37 エルフェアーとドワッフル
今回は臨時とはいえ新メンバーが一人加わるんだ。
「そのパーティーに臨時メンバーとして加入させてくれまいか。ワシは幕内力士蔵剣関のパーティーの一員、メダル鉱山乃ハロウグッバイ。例の巨大岩騒ぎで彼とはしばらくの間別行動を取ることになってしまってな。それでジーコの町に着くまでの間、しばらくご厄介になろうかと思った次第なのだ」
いきなりのタイミングで加入を申し込んで来たのは、身長がエンヌ嬢よりさらに小柄の、長い顎髭を蓄えたずんぐりとした体格の男であった。年齢はヒトで言うと50、60、あるいは70代にさしかかっているお年頃か。年齢に幅があり過ぎるって?記憶喪失で年齢を見る感覚は鈍っているので、勘弁してほしい。
「まあ、ドワッフル!」
「ふぬ。まさに千年繁栄と謳われておる妖人種の一種ドワッフルよ。犬猿の仲と言われておるドワッフルとエルフェアーでこそあるが、呉越同舟なんぞでは決してなく一緒のパーティーとして仲良くやっていけると証明してやろうぞ、万年最下位のエルフェアーのお嬢ちゃん。長命種の我らからしたらほんの瞬きの間、お互いに我慢できない時間ではあるまい」
「もお!そんな悪いことを平然と口にするドワッフルの人とは仲良くなんてなれないし、一秒たりとも仲良くなんてしたくありません!」
俺は目をまんまるくしながらエンヌ嬢とドワッフル族の男とのやりとりを見つめていた。記憶喪失の俺だけどこれだけは分かる。絶対、この二人仲良くなんてできないと。
「俺、記憶喪失のヒト族でドワッフル族のことはよく分からないんですけど、エルフェアー族で森林の女神サクラローラの巫女でもある、エンヌ嬢がとてもあなたのことを嫌っているみたいなので、このパーティーのリーダーとしてあなたの加入を認めるわけにはいきません。悪いけど他のパーティーに当たってみてください」
俺はリーダーとしてキッパリと断る。だいたい万年最下位とか失礼に程があるだろう。
「雷電関、その言い方失礼だし、すごく喧嘩腰すぎるよ。断るにしても、もうちょっとやんわりとした言い方……」
「カズコはんの言う通りまんねん。あちらはんから仲間に入れて、と好意的に言ってきたまんねんよ」
そうか。悪気はなかったとしても、相手や第三者には尖った言い方に聴こえてしまう時もあるんだな。
「おととい……」
俺がドワッフルのおじいちゃんに謝ろうと口を開きかけた時、彼の方から口を開いた。
「流石はヒト族のおふたり、長生きしすぎるあまり頭が硬化してしまったエルフェアーより話しは分かってくれそうだな」
「もう、頭が鉱山の岩盤より硬くて融通の効かないドワッフルにだけは言われたくないんだから!」
火花を散らすエンヌ嬢とドワッフルのおじいちゃん。
「お二方、エルフェアーとドワッフルってそんなに仲が悪いものなのか?」
ラムはんとカズコ嬢に尋ねる。
「残念ながら仲は良くないまんねん。ドワッフルは千年、エルフェアーは万年。寿命の短いヒトやその他の種族は長命である二つの種族をそう讃えて、また長生きしようとあやかるまんねんけど、それゆえお互いに強いライバル意識が芽生えてしまったと言われているまんねん」
「タカサゴのドワッフルの翁とエルフェアーの若い娘みたいな夫婦もいるんだろうけど、たいていはやっぱ仲が良くないみたい……」
「なるほど。となると、やっぱり彼の加入を認めるわけにはいかないな」
「いくら雷関がリーダー言うても、自分一人の意見や自分が所属していたパーティーの古参メンバーばかり優遇してまうのはダメまんねん」
「うん。ラムはんのいう通りだよ」
「え?二人は彼の加入に賛成なのかい?」
「yesまんねん。リリィはんには堪忍まんねんけど、今のうちらのパーティーでパワー系、肉弾物理攻撃でエネモン相手に戦えるのは雷関だけまんねん。バランスを考えたら是非ともドワッフルのあんはんに加入して欲しいまんねん」
「うん。ラムはんのいう通りだよ。とくにあたしなんて魔法さえもろくに唱えられない、サポート系要員からしたら、逞しい肉体と鍛え抜かれた技でガンガン敵をやっつけてくれる肉体派要員は、精神的な支えにもなってくれるの。だから、その、リリエンヌちゃんには申し訳ないけど、あたしもドワッフルの方の加入には賛成するよ……」
