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#EX2 予定はあると言わせて

「『今日何時まで』、あと1時間ちょいかな〜」


「『次の歌ってみたこれがいい』、あ〜今2曲ほど準備してるからその後かな」


「『留年回避した?』、全然余裕でしたね。ただ3単位くらい落としたんだよね。やっぱり余裕じゃないかもしれない」


 今日は12月24日。世間が言うクリスマスイブだ。俺は他のVtuberに倣って今日はクリスマス雑談配信をしている。やっぱり雑談配信は安定で楽しい。喋ってる側も楽しめるし。


「そういえばこの前ね……」


 こういう風に自分の体験談や自分の思ってる事を好きに話す事ができる。雑談配信は視聴者と配信者の限られたコミニケーションの場だから。


「お、“りいと“さん、10000円スパチャありがとうございます! え〜『彼女いないモブの男からです。明日はいよいよクリスマスですけど、ラッシー(秋風嵐紫の呼び名)は何か予定あるんですか?』」


 この配信をやるにあたってこの質問は絶対来るだろうなと予想していた。本当は答えないつもりだったんだけどな、1万円ももらって答えないわけにはいかないな……


「え〜実はなんですけど、あります。何をするとは詳しく言いませんが」


『えっ!?』

『誰誰誰誰』


 自分の発言にチャット欄がすごいざわついている。みんな多分これ、クリスマスに誰かと遊びに行く(特に女子と)と思ってるんだろうな。基本クリスマス予定ありってなると彼女と遊びに行くって相場は決まってるからね。


「みんな、違うからね?本当にあくまでも『予定がある』ってだけだから」


って言ってたけど。




「晃司くん、メリークリスマス!」


そう、何も違わない。


「えっ、何その格好。前と雰囲気違う……」



 茶髪なのはもちろん、全体的に今の流行りに乗ったファッションをしている。なんか、胡夏さんから聞いた昔の胡夏さんからすると、本当に垢抜けして自分に懐いたな。ペットみたいな言い方で失礼かもしれないが、実際にそんな感じなんだもん。


「ふふっ、可愛い? 1年に一度しかないイベントだから気合い入れてきたんだ〜」


自分のためにとても可愛く仕上げてくる人がいるって、最高。


「ていうか、集合早すぎない?」


 そう言って俺は公園内にある時計へと目を向ける。針は8時前を指していた。

今までのデートと違ってやけに早い。どう言う事なんだろう。


「まぁね、だって私晃司くんと行きたいところあるからね」


8時前に集合してでも行きたい場所……?相当遠そうだな……


「ていうか、誘ってくれてなんだけどせっかくのクリスマスなのに配信でなんか企画とかやらなくて大丈夫なの?」


 企業Vtuberだったらだいたいこういう特殊イベントがある日って絶対に配信しているようなイメージ。海莉もそうだし、リリスだってそうだった。


「逆だよ逆。せっかくのクリスマスなのに大切な人と最高の時間を過ごさなくていいのって私は思ってるの。……まぁ流石にやらないと誰かとこうやって会ってるって思われるから、深夜にやるつもりだよ」


「じゃあ夜まで遊ぶって感じね」


 胡夏さんの目は期待と希望でキラキラしているような気がした。早く遊びに行きたいと言う意思が顔に凄く出ていた。

 でも、なにでもない、集合場所でただくっちゃべっているだけでも俺は楽しいんだけどね。


 今年は生まれてから初めての予定あり。だから、気合い入れて遊ぼうかな。こんなの、楽しむっきゃないでしょ。


「じゃあ行こっか」


 そう言って胡夏さんは俺の腕を引っ張ってそのまま2人が降りた駅にまた足を運んだ。どこへ行くんだろうか。ディズニー?ユニバ?映画館?水族館?それとも沖縄……?それはないか。

 

 いままでのデートの行き先はだいたい決まった場所か、俺が決めた場所だった。だから胡夏さんに行き先を選んでもらうのは初めてだった。

 企業Vtuberの人はリアルでは普段どういうところに遊びに行くんだろう。全く想像がつかないな。



「じゃーん、南京町〜!じゃあ今日は飲食店20軒回るまで帰れません!


「胃袋と国際会談レベルの相談しないと無理だわ……」


なんか、意外……?

