第五十六話 せっかく異世界に来たんだから、俺は。
遅くなりました。
よろしくお願いします。
「俺はどれくらい気を失ってた?」
「ほんの数秒ってとこ」
俺を支えていたアンミリが答える。
目の前に先ほどのお兄さんが開いた口を開いたまま声なき声を必死に出そうとしていた。
それもそうだ。
先ほどまで死にかけていた兵士たちが全員何事もなかったかのように起き上がっているのだから。
「お前の事を少し過小評価していた」
アンミリが感心したように俺に話しかけてくる。
でも、これは色々と偶然が重なって出来た魔法だ。
「運が少し良かっただけだ」
「運も実力の内だろ?」
「そう、か」
しばらくしてアンミリに支えながらも動けるようになった。
もう用はないので倉庫から出ていこうとした時だった。
「まて、〈聖帝〉。君は教会に戻るべきではない」
「どういうこと、でしょうか?」
「君は確かに〈聖帝〉としての力を見せた。でも、そんな力を持っているからこそこれから教会に担ぎ上げられる。私が保護しよう。一緒に来なさい」
そう言って彼は俺に手をさし伸ばした時だった。
俺の前にそこに居るはずのない人物が立っていた。
「それは看過できないよ」
「シューラン・フォルトロン」
「久しいね。ギーレン公」
金色の目でシューラン猊下はお兄さんを睨みながら手を振る。
すると修道士が現れアンミリから俺を離すとその人たちに連れられて倉庫を出た。
その姿にお兄さんは顔を歪めた。
「これが教会の。神の御心ってやつなのか!」
「何を言う。愚王の臆病心のせいだろ」
シューラン猊下は呆れたように呟く。
そして、静かに倉庫の扉を閉じたのだった。
何も言わずに修道士たちに連れられて教会にまで戻る。
その後、俺はシューラン猊下に奥の部屋に連れていかれる。
「ルヴァンくん。これ以上、貴族には関わらない方がいい」
「はい」
「それと、君の個人スキルを教えてくれないかい?」
俺は先ほど出来上がってしまった魔法について語ろうとした時だった。
「もう、ボルヴァードくんは寝かせて上げた方がいいのでは?」
声の方を向くと入り口にテルマリリ様がいた。
シューラン猊下は少し考えた後に「寝なさい」と一言残して、テルマリリ様と部屋から出て行ってしまった。
俺は部屋に戻ったのだった。
「大丈夫か?」
部屋に戻る途中でアンミリが俺の隣で話しかけてきた。
何が大丈夫かのかもうわからない。
だから、一言「疲れた」と残して布団にくるまったのだった。
次の日、俺は修行する気が起きなく、かといって何もしないのはもったいなく思った俺は〈ヴァルハラ〉術式を展開していた。
もちろん魔力もMPも足らない今の状態では発動するわけがない。
そして、魔法術式を理解できるわけもなかった。
「あら、変わった術式ね」
クロクリがいつの間にか俺の部屋に入ってきてそう言ったのだった。
これが分かるのだろうか?
「これって、どういう魔法なのかわかるか?」
「完全には無理だけど。それでもいいなら」
「教えてくれ」
「いいわよ。まず、この魔法陣の大本、柱になるのは前に練習してた〈リカバリー〉で間違いなさそう。でも、効果指定範囲が大きいわね。なのに、この魔法陣〈リカバリー〉よりも外枠の枠が多いでしょ?これで」
ちっとも理解できない。
「だから、この陣が「ごめん、簡潔に能力だけ教えてくれ」
呆れたようにクロクリがため息をついた。
「効果自体は〈リカバリー〉と同じで身体損傷、状態異常の回復だけどこの魔法は範囲指定をして発動する。つまり多数に発動できるの」
「それは昨日発動したときに確認してる」
「しかも、〈リカバリー〉なんかよりずっと早く回復させるように見せてる。これ、半分しか回復魔法じゃないの」
「どういうこと?」
「〈リカバリー〉は治癒能力を大幅に向上させる魔法スキルなの。でも、この〈ヴァルハラ〉? の術式は何かのスキルで失った身体を補って、その間に回復魔法でゆっくり回復させるものみたい」
その何かのスキルは俺の〈介助〉の事だろう。
でもそれって。
「〈リカバリー〉もどきみたいな感じかな?」
「そうね。でも、〈リカバリー〉は一度に使う体力が多くて体への負担が大きいのに対して、〈ヴァルハラ〉は一度に来るわけじゃないから体への負担が少ない。それに、一人に対して必要なMPは少ないわ」
「そうなんだ」
どちらがいいというわけではないようだ。
だが、まだ魔力もMPも〈神々の血〉で補わないとどちらも発動はできない。
まだ、精進は必要だろう
「ただ、この魔法は永続的な回復魔法だから、その上から回復魔法はかけられない欠点はあるわ」
「それって」
負傷した場合、回復魔法をかけられない。
「兵士にかけたのよね? すぐに伝えに行かないと」
戦いに出てしまう。
しかも、今日からドラゴン討伐の作戦が始まる!
俺は教会を抜け出して兵士の宿舎に向かおうとした時だった。
「どこに行こうというのかね?」
「猊下、それが「まだ、君はいかなくていい」
シューラン猊下は理由も聞かずに宿舎に行くのを止めたのだ。
でも、このままでは。
「まだ、その時ではない」
シューラン猊下は金色の目の視線を俺に向ける。
俺はその恐怖に思わず足がすくんでしまった。
でも、俺は救える命があるなら。
カンカンカン!
外から鐘の音が聞こえる。
「もう、出発したようだ。私たちも直ぐに行くことになる。準備をしよう」
シューラン猊下の声は芯まで凍りそうなほど冷たかった。
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