「わたしリリエンヌは断固反対。サンちゃんもわたし以外の人の意見も考慮して、賛成か反対か改めて考えてみて。新しいパーティーのリーダーとして、初めての決断を試される時なんだからね。その結果、出した答えがわたしと同じだったら、すごくすごーく嬉しいし助かるけど」
エンヌ嬢が穏やかな表情を精一杯作って、この上なく怒りのこもった笑みを浮かべながら、俺のことを見つめてくる。これって、ほぼ100%答えを強制してきているよ……。
「俺はドワッフル、ハロウグッバイ殿の加入に賛成票を投じさせてもらうよ。ドワッフルというのがどのような種族なのか知りたいし、彼と行動を共にすることによって、俺の記憶が蘇るかも知れないからな。それに、肉弾攻撃をメインで戦えるメンバーが俺一人だけっていうのも、正直きついからな。やはり、もう一人欲しいところだよ。エンヌ嬢も剣や格闘技でかなり戦えるけど、あくまで回復魔法がメインだからな」
俺は自分の意見をキッパリと言った。エンヌ嬢が怒ったり拗ねたりしないか不安であったが、流石は巫女としてリタを心得ているだけある、多数決の結果をため息一つで受け入れてくれたようだ。
俺たちのパーティーは4人プラス臨時メンバ1人の計5人となった。物理攻撃をメインに戦う者が2人、回復と攻撃、それぞれの魔法が得意な者が1人ずつ2人いて、何かと役立ってくれるだろうサポート役も1人いて、バランスの取れた良いパーティーだと我ながら思う。
「えっと、では、ケーオー牧場のクエストワーキングの件ですが、力士雷電サンダーさんをリーダーとする5人パーティーがお引き受けするってことで良いのですね?」
「ええ。それでお願いします」
受付のお姉さんが石版を指先で操作していく。すぐに手続きは完了した。
「労働条件等、アドレスを公開している方にはメールでお送りするので忘れずに確認してくださいね。また、ハローワークマルキーニョスのホームページでも閲覧は可能ですので、こちらも併せてご利用ください」
リーダーとしてチェックしなければならないが、こういった操作は若い女性の方が得意そうなので、三人には頼ることになりそうだ。
ところで、丁寧な対応をしてくれた、ショート気味のエメラルドグリーンの髪の毛をした受付嬢のお姉さんであるが、俺とエンヌ嬢のことを頬を真っ赤にしながら見つめている。表情はどこか上の空。何かいけない妄想でもしているのであろうか?
用は済んだし、ハローワークを後にするか。そう思って入り口近くの掲示板、たくさんあるうちの一枚の紙シートが何気に目に入った瞬間であった。何かが気になって引っかかってじっくりノーチス(注目)してみた。
「え!休養中だった魔王がついに目覚めただって!休養魔王ア・デモスを倒せ!求ム、勇者英雄聖女さま!討伐クエストワーク募集中。なんたること、これは力士たちも一つにまとまり、魔王退治に行かなければ!もちろん、俺だって微力ながら!」
「あ。サンちゃん。これプラネットルナでは恒例イベントだから気にしなくて良いから」
「リリィはんの言う通りまんねん。月世界にはガチのエネモンハンター討伐やクエスト攻略好きの冒険者のために、いつも魔王退治のクエストワークが用意されているまんねん。これもそのうちの一つまんねん」
「え?魔王ってそんなにいるもんなのかい?この月世界には」
「うん。今回は休養魔王、前回は暫定魔王、正規魔王にスーパー魔王、認定魔王なんてのもいたかな。兎にも角にも魔王を乱立しすぎなんだ……」
「さらに魔界も一つだけではなく、主要4魔界の他にマイナーな魔界もあったりして、もう何がなんだかサッパリ分かりかねる状態なのだよ」
「みんなが説明したようにプラネットルナには沢山の魔界に魔王が乱立していて、半ばスライムやゴブルンみたいになってしまっているんだ。それゆえ、世界滅亡の危機とかとまったくの無縁だから気にしなくて大丈夫なんだよ、サンちゃん」
「なるほど。下手したら今回俺たちが引き受けたクエストの方が、よほど世のため人のためになるって認識で良いんだよな?」
「まあ、そういうことまんねん」
この世に大いなる禍をもたらす存在はいないみたいなので、俺はホッとした。
エンヌ嬢とハロウグッバイは上手くやっていけるのかな?次回以降、ハラハラドキドキだね。
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