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転職魔王の勇者討滅録  作者: 先祖代々貧乏
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会心の一撃



 「──はっ!?」



 身体に電流が走ったように身体がビクンと跳ね上がり、目がバチンと開く。寝落ちしてから急に目が覚めたように感覚が妙にクリアになっている。

 慌てて周囲を見渡すと、少し離れた場所に【韋駄天】が背を向けて悠々と歩いている。

 もう俺を殺しせしめたと思って余裕をかましているのだろうが、頭に受けた傷は既に治りかかっている。

 エリクサー結晶による超強引な修行の結果得た、超速再生と治癒促進のスキルは、文字通り即死にならない限り治る。



 俺は静かに立ち上がり、身体についた砂を払う。

 意識の無い間、派手に吹っ飛ばされたからかは分からないが、衣服の中にまで砂が入り込んでいた。

 ジャリジャリと苦い味のする土を、血の塊と共に吐き出す。



 さて、ここから仕切り直しだ。

 目の前の勇者の背中を睨み、口を開く。



 「まあ待てよ、クソ勇者……」



 【韋駄天】の歩みがピタリと止まった。

 そのまま、オイルの切れたブリキ人形のような動きでギギギ、と後ろを振り返る勇者。

 この世界に来てから、俺の中の勇者のイメージは「過激派で真面目そうな堅物」だったのだが、よもやそんなコミカルな動きも出来たとは驚きである。



 「まさか、あれを受けて立ち上がる者がいたとは。益々、異端者に堕ちた事が残念でならない!」

 「うるせぇ……俺は、もう負けてられないんだよ」

 「それは……私がドラゴンや精霊を始末してしまう事を懸念しているのか?」

 「ノルの事までバレているのか……なら、尚更通す訳にはいかないな」

 「私の速さに敵う者は誰一人存在しない。このまま振り切ってもいいが、どうせ私がやらずともドラゴンや精霊は勝手に死ぬ。ゆっくり相手をしてやろう」



 口元に微笑みを湛え、余裕の顔でこちらを見下す【韋駄天】の様子に、挑発と知りつつも感情のまま動き出したい衝動に駆られる。

 たとえ【韋駄天】の中でこの勝負の結果が確定しているとしても、ノルやフロストが淘汰されることが決まっているかのような態度はいただけない。



 「ノルもフロストも、ただ動きが速いだけの人間に捕まるようなタマじゃねぇよ」

 「わざわざ私が出向くと思っていたのか。まぁ私にとってはどうでもいい事だが……既にドラゴン討伐専門の勇者を送り込んである」

 「もう一人の勇者……そうか」

 「その呆けた顔、異端者にはよく似合っている」

 「何とでも言えよ……俺は必ず、最後には勝つ!」



 自慢気な【韋駄天】の話に安堵すると共に、俺は目の前の勇者の一挙動も見逃すまいと構える。

 例えば、レギナの四天王とか言う勇者の誰かが派遣されているとすれば俺は焦っただろうが、送られたのは勇者一人である。

 あちらには信頼の置ける仲間であるエルも居るし、ノルとフロストは十分強い。そこにソルも加われば、戦って勝てないことは無いだろう。



 俺の見ている前で、【韋駄天】の雰囲気が鋭く尖ったものにガラリと変わる。

 肉体強化という切り札を一度見せた上で、知覚の困難なあの速さに対応しなければならない事を考えると、結構手厳しい戦いになりそうだ。



 沈黙が支配する中で両者揃って構え、戦闘がわき起こるまでのタイミングを今か今かと計る。

 緊張感は極限まで高まり、背中や首筋を伝う汗の軌跡でさえ目で見るよりも鮮明に感じ取れる。

 ぬるい風が顔を撫で吹き抜け、砂埃が攫われる。

 不意に【韋駄天】の爪先が動いた。



 「今度こそ捉えたッ!」

 「そこだッ!!」



 首筋をガードした腕にガシッと伝わる衝撃。

 【韋駄天】の移動の余波に巻き込まれた土砂が砂嵐となって俺を巻き込み、断続的な小さい痛みとストレスを稼いでいく。

 本命の蹴りは来る前に防御する作戦が功を奏し、何とか一撃目を凌ぐ事ができたものの、既に二撃、三撃目と攻防は続いている。

 肉体強化は八割まで使っているが、それでも視界の端に捉えるので精一杯だ。



 「中々健闘するじゃないか!」

 「クソ……このままじゃジリ貧だ」

 「当たり前だ! 勇者がいる限り、異端者に命は無い!」

 「誰が異端とか下らねぇ事言ってんじゃねぇ!」



 【韋駄天】の脚と俺の拳がぶつかり合い、一際大きな衝撃が周囲に撒き散らされる。

 もう数十合と繰り返された壮絶な打ち合いは竜巻のような気流を生み出し、地面に刻まれたクレーターも相まってかちょっとした天変地異が起きたように見える。



 両者共にスパッと距離を置き、再び体勢を整える。

 【韋駄天】の一挙一動でも見逃せば、今度こそ俺の勝機は絶たれてしまう。

 気を抜かず注力していると、【韋駄天】が小さく肩で息をしているのが目に映った。薄く口を開けて、それとはバレないよう無表情を取り繕いながら深呼吸をしている。

 どうやら、地上最速の速さは勇者と言えど無制限に扱えるわけではないらしい。



 「トットコ・ダッシュ……お前、相当疲れてるだろ」

 「……何の話だ?」

 「速さはあってもスタミナは保てない。長期戦は不得手なようだな」

 「……妄想なら好きに語れ。お前では私に勝つことは不可能だ」



 初めて俺に危機感を抱いた【韋駄天】が、瞳をギラギラと光らせこちらを睨む。

 やや焦りを含んだ表情の【韋駄天】は既に冷静さを欠いているようで、直情的に真正面から俺に向かって突っ込んでくる。

 思わずニヤリとほくそ笑んだ俺の前で、【韋駄天】の速度が目に見えてガクンと落ちる。

 もちろん、こんな好機を逃す俺ではない。



 「【肉体強化:基礎身体能力補正値千パーセント】……貰ったァ!!!!」

 「ンガハッ……ッ!?」



 俺の全力の拳が、【韋駄天】の顔面を穿つ。

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