


 そう言ってバイルを睨むカインの瞳は、血のように輝きを失い、嫌悪感が滲んでいた。

 バイルもまた、緑髪の下に潜む瞳から、高い殺意が溢れている。


「やめろ、バイル・フェストゥム。カイン・エルステッドの言う通り、その状況を生き抜いてこそのHazardだ。それが出来ないと言うなら、教官室に来なさい。辞退の手続きをする。」


 一触即発の空気を教官が破る。

 さすがにこれは堪えたのか、バイルは小さく「……了解。」と言って引き下がった。それは果たして、どちらの意味での了解だったのか?


「はぁ……戦場へは、アースノアの港から海路で向かう。1500、制服に着替え、アースノア港に集合せよ。」


 そう言って、教官はその場を後にした。そしてそれに習うように、他の候補生も散り散りになる。この場の空気を生み出したバイルまでもが、いつのまにか姿を消していた。


「ったく、自由な奴だぜ。」


 そう言って悪態をつくロイドに、一人の女生徒が駆け寄った。


「ロイドくん、大丈夫?」


「おぉ、カノンか。オレは問題ねぇよ。」


 カノンと呼ばれた女生徒は納得がいっていないようだが、そんな彼女を安心させるべく満面の笑みを浮かべるロイド。

 その笑顔に満足したのか、他愛無い会話をしていると、カノンに付き添っていた女生徒が、僅かにカインに近づく。


「……しかし、嫌な口実を与えてしまいましたね。」


「あぁ……安い挑発だったのにな。やっちまったよ。」


 おそらくバイルは、班長という立場を利用し二人に無理難題を押し付けるのだろう。そうして負担を背負うことになった二人は試験に落ち、そこでバイルはーー


『どんな状況でも生き抜くんだろ? 満足に戦えもしないで、よくもまぁ偉そうな事をほざいたものだな。』


 ーーなどと言ってくるのだろうと考え、頭を抱えるカイン。


「シオンが羨ましいよ。」


 そう言ったカインは、再び電子掲示板に目を向け、そこで今放った言葉を後悔した。


『A班』

『班長 ジン・ニューレイブ』

『カノン・アークライト』

『シオン・ルイス・ユーリエフ』


「……いや、ごめん。そっちも苦労しそうだな。」


 彼女ーーシオンの名前を見つけたカインは、彼女の班を見てまた頭を抱える。こちらの班長も、バイルとは違った方向で癖があるので、二人の苦悩が窺い知れた。


「……バイルさんが班長であるよりはマシだと思います。」


 そう言う彼女の表情は凍てついているかのように動かず、皮肉なのか本音なのかわからなかった。


「……まぁ、ここでぐだぐだ言ってても始まらない。お互い、ベストを尽くそうぜ。」


「はい。」


 カインが気持ちを切り替えシオンにそう言うが、彼女の表情はやはり変わらない。しかし、いつもの事と気にせずロイドに声をかけた。


「ロイド、そろそろ準備に行くぞ〜。」


「おぅ、そうだな。そんじゃ、カノンたちも頑張れよ。」


 そう言ってカノンとの会話もほどほどに、自室へ向かおうとするロイドとカイン。


「あ、待って二人とも!」


 そんな二人を呼び止めるカノンは、シオンを手招いて彼らに近づいた。


「せっかくだから、円陣組もうよ!」


 そう言ってカノンは自身の右手を差し出す。


「お、いいなぁ。いっちょ気合い入れるか!」


 ロイドがノリ良くカノンの手に自身の右手を重ねた。次いでカインが手を重ねた。


「できれば、俺たち全員合格してまたこうしたいな。」


「そうですね。……では、ご武運を。」


 最後に手を重ねたシオンの表情は、一瞬柔らかくなった気がしたが、再び引き締められていた。


「絶対合格するよ〜!!」


「おぅ!」


「あぁ!」


「えぇ。」


 カノンの号令に三者三様の返事をし、互いの健闘と再会を誓った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。