第八十四話 せっかく異世界に来たんだから会議をしよう。
「許されるわけがない」
テラアナ・ポルパラの奴隷になる過程を鑑定〈人間〉を使って読んでいく。
その壮絶な内容に思わず腹の奥底からこみ上げるものがあった。
すぐにでも動き出したい。
だが、それでは。
「聖帝様、よろしいでしょうか?」
その声に振り返るとシスターがいた。
もう、準備ができたのだろうか?
「テルマリリ・フォルマトル様が先に話がしたいと」
「そうですね、その方がいい」
シスターに連れられて教会の奥へと連れられる。
何枚もの扉をくぐり、迷路のような道を進み、古い扉の前で壮年のシスターが待っていた。
「ここからは私がご案内いたします」
ここまで案内してくれたシスターが帰っていく。
その背中が見えなくなると、扉が開けられた。
「すでに、中でお待ちです」
「分かりました」
中に入るとそこには何枚もの鏡が置かれていた。
様々な大きさのどれ一つとして同じものは無かった。
豪華な装飾がされている物、シンプルな造りの物、手鏡の物。
その異様さが俺を緊張させた。
「あまり、穏やかではないですね」
その声に振り向く。
それは木製の縁の姿見だった。
そこには俺ではなく、テルマリリ様の姿が映し出されていた。
「お久しぶりです」
これは教会内で秘密にされている連絡手段の一つである。
まあ、言ってしまえば前世で言う所のテレビ電話のようなものだ。
だが、この魔法具はかなり貴重品で、その存在も秘匿されているとか。
俺はすぐに頭を下げる。
「手紙ではやり取りをしていましたが、三年。確かにかなり久しぶりね」
鏡に映るテルマリリ様は元々白髪が多かったが、その髪は真っ白になっていた。
しわも増え、久しぶりに見たその姿はずいぶんと老け込んでいるように見える。
やはり、王都の教会の運営はそれだけ心労が大きいのだろう。
「早速だが、この会議を開く意味が分かっているのですか?」
その鋭い眼光にいつかのシューランの姿を思い出す。
この人はそれだけの多くの責任と力を持っている。
もう気のいいおばさんではいかないのだろう。
心して対応しなくては。
「それほどの案件だと、愚考いたしました」
「それは、ギーレン領近くで起ころうとしている戦争の件かい?」
もう、情報は手に入れているのか。
「教会では既にその情報が?」
「王城からそれとなくは」
王城から?
出所はよくわからない、だが。
「このままいけばまず間違いなく起こる事かと思われます」
「まあ、それとなく原因は分かっていますが、事実の確認がまだできていません。つまりはその事実の真偽をお前は握っている。そう解釈していいのですか?」
「はい」
「なるほど。確かに、異端審問議会の必要はあるようですね」
テルマリリ様のその発言にすべての鏡に人影が写される。
その姿は全て豪華な祭服に身を包まれ、その胸には色付きの羽に包まれた十字架を首から下げられている。
その中には虹色の翼も。
教皇もいらっしゃるのか。
「皆様の貴重なお時間を頂き、感謝を申し上げます」
「よい、それよりも本題に入ろう」
「まずは、これまでの経緯を」
まずは俺はギーレン公爵のお願いに寄り、自分から国境近くのカタハナ村でラグタット側から諜報員が来ている事、その諜報員がどのようなことを調べているかを調査していたことを話す。
そして、戦争が確実になったことにより、調査を中止し、ギーレン領に戻ってきた、事にした。
まあ、好きな人が他の人とと勘違いして自暴自棄になってギーレン領に逃げたって事は伏せていいだろう。
「その際に、犯罪奴隷商を伺う機会があったのですが、テルアナ・ポルパラ様を保護いたしました」
「「な!?」」
数人が驚きの声を漏らす。
それは、そのはずだろう。
「彼女は九歳の、天職前の子供です」
「……。ラグタットから、なにか情報は?」
教皇様の言葉に「はい!」と女性のこわばった声が後ろの鏡から聞こえる。
この場には全世界の聖女、枢機卿が集まっている。
ラグタットの聖女が来ていてもおかしくはないだろう。
「テルアナ・ポルパラ様はポルパラ議員の次女です。先日、何者かの襲撃により連れ去られました。その者たちはキングレオ王国へまた逃げたと報告を受けておりました」
「また、ですか」
また、とはどういうことだろうか?
