決戦〜そして伝説へ…はならない
「小宇宙」と書いて「コスモ」と読む。
お約束ですね。
私達は間もなく復活する魔王との対峙に向け、王都に向かった。
魔王復活の日は既に分かっている。卒業式の前日に学園が襲われ、魔王を封印した暁には卒業パーティーでハッピーエンドと言う流れだ。
道中、悪天候により王都に着くのが予定より遅れてしまった。Xデーにギリギリで間に合ったという感じだ。
休む間もなく学園へ向かうと、学園に現れた数匹の魔物が生徒達を追い回している。発生源は魔王を封印した地下遺跡だろう。
「アリアナ⁉」
「君、学園に帰ってきてたのか」
「マルクス様、ローレンス様」
混乱する学園の中で生徒会の方々に遭遇した。戦闘能力のあるお二人が魔物を追い払い、生徒達を避難させているようだ。
「君達は一体…」
マルクス様が明らかに学生ではない面子を連れた私達に訝しげな視線を向けた。
ちなみにシグレの姿はここにはない、影から私達をサポートしてくれている。
「私はマスガル家の次男、ダインと申します。我々はギルドから魔物の討伐の依頼を受け、それを追って王都に戻って来ました。彼らは俺達の冒険者仲間です」
「君はマスガル第四騎士団長のご子息か」
「はい、学園でスタンピードが発生していると知り、駆けつけた次第です」
「ええ〜?君達って駆け落ちしたんじゃ無かったのかい⁉」
「「はいぃぃぃい⁉」」
ローレンス様の発言に、私達は思わず素っ頓狂な声を上げてしまった。
駆け落ちって⁉ 休学届けも出してるのに何でそんな話に⁉
「アリアナ……ダインと付き合って…たの?」
リオンが呆然とした顔で私達に問いかけてくる。
「あ、あああ、あり得ませんから!」
「いや!無理!アリアナは無理!」
「無理って何だ!無理って!」
こちとら一応、放棄済みとはいえ乙女ゲームのヒロインなんですけど⁉
「やだぁ、言ってくれれば良かったのに〜」
「新婚生活に必要な物があれば、オイラに任せてくれよ」
ーーアリアナ殿、ダイン殿、お幸せに…
「「だから違うって!」」
シグレの声どっから聞こえてくるの⁉姿は見えないんだけど⁉
っていうか皆、駆け落ちどころか結婚するみたいな雰囲気にするのやめて!
「ごめんなアリアナ、お前の気持ちは嬉しいけど、俺……お前の事、永遠にオタ友としか思えない」
「なんで私がフラれる体になってるのよ⁉」
ダインの左頬に魔法で攻撃力を高めたパンチを食らわせてやろうかと力を込めたその時、近くで悲鳴が上がった。
逃げ遅れた女生徒だろうか?
そうだっ!今はこんな所でふざけている場合ではない!
皆で慌てて声のする方へ駆け出すと、そこには見覚えのある男子生徒が我夢者羅にダガーを魔物に向かって投げつけていた。
「ニーノ君⁉ そこで何してるの⁉」
「何って!魔物が襲ってきたから戦って…きゃあああっ!」
ハイトーンボイスのニーノ君が叫び声を上げると、それはまるで女性の悲鳴だった。
しかし、悲鳴を上げながらも放たれたタガーは百発百中だ。ニーノ……恐ろしい子!
しかし弱っている魔物の他にもう一匹、無傷な魔物がニーノ君に襲いかかった。そこへ何処からともなく苦無が飛んできて、魔物の急所に当たり二匹とも絶命した。一撃必殺だった。
放たれた苦無には精霊の加護を受けた魔力の残滓がある。恐らくシグレの仕業だろう。
一旦落ち着いた所で、私は生徒会のメンバーの方へと向き直る。
「とにかく、生徒会の皆様は生徒達を避難させてください!」
「だが、魔物達を放っておくわけには!」
「混乱した生徒達を安全に避難させられるのは貴方がたしかいません!」
「避難が終わったら応援を呼んできてください、それまで俺達が食い止めます!」
※意訳:お前等足手まといだからさっさと逃げろや!
