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第五十三話 せっかく異世界に来たんだから、みんな元気になってほしい。

遅くなりました。

よろしくお願いします。


俺は兵士たちの宿舎に連れ込まれ汗臭いおっさんたちの前に座らされていた。

食堂にいる兵士たちは皆が疲れ切った顔をしていた。


「坊主、飯だ!」


その中で、俺を拉致したこのおっさんは周りの空気などお構いなしに大声を出して、料理を差し出してきた。

そんなおっさんは終始笑顔だが少し硬いように見えた。

料理はここのコックが作ったステーキだった。

何の肉かまでは分からないが、ちょっと濃いめに塩味がきいた肉汁たっぷりのステーキを頬張った。


「う、うめえ」


教会では質素倹約が当たり前であり、嗜好品である肉はめったに出ない。

出たとしても、鶏肉とかであり、さっぱりし過ぎているのだ。

三十過ぎのおっさんだった前世ではそれでも良かったが、今は育ち盛りの五歳である。

正直物足りなかった。

でも、ここでは分厚いステーキが食べられるのだ。

毎日通ってもいい。


「そうか、ならもっと食え。ほれ!」


おっさんは俺に自分のステーキもくれる。

だが、それでは。


「おっさんはどうするんだ?」


「俺はあんまり腹が減ってないんだ。だから、遠慮するな!」


大声を出すおっさんの顔には疲れの色が見えた。

どうやら空元気なのだろう。

気の毒に思えてきた。


「なにか、できる事はありますか?」


「ガキが遠慮するんじゃない!」


そう言うが、ここ数日ボロボロになった兵士たちを見てきたのだ。

おっさんも無理をしているのは明らかだった。


「なんでもいいですよ」


「……なら、なんでもいい。気分を紛らわすことをやってくれないか?」


「紛らわすこと。 ……歌とか?」


「なんだお前。歌うたえるのか?」


「はい。下手かもしれませんが」


「なんでもいい、歌ってくれ」


「分かりました」


本当は魔法を禁止されているが。

歌唱魔法を意識しながら息を吸い込んだ。


〈あの町へ帰ろう〉


〈思い出の詰まったあの景色は僕の知るあの日のままだろうか?〉


〈あの家に帰ろう〉


〈幸せの香りと温かさは僕の記憶のままだろうか?〉


〈あの人のもとへ帰ろう〉


〈喜びも悲しみも詰め込んだ土産話を喜んでくれるだろうか?〉


〈今の苦痛も悲観もいつかは過去になる〉


〈その日まで、今は遠い故郷を思い歩み続けよう〉


一時期、歌唱魔法を練習していた頃、自分で作った歌だった。

実験台になってくれた修道士たちからリラックス効果が得られることは実証済みだ。


「どうでした?」


「ああ、うん。ありがとう。すごくよかったよ」


おっさんの自然な笑顔を俺に見せてくれた。

俺は残りのステーキを食べようとした時だった。

横からステーキが差し出される。


「いい歌だったよ。これやるから、他にも歌ってくれないか?」


「なら、これもやる」


「俺はこれだ」


いつの間にか集まってきた兵士たちがどんどん食事を置いていってくれる。

ステーキにパンにブドウジュース。

俺の前は大ご馳走になっていた。


「それでは何曲か」


俺の歌で喜んでくれるなら。

軽い気持ちで歌っていく。

もちろん、歌唱魔法も発動してだ。

のどが渇いてブドウジュースを飲んだ後、更に俺は何曲も歌っていく。


「みんな! 俺の歌を聞け!」


「「「うおおおおおおおおおお!!!」」」


「次は俺の十八番!」


……

………


そして、十何曲目かを歌ったところで、我に返った。


何やってんだ俺?


最初は兵士のおっさんが少しでも元気になればと思い歌っていたが、いつの間にか宿舎の食堂がライブ会場のようになっていた。

テーブルをくっつけて舞台を作り、スプーンをマイク代わりにして、楽器を弾ける兵士たちの伴奏で歌いまくっていた。

それこそ、熱いハートをぶつけるつもりで。

俺はふと自分が手に持っている先ほどまで湯水のように飲んでいたブドウジュースの匂いを嗅ぐ。


「あ、これ。アルコールじゃん」


ブドウジュースではなくワインでした。

でも、俺は手のひらのスプーンを強く握るが前回のように壊してしまうことは無かった。

〈神々の血〉の効果って何なんだ?


「ステータスを確認してみるか」


ボルヴァ―ド・フォルトロン 5歳 介護士Lv100 / 魔法少女Lv1 / 聖帝Lv1

状態:職業変化 神格化


HP 1574/1574

MP 121080/4870000


筋力 1679

知力 1523

魔力 178020



「あ、ああ。どうやらまだ酔ってるようだな」


とりあえず、熱の冷めないこの空間が怖くなって宿舎を出ようとした時だった。

外で鐘の音がする。

敵襲の知らせだ!


「まだ歌を聞かせろ!」


「俺は聞き足りねえ!」


兵士たちが宿舎から出ようとしない。

それどころか、俺に歌をせがみよってくる。


「も、モンスターが来てます!」


「そんなことより歌!」


全く鐘の音に耳を貸そうとしない。

このままでは。


「みんな死んじゃいますよ! 歌も聞けなくまりますよ!」


「「「え?」」」


適当なことを言ってみたが、兵士たちの目の色が変わった。

そして、即座に準備を始める。


「すぐに終わらせてやる!」


「ライブを邪魔するやつら等、全滅させてやる!」


「粉砕、フンサイ、ふんさい、ふんさーい!」


準備を終えた兵士たちは走って宿舎を出て言ったのだった。


「これ、洗脳だよな」


これから、歌唱魔法は気軽には使わないようにしよう。

そう心に深く刻み込む。

あ。


「ステーキ。残すのはもったいないよな」


全部で十二枚のステーキを全て平らげるのだった。

お腹も満たされて、五日ぶりに眠気が襲ってきた。

俺は教会に戻る。

外はもうすっかり暗くなってしまっていた。

俺が教会を出たのが昼過ぎだったので、かなり時間が経ってしまっていた。


「怒られないよな」


ゆっくりと教会の扉を開けるとそこにはテルマリリ様と兵士が何かを話していた。


「それでは」


「はい」


俺が入るのと入れ替わりで兵士が出ていく。


「どうされたのですか?」


「どうやら、気合の入った兵士達が予定していたモンスターの駆除を終わらせてしまったようで、作戦が早まりました」


「それって」


「三日後にドラゴン撃退作戦が始まるそうです」







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