もっとなんか娯楽施設とかそういうのを予想してたんだけど。


「胡夏さん、何で南京町なの? 別に嫌ってわけじゃないけど、胡夏さんがここを選ぶとは思わなくて」


「ほら、前にも言ったけど、私すごいラーメン好きでさ、だからラーメンを食べ歩きしながら、晃司くんとステーキ串とかを一緒に食べ歩きしたいんだ」


 そうだったな。配信でも他のメンバーと作ったりするくらいラーメン好きだった。特に豚骨ラーメンが大好きなんだとか。しかも大盛り定期。今更になって胡夏さんが食いしん坊だということを知った。


「じゃあ早速なんか食べようかな」


 そう言って胡夏さんは通りの奥へと行こうとするが、俺は急いで胡夏さんを引っ張って止める。胡夏さんは大層驚いていた。


「わっ!?ど、どうしたの?」


「……あの〜、非常に言いづらいんだけど……今って9時前じゃん? この時間ってカフェしか開いてなくて、他の飲食店が開くのがだいたい11時以降だがらさ、今行っても食べれないよ……?」


そういうと胡夏さんは大きく目を見開く。


「…………ガチ?」


「うん、ガチ。何回かきたことあるからわかるよ」


「……ご、ごめんなさいっっっっ」


「いや、だ、大丈夫だよ。11時くらいまで海辺の方を散歩しない?あそこだったら時間潰せるよ」


「うん……そうしよっか。本当にごめんなさい」


 その後俺たちは、海辺に行って赤色の砂時計型のタワーとかに登ったのち、2人で南京町に戻り、ラーメンを食べ、ステーキ串などを食べ(させられ)た。もう晩飯分まで食ってしまったかもしれない。


Vtuberの人はみんなこうなのか、と思いそうだったが、流石に……か。


 お昼を過ぎると胡夏さんはまた自分をどこかへ連れて行く。連れてこられた先は


「やってきました篠宮駅前AROUND1、今回はストライク1ゲームで15回取るまで帰れません!」


「それ帰れねぇじゃん!……ていうかさっきからYouTuberのノリなんなの……?」


「なんか晃司くんとクリスマスデートできるってなってから、テンションがバグったんだ」


あ、自分で言っちゃうんだ。やっぱり胡夏さんはお調子者ってわけか。


「ほら、行こっ」


「転ぶなよ」


「転ばないよっ……!ねぇ私のこと子供って思ってる?」


「別に?」


「絶対思ってるじゃん、もー、じゃあお父さんお金出して〜」


胡夏さんは自分のもとに駆け寄って手を差し出す。


「ごめん、それは勘弁してっ」


 そうやってイチャイチャしながらボウリングエントランスに向かう。こういうやりとりがあるたびに、俺は周りの人から妬まれているのかと思い、かなり恐ろしかった。もしかしたらいつか殺されるんじゃないか。

 

 胡夏さんと一対一でスコア対決をしてみたが、『6期生忘年会』の企画で練習してた胡夏さんには全然敵わなかった。というかフォームがプロレベルなんですが。


「やった〜」


「強いって」


「じゃあとりあえず約束通り一個言う事聞いてもらおっかな」


「マジかよ……」


 そうして『俺の家いつでも遊びに行ける券』を発行させられた。無理矢理だったとはいえ悪い気分ではない。

 俺がひと休みしようとエントランスのソファに座るが、胡夏さんはすぐさま動き出す。


「じゃあ次卓球しよ〜」


「げ、元気だね」


 胡夏さんはエネルギッシュ過ぎる……と。胡夏さんに振り回されたおかげ(せい)でこの施設で、さっき食べた分を一気に消費したって感じ。

 遊び尽くしたあと、外に出ると日がかなり傾いていた。時刻は16時10分。さあ、こっから何しようかな。どうやらこれ以降どうするかは胡夏さんは決めてないらしいし。


「どこに行きたい?胡夏さん」


そう聞くと、胡夏さんは少し顔を下げる。少し考え込んだ後、口を開いた。


「……どこへでも行きたい」


 どこかの少女漫画で聞きそうなセリフ。その期待に応えたい。けど流石に日は跨げないから……あ、

 

 俺は5歳の頃に見た、ちょうどこの時期に家族旅行で興味を持って見たものを思い出す。前々からどうしても胡夏と一緒に見てみたい、と思っていたんだ。喜んでくれるのだろうか?