二人が不安そうにうなずくと、私達はお互いにするべき事へと向かって走り出した。
私達は学園内にうろつく魔物を屠りながら、魔物の発生源へと向かって行く。すると学園の裏の雑木林に、大きな祠を見つけた。
その祠は破壊され、その中の空洞から新たな魔物が顔を出す。
穴の中からひょっこりと現れた犬型の魔物の姿が意外と可愛くて心が和んだ直後、リオンの容赦ない一撃が頭部を真っ二つに斬り裂いた。
辺りに魔物の肉片が飛び散り、裂かれた頭部は僅かに痙攣している。
ワンコが、ワンコの死様がグロイ。これはモザイクが必要だ。
「魔物め、僕が全部駆逐してやる!」
なっ!そんな厨二病な台詞、教えてもないのに何時から吐けるようになったのかしら⁉ リオンは天才かも知れない!
破壊された祠の空洞を覗き込むと、地下へと続く階段があった。その先は深く暗い闇へと飲み込まれているようだった。
「この先に魔王が居るのか?」
「多分ね……」
灯火代わりの光の球体を頭上に浮かべ、私達は階段を降りて行った。
しばらくすると、広い空間に辿り着き、中心にはひび割れた巨大な水晶のようなものがある。
そこから黒い煙のような影のようなものが出てきたかと思うと、それは邪悪で悍ましい邪竜の姿を象ってゆく。
まだ完全に封印が解けていないからか、その水晶から完全には抜け出せないようだ。
魔王は鋭い視線で私達を睨みつけると、ゆっくりと口を開けた。
「貴様ら、何者だ?」
「俺はダイン、しがない冒険者さ」
言いながら、ダインは不敵な笑みをこぼす。
「ふん、冒険者だと?」
「貴様ら何者だと聞かれたら、答えてあげるが世の情け……」
私はそうつぶやきながら掌に光の魔力を溜めて頭上に掲げる。するとそこから光の粒子が螺旋となって身体を包み込んだ。
私を包んでいた光が弾けると、私の衣装は先程まで着ていた旅人の服から一変、リボンやレースでフリフリのミニスカートへと変化した。
スカートの中には幾重にもパニエが重なり、まるでバレリーナのチュチュの様にふんわりと膨らんでいる。足元もまたリボンやレースをあしらったショートブーツ。そして白いニーソックスも装備している。もちろん絶対領域も完璧だ!
「美少女戦士ホーリーライト!アナタの復活は許さない!」
「え?自分で美少女とか言っちゃう⁉」
この衣装は光魔法を駆使した幻影で、実際は元々着ていた衣服のままだ。
『光学迷彩』ならぬ『光魔術迷彩』、いや迷彩ではないから『光魔術コスチューム』、いやいや『コスチューム・メイク・アーップ!』……なんだか元ネタからどんどん逸れて行くがまあそんなもんだ!
残念な事に、この魔法は術者のみにしか施せない。何れはコスプレ用魔導具を作り出し、多くの同志に変身を楽しんでもらいたいと思っている。
私の「世界厨二病化計画」は留まるところを知らない。
魔法で戦うなら美少女戦士ではなく魔法少女じゃないか?…と思う者も居るかも知れないが、魔法少女は本来非戦闘員だ。
彼女たちはその力で歌ったり踊ったり手品をしたり、大人に変身して困ってる人を助けたり、色んなコスプレをするものなのだ。
故に!戦いに赴く私は美少女戦士で無ければならない!恥ずかしげもなく自ら「美少女」と名乗ってもなんの問題もないのだ!
「美魔女戦士ブラッディローズ!私の足元にひれ伏しなさい!」
ミレーネは荊棘の鞭を振り上げると、ピシャリと地面に叩きつけた。
「その鞭どっから持ってきたし!」
ダインがすかさずツッコミを入れるが、細い事は気にしてはいけない。
普段からダイナマイトボディにピッタリと沿う衣装を身に着けているミレーネは、仮面舞踏会の様なマスクを付ければまるで女王様だ。次回までに準備しておこう。
「光の戦士ホーリーブラック、この俺の素顔を見た者は…死ね…」
「むしろ闇の臭いしかしないけど⁉」
どこからともなく黒い影が現れると、そこにはいつの間にかシグレが立っていた。
そのまま倒れるのではないかと思う程にアンバランスな形に身体をくねらせ、右手で顔の半分を覆いながら立っている。
シグレのジョ○ョ立ちは完璧だ!
