第一話 氷点能力者
ブレインフリーズ
第一話 氷点能力者
七月下旬。
アスファルトは陽炎を揺らし、駅前広場には「かき氷」の幟が風もないのに力なく垂れていた。
「暑っ……」
高校二年生の**白瀬涼**は制服のネクタイを緩め、財布の中身を確認した。
百円玉が三枚。
「……いちごかな。」
屋台の店主が笑う。
「今日はブルーハワイが人気だよ。」
「じゃ、それで。」
削られた氷が山になり、青いシロップが流れ落ちる。
一口。
二口。
三口。
「――っ!」
頭の奥に鋭い痛みが走った。
「いっ……!」
思わず額を押さえた瞬間。
目の前で落ちかけていた紙コップが、空中で止まった。
風ではない。
誰も触れていない。
ゆっくりと紙コップは元の位置へ戻り、屋台のカウンターに着地した。
「……え?」
店主も驚いている。
「今の……見た?」
「何が?」
「いや、紙コップが……。」
店主は首をかしげるだけだった。
涼が頭を押さえる。
痛みは十秒ほど続き、
すっと消えた。
その瞬間。
隣に積まれていた割り箸が崩れ落ちた。
さっきまで止まっていたはずなのに。
「……気のせいか。」
涼は首を振った。
翌日。
学校帰り。
もう一度同じ屋台へ向かう。
「ブルーハワイ一つ。」
店主が笑う。
「昨日の兄ちゃんだね。」
今度は急いで食べる。
「――っ!」
また頭がキーンと痛む。
その瞬間だった。
遠くで走っていた自転車が、見えない何かに引っ張られるように横へ滑り、転倒を免れた。
車が猛スピードで通り抜ける。
もし進路が変わっていなければ、ぶつかっていた。
涼は息を呑む。
「俺が……やった?」
痛みは続く。
試しに近くの空き缶を見る。
浮け。
そう念じた。
カラン。
缶が五センチだけ浮き上がる。
「うわっ!」
さらに念じる。
すると缶は空中をふわふわ漂った。
「マジか……。」
そして。
痛みが消える。
缶はその場に落ちた。
ガラン、と乾いた音が響く。
その夜。
涼は冷凍庫を開けた。
スーパーで買ってきたカップかき氷が六個。
「つまり……」
一つ目。
キーン。
テレビのリモコンが浮く。
終了。
二つ目。
キーン。
部屋のカーテンが勝手に閉まる。
終了。
三つ目。
キーン。
照明が点滅する。
終了。
「能力は同じじゃない……?」
いや。
どれも違う。
浮かせる。
動かす。
止める。
能力の種類が一定ではない。
ただ一つ共通していることがある。
頭がキーンとしている間だけ使える。
それだけだった。
翌朝。
ニュースが流れていた。
『昨日、市内で原因不明の現象が複数確認されました。専門家は突風の可能性もあるとしています。』
涼はテレビを見つめる。
昨日の自転車。
空き缶。
紙コップ。
偶然ではない。
あれは全部、自分だ。
しかし、その時だった。
玄関のチャイムが鳴る。
ピンポーン。
まだ朝七時。
こんな時間に誰だ。
ドアスコープを覗く。
そこには、黒いスーツ姿の男女が立っていた。
「白瀬涼さんですね。」
「少し、お話を伺えますか。」
男の胸元には、雪の結晶を模した銀色のバッジが光っていた。
第二話 氷を追う者たちへ続く。




