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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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勝利

 お待たせしましたわ、決着ですわ



 「やぁ、危ない所だったね。助けに来たよ」



 聞き覚えのある優しい声に慌てて顔を上げると、そこには金髪のイケメンが居た。

 ポカーンとした表情でその顔を見つめる俺に、エルは小さく吹き出す。

 ふと【韋駄天】との戦闘中であった事を思い出して素早く周囲を見渡すと、半径二メートルくらいのシャボン玉のようなドーム状の膜に守られていた。



 「心配しなくても大丈夫。ここで少し話すくらいの時間は確保できるよ」

 「あぁ……ありがとう。凄く助かった」

 「まさかこっちの方が危ないとは。レギナのような大国の四天王が直々に沙汰を下しに来るなんて予想外だよ」

 「こっちの方が危ない……?」

 「シンヤくんの留守を狙ってドラゴンバスターの勇者が襲撃してきたんだ」

 「なッ……!? おい、二人の護衛の約束はどうなったんだよ!」

 「いやぁ……それが、ノルさんとフロストさんにシンヤの元へ行くように怒られちゃってね……」

 「何でだよ……別に俺の事は気にしなくてもいいのに」

 「アハハ、死にかけて言う言葉じゃないね。圧勝っていうくらい簡単に勝負が決まりそうだったから、僕も安心して離れたんだ。ソルも無事みたいだし、まだ大丈夫だよ」

 「それなら……いいのか?」



 ホッとし息をついた傍から地面がグラグラと振動し、バランスが崩れそうになる。

 外を見ると、【韋駄天】が透明なドームに渾身の力で斬りかかっていた。ギリギリと火花が散るくらいに粘った挙げ句、弾き飛ばされて吹っ飛んでいる。

 もちろんエルが作ったのだろうが、勇者の奥の手にあたる全力の攻撃を防ぐとは、その能力は破格もいい所だ。俺だったら絶対に相手をしたくない。



 「僕は空間を操作できる。遮断と切断の二種類しかできないけど、結構利便性は高いんだよ」

 「まさか説明が来るとは思っていなかった。ヤバい能力だな」

 「いざとなった時に勇者や英雄を止めるための【役割】だからね。それくらいの強さだったら数も少ないんじゃないかな」

 「出来るなら俺も最強系の能力が欲しかったよ」

 「魔力消費が多過ぎて長くは戦えないし、不便だらけだよ」

 「そうか……今はどれくらい使ってる?」

 「もう魔力は残り少ない。あと数十秒でこの空間は解放されるよ」



 ニコニコ笑いながら、エルは一番重大な事をさらりと言ってのけた。

 外では【韋駄天】が、怒り狂いながら鬼の形相で剣を振るっている。

 魔力が無ければエルは逃げることもまともに出来ないだろうし、そうなると誰が対応しなければならないのか。

 十中八九、後始末は俺に回ってくる。

 逃げようとして逃げられなかったというのに、冗談じゃない。ただでさえ策を練る時間も無いのだ。



 「よし、こうなったらエルにも協力してもらおう」

 「えぇっ、魔力が無いから何もできないよ。流石に、あのスピード自慢に生身で挑むのは無謀だと思うんだ」

 「安心しろ、魔力ならある」



 【不滅の鉄壁要塞(イモータル・フォート)】を使って魔力を循環させずとも、俺の保有魔力量は膨大にある。

 無いなら補充すればいいだけの話であり、俺は早速手のひらに魔力塊を作り、エルの胸上辺りに触れ()じ込む。



 「ちょっと失礼……我慢しろよ」

 「ひゃうっ……!? な、何をするんだいきなり!」

 「女みてぇな声出してんじゃねぇよ!」

 「あぁ……くっ……身体が痺れて……温かいものが流れてくる……」

 「やめろエル、それ以上口を開くな!?」



 自然回復ではなく、外部から直接魔力を補充するときに独特の感覚を覚えるのは知っている。

 エンジンをかけるように身体がビリビリと震え、水面に落ちた雫が作る波紋のように魔力が全身を巡っていくのだ。

 つまり、エルが言いたいのはそういうことである。



 「あれ、魔力が回復している!」

 「エルに頼みがある。隙を見て【韋駄天】の剣を折ってくれ」

 「凄いな、シンヤくんは。分かった、剣を折るんだね」



 流石エル、切り替えが早い。

 【韋駄天】が再び【無敵の空間(ディメンションルーム)】に拒絶された事を契機に、俺とエルは飛び出し散開した。

 今回は遠慮せず隙とあらば狙い討つ。

 全力の肉体強化を施し、吹っ飛ばされた【韋駄天】に追い付く。あわよくばその腹に蹴りを叩き込もうとしたが、器用に持っていた剣の柄部分で弾かれた。



 「ついに破れたか、忌々しい結界め! まさか……まさかまさかこのような手管をまだ持ち合わせていたとは、異端者の中でもとびきり危険な人物だ!」

 「そろそろお前にはご退場願うぜ、【韋駄天】ダッシュさんよぉ!!!」



 上段に剣を構える【韋駄天】へ、思い切り拳を振りかぶって無防備にカチ込みを入れる。

 振り下ろされる剣がやけに遅く見える中、俺は覚悟を決めて目を閉じた。



 「個となりし空の裁断、無慈悲なる断罪──【斬空(エラー)】」

 「んなニィッ……!?」

 「これで、終わりだァァァァアッ!!!」



 全力の肉体強化と、俺の動きを損なわない限界まで放出した魔力の重力。この二点による星落とし(メテオ)アタックが、見事【韋駄天】の顔面を捉えた。

 エルが気を利かせて作りだした障壁に【韋駄天】は激突しボールのように跳ね返ってくる。

 蹴り返しては戻ってを二度三度繰り返すと、今度こそ【韋駄天】は完全に沈黙した。



 「やっとだ……やっと勝った」

 「そうだね、僕達の勝利だ」



 ……さて、大変な後始末をしなければ。

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