第五十五話 せっかく異世界に来たんだから、前を向ける人生を送りたい。
よろしくお願いします。
俺は教会にどうやって帰ったか分からない。
気づいたら自分の部屋のベッドで布団にくるまっていた。
「俺は」
悪気はなかった。
でも、俺が洗脳して、モンスターと戦わせたせいで。
「死なせた」
その事実を口にした瞬間に急激に体温を奪われる感覚に襲われた。
思わず涙が流れてくる。
あの時、俺がモンスターと戦うように言わなければ。
歌なんて歌わなければ。
「大丈夫?」
シラユリがスピレイと一緒に食事を持ってきてくれていた。
スピレイの持っているパンの端っこが無くなっているのはもう見慣れていた。
「疲れてるの?」
隣に座ったシラユリは俺の前に食事を置いてくれる。
それを、俺の膝の上に座ったスピレイが「味見」と言いながら食べていく。
「なにか、力になれることがあるなら話を聞くよ」
シラユリのやさしさに。
あまりにも重い罪に。
俺はいつの間にか口を開いた。
「俺のせいで人が死んだ」
シラユリが目を大きくして俺を見てくる。
軽蔑されてしまったか。
スピレイだけは変わらずパンを頬張っている。
「どういうこと?」
しばらくの沈黙の後にシラユリが説明を求めてきた。
俺はその日の事を淡々と話し始めた。
それを何も言わずに聞いてくれた。
そして、話し終える。
「俺は」
「最低だね」
「……そうだな」
罪も償わずにこんなところで逃げ込んでいるのだから。
ちゃんと出頭しないと。
「あら、こんなところにいたの?」
クロクリが入ってきた。
「もう負傷兵の選定が終わってるわよ」
「すまない、行くところができた」
「でも、治療はどうするの?」
「他の人 ……、は無理か」
窓を見ると真っ暗になっていた。
こんな時間に起きている奴はいない。
なら、最後の仕事をするべきだろう。
「治療してくるよ」
俺は一人立ち上がって治療室に向かった。
そこにはアンミリが負傷兵を並べていた。
「準備は、っておい。どうした? ひどい顔してるぞ」
「大丈夫です。回復魔法をかけて行くので手伝ってもらってもいいですか?」
「お、おう」
回復魔法をかけて行くとアンミリが回復した負傷兵を次々に端に寄せていく。
今回は三十人以上いた。
「助かったよ。昨日から順番が回ってこなくて」
回復魔法をかけた兵士がそう言って起き上がった。
「いえ、当然のことをしたまでです」
「……。それって、神の教えとか、そういうのか?」
アンミリが聞いてくる。
「違います。元々神なんてものをそんなに信じてませんから」
「そんな、修道士がいるんだな」
起き上がった兵士のお兄さんが物珍しそうなものを見るように俺を見てきた。
前世では信仰なんてものとは無縁の日本人だった。
フォルトニア教でも創造神の人柱であるフォルトンとかいうもの信仰の要にしているが正直俺にはピンと来ていなかった。
「それなら、なんでだ?」
「前までは、ただ助けたいと思ってました」
でも、ここに来てからはフォルトニア教の人間として当然の仕事として。
そして、自身の修行のために行ってきた。
「今は少しでも贖罪になればと」
「は? ガキが何言ってんだ?」
「俺はおっさんを、歌唱魔法で洗脳して、戦わせて、死なせて、しまった」
「それって、どういう?」
「俺には歌唱魔法という聞いた相手に強化や弱体化をさせる魔法があります。最初は元気になってほしくて歌ってたけど、お酒を飲んだ勢いで歌い過ぎてしまって、そのせいで正確な判断ができなくなったおっさんを戦いに向かわせて、死なせてしまった」
いつの間にか泣いてしまっていた。
そんな俺を兵士のお兄さんは拳骨を俺の頭に落としたのだった。
「い、いてえ」
「これが教会の〈聖帝〉、ただのガキじゃないか。こんなのにこの国の王は」
「え?」
「いいか? 子供がこんな死地に来るのもおかしいし、教会の人間だからってこんな夜更けに回復魔法をかけ続けるのもどうかしてる。正確な判断ができなくなってるのはお前の方だ!」
「あ、あの」
「それに、こっちにこい」
俺は兵士のお兄さんに連れられて宿舎の後ろにある倉庫に連れてこられる。
そこに着いた瞬間鉄に似た生臭いにおいが俺を襲った。
「見ろ」
暗くてよく見えなかったがそこには多くの負傷兵がいた。
すぐに俺は回復魔法をかけように行こうとするが、それをアンミリが止める。
「全員にかけてたらMPがいくつあっても足らない。それにここのはもう助からない」
「で、でも!」
「彼女の言う通りだ。ここの魔物の中には毒を持つ者も少なくない。もう、解毒剤は無いし、今解毒しても体に回りすぎて完全に取り除けるのはそれこそ、聖女アルマルデ様の〈リカバリー〉くらいだ」
「では、なんで、ここに俺を?」
俺の背中を叩いて兵士のお兄さんはその光景を見ながら言った。
「この遠征はもともと無理があった。昨日死ななくても今日、明日死んでいたかもしれない。むしろ、バドフの隊がマンティコアを倒してくれたおかげでさらに多くの犠牲を出さずにドラゴン討伐に迎える」
「でも」
「それにな彼らの死の責任を負うのは俺の仕事だ! 戦闘に行くように命令を出したのも、戦いが長引いてるのもだ。まだ、年端もいかねえガキが人の仕事を奪うんじゃねえ」
その言葉に俺の肩が少し軽くなった。
だが、目の前の光景が変わるわけじゃない。
俺には〈リカバリー〉を発動できても魔力もMP足らなくてそれはできない。
もう、死に行く彼らを見ているだけしかないのだろうか?
いや、どうにかできるかもしれない。
「お兄さん。ありったけの強いお酒を用意してください」
「え? 分かった」
お兄さんは近くに居た兵士にお酒を用意してくるように言ってくる。
そして、お酒を届いたものから飲み干していく。
酔いのせいかステータスが上がったかなのか分からないが体が浮いているのではないかと錯覚す「浮いてるぞあいつ」
「え!?」
お兄さんの言葉で俺が浮いていることに初めて気づいた。
しかも、微かに光ってるし。
「でも、これならいけるはず」
〈リカバリー〉は発動までに時間がかかる。
俺はその間に〈介護〉で負傷した兵士たちの毒の進行を止める。
そして、歌唱魔法で痛みやストレスを軽減。
数分もすると〈リカバリー〉魔術が完成する。
「〈リカバリー〉の術式じゃない」
よく似ているが違う魔法のようだ。
しかも、倉庫を埋め尽くすほどに大きい。
何の魔法か分からないがもう発動を止める事はできいない。
「〈ヴァルハラ〉発動!」
その瞬間、部屋は眩しい光に包まれた。
そして、俺は目の前が真っ暗になった。
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