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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
143/149

リスク・コントロール

 ふぅうう……。

 ゔぅ……!

 ふぅうぅうう……。


「まあとにかくだ、朝までに決めとけよ、寝るー……」

「おい……おいっ?」

 くっ……あいつ切りやがった!

 どうする? またあれに出て……いやぁ、ろくなことにならんだろ……!

 だがこの状況はヤバい、流れがあまりに意味不明でどんな影響が出ているのかまったく予想できない……!

 ……いや、だからこそ情報収集をかねて出るべきなのか? それともかえって裏目にでるかもしれない? 分からん、とにかく考えないと、俺にも分かるようなおかしい部分とか……。

 ……いや、そうだ? そうだよ、分かりやすいところがある、わざわざ俺に説明しているのが変だ、変だよな? 殺すことが最優先なら黙って計画を進めときゃいい、つーか軍隊蟻を利用するより直接的に……そう、殺し屋を雇ったらいいだろう、わざわざ警戒させる必要がない……いや、黒エリなどの戦力に対抗できないと考えた? 撃退される可能性を危惧して……そう、もっと強力な、組織的な戦力をぶつけたかった……?

 ああ、だからこそのあの写真か……? 何だかっていうお偉いさんの不祥事に巻き込んだ……つまりは不正、不道徳な行為の暴露、逆説的に俺はある種、英雄視される? 担ぎ上げる行為、それに反発する組織と衝突させたい? なるほど、どこかの勢力に誘拐、拘束されればエリや黒エリと引き離せる、そしてそのまま秘密裏に殺されることもあり得るだろう、拘束中にもろとも軍隊蟻に襲われる事態もあり得る、つまりは軍隊蟻とどこかの勢力の二段構え……ってところか……?

 そしてそのプランだと……そう、味方のように近づいてくる組織がもっとも怪しい……。低リスクで誘拐できるからな……。

 ……だが、ヴァッジスカルの奴がウォルと繋がっている? 例えばあの中尉と?

 ……どうにも腑に落ちない、彼女からは……敵意のようなものは感じないしな……。

『そろそろどういうカンジかワカッた? さて、こっちのヨージはスんだからカエッていーよ!』

 ……ええ? なんだ、あれを伝えるためだけに来たのか?

 それだけのために、ブラッドワーカーの残党が雁首そろえて……いやっ?

 ……まさか? だが、それならば合点がいく……!

『どーしたの?』

 当然、気取られない方がいいだろう。奴らとてヴァッジスカルの仲間なんだからな。

「……じゃあ、みなを解放してくれ」

『あー、ヤローどもはさっさとカエッてイーよ!』

 だが、やはり皇帝は解放しない感じか? それだと困るんだが……って、おいおい、遠くのサラマンダーが助走をつけはじめているが……後ろ手のままなのにまだやるつもりなのか?

 あの男の根性は見上げたものだけれどな、この状況じゃあ……っと、あれ? なんか急に止まった?

 なんだ、なんか上の方を見ている……?

『ンー? なんだまだいたのか? レンラクごくろーちゃん! もうキエていーぞ?』

 視線の先は……栄光の騎士だっ? なんか大股でこっちへ歩いてくるが……。

「てぇえええええい! そやつは我の獲物ぞー!」

 あっ……まあ、そうだよな、皇帝を横取りされたのに妙に大人しいなとは思ったが……ついに動き出したか。

「こっちへ渡せェエエエイッ!」

 どうでもいいが、なんかみんなして皇帝の奪い合いをしているなぁ……。

『ダリー!』クラウザーだ『じゃーブッコロで!』

 クラウザーの仲間らしいよくわからん四人が動き出した、というかあの機械人間は何なんだ? あいつだけ動かないが……軍隊蟻じゃないのか? たしかに見た目がだいぶ違うんだよな、丸みを帯びた四角いボディに細い手足、顔には横一線の画面? みたいなのがついている、もとは水色だか白だかのボディだろうが、サビのような色の部分も多数、見受けられる……と、普通にバニーコナー嬢がやってきて……会話を試みているらしい?