「光の戦士ホーリーイエロー!俺の素材は俺の物!お前の素材も俺の物!」
「ジャ○アンかよ⁉」
ザジスも意気揚々と名乗りあげる。振り上げた右手には、金貨の入った袋を掲げていた。
そして最後は……
「ぼく…俺はっ………勇者だ!」
「普通だな!」
そこは「光の戦士ホーリーレッド」だよリオン!ドンマイ!
「勇者だと?我を封じた勇者の末裔がまだ生き残っていたとはな……だが、今ここで地獄へ落としてやろう。あの時に死んでおけばよかったと後悔するがいい!」
魔王は凄まじい咆哮を上げる。一瞬、身体が硬直するが、私達はじっとしている訳には行かない!
「お前等、遊んでる場合じゃないぞ!」
言っておくが、私達は決してフザケているわけではない。名乗りを上げる事で魔王に相対する恐怖を克服し、己を鼓舞する為のものだ。
ダインは名乗を上げずとも魔王に恐れ慄いた様子はない。流石は剣聖と言うべきか……
そしてそのままダインは魔王へと向かって真っ先に立ち向かって行った。その姿たるや稲妻の如し。
魔王が新たに作り出した魔物を斬り捨てながら魔王へと接近する。
「喰らえっ!」
ダインが己の剣に剣気を纏わせ、渾身の一撃を魔王に放つ。魔王は苦悶の表情を浮べ、呻き声を上げた。
それに続けとばかりに私は光の魔力を掌に込め、頭上に光の塊を作っていく。
「輝く光の魂が、邪悪な魂を打ち砕く!ホーリーライト・シャイニング・スクリュー・ドライバー!」
「なっ!なんだその必殺技名⁉」
光の塊を解き放つと、光の粒子が渦を巻き、魔王の身体へと突き刺さった。その光の杭は魔王を捉え、動きを封じた。
「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ!銭を稼げと俺を呼ぶ!スパークリング・ポーション!」
「え?ちょっ?ザジスも⁉」
ザジスが魔力を込めてポーションを放つと、私達の傷と体力と魔力が回復した。更に攻撃力と防御力アップのバフも付いている。
ポーションと言うよりエリクサー……それ以上のチートアイテムだ。
「忍者殺法十ノ型!無双転生!」
シグレは両手に短刀を構えると、蝶のように舞い!蜂……いや、カマキリのように斬る!斬る!斬る!一匹が斬る!
シグレの姿は残像となり、まるで分身の術を使っているかのようだ……と思ったら分身の術だった。
一瞬、狙いを定めるように動きを止めたシグレが10人になっていた。三匹どころか十匹で斬っていた。
「シグレめっっっちゃカッコイイ!」
ダインの瞳は、まるでヒーローショーを見ている少年のように輝いている。
君がシグレを好きなのは良く分かったから、少し落ち着きなさい。
「天よ、我が呼び声に答え、我が小宇宙を燃やし尽くせ!コズミック・メテオシャワー!」
「お前もかミレーネ!」
ミレーネが詠唱を終えると、突如として頭上に無数の火球が現れ、それらは一斉に魔王へと降り注いだ。
私達は地下に居るはずなのに、天井が満天の星に埋め尽くされた幻覚が見えた。これなら雨が降っても七夕祭りができそうだ!
説明しよう!この適当に叫んでいるように聞こえる必殺技が、我々の魔法やスキルの威力を格段に上げる呪文詠唱となっているのだ。
得てして魔法に詠唱が有効なのは、その言葉の意味する事柄が力を具現化する為の礎となるからだ。そう!魔法とはイマジネーションなのである!
