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第三十六話 せっかく異世界に来たんだから教会に戻りたい。

昨日は予告もなく休んでしまいすみません。

よろしくお願いします。


あの後、時刻は夕方であったがすぐにでも王都の教会に帰るべきだとアルマルデ様方が判断し、俺達は馬車で帰ることになった。

行きの時とは違い何十キロの距離を走らなくてもいいのは助かったが、馬車は重い空気で満たされていた。

しかも、王都へ来た時の馬車とは違い、座席はフカフカで防音もしっかりしている。

そのせいで、他の音が入らず沈黙が更に重くなっていた。


「ルヴァン」


アルマルデ様のゆっくりと重い声が俺をとらえた。


「どうしましたか?」


「あの、少年。いや、実年齢は四十近かったんだっけ? あれはどういう存在だったんだい」


アルマルデ様の質問に俺の胸は苦しくなった。

アクアははじめてできた男と友達だった。

いつでも笑顔でやさしい男の子だった

夢の話をされたとき、俺は真剣に彼と向き合った。

そんな記憶が今では辛く感じた。


でも、アルマルデ様はそんなことを聞きたいのではない。


「彼はすごくしたたかで、人の中に入っていくのが上手なのだと思います」


涙をこらえて、泣き言を飲み干す。

そして、俺はメギドの自己評価を簡潔に伝える。


「続けな」


アルマルデ様は静かに耳を傾けた。


「彼は湖畔の教会の子供だと言いながらも最初から最後までほとんど湖畔の教会のシスターと話をしていませんでした。でも、俺とはよく会話をしていた。それはたぶん俺がシスターよりも彼に対して心を開いていたからだと思います。その事で、逆にシスター側は俺とメギドの関係を信じてしまったのだと思います」


「確かに湖畔のシスターにはルヴァンくんの世話役で来たと言っていたようだ」


ガシェルさんが俺の言葉に補足してくれる。


「他にも話しやすい人物を演じ、欲しい言葉を投げかけることで、相手の信頼を一つずつ獲得していきました。彼の職業は暗殺者でしたが、詐欺師としてもかなりの腕前だと思います。彼の見た目からは年齢も分らないので、これからも多くの犠牲が出ると思われます」


「用意周到でその為の苦労を惜しまない。その上、見た目で騙されやすく、それを己の武器にしている。随分と厄介だね。それで、セシア。あれについて何か知ってるかい?」


「すみません。情報不足です」


エルフのセシアさんも知らないようだった。

でも、エルフだってこの世界には何千人といるんだろう。

それを把握するのは無理だ。


「なら、後はシューランのジジイに任せるほかないね。セシアの方でもそれとなく情報を収集しておいておくれ、同じエルフの方が集まりやすいものもあるだろう」


「かしこまりました」


王都の教会に着いたのは翌日の朝だった。

アルマルデ様たちは交代で仮眠をとっていたが俺は〈夜間行動〉のスキルで一晩中起きていた。

俺達は馬車から降りるが、後続のもう一台の馬車からなかなかテルマリリ様方が出てこなかった。

そして、数分もすると目をこすらせながらミドリちゃんが出てくる。

その様子からまだ覚醒していないようだ。


「あ!」


案の定、馬車の踏み台から足を滑らせる。

俺は彼女の前に出てそれを受け止めた。


「大丈夫?」


「!」


しかし、彼女は何も言わずに俺を押しのけると、顔を逸らして後ろから来たテルマリリ様の陰に隠れてしまったのだ。

何かしただろうか?


「あ」


「?」


「ありがとう。助かった」


「どういたしまして」


俺達のやり取りを見て「ひ孫を見るのもそう遠くなさそうだね」とテルマリリ様が嬉しそうに笑うのだった。

俺達が教会に入るとどこからともなく誰かのかけてくる足音が聞こえた。

そして、奥の廊下からシューラン猊下が入ってきたのだった。


伯爵家に帰りたい。


「ルヴァンく~ン、会いたかったよ! でも、洗礼終わってないよね! おじいちゃんに会いたかったのか~」


俺を抱き上げて猊下は頬ずりをする。

その姿を見てアルマルデ様は溜息を吐き、テルマリリ様たちは白い目で俺たちを見ていた。

もちろん俺は抵抗するが強い羽交い絞めに俺はなすすべなく、セクハラを受け入れるしかなかった。


「シューラン猊下お話が」


「やだもーん」


アルマルデ様が猊下に話しかけるがどこ吹く風である。

だが、プツンという音が聞こえた。


「シューラン! いい加減にしな! さもないとルヴァンが危険な目に合うよ!」


一瞬の沈黙の後、猊下の目つきが変わる。


「詳しく聞こうか」


アルマルデ様とテルマリリ様がシューラン猊下に連れられて、奥にある彼の執務室に入っていく。

そして、重い空気の中シューラン猊下は俺を膝にのせて重い空気を吐き出した。


「何があったか、説明してくれるかい?」


「……。それじゃあ、二点問題がありましたので説明するよ」


助けてくれ!

アルマルデ様と一瞬目があったがすぐに逸らされる。

もう、諦めたようだ。


「まず、子供の容姿のエルフに襲撃された。狙いは源泉の洞窟の地図という事になってる」


「なぜ、あの地図が?」


「今回の洗礼中に源泉の水温が下がるという問題が発生し、勝手ながら調査させ頂きました」


アルマルデ様の言葉にシューラン猊下が眉を細める。

そして、俺の頭を撫でながら前のめりになる。

髭が当たって痛い。


「奥へ入ったのか?」


「はい、氷で覆われた部屋にたどり着きました。そこでの氷の溶けるスピードが速くなっていることに気づきました」


「な、なんだと!」


俺をぎゅっと抱きしめながら、目を見開いた。


く、くるしい。


「もしかして最奥の氷も?」


「最奥の氷と言いますと?」


アルマルデ様がそう言うとシューラン猊下はまた俺を撫でる。

そんな彼は「そうか」と呟いた瞬間、部屋の空気が重くなったのだ。

何事かと思うが撫でられているせいで俺は猊下の顔が見えない。

だが、アルマルデ様方が驚いた顔が状況の重さを語っていた。


「お前たちは聖女で知っていてもおかしくない案件だ。しかも、ここには私たちしかいない。今、結界も張った。声が漏れることもない」


一呼吸置く。


「あれが何なのか教えておこ「あの!」


さすがにこれ以降の情報は俺が聞くのはまずいと思い、猊下の言葉を遮った。

このままでは、変なフラグが経ちそうだ。


「いや、聞きなさい。ルヴァンくん。いや、ボルヴァード・フォルトロン。君はフォルトロンと名乗った時点ですでにフォルトニア教会の人間なのだから」


俺の頭上から手を退かされて俺は見上げると、シューラン猊下の目はいつもは人間種本来の青い目なのに金色に光っていた。

その目は綺麗だったが、それ以上に全てを見透かされているようで、怖かった。


「なにを、見ているの、ですか?」


猊下はいつものにこやかな顔で笑う。

だが、絶えずその瞳は金色に何かを見つめている。


「この目はね」


猊下は瞬きをすると、青色の目に戻っていた。

俺はそれを確認すると大きく息を吐き出す。

何千倍にも感じる、数秒間を俺は呼吸を忘れていたのだ。


「確定された真実を見る」


そして、俺同様息を殺していた二人には聞こえないように猊下は耳打ちした。


「期待しているよ、転生者のボルヴァード・フォルトロン」




今日、3/2にもう一話更新します。

明日、3/3は休みか更新が夕方以降になります。

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