プロローグ:純白の魔法陣
プロット無しで衝動的に書いているので、途中で表現や、情報に修正を入れるかもしれません。また、年若く日本語の表現や、特に段落のつけ方、改行の使い方について、他の先生方のように読みやすさを心掛けて行っていますが、理解しきれていない部分が多くあります。皆様方の視点から言葉の使い方が間違っているであるとか、読みにくいなどありましたらご指摘いただければ幸いです。
よく晴れていた。
両親はよく世界は祝福に満ちていると言っているその意味が、生まれてやっと十年程の少年にもわかる気がする。
村の喧騒を抜け、森へ入る。
いつも通りであれば魔法の練習をするために、母と過ごしているこの時間だが、今日は違った。
今日は少年の生まれた日だ。生んでくれた母に感謝を示すために、森を抜けた先の大きな木を中心とした綺麗な花畑に花を摘みに行こうと計画した。
どこで歌っているのかわからないけれど、鳥たちが合唱している。周りの木々に目を凝らせども、歌手は見つからなかった。
しばらく歩くと小川に出る。あと半分の目印だ。飛び石を転ばないように気を付けながら渡る。
しばらく歩くと大きな岩がある。ここを左に行く。
しばらく歩くと木々が晴れ、綺麗な花畑と、その中央の大木がある。
目的地だ。
少年はここが好きだった。父に狩りを教えてもらう時に連れてきてもらった場所だ。
家族でピクニックをしたりすることもある。
森に一人で入ることは禁止されているが、時々内緒で来ることもあった。
花々を揺らす静かな風がその甘い匂いを運ぶ。
ゆっくりしたいところだけど、もうすぐ日が暮れてしまうし、さっさと花を摘んで帰ることにした。
いくつか、虫に食べられたりしてない綺麗な花を摘み、茎でしばって花束にする。
母は花が好きだから、喜んでくれるだろう。母が笑顔になる姿を想像して、少年は笑みを浮かべる。
さあ、早く帰ろう。
しばらく歩くと大きな岩がある。鳥たちが静かだった。
しばらく歩くと小川に出る。村の方から見たことないくらい大きな煙が上がっていた。
息を切らしながら森を駆ける。花びらが散っていた。
やがて、村に近づくと悲鳴が聞こえる。物が燃えるにおいがした。
森を抜け、村が目に入る。
少年は、燃え盛る炎が自分の故郷であったもの、友であったもの、家族であったもの、そして人類にはない異形を持つ魔族。この村をこわしたもの。
全てを等しく喰らう様を呆然と眺めていた。
少年の手にはもう、花束はなかった。
ゆっくりと、少年は歩き出した。帰るべき家へ。
角を曲がり、家が見える。正確にはそれは燃えているがれきだった。少年は崩れた。理解できなかった。いや、理解しようとしていた頭を止めたのかもしれない。
だから、後ろから迫る魔族にも気付かなかった。
背中に何かが覆いかぶさり、その刹那衝撃が襲う。魔法の匂いと血の匂い。大きな何かが倒れる轟音がする。頭を振り向こうとすると暖かな手がそれを止める。
少年には、これが母の手だと分かった。世界で一番暖かくて、優しい手。
ばしゃばしゃと液体がこぼれる音がする。
「よく聞いて。エルド…絶対に…振り返ってはいけない…私が、手を…離し…たら…直ぐに森に…森に逃げなさい。必ず後で迎えに…行くから…。それまで…」
母の息が荒い。エルドはもう一度振り向こうとするが、やはり止められる。
涙で視界がぐちゃぐちゃになっていた。
「行きなさい。」
冷たくて暖かい声だった。母の手がエルドの背を押した。
母の暖かさは離れた。
こぼれた。
エルドが振り向くことはなかった。
森へ駆け、目印を探す。森は暗い。
しばらく走ると小川に出る。あと半分の目印だ。ばしゃばしゃと音をたて、渡る。水が冷たい。
しばらく走ると大きな岩がある。ここを左へ。茂みを走り抜けたせいで、足から血が出ていた。
しばらく走ると木々を抜け、月明かりが冷たく照らす花畑にでる。エルドは大木を目指して走る。
肺が痛む。傷が痛む。涙が止まらない。
大木にたどり着くと、膝を抱え座り込む。
風の音。鳥の羽ばたき。飛んでくる花びら。
全てが怖かった。何も見たくなかった。何も聞きたくなかった。
ただ、家のベッドで毛布にくるまりたかった。
エルドは目を伏し、耳をふさいだ。
いつまでそうしていたのかわからない。エルドはいつしか寝てしまっていた。
やがて空が白んで日が昇り始めた。日差しがエルドの目を開く。
まだ薄暗いような中で、今までの記憶が夢であることを願ったが、足についた傷がそれを否定した。
火の手が花畑のそばまで迫っていた。煙が景色を曖昧にしていた。
しばらく、太陽が覗く山々の方を見ていると、森の方から気配がした。
母さんが迎えに来たんだ!