魔王は次々と繰り出される攻撃に為す術もなくボロボロにされていく。
ちょっと一方的過ぎて可哀想だ。
「グヌゥ!貴様ら…絶対に許さん!」
しかしそこは魔王、まだ我々を攻撃する余力はあるようで、牙を剥き出して大きな口を空けると、凄まじい火力のブレスを吐き出した。
私はすかさず防御魔法を展開する。
「ホーリー・ライト・フィールド全開!」
直撃すれば消し炭になるであろう魔王のブレスを、光の防御膜が打ち消した。
「人間ども、何処まで我を愚弄する気かぁっ!!」
再び魔王の怖ろしい咆哮が、私達の身体を硬直させる。だが!そんな事で私達を留める事はできない!
「エクストリーム・ポーション!!」
「忍者殺法六ノ型連!桜花天誅気刃斬!」
「フロイライン・デモン・ローズ!」
「エクストラ・ヴァージン・オイルショーック!!」
私達は再び力の限り、次々と技を繰り出した。
「え?ちょっ⁉ ズル!俺も……」
次々と強力な攻撃を受けた魔王は、体中の硬い鱗が破壊され、柔らかい肉質が剥き出しになっている。
「今よ!リオン!」
「任せろ!邪悪な魂よ!我が聖剣の錆となれ!ダイアモンド・ローリング・スラッシュ!!」
リオンが一撃で魔王の首を跳ね飛ばした。魔王の首と胴体が別々の方向へと倒れてゆく。
「あ…俺の出番、オワタ……」
「ヤバい!リオンカッコいい!」
そして魔王は動かなくなった。ただの屍のようだ。
こうして、私達は遂に魔王を討ち滅ぼすことに成功したのだった。
しかし、ダインは何故か「orz」の形で両膝と両手を地面についてガックリと項垂れている。
この激しい戦いで、気力も体力も限界に達してしまったのだろうか?
「お前等!ズルい!俺も必殺技使いたかった!いつの間にそんなの……」
「拙者はアリアナ殿に御指南頂いた」
「私もよ」
「僕も」
「オイラもだ」
「何で?何で俺だけ仲間はずれ?」
「あんた、元日本人のくせに何でそれくらい自分で準備しておかないのよ」
「ええぇ、まさかの自己責任⁉」
ダインも光の戦士になりたかったのか。てっきりダインも何かのキャラを演じてるんだと思ってたよ。
「でも、素で『俺はしがない冒険者さ』とか言っちゃう方がよっぽど恥ずかしいよね」
「そういう事言うなよ、死にたくなるだろ……」
ダインは体育座りでうずくまってしまった。いい加減、そろそろお家に帰ろうよ?
ちょっと面倒くさくなってきたな。このまま放置して帰るか……と、出口に向かって歩き出すと、今度は「置いて行くなよぉ」と情けない声を出しながら追いかけてきた。
「そういやさ、ミレーネの『ブラッディローズ』って何処から出てきたネーミングなんだ?」
外へと向う階段を登りながら、ダインがミレーネにそう問いかけた。
「ああそれ?実は私、隣国のメルヘンティーク王国の元貴族で、ミレーニア・ローゼンベルグって名前だったの」
ミレーニア・ローゼンベルグ?はて?何処かで聞いた名前のような……
「でねぇ、若い頃の私の通り名がブラッディローズ(血塗れの薔薇)だったってワケ。自分で名乗ってたワケじゃないのよ?しかも悪い意味でそう呼ばれてたんだけどぉ……でも実は結構気に入ってたのよね!強そうでカッコよくない?」
「貴族令嬢に強さとカッコよさは必要ないよな?普通…」
ふと、その名に思い当たると、私の身体は戦慄し、不規則に視線を彷徨わせた。
「私ねぇ、容姿端麗、頭脳明晰、ナイスバディでしょ?当時は王太子妃候補の筆頭って言われてたのよ?なのに…平民上がりの芋女が王太子殿下に馴れ馴れしくするもんだから、ちょっと…ちょっとよ?意地悪したらね?国外追放されちゃったの〜」
「国外追放って、それちょっとじゃないんじゃねえ?」
私、わかっちゃいました。
無印の悪役令嬢様でいらっしゃいますね??