 ……彼女に関してはクラウザー等々、何か文句をつけることはないんだな。まあ変に衝突すると文字通り死活問題になるだろうし当然か……。

 ……まあ、とりあえずフェリクスたちを解放させてもらおうか。今後のことも話しておかないとならないしな。

『……あっ、ちょっ、待って待って! ちょいマチ! いまソイつらカイホーしたらメンドイことになるでしょ!』

 ええ……? さっき帰っていいっていったじゃん……。

『ちょいちょいマチマチ、あとであとで、アイツがブッコロされるまでちょいオトナしくしててよ、かわいコちゃんのナマクビなんてミたくねーでしょ?』

 人質がいるとはいえ挟撃されるのを嫌ったか、だが栄光の騎士を片付けてからって……できるのか? 四対一とはいえ奴はわりと不死身だし、今もわちゃわちゃとやりあってはいるようだが……互いに息を切らせている状態だぞ……?

「わかったよ、でも話だけはさせてくれないか?」

『ンー、まあいいよ』

 やれやれ、どうしたもんだか……。

「……それでフェリクス、大丈夫か?」

 フェリクスは苦笑いし、

「怪我とかはないけど、手も足もでない状態だよー」

「こっちも黒エリと引き離されてな、しかも得物がぶっ壊れちまって丸腰なんだ。それとさっきの映像で察しただろうが状況が激変していて、今後は一緒に行動をとれないだろう」

「……そうなのかい? 僕にはよくわからない話だったけど……」

「ようはヴァッジスカルの策謀に嵌められているってことだ。死んでなお執念深く俺を追い詰めたいようだな」

「いずれにせよ、あの爆弾をどうにかしなくては」シフォールだ「先ほどから姫に連絡をとろうとしていますが反応がない」

「ひめ?」

「リューメイルのお嬢さんですよ」

 リューメイル……?

「……ああピッカか、あいつ熟睡していたぞ、子供なんだし無闇に巻き込むなよ」

「いいたいことはわかりますが、現状だと打つ手が……。あのパムの老人たちは?」

「詳しい説明は省くがウォル軍と相性が……」

「ほう」

 うっ、いつの間にか中尉が側にっ?

 なんだ、気配を感じなかったような、軍人だしその辺も巧みなのか……?

「それはどういった方々でしょうか?」

「い、いや、しかしあんた、こんなところにいて、あいつが……」

 クラウザーは……栄光の騎士たちのはちゃめちゃバトルに夢中なようだが……って、なんかカラフルな丸いものが飛び回っているが、なんなんだありゃあ……?

「事情が変わりました。早急にあなたのご意見を伺いたいのです」

「いや、爆弾が……」

「それについては我々が処理を」

 あっ、クラウザーの背後にいつの間にか少佐が立っている! と思ったら一撃で昏倒させた……し、奴の手首の辺りから何か外したな、あれが爆弾の起爆装置か?

「先の映像に関して、情報が錯綜しているようですが心当たりはおありですか?」

「……えっ?」

「あの映像を撮ったのはあなたですか?」

「あの映像、お偉いさんみたいな奴の?」

「そうです」

「いや、ない! まったくな……! ようは嵌められたんだよ!」

「ほう」

「ルドリック・ヴァッジスカル……ルーザーウィナーのこと、知っているよな?」

「ええ、裏社会ではかなりの有名人でした」

「死んでなお奴は俺を殺したいようだが、それだけが目的とは思えない」

 俺の推測が正しければ……。

「……聞いてくれ、奴の目的は端的にいって人類への加害だ、あるいはその滅亡すら望んでいた。誇大妄想のようだが、奴は本当にそれを企むような輩なんだ……!」

「滅亡……?」

 やはり中尉は……あまり腑に落ちていないようだな。

「あるいは今回の件もその一環じゃないかと思う。俺をある立場に担ぎ上げて利害のある組織を衝突させるつもりだと思うが……おそらくそれもお膳立てに過ぎないだろう」

 奴がそのくらいで満足するわけがない……!