目をそちらへ向ける。
それは人ではなかった。
それはエルドを見つけると大いに笑い。何かを叫んでいる。魔族の言葉をエルドは知らなかった。
魔族がこちらへ歩いてくる。
四本ある腕に握られた剣は血塗られていた。
エルドは立とうとするが、足に力が入らない。震える。止まれ。止まれ。止まれ。
エルドは必死に足を叩く。それでも震えは止まらない。
立て。立て。立て。逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。逃げろ。
魔族の巨体がエルドに影をつくる。エルドの中を冷たい何かが満たす。
死。死ぬ。ここで永遠に死ぬ。死。死?死。死。死!死!!嫌だ。嫌だ!嫌だ!!
生命の本能が目前に迫りくる死を全力で否定する。拒否する。
それでも立てないエルドの頭の中に戦うという選択肢が芽生える。
そして、目の前の化け物を殺すためのものを思い浮かべる。
火だ。
エルドは魔族に震える手を向けもう片方の手でそれを支え、魔法陣を生成する。
母から教わった魔法だった。
魔族はそれを見て笑う。大いに笑う。
魔族の腕のうちの一本が振り下ろされた。
ぽとりと音がする。ばちゃ、と液体がこぼれる音がする。
エルドは自分の手が切り落とされたことを理解した。
「ーーっーーぁぁーっー」
村で吸い込んだ煙がエルドの声を殺した。
声にならない声を上げる。絶望がエルドの内を満たす。
魔族はひどく笑い、しばらく思案した。
どうやったらもっと滑稽なおもちゃ遊びができるだろうか。
そんな表情を浮かべて。
解を得た後、魔族は、彼を守っていた女が、火魔法を使っていたことを思い出す。
それで一人こちら側の将が殺されていた。どうでもいいことだが。
腕の一つの剣を落とし、子供へ向け、火魔法の詠唱を基に魔方陣を形成する。
エルドは知っていた。それが火王級の火魔法であることを。母が得意としていた魔法だったからだ。
腕から血が絶えずこぼれる。抑えても止まらない。悪寒がする。だるい。痛い。眠い。
目の前の魔法陣がぼやけながらも、その大きさを増した。それは火王級よりも上級の魔法だとエルドは気が付いたが、思考がうまくまとまらない。どうすればいいんだろう。眠い。寒い。気持ち悪い。
やがて、その魔族は詠唱を終え、最後の節を唱える。
刹那ーー魔法陣が消滅し、白い光が魔族の胴体を消し飛ばした。
頭がエルドの方へ飛んでくる。魔族は笑ったまま灰になって霧散した。
何があったんだ。何が起きているんだ。わからない。目は見えているのか。わからない。ここは。
意識が混濁する。起きているのか、寝ているのか。寒い。痛い。苦しい。
今にも沈みそうな意識を強引に引き留め、エルドは必死にその白い光が来た方へ目を向ける。煙の中から近づいてくる人影があった。
それはやがて明瞭になる。
それは少女であった。エルドよりも少し大きな背丈。長く美しい白い髪に、目を奪われるどこまでも深い真紅の瞳。時が止まっているかのような感覚に陥った。
痛みなど忘れてしまうほど美しいその姿に囚われたまま、エルドは意識を失った。




