第十三話 せっかく異世界に来たんだから旅をしたい。
寝落ちしてしまった。
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とうとう旅立ちの日が来た。
だが、俺の鞄は俺自身の背中で背負えるもの一つだけだった。
元々、服は少ないし、子供だから重い荷物は持てないし、キャラバンに乗っていくから持ち物は荷台に乗せてしまえばいいので問題ない。
アルマルデ様も俺が持っている鞄より二回りほど大きい鞄のみだった。
聖女だから教会に行けば食べ物だけは困ることが無いからだそうだ。
「さて、準備できたね」
「はい」
「こちらも大丈夫です」
結局、セシアさんも一緒に行くことになった。
いや、理由はさっぱり分からないが。
セシアさん自身に聞いても教えてはくれなかった。
伯爵家の扉の前にはリシャリア様とお嬢様が待ち構えていた。
「いろいろお世話になりました」
俺がリシャリア様に頭を下げると、彼女は俺をやさしく抱いた。
「こちらこそ、いままでほんとうにありがとう。あなたを助けてよかった」
「お嬢様も今までありがとうございました。成人したら戻って来ます」
そう言って向かい合ったお嬢様の目が微かに赤くなっていた。
先ほどまで泣いていたのだろう。
「ルヴァン、私は成人なんて待てない。だから、十三歳になったら王都の学校に通う。そして、毎日会いに行くから」
「はい、楽しみにしています」
「それと、これ」
お嬢様は俺に一通の手紙と指輪を渡してきた。
それにはハーキスタ伯爵家の家紋が刻まれていた。
「これは?」
「お父様が、先ほど久しぶりに出ていらっしゃったときにあなたにと渡されたの」
確か、元々心が弱い人で、今はお嬢様の件でうつ病になって部屋にこもられていたはず。
お嬢様の様態がよくなったので出てくるようになったのだろうか?
「あらあら、そうなのね」
リシャリア様は嬉しそうに笑う。
「その指輪は利き手の親指に嵌めてね」
「リシャリア様、まだルヴァンには早いかと」
セシアさんは何かを理解し止めようとするが、リシャリア様は「当人たちの問題だから」と言って聞き入ってはくれなかった。
アルマルデに至っては呆れたようにため息をついたのだった。
「? 分かりました」
よく分からないが、本気で止めようとする人はいないようだ。
俺は親指に指輪をはめるのだった。
すると、ハーキスタ家の親子は満足そうにうなずいたのだった。
家を出てもお嬢様たちは俺たちが見えなくなるまで手を振ってくれていた。
俺もそれに何度も手を振り返した。
ハーキスタ家が小さくなっていくにつれて俺はしっかりと前を向いた。
家を出るだけでは意味がない。
今度の人生ではきちんと前を進んでいこうと決めたのだった。
「なんだい、めそめそするかと思ったら、案外しっかりしてるじゃないかい」
「はい、だって。俺は前に進むために家を出たんですから」
「言う事だけいっちょ前じゃ駄目だからね」
「分かってます」
「それと、ルヴァン」
「はい」
「その指輪は魔力を込めると周りには見えなくなる性質があるんだ。ちゃんと魔力を込めときな」
「分かりました」
確かに指輪は見えなくなり、更には俺の指にフィットしたのだ。
でも、この指輪には何の意味があるのだろうか?
俺は隣を歩いているセシアさんに聞いてみようとしたが、なぜか頭を抱えていた。
「もういいだろ、セシア。そろそろ、幻惑魔法を解きな」
完全にハーキスタ家が見えなくなるとアルマルデ様がそう言った。
そして、「そうですね」とセシアさんが答えると初老の女性の姿だったセシアさんがしわは消え、白くなった髪は金色を取り戻し、若くなっていった。
しばらくすると、見た目が二十歳ほどの女性になったのだった。
しかも、よく見ると耳が長い。
「エルフ?」
いつかのアニメや漫画の中に出てきた種族がそこにいたのだった。
「もう少ししたら町に着く、それまでに説明してくれるんだろうね」
セシアさんは更に眉にしわを寄せて少し考えた後にしぶしぶといったように「……はい」と答えたのだった。
「私もよくは知りません。村長の命により私はハーキスタ家に拾われたルヴァンの監視を任されたのです。ただ、ハーキスタ家の雇用条件が人間族だけで、しかも家の主人にお手付きをされても困るので初老の人間族の姿に変わってました」
「ルヴァンになにがあるんだい?」
「残念ながらそれは教えていただけませんでした。知らない方が身のためだと」
「そうかい、それでルヴァンは何か知ってるのかい?」
そんなこと言われても困る。
俺が分かっていることなんて多くない。
あ、でも。そういえば。
「俺ってエルフとドワーフのハーフだって」
そう言うとセシアさんは「私は聞いてない」と何度もつぶやき始め、アルマルデ様は不気味な笑顔を浮かべたのだった。
「そうかい、そうかい。なら、あたしは相当いい拾いものをしたようだ」
「……たしは聞いてない、私は聞いてない」
「セシア、戻ってきな!」
「は、はい!」
セシアさんはアルマルデ様の大声に現実世界に引き戻される。
「さて、エルフとドワーフのハーフで監視が必要な捨て子なんて言ったら一人しか思い浮かばないが、あんたはこれからは監視兼護衛も必要になった。そうじゃないかい?」
「その通りです」
「それなら、外部に漏れないようにしないといけない。なら、取引しないかい?」
「お、お手柔らかにお願いします」
「なに、この子のお守りと飯に婆さん一人分を追加してくれればいいよ」
「かしこまりました」
セシアさんはそう言いながら泣き出してしまったのだった。
「それで、俺ってどういう」
「さあ、町に着くよ」
俺の身の上が気になってアルマルデ様に聞こうとするが教えてはくれないようだ。
まあ、そのうち分かるだろう。
そう言い聞かせ前を向くと、大きな町が見えてきたのだった。
あれがハーキスタの町との事だ。
更にしばらく歩くと町の壁の前に着いたのだった。
壁はレンガでできていて、大人の男性の何倍もの高さがあった。
よく見ると壁の間には大きな門があり、鎧を着た兵士が身分証のチェックをしていた。
「次、確認するぞ」
俺達も呼ばれて兵の前に行く。
そして、アルマルデ様が一枚のカードを見せた。
「聖女、アルマルデ様!」
その言葉に兵士たちが全員仕事を止めて頭を下げる。
門の前にいた人たちも深々と頭を下げた。
「通っていいかい?」
「もちろんでございます」
そして、俺達が門を通ろうとした時だった。
けたたましく鐘の音が鳴り響く。
その後すぐに、空の上を大きな何かが通り過ぎて行った。
「ドラゴン?」
「あっちは、嫌な予感がするね」
「向こうには何があるんですか?」
誰もがただ空をみつめる。
「王都だよ」