「真の目的はおそらく……各勢力と軍隊蟻を衝突させることだ、ちょうど、あのブラッドワーカーたちと同様の状況だな……!」

 だが……口に出してみても奇妙に感じる……。そう、どこか片手落ちのような……?

「ですが」中尉だ「その程度ならば特派員でも解決できる見込みがあります」

 ああ、なるほど……。軍隊蟻との悶着程度ならバニーコナー嬢たち特派員でも調停可能、か……。

 俺の場合だと変異性とはいえエンパシアへの加害が追加されているからな、力の弱いエンパシアでは中止ができない可能性はあるだろう。しかし、それ以外だと……多少の被害は出るだろうが、終息はそこまで難しくない? 事実、いま現在、ブラッドワーカーへの加害は中断されているしな。再開されたのはあくまでゼラテアの……。

 ……うん? 何かおかしいぞ……っつーか、いつの間にか少佐が栄光の騎士とよく分からん四人組をまとめてぶちのめしているがっ? ただの肉弾戦だがかなりの強さだな、一方的に殴り倒している……し、中尉がフェリクスたちの拘束を解いている。

 よし、目下の問題は解決したな、それはいいが……そう、引っかかる点がある……。

 ……そうだ、ゼラテアが再開したってくだりだ……。

 ゼラテアが俺から離れて軍隊蟻に憑依したのは何時間か前のこと、対しあの燕尾服の男は……ジュライールに端を発する軍隊蟻の案件について、中止されたとか、再開されたとか……ああ、いたちごっこと表現していたよな……?

 そういういざこざがあったと、それはいい、いいが……それが俺が寝ている、たかが数時間の出来事というのは……?

 ……いや、ありえないことはないが……しかしゼラテアの奴、黒エリを攫うほどすごいマシンを用意してきたんだろ? それほどのものがあるならあんな奴ら、簡単に……。

 ……いや、待てよ?

 まさか……。

「まさかっ……?」

 ゼラテア、ゼラテア……ゼラテアは一人じゃない! リヴァースは俺につきまとっていたが、他のは何をしていた、個別に動いていたとみるべきじゃないかっ?

 中止、再開、いたちごっこ……! そう、バニーコナー嬢、特派員ができるのはあくまで中止だ、そして中止のニュアンスはそう狭くない、いたちごっこ、つまり再開できる程度の中止! 再開命令は誰が出す、ゼラテアたちだ!

 これは……! まずい、まずくないかっ? 何が不味いって、この事態は表面的には容易に終息され得るということだっ! だからこそ気づけない、攻撃中止という爆弾があちこちにまかれていて、ゼラテアたちがいつでも再開という起爆ができる状況になっていることにっ……!

「ローミューンさん、どうしました?」

「ち、中尉、聞いてくれ……!」

 思いつきだが、そう大筋は外していないと思うんだ! ゼラテアはエンパシアのために動いていて、そのための計画があるんだろうが、そう、あいつはサーファーとかぬかしていた、ゼラテアたちの計画をあいつが利用しようとしているとしたらっ……?

「なるほど」

 説明を聞いても中尉は、驚かない?

「ですが、あなたの懸念している事態は過去、幾たびも起こっており、その条件そのものはすでに整っています」

 なに?

 なん、だって……?

「起爆するならばとっくにそうしているはずです。この問題は我々としましてもたびたび議題に上がっており、対処法の模索が行われています」

 マジかよ、爆弾はすでに……。

「そ、それで、解決策は……」

「抜本的なものはなにも……。なんせ、オートキラーの認識そのものからして食い違っているのですから」

「食い違い……?」

「少なくともウォルの一部はあれらをただのロボットとはみなしていません。ひとつの種族と認識しています。理由はいくつかありますが、特徴的なのは死骸を回収するということです」

「回収……たしかに、そういう話があったな」

「技術の秘匿が目的ともいわれていますが、彼らを構成する部品に特別なものはありません。特別なのはその構成です」

「構成……」

「ボディはともかく頭脳の構成があまりにでたらめなのです。むしろなぜ機能しているのかわからない」

 わからない……?

