第十四話:パウルスブルクの誓い
1958年3月、ルスラントは炎に包まれていた。アルベルト・シュペーアの新体制下、レーテ大管区――ブリタニエン、ガリア、ヴォルガ――で奴隷の反乱が燻り、赤剣団の銃口で押し潰された。だが、ルスラントの反乱は、凍てつく大地を焼き尽くす嵐だった。人民軍の寝返りと民衆の怒りがパウルスブルクを震わせ、フライエス・オイローパの旗が公然と掲げられた。ノイシュタットの団地では、マンフレート・ベルンハルトとナディア・シュミットが、反乱への参加を決意した。だが、その炎の先に、誰も予想せぬ指導者が現れる。パウルスブルクの人民広場で、ヘルベルト・フラームは、ルスラントの運命を変える宣言を放った。
レーテ大管区の反乱は、シュペーアの鎖を試していた。ブリタニエンでは、港湾労働者が船を焼き、ガリアの農民が領主の倉庫を襲った。ヴォルガでは、鉱山の奴隷が監視員を打ち倒し、夜陰に逃げ込んだ。これらの反乱は、赤剣団の装甲車と催涙ガスで瞬く間に鎮圧された。ゲルマニアのテレビは、「秩序の回復」を報じ、死者の数は闇に葬られた。シュペーアは、人民宮殿で冷たく笑った。「ルスラントさえ抑えれば、大管区は従う」
だが、ルスラントは制御を拒んだ。パウルスブルクの工場は、民衆に占拠され、クルスクの鉱山は炎上した。ノイシュタットの団地では、労働者がバリケードを築き、人民軍の寝返り兵が合流した。フライエス・オイローパのビラが、街角を埋め尽くす。「シュペーアは嘘つきだ」「ルスラントに自由を」――その声は、赤剣団の銃声を掻き消した。ゲルマニアは、増援を派遣したが、ルスラントの反乱は、まるで生き物のように成長していた。
パウルスブルクの人民広場は、反乱の心臓だった。ラデック像は倒され、党旗は引きちぎられた。民衆は、武器を手に、バリケードを守る。人民軍の寝返り兵は、装甲車を民衆に明け渡し、赤剣団と対峙した。ルスラントの空は、煙と希望に染まっていた。
3月5日、パウルスブルクの人民広場は、異様な熱気に包まれた。バリケードの中心に、男が現れた。40代の痩せた体躯、灰色のコートに赤い腕章。顔は、風雪に刻まれた皺と、燃えるような目で印象的だった。彼は、壊れたラデック像の台座に登り、拡声器を手に叫んだ。「ルスラントの同志よ! 我はヘルベルト・フラーム、フライエス・オイローパの声だ!」
群衆が、息を呑んだ。赤剣団の狙撃手が、遠くのビルから男を捉えたが、民衆の壁が彼を守った。フラームの声は、広場を震わせた。「この反乱は、全体主義の黒い影に覆われた欧州に、光を取り戻す戦いだ! シュペーアは、ラデックの傀儡だ。彼の『繁栄』は、ルスラントの血と汗を搾る鎖だ。我々は、自由を掴む! ゲルマニアの嘘を打ち砕く!」
民衆が、歓声で応えた。「フラーム!フラーム!」「自由を!」――その叫びは、パウルスブルクのコンクリートを揺らし、ルスラント全土に響いた。フラームは、赤い旗を掲げ、続けた。「我々は、奴隷ではない。ユダヤ人も、ロシア人も、ドイツ人も、共に戦う。ルスラントは、自由の火種だ。同志よ、団結せよ!」
広場のスクリーン――反乱軍が占拠したテレビ塔から――は、フラームの姿をルスラントに流した。ノイシュタットの団地、クルスクの鉱山、ヴォルゴグラードの工場で、民衆が彼の声を聞いた。赤剣団は、放送を遮断しようとしたが、フライエス・オイローパの技術者がそれを阻止した。フラームの宣言は、ルスラントの炎を一層燃え上がらせた。
ノイシュタットの団地では、マンフレート・ベルンハルトとナディア・シュミットが、405号室のラジオでフラームの声を聞いた。窓の外では、反乱の叫びが響き、煙が空を覆う。マンフレートは、机に広げたフライエス・オイローパのビラを握りしめた。第十二話で拾ったその紙は、フラームの言葉と共鳴していた。「ナディア、こいつ……本物だ。ルスラント、変わるかもしれない」
ナディアは、革のコートを握り、ベッドに座っていた。第七話の恐怖――赤剣団のブーツ、吐き気の悪夢――が、彼女を縛る。だが、第十三話の決意が、彼女の瞳に宿っていた。「マンフレート、フラームって、フライエス・オイローパのリーダー? でも、怖いよ。赤剣団が負けても、ゲルマニアが本気出したら、私たち、潰される」
マンフレートの胸には、第十話の罪悪感が疼いた。[[///検閲済///]]――マティルデの消された名前が、フラームの赤い旗に重なる。「ナディア、俺、[[///検閲済///]]を殺した。彼女も、こんな戦いを夢見たのかも。俺、行かなきゃ。フライエス・オイローパに会って、戦う。償いたいんだ」
ナディアは、少年の手を握った。彼女の心には、旧帝国の記憶――両親の歌、焼けた村――が響く。「マンフレート、償うなら、私もよ。パパとママも、自由を信じてた。私、怖いけど、あなたと一緒なら戦える。フラームが本物なら、私も信じたい」
二人は、団地の広場へ向かった。そこは、反乱の最前線だった。労働者が鉄パイプを手に、寝返り兵がライフルを構える。フライエス・オイローパの青い腕章を着けた女が、ビラを配っていた。マンフレートは、彼女に近づき、囁いた。「ヘルベルト・フラームに会いたい。俺たち、戦うよ」
女は、少年と少女を見やり、頷いた。「同志フラームはパウルスブルクにいる。ノイシュタートの反乱を固めたら、連絡する。名前は?」
「マンフレート・ベルンハルト。こいつは、ナディア・シュミット」少年の声は、確信に満ちていた。ナディアは、微笑み、女の手を握った。「私たち、自由が欲しいの。教えてよ、どう戦えばいいか」
パウルスブルクでは、フラームの宣言が反乱を加速した。人民軍の寝返りは増え、赤剣団は後退を余儀なくされた。だが、ゲルマニアのシュペーアは、冷たく動いた。人民宮殿で、彼は新たな軍を編成し、ルスラントへ送る。「反乱は、ルスラントで終わる。フラームは、ただの狂人だ」彼の微笑は、血を予感させた。
ノイシュタットの夜、反乱の炎が団地を照らす。マンフレートとナディアは、広場でビラを配り、バリケードを守った。彼らの心には、[[///検閲済///]]の笑顔、フラームの声、自由の夢が響く。ルスラントの反乱は、全体主義の影を焼き尽くすか、新たな闇に飲み込まれるか。二人の小さな火種は、その答えを求めて燃えていた。