え?待って?キャラ変わってない?悪役令嬢ってこんなお色気キャラじゃ無かったよね?
「別に殺そうとした訳でもないのにさ!ほんっとムカつくのよね、あの女。こっちは王太子妃候補になるために血の滲む努力をして来たってのに、何もしないでにこにこしてるだけで男共から大事にされてさ…ほんっとムカつくのよねぇ」
大事なことなのか、ミレーネは「ムカつく」を2度繰り返す。それ程腹に据えかねてると言う事か。
無印の王太子ルートの悪役令嬢は、婚約者ではなく王妃候補のライバルと言う立ち位置だ。
ヒロインは貴族の父親と平民の母親の間に産まれた庶子で、ヒロインを身籠った母親は姿を消すが、父親は結婚しないまま母親を探し続け、母親の死後に父親に引き取られると言う筋書きだった。
「私が天才的な魔法の使い手だったから良かったものの、普通だったら野垂れ死んでるわよ、普通そこまでする?」
確かに、今思うと虐めの報復としては度が過ぎる。しかもあれは虐めと言うよりイビリだ。本当に陰湿な虐めと比べたら可愛いもんだった。
ダンスシューズに画鋲を仕込むとか、ボロボロにするとか、いつの時代のバレエ漫画だよ?
それなのに「ダンスシューズは淑女の命なのよ!それをこんな風にボロボロにするなんて!貴女は本当に社交ダンスを愛しているの⁉」と言ってのける気概もなく、ヒロインのダンスシューズに対する愛も足りない。
しかもヒロインとあろう者が虐められているからと男共に縋るべきではない。自らの手で倍返しをしてこそ真・ヒロイン転生である。
負けない、愚痴らない、逃げ出さないがヒロインの三原則だ。「まぐに」と覚えておいて欲しい。
ヒロインの奥義を極める道は得てして厳しいものだ。昨今のヒロインは昭和の少女漫画を読み漁ってから出直して欲しい。
結局のところ、ミレーネは王妃候補争いに破れた結果、禍根を残さない為の追放なのだろう。とはいえヒロイン可愛さに周りが暴走した感が否めない。
エンディングのルートによっては処刑もあり得たわけで、ミレーネが暗殺に手を染めるような事が無くて良かった。
原作のゲームでミレーネが処刑されたり投獄されたり追放されたりするのを見ながら「ざまぁ!追放乙!メシウマ!」ってしていたと言う事実が罪悪感として重くのしかかる。
私は何時から、人の不幸を嘲笑う下衆な人間に成り下がったのであろう。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…」
「なぁに?なんでアリアナが謝るのよ〜」
ミレーネは心配そうな顔をして私を抱き締め、頭を撫でてくれた。ついでに豊満なお胸が右頬に当たって非常に役得である。
この時私は転生したのが2のヒロインで本当に良かったと心から思った。美魔女ボディすげぇ!