「……じゃあ、魔術で動いているとか? よくわからんことは大抵そういうことだと……」

「ええ、そういった意見はあります。ですが、それにしては規模が大き過ぎるのです。まずキラーには個体差があり、複雑に系統が分岐しています。これを個人の意思で制御しているとはとても思えません。加えて、複合魔術だとしてもそれは長期間の維持が困難という最大の問題があります。となると魔術で生み出したなんらかの回路を複合して構成していると仮定することができ、その完成形である頭脳がどこかにあるという想定になりますが、それですと電波のように何らかのエネルギーを飛ばしていることになります。ですがその形跡は今のところ、見当たりません」

「魔術じゃない? ……だとするなら、いったい?」

「わかりません。ただウルトラスキップ社との関係が疑われています」

「ウルトラスキップ……?」

「細々とした製品や機械部品を製造、販売している会社です。流通ルートが多岐にわたっているのでその廃品を再利用したとの見方が一般的ですし、US社もそう主張していますが、我々はやや訝しく感じており現在、調査中です」

「そう、か……」

 もし関係があるとしたら……つまりは、その会社が軍隊蟻の製造? に関与しているということになる……?

 しかし、それでも種族という認識になるのか?

「いずれにせよ解釈が多様的であり、対策マニュアルにも一貫性をもたせられず、それゆえに各組織間の連携が薄くなっています」

「あれほど危険な存在なのに?」

「そうです……。今のところ、大規模な衝突はほとんど起こっていませんから」

「だが、軍隊蟻はあの巨大兵器をのっとり、おそらく増殖しているんだぞ……!」

「あれはもともとオートキラーの一種であり、内部に大量のキラーがいると推察されています」

「えっ?」

 ……元々、そうだった?

 だとするなら、あれ……?

 何だ、よく分からないな、どういうことだ? ゼラテアが軍隊蟻を呼んで……そこで増やして……でも、そもそも中にたくさんいた?

 ならばわざわざ呼ぶ意味とは? 変異性は厄介だとかいっていたし、クルセリアやヴァッジスカルが邪魔だったから消すために呼び寄せた? でも……クルセリアを狙ってはいなかったように思えるし、ヴァッジスカルの態度からしても……攻撃を受けているような素振りはなかった……。

 何か……いちいち引っかかるな、いや情報が足りないんだ、分からないことはいい、いい……?

 ……情報が、足りない?

 運んできたのは……なんらかの、情報? 何かを伝達するためにやってきた?

 もしくはなんらかの部品を運んできたとか……。

 ウルトラスキップ……。

 何かを隠している……。

 いっそ、あのドラゴンとの戦いもカムフラージュ……? あいつはなんとなく来ちゃったとか訳のわからんことをいっていたが、あれは単純に嘘だった?

 ……いや、やはり分からない、憶測に憶測を重ねても混乱するだけだ、今はそれより……。

「……そうか、では、俺が狙われることで起こり得る事態に心当たりはないかな?」

「もしルーザーウィナーがエンパシアの類であったとして、それを殺害したあなたへの戦闘的な加担が派生的な被害を発生させる懸念は、仰るとおりあり得る事態です。そしてその加担者に加担する者も該当していくでしょう。あるいは制服など、所属を確認できる要素などから対象が一気に拡大していく可能性もあり得ます。ですが、それは先にもいったように特派員で対処できる程度のことです。あなたはご自身の身の安全を最優先に考えるべきでしょう」

 制服……なるほど、そういう経路でも影響が膨らむ可能性があるのか……。

 しかし、それだと話が戻ってしまうな。俺が考え過ぎなだけなのか……?

「……心配をしてくれるのはありがたいが余計な被害を出したくない、あんたらは俺に近づかない方がいいだろうな」

「いいえ、私たちは共同対策センターです。お力になりますよ」

 うーん、なんだか中尉の姿勢に圧があるんだよな……。

 協力を強制したいかのような……。

「……なぜだ? いったい何の利益がある? まさか俺がロードゲイザーなるものだと信じているとか?」

 うっ、中尉の目つきが鋭くなった……!

