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第三十一話 せっかく異世界に来たんだから誤解は解きたい。

よろしくお願いします。



俺は水浴びを終えて食堂に行くと既にみんなが集まって食事を始めていた。

その中には今日到着した二人もいたのだった。


「遅れてすみません」


「日々の研鑽を積むことは良き事です。ですが、時間は守りましょう」


「はい」


この世界にも時計はある。

しかし、高価なため一部の貴族しか持てない。

では、平民たちはどうしているかというと、二つの太陽の位置か教会の時計で時間を確認しているのだ。

この世界には青色と赤色の太陽が二つあり、青色の太陽の周りを一日かけて赤色の太陽が回っているのだ。

午前中は右に、真上で正午、左で午後といった感じだ。

その一方で教会には誰でも見れるような大きめの時計が置いてある。

その為、よく待ち合わせに教会を使われることが多いのだった。


「お前がアルマルデの弟子か?」


「はい、ボルヴァ―ド・フォルトロンです」


「いつまでももったいぶって、やっと作って弟子がこんなのじゃどうしようもないな、あのバカは」


自分の事を悪く言われるのは構わない。

でも、アルマルデ様の事を悪く言われるのは嫌な気分だ。


「申し訳ありません。以後気を付けさせてもらいます」


それでも、感情を飲み込み言葉を吐き出す。


「言葉では何とでもいえるよ。まったく、親の顔を見て見たい」


「すみません。私は捨て子なので親の顔を知りません。子供を捨てる親なのです。きっと、あなた様の言う通りろくでもない顔でしょう」


「そうなのかい。そうだとすると、育った環境もよほど劣悪だったのだろう。教養が無いな」


「学がない私にお名前を教えていただいてもいいでしょうか?」


「知らないのかい? 聖女のテルマリリ・フォルマトルだよ。覚えときな」


テルマリリ・フォルマトルはアルマルデ様と同じ聖女である。

だが、その能力は全てアルマルデ様に及ばず、この国では第二聖女なんて呼ばれている。

まあ、話してみて一言多い感じが前世のダメな政治家みたいだ。

色々なところで敵を作ってしまってるのだろう。

今回みたいに。


俺はハーキスタ家の指輪が見えるように出す。


「では、育てていただいたハーキスタ伯爵家にはそのように伝えておきます。テルマリリ・フォルマトル様」


「そ、それは。その指輪は」


この一年で学んだのだが、貴族は自分の養子にこういった指輪を送るらしい。

つまり、ここでは修道士見習い兼貴族家からの客人という事になる。

その為、修道士の先輩方でも子供の俺には敬語を使うのだとか。


「では、そのように報告書に記載しておきます」


「あ、ありがとうございます」


まさかのセシアさんから援護射撃が来たのだった。

セシアさんもアルマルデ様に対しての言葉に気に食わないことがあったのだろう。


「そういえば、シューラン猊下にも近況報告するようにと言われ「すまなかった」


テルマリリがセシアさんの言葉を止める。

大きくため息をついてテルマリリは頭を下げた。


「すまない。私が言い過ぎた」


「いえ、気にしていませんので」


「そのしたたかなやり方が、アルマルデによく似ているよ」


テルマリリは早めに食事を切り上げると食堂を去っていったのだった。

その時、一緒に来た子供は去り際に俺を睨んでいたのだった。

テルマリリの自業自得とはいえ、この場で悪役にしてしまったのだ。

気に食わなかったのだろう。


「うちの子にあんなことを、許すまじ」


「せ、セシアさん?」


「大丈夫ですよ、ルヴァン。やっときますので」


「なにを!?」


俺以上に怒っているセシアさんを止めるのが大変だった。

食事も終わり、今度は魔法の練習に向かおうとした時だった。


「僕もついてっていい?」


アクアくんがそう言ってきたのだ。

練習を見られるのは少し恥ずかしいが、別に構わない。

でも、リアちゃんやカーシャさんもそうだったが、魔法に興味がある人は少なくない。

俺は二つ返事で許可するのだった。


「すごい!」


俺の光魔法を見ながらアクアくんがそう言ったのだった。

使っているのはただの〈トーチ〉だ。

光魔法で練習する場合この魔法がちょうどよかったのだ。

〈フラッシュ〉は一瞬強い光を放つ魔法だが周りに迷惑になる。

〈ビーム〉は的や壁がないので危ないから必然的に〈トーチ〉しか選択が無かった。


「触ってみてもいい?」


「いいよ」


アクアくんは〈トーチ〉の光を恐る恐るふれる。


「あ、熱くないんだ」


「ただ、光ってるだけだしね」


無邪気に笑い、瞳を輝かせるアクアくん。

その姿にリアちゃんをふと思い出していた。

リアちゃんは王都に来た時のキャラバンで分かれて以来会えていなかった。

会いに行こうと思っても、リアちゃんが誰なのかもどこに住んでいるのかも知らなかったからだ。

別れ際、会いに行くって言った手前会いに行こうとした時もあった。

苦肉の策で「おじいちゃんお願い」とシューラン猊下に頼んで、全力で探してもらったが、それでもその素性は分からなかった。

猊下ほどの人の情報網でも掴めなかったのだ。

何か理由があるのだろう。


俺は小さなため息をつく。


「僕が邪魔かな?」


「え?」


アクアくんが隣にいるのを忘れていた。

心配そうに俺の顔を覗きこんでくる。

そのきれいな表情に思わずドキドキしてしまった。


おい、ドキドキまずいだろ!

