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第五十七話 せっかく異世界に来たんだから、俺でいたい。

よろしくお願いします。


鉱山前の坑道入り口に貼られたテントの中で俺は自分の仕事が来るまで待機していた。


どうか、誰も傷つきませんように。


そんなことは無理なのは分かっている。

普通のモンスター相手にも毎日のように怪我人が運ばれてきていた。

でも、願わずに入れなかった。


「俺はどうすれば?」


もう答えなど分からなかった。

国に討伐に参加するよう強制され、シューラン猊下に言われるがまま討伐に来て、教会の命令で回復魔法をかけ続けた。

この討伐に俺の意思はあったのだろうか?

元々俺が国に言われるがままドラゴン討伐に参加していればミドリちゃんに嘘をつかずにいられた。

シューラン猊下に言われるがまま討伐に来ていればセシアさんとガシェルさんが傷つかずに済んだ。

教会に命令通りに回復魔法をかけていればおっさんたちを死なせなかった。


「お兄ちゃん、ご飯ちょうだい」


スピレイは俺が食べなかった冷え切った朝食を指さしてそう言った。


「もうすぐお昼も届くよ」


「じゃあ、それもちょうだい」


本当にこいつは。


「いつでもお前は変わらないな」


「? 私はスピレイで、他の誰でもない」


俺の言葉は難しかったか。

小さなため息をついた。


「ねえ、お兄ちゃんはお兄ちゃんじゃない?」


「は?」


スピレイはパンを頬張りながら聞いてきた。

その目は純粋で本当にそのままの意味で俺に聞いてきたのかもしれない。


「俺は、だれなんだろうな?」


「???」


特に意味のある言葉ではなかった。

でも、スピレイは頭を傾げて考え込んでしまった。

スピレイの口に着いたパンくずをとろうと俺はカバンの中からタオルをとろうとした時だった。

何かが落ちたのだ。


「あ、手紙」


洗礼前にシシリアお嬢様から届いた手紙だった。

だが、洗礼後に王都へ戻ってきてお嬢様の手紙が届かなくなっていたことや、返しの手紙の返事が来ないことからもう見捨てられてしまったか、他に興味が移ってしまったのだろう。

ああ。


「戻りたい」


ルヴァンとして生きてきたあの伯爵領に、あの屋敷に帰りたい。


「戻っちゃダメ?」


スピレイが俺を覗き込むように聞いてきた。

戻れればどれだけよかったか。


「戻れないよ」


一人であの距離を戻るなんてできない。

中途半端に戻っても迷惑をかけるだけ。

それ以上に人を死に追い込んでしまった俺なんて。


「人間よくわからない」


「え?」


「精霊、好きなように生きる。行きたいところに行き、食べたいものを食べたいとき食べ、寝たいときに寝る。命一個。なぜ好きに生きない?」


「それは」


俺は確かになんで自分の意思で生きていないのだろうか?

忘れたわけではない。

俺が前世でたくさんの後悔を残して死んだことを。

両親を残してしまった事。

大好きなマンガの最終回を見れなかった事。

恋をすることもなかった事。

……


「ああ、一度繰り返した間違いを繰り返すとこだったんだな」


「ねえ」


スピレイはいつもの無表情だ。


「お兄ちゃんはだれ?」


「俺はボルヴァード。ただのボルヴァードだよ」


俺は今揃えられる装備をありったけ着こむ。

そして、ハーキスタ家の指輪を見えるようにする。


「スピレイ、手伝ってほしいことがある」


「ご飯、一週間分」


「ありがとう」


俺は先日貰った酒を一口飲む。

その瞬間、体に力がみなぎった。


「おいおい。楽しそうな事始めようとしてるじゃねえか」


アンミリが背中に大剣を担いで入ってきた。


「魔法は使い過ぎない方がいいんだろ? これで、ドラゴンをぶんなぐってやるぜ」


「待ちなさい」


クロクリが俺たちの進みを止める。

三人の中では割かし常識人よりだし、やはり止めに。


「準備できてないのよ。お弁当にシート。後、暇なときに読む本が」


ピクニックにでも行くのだろうか?


「そんなの待ってられるかよ!」


アンミリがクロクリを引きづるようにテントを出る。

俺も後を追うように出る。

だが、二人がその歩を止めていた。


「どこに行くのかな? ボルヴァード・フォルトロン」


声の方を向くとそこにはシューラン猊下がいた。


「坑道に。昨日治療した人は戦ってはいけないと伝えに行きます。ついでに、怪我人の治療もしてきます」


「それは許可できない。そう、言ったら?」


俺は指輪を見せる。


「俺はボルヴァード・フォルトロン・ハーキスタ。元々、ハーキスタ家の人間だ。あなたの命令を聞く必要はない」


かなり厳しい言い訳だ。

もし、本気で止められたら。


「そうか。なら行くといい」


「え?」


「それなら、行きなさい。私の気持ちが変わる前に」


俺はシューラン猊下の横を走りすぎる。

その時、すれ違った俺の顔は晴れやかな顔だった。


坑道の入り口には兵士がいた。

教会の指示で来たと言うと、俺の隣にはアンミリとクロクリを見ると渋々中に入れてくれた。

坑道の中は薄暗く、中が全く見えなかった。


「ほら、早く行こうぜ」


アンミリは俺の背を叩いて坑道の中に入っていこうとする。


「まって、アンミリ、こっち」


スピレイはアンミリが進もうとした方向とは別の方を指差す。


「スピレイはドラゴンがどこにいるか分かるのか?」


「岩に囲まれて、魔力の流れ、わかる」


「スピレイは大地の精霊だからそういうのも分るんです」


クロクリが言葉足らずなスピレイの補足説明をする。


「なら、先に行ってもらってもいいか?」


「うん」


俺達はスピレイの案内の元、先に進んでいく。

そのスピードはとんでもなく早く、鍛えている俺ですらぎりぎりついていくのがやっとだった。

そして、いくつか目の角を曲がろうとした時だった。


グルルル、カチャ、キュイーン


獣のような唸り声と、機械音が混ざり合ったような音が聞こえてきた。

覗き込むように角からその姿を伺う。


「これが」


リヴォルヴァ―ドラゴン。

その姿はドラゴンのような体と翼を持っているのに、頭上には拳銃のような銃口がついており、いたるところが機械のように黒光りしていた。

いうなればそう。


「サイボーグみたい」


「え?」


後ろを振り浮くとそこにはシラユリがいた。

俺は嫌われたと思って呼ばずに来たのだが。


「なんで来た」


「そりゃ、あんたの大事な杖の精霊なのよ。どこまでもついていくわ」


「でも、最低だって」


「まあ、出来の悪い弟ができたと思って、助けて上げるわよ」


「ありがとう」


でも、まだ兵士たちの姿は無い。

俺達が先に見つけてしまったようだ。


「とりあえず「先手必勝!」


兵士たちと合流しようという前にアンミリはドラゴンに大剣をたたき込んだのだった。











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