「……信じている者の挙動を警戒しているのです。あなたが死亡したことで何かが可能になると盲信し……そう、テロなどという暴挙を引き起こさんとする輩が現れてはなりませんから」

 なるほど、体制への悪影響を懸念してのことか……。

「しかし、何を理由にそう信じる者が出てきているんだ?」

「印象でしょう」

「印象って、見ての通り俺はただの……冒険者だぞ?」

「だからこそです。危険な事態に陥っても生き残り、多方にコネクションを形成していることそれ自体が特異であり、なによりメディアがそのことを強化して吹聴しているのです。あなたは特別だと」

 そういうことか……。

 あのとき金色のトンガリを引っこ抜いてやるべきだったな……。

「ようは、面白がって話題にしているうちに本当に信じちまう奴らが出てくるってことか……」

「そうです。大衆とはそういうものですから」

 噂か……。

 どこにでもあることだが、やはり恐ろしい力だな……。

 ……しかし、そもそもだ?

「あの、そもそもロードゲイザーってなに?」

 ニプリャはああいっていたが、つまりは個人的な認識観だからな、世間ではどういう認知がなされているんだ?

「知らずに聞いていたのですか?」悪かったな「特別な観測者のことです。ありとあらゆる人を、道を、時代を、世界を観測し、そのゆくすえを言葉として紡ぐ者たち……。つまりは預言者ですね」

 預言ねぇ……。たしかに俺にはビジョンが見えるがそんな大層なもんじゃないしな。だが誇張されれば……。

「もちろん俺は断固として否定するぞ、わけのわからんことに巻き込まれたくないからな」

「ならばこそ都合がよいでしょう。我々はその存在を否定します。たったひと言で情勢をかき回す存在など認めるわけにはいきませんから。そしてだからこそ、あなたは我々と手を組むべきなのです。ある体系の一部に過ぎないという印象を世間に与えれば、そのうちにみな興味を失うでしょう」

「でもそれは……」

「もちろん従えという話ではありません。我々は共同対策センターですから、あくまで協力関係の域を出ることはありません」

「デメリットはないって?」

「我々にとって重要なのは体制の維持です。言い換えるなら傾覆活動家と手を組まないでいただきたいというお願いです」

「傾覆、反政府組織……」

「具体的にはゼロ・コマンドメンツ、なかでも野蛮超人ですね、あなたが彼らと組むとなるとすこぶる面倒なのです」

 なるほど……。

「俺はウォルの体制を批判する立場じゃないし、奴らと組む予定だってない。むしろ対立関係にあるくらいだ、少なくともカムドとはな」

「ええ……存じておりますとも……」

 ……本当か? 実は疑っているんじゃなかろうな……?

「そもそも奴らはおろか、あんたたちのことすらよく知らないし」

「ええ、いずれご招待いたしましょう。観光の機会を用意するつもりです」

 えっ……?

 マジかよ、観光とは、ウォルの社会を見ることができるのか……?

 そうか、異文化は正直、興味あるからな……。

「加えて、我々はあなたを通じて不穏因子をあぶり出したい。我々が一緒にいることそのものが彼らへの牽制となり、その動きも変わってくるでしょう。その隙を突きたいのです」

 なるほど……?

 ……しかし、やはりそういう勢力がいるんだな。

 あの野蛮超人たちも思うことがあって動いているようだが……。

「……なるほど、一応は……分かった。条件つきで帯同関係を了承するよ。条件とは軍隊蟻にまつわるリスクだ。あまりに不味い事態となったら俺はあんたたちから離れる。悪影響を広げたくないからな」

「了解しました」

 ……仕方がない、事情が事情だ、一時的にも協力……って、あれっ? あれは……じいさんじゃねーか! いつの間に現れた、競技場に入ってきたぞっ……!

 まま、まずい! とにかくあれだ、悶着が起こる前に説明しておかないと……!