なにか、俺の知らないところで。
「ちなみになんで奴隷落ちしたか、分かるか?」
「はい。テルアナ嬢は殺人による罪により、犯罪どれ「そんな筈ない!!」
後ろからラグタットの聖女が声を遮る。
確かに、九歳の子供が奴隷落ちすることも、殺人を起こすことも理解できないだろう。
だが、これは現実である。
「彼女は殺人を強要されて、行ったようです」
「……。確かな情報なのか?」
「はい。私には天恵スキルで鑑定〈人間〉を持っています。それで、ここ数週間の記憶を勝手ながら覗かせていただきました」
「覗きとは、感心しないな」
「申し訳ありません。ですが、彼女自身が心身ともに大きな傷を負い、まだ喋ることもできない状態でしたので」
「しかた、なかったか」
教皇は言葉を止める。
何かを考えているようだ。
それを誰もが固唾をのみ、待つ。
「そなたは、人を殺せるか?」
「……はい?」
教皇の言葉に俺は思わず言葉を漏らす。
人を殺せるか?
それは。
「殺せる覚悟があるか、という事ですか?」
「違う。力があるか? という事だ。そして、あるのであれば、殺せという命令でもある」
俺はまだ未成年だぞ。
それなのに、殺せって。
「この世には人を殺しても罪に問われない人間がいる。そういうことですよ」
「それって?」
「戦争時における兵士や騎士。そして、断罪人」
教皇の言葉に皆がざわめきだす。
その言葉の意味の重さを意味していた。
「その考えは早計かと!」
「そうだ! まだ、子供ではないか。断罪人だなんて」
「法の裁きと刑の執行をこの子供が満足に行えるなど」
「黙れ!!」
先程とは打って変わり、教皇の言葉に誰もが静まり返る。
教皇の口から小さなため息がこぼれた。
「フォルトロンよ」
「はい」
「ギーレンの領主にこのことは?」
「まだ、話していません」
「なぜ?」
「今回の事件において、もっとも危惧するべきことは天職前の子供が犯罪者にされたことだと思ったからです。本来天職前の子供が犯罪を犯したとしても奴隷落ちまではありません。どんなに重くても、適齢期になるまで教会預かりになります。それなのに。そして、同じような理由で奴隷落ちした女性を二人さらに保護しました。この事から裁判に置いて何かしらの不正があったと考えました。この場合、領主、最悪国全体で不正が行われている可能性もあります」
「そこまででよい。なるほど、シューランの言う通りだったな」
シューラン、何言いやがった。
なぜか俺が断罪人になりそうな、フラグに。
「このまま調査は行います。ですが、人の生き死にを判断するにはまだ能力不足に思います」
さすがに、どこかの主人公みたいに盗賊だからといって人を殺すような度胸も覚悟もない。
ここでは早々に拒否するしか。
「先ほども言ったぞ、フォルトロン。その名の当主として、一人の聖徒として、その命を全うせよ」
当主。
……。
?
「すみません、教皇様。まだ、アルマルデが彼に伝えてない可能性が」
「!? そ、そんなことがあるのか」
おっと。
教皇様も狼狽えている。
どういうこと?
「ボルヴァード。先日、アルマルデ様が貴方を正式な後継者として、世代交代したことを発表しました」
……は?
なにそれ。
聞いてない。
頭が追い付かない。
今頃なぜ?
「落ち着きなさい。それよりも、進めなくてはならない話が」
「え、あ、そう。そうでした」
でも、あれ?
何は話してたっけ。
「……。このような状態で正式任命するのは心苦しいが、不穏な噂を聞いている。身の危険もあるだろう。断罪人としての証は渡そう」
そう言われると同時に、俺の胸の十字架が赤く染まる。
「キングレオ、ラグタットの聖女両名は異端審問隊を編成しギーレンへ送りなさい。その後、正式な調査及び異端審問、刑の執行の命令を下す。それまでにフォルトロン。心を決めておきなさい」
そして、教皇の姿が鏡から消えるとほとんどの鏡から人影が消えるのだった。
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