相手は子供だし、何より男だぞ!


「その程度の魔法しか使えないのか?」


その声に振り向くと先ほどテルマリリと一緒にいた子供がそこにいた。

その言葉や立ち振る舞いが凛々しいし、男の子かな?


「なんでしょうか?」


「先に言っておく」


はいはい。


「私の方がいい天職をもらう! 後から割り込んで洗礼を受ける奴なんかに負けないからな!」


それだけ言って、彼は教会に戻っていくのだった。

さて、天職をもらうに勝ち負けがあるのか分からないが、その前に。


「割り込むって何?」


「ええっと」


アクアくんが言いずらそうにしているが、「事実を知りたい」と言うとアクアくんは頷いた。


「本来はさっきのミドリさんだけが洗礼を受けるはずだったんだけど、シューラン猊下が一人も二人も同じだろ、とボルヴァ―ドくんの洗礼を入れてしまったんだ。本来は一人ずつなのに」


その言葉を聞いて思わず頭を抱えてしまった。

あのクソじじい何してくれてんだ。

そりゃ、テルマリリ様もミドリくんも怒るわ。


「ちょっと用事ができた!」


「ボルヴァードくん!?」


俺はアクアくんを置いて教会に戻ったのだった。

教会で夕食を作っていたシスターに話を聞くとテルマリリ様は自室にいられるようだ。

テルマリリ様の部屋の前で俺はノックする。


「だれかい?」


「ボルヴァード・フォルトロンです」


数秒沈黙があった後に「入りなさい」との言葉が部屋の中から聞こえてきた。

俺はゆっくりと扉を開けた。

テルマリリ様は椅子に座っていた。

その膝には本が置かれていたので読書でもしていたのだろう。


「それで、何の用だい」


「今回の洗礼について謝りに来ました」


「どういうことだい?」


「実は―」


俺が洗礼を受けるように昨日突然言われたこと。

よくわからないままシューラン猊下に来させられたこと。

そして、先ほど初めて割り込みがあったと知ったことを説明した。


「申し訳ありませんでした」


俺はテルマリリ様の前で土下座する。


「それで、あんたはどうするつもりだい?」


「俺 ……。いえ、私は今回の洗礼を辞退しようと考えています」


「もうすぐ、誕生日だと聞いたが」


「元々、洗礼を受ける予定もありませんでした。それに神は私の身の丈に合った職業を与えてくださるでしょう」


テルマリリ様は「立ちなさい」と俺に指示を出す。

その時のテルマリリ様は呆れた顔をしていた。


「まさか、あの厳しい猊下が本当に弟子バカになるとは。しかも噂以上に」


「大変申し訳ありません」


「ボルヴァードくんが謝る事じゃないよ。それに私もあんたが我が儘を言って割り込んだのだと思って色々言っちまったからね」


お互いさまで許してくれるという事だろう。

俺はほっと息を吐き出し、テルマリリ様に頭を下げて出ていこうとした時だった。


「待ちなさい。それであんたはどうするつもりかい?」


「今日は無理ですが、明日にもここを出て王都の教会に戻ろうと思います。くそじ、猊下にも釘を刺しておきますので」


「猊下の件は頼みたいが、洗礼はどうする?」


「先ほども言いましたが、元々予定にはありませんでしたので」


「いや、ちゃんと受けてきなさい。もう、この教会でも準備をしてしまっているし、勿体ないでしょ」


「でも、本来は一人ずつと伺っております。ミドリくんも嫌がると思います」


「それはそうかもしれないけど、一生に一度の事だよ」


「だからこそです。このような誰かの苦痛の上で成り立つようなことはしたくありません」


俺がそう言うとテルマリリ様は大きくため息を吐き出した。


「そんなところまでアルマルデと似なくてもいいのに」


「はい?」


「いいかい、これは聖女としての指示です」


本来、フォルトニア教会において聖女の階位は枢機卿の一つ下に位置する。

枢機卿の上には教皇しかいないので、実質上から三番目に偉い人からの命令となる。

その命令を見習いごときが断れるわけもなく。


「かしこまりました」


しぶしぶ了承するしかなかったのだった。







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