「あれは?」

 ああ、中尉も当然、気がつくか……!

「えっと中尉? 中尉さん?」

「はい」

「さ、さっそく相談なんだけれど、これはかなりデリケートな問題なんだ、そこを理解してもらいたい」

「はい? ええ……」

「これはなるべく小さな範囲での秘密にしてもらいたい、変に敵対することになったら即、俺はあんたらとの関係を切る!」

「はい……?」

「いいかいっ?」

「え、ええ……あの人物のことですね?」

「そうそう」

「ひとまずお伺いしましょう……」

 よし、すぐに説明しないとっ!

「実は、実はだ、あんたらと敵対している野蛮超人いるよな?」

「はい」

「その師匠となんというか……仲間のようになっている」

「はい?」

「パムのじいさんだ、超クソ強い拳法家だよ」

「は……」

 中尉は……近づいて来るじいさんを見やり、

「はい?」

「あのじいさんはどうにも奴らを止めたいようで、その一環か分からんが、俺に接触してきたんだ」

「はい……? 一環とは、何です……?」

「野蛮超人たちが俺に接触してきたからかな? なぜか俺に修行をつけて、奴らを悔しがらせてやりたいみたいな……」

 ああ、自分でいっていて意味がわからん……。

「はあ……なぜです?」

 なぜってそんなの、

「わからない」

「わからない?」

「なんというか、理屈が通じないじいさんなんだよ、だからだ、あんたらとモメる可能性があるし、モメたら全員ぶちのめされる懸念がある、あんたたちとしてもそんな醜態は避けたいだろう?」

「……我々が、撃退されると?」

「失礼に聞こえただろうし、そこは謝るけれど……あのじいさんはマジで尋常ではないんだ、人間としては最強クラスなんじゃないかな……」

「あのパムの老人が、ですか?」

「まあ……かなり衰えたとはいっていたが……」

「それで、隣のフィンは何者です?」

 えっ? あれ、いつの間にか増えている、ミズハもいるなっ?

「あっ……ああ、あれはヤマトの国の子だ」

「ヤマト?」

「知らない? 地図だとずっと端の方にあるからな、ええっとあれだ、忍者とか」

「ええ、知ってはいますが……なぜ一緒に?」

「ええと、ほらパムって姿を消す術が得意らしいだろ? それを学びにきたらしいよ」

「パムが、ニンジャの国と関係があるというのですか?」

「さあ……?」

「うふぅゔ……」

 ああ、中尉の様子が……。

「ごめんね、あとね、連れ去られた仲間と合流したいんだけれど、ほらさっき連れ去られたとかいっていたじゃん? だから捜索とか手伝ってくれない? さっそく軍隊蟻がらみで悪いんだれけど……」

「ゔ……うふぅうゔ……」

 ああ……お腹おさえちゃった……。

「いや、厄介な案件でまくし立ててごめんねぇ……? でも、伝えとかないとさ……」

 ……でも、でもだぜ? 俺だって望んでこんな状況になっているわけじゃあないんだぜ? 厄介ごとが向こうから走り寄ってくるからしょうがないんだぜ……?

「あの……」

 うんっ? ああ、バニーコナー嬢だ?

「あの方が、あなたへと」

 なに? あの、機械人間が……?

 なんかのっそりと近づいてくるが……今度は何だよ? なんで俺なんだ? 近づくとさらによく分かる、相当ボロボロだな……全身、傷だらけだ……。

 》》》》ドーモ》》

 ……なんだ? 変な音がしているな、小さくピンピン鳴っている……?

 》》》》ワタシ》》ハ》》》カヴァ》サン》》29》》1》》デス》》》》アナタ》》ハ》》》

「お、俺は……レクテリオル・ローミューン……」

 》》》》レクサン》》》ナンデモ》》シオ》》ヲ》》》モラエル》》》トカ》》》》

 しお……?

「しおって、あの塩? しょっぱいやつ?」

 》》》》ハイ》》

「塩が欲しいの?」

 》》》ハイ》

「……なぜ、俺が塩を持っていると知っている?」

 》》エッ》》》》

「どこから、俺が塩を持っていると知った?」

 》》》》エッ》》》》

 エッてなんだよ?

