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第三十三話 せっかく異世界に来だだから後悔したくない。

遅くなりました!

よろしくお願いします。


ミドリちゃんは現在、湖畔の教会のベッドで眠りについていた。

呼吸も安定している。

ただ、風邪をひいてしまったようで、高い熱を出していた。

でも、ここには聖女様が二人もいる。

万が一の事態すら起こらないだろう。

だが、俺はその聖女様二人に挟まれて、重い空気の中事情聴取を受けていた。


「それで、洞窟に入った頃にはおかしかったと」


「はい、顔色も悪く、今思えば声かけに対しての反応も鈍かったように感じます」


「あの子は負けず嫌いなところがあって、無理をしてしまうことがあるから、そのせいだと思います」


テルマリリ様は俺の言葉に捕捉した。

確かに、俺と初めて会った時に宣戦布告をしていたし、洗礼を止めるよう言った時も身体は限界に近かったのにも関わらず続行した。

俺に負けたくないという気持ちもあったのだろう。

だが、ふと思うことがあった。


「洗礼って、こんなに厳しいのですか?」


こんなに厳しいなら殆どの子供は嫌がる。

またはリタイアするだろう。

だとすると人気は低いはずだ。

でも、貴族の子供たちは殆どが受けている。

それも予約してまでだ。


「厳しいってどういうこと?」


テルマリリ様が不思議そうに聞き返してくる。

俺は水源の冷たさや、礼拝堂の寒さを説明すると二人は眉をひそめた。

そして、顔を見合わせるとすぐに何かの準備を始めた。


「どうされたのですか?」


「どうしたもこうしたもあるかい。洗礼を行う神聖な場所がおかしくなってんだよ。調査するしかあるまい」


「しかも、ここの水はかつて霊薬を作るのに必要とされたと言われ、今も研究されています。何かあった場合、今までの研究が無駄になってしまいます」


あっという間に二人は準備を終わらせてしまう。


「俺も「あんたは待ってな」


アルマルデ様はそう言って俺の言葉を遮ると、二人は出て行ってしまった。

時間を持て余した俺はガシェルさんの所へ鍛錬しに行く。

しかし、ガシェルさんの部屋も、よく鍛錬している教会裏にもいなかった。


「ガシェルさんはランニングにでもいったのかな?」


「あの怖い人ならテルマリリ様達と一緒に出て行ったよ。夜には戻るって」


その声の方を見るとアクアくんが小さなバケツを一生懸命に運んでいた。


みんないないなら自主練くらいしかない。

だが、なんとなくやる気にはなれなかった。


「ほら、待つよ」


俺はアクアくんの持っていたバケツを取ると、片手で運ぶ。


「あ、ありがとう」


隣を歩くアクアくんの戸惑いながらも笑顔を見せてきて、思わずドキッとした。


「ちょっと待て! 相手は男だぞ!!」


「へ!? どうしたの?」


俺は大きく息を吸う。

そして、ゆっくり吐き出す。

それを何度か繰り返して、気付いた。

アクアくんから甘い匂いがする。


「アクアくん」


「な、なに?」


「三歩離れようか」


「え? うん」


匂いは遠ざかった。

落ち着いてもう一度深呼吸する。

よし!


「じゃあ、行こうか」


「何がじゃあなの!?」


「さあ、早く行こう」


「待ってボルヴァードくん。それに、持ってく場所を知ってるの?」


知らないが、何となくこのままの状態がまずい気がして、足早に教会へ向かったのだった。

バケツの水はミドリちゃんの熱を冷ますためのものだったようだ。

アクアくんはタオルを水につけて絞ると、それをミドリちゃんの額に置いた。


「ボルヴァードくんはすごいよね」


「何のことだ?」


ミドリちゃんの脈拍や呼吸状態を確認しているとアクアくんは急に褒められた。

だが、俺はアクアくんに、褒められる理由がわからなかった。

だから、ただ純粋に問いかけたのに俺の言葉に口を尖らせた。


「そういうところだよ。ボルヴァードは僕に持ってないものをたくさん持ってる」


アクアくんはそういうが。

そうだろうか?

俺だって何でも持ってるわけじゃない。

普通の子供と比べれば少ない方だ。

孤児だから親はいないし、お金もない。

前世のように誰でも通える学校がないので学はないし、伯爵家では外に出る機会がまるで無かった為お嬢様以外に友達もいなかった。


「誰でも他人が持ってるものの方が、よく見えるもんさ」


「そう、かな?」


「そうだよ」


「でも、ボルヴァードくんはミドリさんが溺れた時、誰よりも早く助けてたよ。とっても、かっこよかった!」


そう言われると悪い気はしない。

たが、あれは前世で介護という仕事をしていたからできたのだ。

緊急時、自分が何をするかでお客様の生死を左右する場合がある。

お風呂で溺れた時、心臓発作が起きた時など、一刻を争う場面に何度も出くわした。

だからこそ、動き方も魂が覚えていたのだ。


「みんな最初から何でもできるわけじゃない」


「え?」


アクアくんは驚いた顔を見せた。

そんな俺が完璧超人に見えるのだろうか?


「俺だって初めての時はあったし、その時は立ち尽くす事しかできなかった。行動に移せても助けられなかった命も少なくはない」


アクアくんは黙って俺の話を聞いてくれる。

だからこそ、嘘偽りない人生の先輩、おっさんとしての言葉でアクアくんに向かい合う。


「何度も、何度もああすればよかった。こうすればよかったって、後悔が足を無理矢理動かして。助けられなかった命の重さが手を動かさせただけなんだ。失敗した分、俺はもう、失敗できないだけなんだ」


しばらくの静寂の後、アクアくんは言った。


「やっぱり、すごいよ。僕もそうなりたい。誰かを助けれるような。例えば騎士みたいに」


「なれるよ、きっと」


まだ、君は子供なんだから。


「ボルヴァードくんは何になりたい?」


「え?」


そんな事、考えた事もなかった。


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