#18 気分は雷雨模様
私と晃司くんが付き合ってついに一年の時が経つ。禁断の恋だったはずなのに、いとも簡単に発展してきた。そして一度も縁が切れる事がなく、喧嘩もほとんどなかった。片手で数えれる程度な気がする。結婚までは流石にできないけど、それでいい。
こんなに都合よく進んで行ってもいいのか。
私のチャンネルはついに登録者200万人を超え、私たちのおかげなのか晃司くんも10万人を超えた。晃司くん曰く、未知の領域まで達している。
「この抱き枕、だいぶ綻んできたなぁ」
販売してから次の日に速攻買った等身大抱き枕を抱きながら、私はベットから体を起こす。そろそろ配信の準備しないと。
「アーカイブ立ち上げて……と、あ、一回昨日の動画修正しとかないと。音声途切れてるんだよね」
急いで歌ってみた動画の音声の調整のため、編集ソフトを開く。今回は晃司くんが5万人記念で歌っていた曲の中から厳選した。自分の動画だろうと、いつでもリスペクトは忘れない。だって、超大好きな推しだから。
今日も何も変わらない、またいつも通りの日常が始まる、と思っていたんだけど。そう、思っていた。
「おはようございまーす、じゃあ今日は前から言ってた通り、新企画!6期生に寝起きディスコード凸していこうと思いま〜す」
私は先輩がやっていたものをほとんどそのまんま真似る。こういう配信は切り抜きが人気だから、再生数が稼げる。
最初は誰からかな? ……アイリちゃんかな〜この時間だったら絶対寝てるし。
私は画面に乙愛アイリの名前を打ちこむ。
アイリちゃんも私と同じ6期生だ。毎日夕方から配信をしていて、10時までは確実に寝てることを私は知っていた。そしてパソコンから、いったんディスコードをかけるため、ホーム画面に戻り、その後アイリちゃんにディスコードをかける。
その時私は重大な事をやらかしていた事に気づかなかったのである。
「アイリちゃん出るかな〜? 確定でこの時間は寝てるんだけど」
数分待っていると、ようやっとアイリちゃんはディスコードに出てくれた。
「……おはよう〜 ……思ったより早いね……もう今すぐ寝たい」
気が抜けに抜けた声でアイリちゃんは声を出す。とても可愛らしくて思わず可愛いって言ってしまいそうになる。言ったら怒るだろうな。も、萌え〜……!
「おはよーアイリちゃん。起きれたんだね〜」
「……本当だよ〜 私ほんとに朝弱いのにこれって……死にそうになったよ。うわぁ〜……ちょっと待ってこの声配信入ってるの?」
「今バリバリ音声撮ってます」
「……もーめっちゃ恥ずかしいって。あ、待って……うぅ眠い……」
アイリちゃんはもう限界そうだった。この前泊まりに行ったからわかる。アイリちゃんが発するこの声のトーンの「眠い」はガチで寝る5秒前の可能性が高いので、流石にここで切ることにした。
「急にごめんね〜アイリちゃん。ゆっくり寝てね」
「……うん、寝る。おやすみ」
そしてディスコードが切れる。多分寝落ちしたなこれ。アイリちゃん、寝転がってから寝落ちするまでが鬼早いんだよね。この前なんか5秒で新記録樹立したからなぁ。某漫画キャラにはまだ及ばないけどね。
私は次の寝起き凸の相手が誰だったか思い出すついでに、チャット欄を確認する。スパチャがいつも通り投げられているかの確認だ。
そう思ってチャット欄を見てみるが、異質なことが書かれているスパチャが見つかる。
『¥5000 さっきパソコンのホーム画面になにか男の人の名前が書かれたファイルありませんでしたか?あれは何でしょうか?』
え。そんなものあるわけ……いや、もしかして……? あ、待って……
……!!
思い当たる節が一つあるような気がする。私は背筋が凍っていくのを感じる。その瞬間、今までなかった吐き気さえも覚えた。
私は雑談で誤魔化しながらチャット欄をこっそり確認する。そのスパチャ以降、「本当だ」とか「何だこれ」とかが幾多となく流れてくる。一度目を離した後、もう一度恐る恐るチャット欄を見ると、また一つのコメントが目についた。
『ガチだ。【春江さんとのコラボ企画】っていうやつ映ってる』
まずいっ……! 昨日作った時に見えないようにファイルを移動させるの忘れてた……!しかも本名のまんま……!
この時私は死を確信する。でも何とか誤魔化すために言い訳を考える。しかし、急には出てこない。それよりも焦りの方が勝ってしまい、私は黙ってしまう。この沈黙が逆効果であるのを知りながら、私は何も言えずそのまま2分が経過した。
『おいおい、どういうことだよ』
『春江って誰だ?』
『他のところじゃない?』
『でもゲム(幻夢の呼び名)黙ってるから個人とかじゃない?』
『そんな個人勢聞いたことない』
私はそういう考察をする人で溢れたチャット欄を見るのが恐ろしくなり、画面に向かうことすらも、怖くなった。そして自然と涙が出てくる。
唖然としているとついに恐れていたことが起きる。
『そんなVtuber聞いたことないからリアル説』
『なるほど?』
『だとしたらアウトじゃね』
『マジでか?』
……っ!!
私は画面から本能的に離れた。ミュートにして画面にトイレ中の文字を残して。
なんというか、もう、無心。画面を見ることも、今まで、私がありのまま喋って、ひたすら聞いてもらうという役目をしていたリスナーと喋ることも、現実に向き合うことすらできなかった。
「誰か助けて……」
私がずっと咽び泣く横でずっとリスナーたちによる大バッシングが流れていたことには目を向けなかった。いや、向けれなかった。私は吐き気を催して急いでトイレに向かう。
「ゔ……」
人生終わるのかな。とにかく1人じゃ抱え切れない。
目の前が真っ暗になりそうだった。体全体が震える。同時に顔から液体が溢れ出しているような気がした。私は急いでスマホを取り出す。そして必死で文字を打つ。
『晃司君、今から家まで来て欲しい。もう精神的にやばいから』
この悲嘆にくれた心の行方は大好きな晃司くんに委ねる。