 》》スミ》》》》マセン》》》ワカリ》》》》マセン》》

 わからない……?

「……これは、かなり旧式ですね」中尉だ「ですが聞いたことのないモデルです」

「そうなの?」

「あなたはどうして塩が欲しいのですか?」

 》》》》エッ》》》

「塩を、どうするのですか?」

 》》スイチュウ》》》》ハ》》》アキマシタ》》》》》ノデ》》》》》

「すいちゅう、ですか?」

 水中は、飽きた?

 》》》ヤハリ》》》》チジョウ》》ガ》》スキ》》》デスノデ》》》》

 ……水中より、地上の方がいい? 飽きたから……。

 そして塩が欲しい……。

 となれば……。

「……もしかして、錆か?」

 》》》サ》》》ビ》》》》》

「サビ……ですか?」

 》》ソウ》》》》デス》》》》コノ》》カラダ》》》》ヲ》》》》サビ》》サセタイ》》ノ》》》》》デス》》》》》》

 体を錆びさせたい?

 しかし……。

「そんなことをしたら機能が止まるんじゃないのか?」

 》》》ハイ》》

「それがあなたのお望みなのですか?」

 》》ハイ》》》

 これは……。

「なぜだ? その体を破壊したいのか?」

 》ハイ》》

「まさか……」中尉はうなる「……壊れなくなった?」

 》》》ハイ》》》

「勝手に再生してしまうのですね?」

 》》ハイ》》》》

 ……なんというか、なんだこいつは?

 おかしいのはそうだが、こいつは……なんだか、かなり危険な雰囲気がある……ように、思えてきたぞ……。

 ……あまり関わるのはよくないかもな、欲しいものを与えて去ってもらった方がいいだろう……。

「……わかった。でも少し待ってくれ、塩が到着するのは朝方だ」

 》》》》ハイ》》》アリ》》ガトウ》》ゴザイ》》》》マス》》》》

 ……動かなくなったな。だが機能が停止しているわけではないだろう。

「なぜ……」中尉だ「塩を、あなたが……?」

「あの栄光の騎士の弱点らしいんだ」

 いつの間にか奴とブラッドワーカーたちが拘束されている、形勢がそのまま逆転したような状況になったな。

「そこにいる俺の仲間とその知人なんだが、奴に命を狙われているんでね」

「なるほど……?」中尉は栄光の騎士を見やる「塩に弱い、それは初耳です」

「なるほどのう、不死の輩か」

「からくり人間でござるなぁ」

 おっとじいさんだ、それにミズハだが、その後ろでピッカが水玉の上でウトウトしている、こいつもいたのかよ、けっきょくみんな揃ってしまったようだ……いや、コーナーは?

 ……ああいた、客席のところで大あくびしているなぁ。

「お主、くたばりたいのか?」

 うっ……?

 その言葉を受け、カヴァサン? が突如として動き出した……。

 》》》》ハイ》》》》》》

「そうか、運がいいのう」

 うっ、この気配はっ……?

「クソヤバじゃが、見せておかんとならんしのう」

「なんでござるかっ? これは……!」

 これはっ、例のあの力……!

 じいさんの気配が混沌の色味になっていく……!

「あうわっ!」

 ピッカの水玉が崩れて、落っこちた!

 それより、じいさんの掌に何かが集まっていく……と、

「秡っ……!」

 うっ、掌底だ、一撃っ……で!

 カヴァサンがっ……吹き飛んだ! 一気にバラバラになった……! 粉々だっ……?

「かあああぁつ……!」

 じいさんの気配が……元に戻っていく……。

 これはあのときと同じ、カオスパワー……ってやつだな。

 そういやあの大男……これをやろうとしたんだろうか?