斯くして魔王は滅び、世界に平和が訪れた。
世間では、凶悪な魔物が学園に入り込み、その魔物を追って学園を訪れた冒険者一行が討伐したとされた。
魔王の存在は勿論、私達が勇者とその仲間達である事は伏せている。国や教団にこの力を利用されるのは真っ平御免だったからだ。地下遺跡につながる道も、階段を破壊し塞いでおいた。
私は今日から普通の女の子に戻ります。
私達はギルドへの報告を済ますと、近くの酒場で打ち上げを始めた。
コレで私達のパーティーも一旦解散となる。お互いの苦労を労い合い、温かい料理に舌鼓を打つ。
「シグレはまた人探しの旅に出るんだろ?寂しくなるな…」
ダインが肩を落としながらシグレに訪ねた。この国にはどうやらシグレの探し人は居ないようだ。
「次はメルヘンティーク王国に渡ってみようかと……」
「その必要は無いよ」
そこに突然、東洋人らしき男性が現れた。
「わ、若君!」
「久しぶりだね時雨、私を探している者が居ると聞いて、君の跡を追ってきたんだ、隣国に渡る前にお前に会えて良かった」
「おおっ、紫紺様!ご無事で何よりです」
「こんな所まで放蕩者の私を探しに来るとは、国で何かあったのか?」
「はい、我等が草薙家は無羅宗家に滅ぼされ、御当主様と兄君様は討ち死にされました、妹君様は行方も知れず……私は紫紺様をお探しする任を受け、ここまで辿り着いた次第であります」
シグレは国の二大勢力である草薙家に仕える家臣だそうだ。探し人であるシコン様はその次男坊で、国を出て諸外国を旅して周り、長らく国に帰って来る事は無かったそうだ。
草薙家を滅ぼした無羅宗家は、国を統治していた大御門家を傀儡として乗っ取り、権力を握ったのだとか。
シコン様は暫く考え込むと顔を上げ、何やら決意を固めたお顔でシグレを見つめた。
「分かった、私に何ができるかは分からぬが、先ずは国に帰ろう、父上と兄上の墓前にも花を供えたいしな……」
そこに、ザジスも付いていきたいと願い出て、シグレ達は準備が整い次第、母国に向けて立つそうだ。
ザジスには東洋の食材を手に入れたら必ず連絡をするようにと、欲しい食材リストを持たせる事にした。
「国が落ち着いたら、天人台国にも遊びに来てくれ」
天人台国…?あれ?その国の名前、何処かで聞いたような?
「あっ!コミカライズの作家の⁉」
「コミカライズ?」
「コミカライズ版の作者の別の漫画に『天人台国』って国が出てくるの、その漫画のヒロインのお兄さんが確か『紫紺』て名前だった!」
「じゃあ何か?ここはその作者の漫画の世界が繋がってできてるのか?」
「その可能性は十分あると思う」
もしかしたら、私達はこの世界の成り立ちの謎に触れたのかも知れない。
でもそこまでだ。しかも、だからと言って私達の生活に関わるのでは無いのなら、知った所で意味はない。この国の物語は魔王討伐と共に終わったのだから。
それから、シコン様も交えて私達は時間の許す限り食事を楽しんだ。
ー・ー・ー・ー・ー・ー
私とダインは夏季休暇から全く通学していなかった事もあり留年となった。
4月から新入生と共に、一年生として再び学園二通っている。
私は事前に家族と連絡を取って休学届けを出していたし、ウチの親も何事も人生経験と許してくれたが、ダインはご両親から大目玉を食らったらしい。何で親に何も言わず休学届も出さなかったのさ。
「なあアリアナ、次の休みに一狩り行かねぇ?」
「行く行く〜」
「リオンも連れて行くな」
私達はまだ冒険者としても活動している。
休日になると、リオンも含めて3人で依頼を受けている。夏季休暇にはまた遠出しても良いかもしれない。
「だったらぁ、私も連れて行ってよぉ」
そう声をかけてきたのはミレーネだ。驚くことに、ミレーネは学園の魔術教師として教鞭を取り始めた。
生徒達の前では礼儀に厳しい貴族のそれだったが、私達の前では崩れた喋り方になる。
見た目も淑女そのものの身なりで、冒険者時代の喋り方をされると違和感が半端ない。
リオンはダインの実家、マスガル家に養子として引き取られた。
来年度にはリオンも学園に通う事になる為、家ではみっちり勉学に励んで居るそうだ。
「アリアナ、俺…ダインには負けないからね!」
リオンとダインは義兄弟として上手くやっているようだが、リオンは何だかやたらとダインに対抗心を燃やしているようだ。
「うん?そうかぁ、頑張れ〜」
「真面目に言ってるんだよ!」
「だから応援してるって!」
ポンポンと頭を撫でると、何時もの「子供扱いしないでよ」という台詞と共に、顔を真っ赤にして私の手から逃げ出した。
1年後、リオンが学園へと入学すると共に、私にとって本当の意味での乙女ゲームが始まる事を私はまだ知らない。
私達の物語はまだまだ続く……
END
ついカッとなって書いてしまった。だが反省はしていない。
自己満足の塊ですが、少しでも楽しみ頂けたなら幸です。
因みに、アリアナの前世の職業は漫画雑誌の編集者、ダインは高校の体育教師です。