 俺は不安になりながらも胡夏さんを連れて行く。色々な意味で足取りが重かった。



「着いたよ」


「おぉ〜実はここに来た事ないんだよね。中学校の宿泊旅行でここに行ったらしいんだけど、その時私登校拒否だったから」


「……なんかごめんな」


「いいんだよ。むしろ来れなかったからいつか行きたいなって思ってたの」


 そういうと胡夏さんは案内してほしいと言う。お望み通り、俺は次々とオススメのスポットを紹介していった。園内グルメもたくさん食べた。今日食べたものだけで4日くらい持つんじゃないか? ていうか胡夏さん、どれだけ食べるんだろう。ここにきてまたラーメン食べてるんだけど。某大食い女性タレントの卵かな。


 食べている間、1番のオススメの場所はないかと聞かれる。俺は覚悟を決めて言った。特にイルカショーがオススメだ、と。

 もちろん胡夏さんは興味を持つ。ちょうどその時イルカショーのアナウンスが館内に流れる。俺は胡夏さんをつれて急いで会場に向かう。


「イルカショー見るのも初めて?」


「うん。ていうか私晃司くんと付き合うまでは、基本引きこもりだったから、ほとんどどこにも遊びに行ったことがなかったんだよね」


「……そうなんだ。じゃあ年が明けたらまたどこかに誘ってあげるね」


 そう言うと、胡夏さんは笑顔でグットサインを見せてきた。俺はこの笑顔をずっと守る、と心の中で呟いた。

 会場に着く頃にはもうすっかり日が暮れて、青くライトアップしたプールの向こうに、また灯りが灯った街が見える。席に座ったあと、俺たちは自然とその景色に包まれて、両方が気付かないうちに手を繋いでいた。


『大変長らくお待たせしました。イルカと、光と、音が織りなす、クリスマスファンタジー。最後までごゆっくりとお楽しみください』


 アナウンスが終わると、幻想的な音楽がどこからか流れ出して、待機していたトレーナーとイルカが一斉に飛び出して行った。

 人間とイルカの阿吽の呼吸は、とても目を奪われるものだった。トレーナーが回転するのに合わせて、その周りをイルカが回る。やはり何回見ても感動もの。


 それが終わると、他のトレーナーやイルカも前に向かってくる。そこからのシンクロはとても可愛かった。

 今度は全てのトレーナーとイルカが飛び込む。さっき以上のシンクロ。シンクロに見惚れていると、突然目の前の水面からイルカが飛び出してくる。周りの人もこれには拍手。そこからは圧巻のジャンプ祭り。4mはゆうに跳ねていた。

 途中、5m以上のジャンプも見せてくれた。


「すごい……」


 胡夏さんも見惚れている。よかった、不評ではなさそうだった。


 俺が胡夏さんに見惚れていると、イルカたちの鳴き声が聞こえてくる。合唱だ。これより愛らしいショーはない。

 そのあと、トレーナーが一人一人、イルカに乗ってプールを駆け回る。かっこよさ

全開だ。特にイルカを使ってするジャンプには思わず拍手。

 ブレーク中にさっき館内の売店で買った、限定ジュースを飲もうとすると胡夏さんが一口も飲んでいない事に気づいた。


「……そういえばこれまだ一口も飲んでないけど飲まなくていいのか……」


!?!?


 振り向くと胡夏さんが涙を流している。これには俺は本気で心配した。何かあったのかもしれない。急いで声をかける。


「胡夏さん……!?どうしたんだよ……?」


心配そうに声をかけると、泣きじゃくった顔でこっちを見てくる。


「……今まで色々なことがあって来れてなかった場所だから。そんな場所でこんな幻想的なモノが見れるなんて。しかもそれを大好きな晃司くんと一緒になんて……感動しちゃってもう、無理……」


そう言い終わると胡夏さんは肩にひっついてくる。


「ちょっと……!!胡夏さん、ここ公共の場……!」


 離れようとしない。やばい、周りの目が……!そう思って周りを見るが、みんなイルカに夢中だった。


「わ、わかったよ」


「きゃ」


 俺は負けまいと、胡夏さんに抱きつく。本当に公共の場でやっていいことじゃない。だけどこの時はそんなの意識する暇なんてなかった。

 

 そしてそんな2人を横目に、ついにイルカショーがフィナーレを迎える。そのまま俺たち含め、会場にいる全員の大歓喜のまま、クリスマスナイトショーは幕を下ろした。

 ショーは15分間だったが、この15分がどれだけ長かったか。みんな同じ15分なはずだったのに、何か他の人とは別の空間に閉じこもっていたような気がする。


でも、それが終わってもなお、俺たちは固く手を繋いでいた。


帰り際、胡夏さんは俺に笑顔で語りかける。


「また来たいね、次は一日中いよっか」


「ははは、それもありだね」


「……じゃあお腹空いてきたから、今からステーキ食べに行こうよ〜」


「……もう食事は勘弁してください」


 もう、俺は、童貞なんて名乗らない。陰キャとも名乗れない。俺だって、そっち側になるんだ。


「胡夏さん、俺の全てになってくれてありがとう」


 情報社会という雑多な社会の片隅で影に隠れて付き合う、Vtuber同士の恋に花束を。

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