「なんと……!」ミズハだ「これが……!」

「なんじゃあぁ……!」

 地に落ちたピッカだ、なんか転がっている……。

「わらわの水玉を割ったのは誰じゃあぁ……?」

「もしもじゃ」じいさんだ「これでもなお甦ってくるようならばクソヤバな輩じゃな」

 あの状態から再生する、あり得るのか?

 魔術を打ち消す力をくらってなお……。

「……じいさん、なんなんだあいつは?」

「稀におるんじゃよ、死ねない輩がな。何やらすべきことがあるんじゃろうが、当人に自覚がなければ延々と彷徨うこととなるじゃろうな」

 そんな、ことが……。

 まさか、

「魔術の、暴走……?」

「さあのう。理屈は知らんわい」

「でも魔術って、機械でも使えるのか……?」

「どうなのかのう」

「よろしいですか」おっと中尉だ「あなたはグレード・ウォール制度反対活動家たちの戦闘技術にまつわる訓練教官であるとか」

 おいおいなんだ、いきなりかよ?

「待て、揉め事を起こさないと……」

「馬鹿弟子どもの考えなど知らんわい」

 うっ……少佐が、じいさんの背後に立った……。

「修行の途中で逃げ出しおったんじゃ、半端者どもめが……」

「そうです、あなたは彼らを鍛え上げた」

「上がっとらんわい、未熟者どもじゃ!」

「いずれにせよ、その件について質問があります」

 だが、じいさんは笑む……!

「違うじゃろ、もっと実際的な対策をせんかい」

「対策とは……?」

 ま、まさか……!

「ワッシーのデッシーになるんじゃ! そうすればあ奴らがどのような技術を使うのかよく分かるじゃろうよ!」

 ああ……またか……。

 中尉は……固まっている。

 少佐も、固まっている……。

「……お断りします」ややして、中尉が口を開く「誤った情報を与えられる可能性がありますので……」

「そんなもん学んでから判断すればいいじゃろ! なんじゃ、戦を生業としておるもんが、何を臆しておる!」

 いやあ、慎重になるのは当たり前じゃねぇの……って、少佐が静かに手刀を振りかぶりっ……!

「おいっ!」

 振り下ろしたっ……がっ、なんだっ? 次の瞬間には高いぞっ、真上に吹き飛ばされた……!

「おいおい!」

 だが宙で一回転、そのまま着地した……。

 とくに怪我はないようだが……ああよかった、意外にも空気を読んだのはじいさんの方だったか……。

「面白い」少佐だ「では、特別顧問として迎えよう」

 中尉は顔をひそめ、

「ほ、本気ですか……?」

「ええ、私とて拳法家の端くれ、企てがあるならば見抜けましょう」

 マジかよ……? 本当にいいのか? いや、変に衝突するよりはずっと穏便だが……でも中尉は……?

「うっ……ゔぅ、ううぅ……」

 ああ、またお腹痛くなっちゃった……。

「まあ……前向きにいこう……なっ?」

 中尉はうふぅうう……と深呼吸し、

「え、ええ……得難い情報も多く得られることでしょうし……」

 いやぁ、そいつはどうかな? 俺とて巻き込まれまくっているが、肝心なところは誰も何も教えてくれないぞ……。

 それはそうと俺は……とにかく黒エリ探しだ、いくら無事だろうっていっても、あまり遅くなると怒り始めるだろうし、放置なんてもっての外だ、遅くなるほどクソ怒って収拾がつかなくなる可能性があるぞ。軍隊蟻のこともあるしな、俺のことを別にしても頼みの綱がエリと黒エリになる可能性は高い。

 あるいはゼラテアが推していたホーさんにも止めることができるのかもしれないが……それは暗にゼラテアとの繋がりを思わせるし、ゼラテアはカムドと関係があり、エリが力を失ったのは奴の話を聞いてからで、その後ホーさんたちが迎えに来た……。

「ともかく……少し落ち着きましょうか」

 中尉はまだお腹を押さえているなぁ……。

「事態は一段落でしょうし……」

 そうだな、グゥーが来るまで休むか……。

 俺とてあまり寝ていないし、頭もいまいち回っている気もしないしな……。

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