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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
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這い寄る異形

 どうしたものだろう。どうしたものか。

 僕はいったいどうするべきなのか……。

 でもこれは悩みじゃない。

 単に臆しているだけなんだろう……。

 そう、認めなくてはならない。

 あの映画という劇場での演技力といったら……!

 演出の迫力といったら!

 そう、ちょうどあのように落下し、

 激突し、

 炎上し……。

 そして主人公はひとり、また戦いの場へと向かうんだ……。 


「……きろ、起きろって!」

 え、ああ……?

 なんだよいったい……って、ああ……寝ちまっていたか……。

 ……うーん、あー、だるいわぁ……。

「疲れるのはわかるが、あんま気を抜くなよ」グゥーだ「ヤバそうなら早めに指示してほしいんだからな」

「ああ……」

「そろそろだぜ、どの辺で降りる?」

「ああ……そうだな、例の建造物から離れた場所に降りてくれ」

「屋上に降りなくていいのか?」

「奴が奇襲をかけてこないとも限らんからな……っと、そうだ、塩とかある?」

「しお?」

「栄光の騎士ってなんか塩に弱いんだって」

「しおってあのしょっぱいやつ?」

「そう」

「ねーよ」

「そうだよな……ちょっと持ってきてくんねぇ?」

「ええ? 塩を?」

「そう」

「どんくらいよ?」

「いっぱい。10キロじゃ足りないかも」

「そんなに? 急にいうなよ!」

「ごめんごめん、寝ちゃったし」

「まあ、高いもんでもないからな……いいけどよ、その量だと時間かかるぞ。どこかのギマコミュで買い物しないとならんし」

「どのくらい?」

「うーん、明日の朝」

「そんなに?」

「今からだと塩を買った時点で日が暮れるし、基本、夜に飛びたくないんだよ。レーダーや暗視装置とかもあるけど視認性は下がるからな、あと厄介な獣もでやすいし」

「そうか……」

 うーん、グゥーの安全にも関わるし、無理はいえないか? 栄光の騎士は厄介ではあれども強くはないみたいだからな、まあ一夜くらいなら問題ないかも……。

「それともいったん全員回収するか? ギマコミュには入れないから少しの間、近隣の森で待機になるが……」

 しかし、栄光の騎士を見失いたくないんだよな。忘れた頃に後ろから刺されるなんてことは充分にあり得るし、奴が眼前の皇帝に執心している今が倒す好機といえるだろう。

「いや、ここで奴を足止めするよ。じゃあ明日の朝にな。近くなったら連絡をくれよ」

「つかお前もいくの?」

「え?」

「武器ないんだろ。丸腰じゃねぇかよ」

 ああ……。

「まあ、なんとかなるさ……」

「本当かよ? 一緒にくるか? お前だけならギマコミュに入れるかもよ」

「待て」おっと黒エリが頭を出してきた「ならば私もゆくぞ」

 グゥーはうなり、

「……あんたは無理かなぁ。つかあの忍者はどうするんだよ? いよいよ連れてはいけんし、あそこに置いていくのか?」

 そういやミズハはパムを探しているんだったな。とりあえずだが、じいさんやコーナーに会わせる必要があるだろう。

「わかった、いろいろあるし、やっぱり降りるよ」

「そうかぁ?」グゥーはまたうなる「大丈夫かよ、死ぬなよー」

「せいぜい逃げに徹するさ」

「私がいれば問題はない」

「おっけ、明日の朝、6時から7時くらいに着くようにするからな、準備しとけよ」

「了解だ。お前も気をつけろよ」

 さて下方に見えてきたぞ、謎の廃墟群、ロアだ……。

「おっし、近くに反応なし、降りるぞ」

 ギャロップはゆっくり降りていき……着地した。

 さーて、じゃあ、行きますかぁ……。

 あーあ、またあくびでてきた……。

「よし、行くかぁ……」

「そのガラクタは置いてけよ」

「ガ、ガラクタじゃねーよ……!」

「あとあの箱もっていけ。飯とか入ってるから」

「おお、サンキュー」

 さて、降りますかぁ……。

「じゃあ明日な」

「おう、よろしくー」

 そしてギャロップはまた飛び立っていく……。

 さあて……。

「じいさんがいるんだし、ヤバいことにはなっていないだろう……というかそうだ、ミズハに事情を……」

「それは私が話しておいた」

 おっ、そう?

「さっそくネコビトに会えるとは! 有難いでござる!」

 そういやあの二人、パムとしてはどういう感じなんだろう? たぶんどっちもけっこうな変わり者だと思うんだよなぁ……。

 しっかしこの場所……相変わらず耳が痛いほどに静かだし、霧も濃いなぁ。晴れたりする日とかないのかね?

「にしても、不思議な場所でござるなぁ」

「ああ、行こう……」

 ……っと、気配が近づいてくるな……あれは、ピッカだ? 水の塊に乗って飛んできた。

「ようやっと来たかいのー!」

 あいつなんで単独行動しているんだ? わざわざ迎えにきたってわけでもなさそうだが……。

「どうかしたのかっ?」

「めんどくさいことになったんじゃ、じーじが……」

 えっ、じいさんっ?

「ど、どうしたのよっ?」

「あやついくらでも再生するじゃろ、だからじーじが練習台にし始めたんじゃ」

 練習台……?

「……ドン引きじゃったわ。あのじーじヤバすぎじゃろ、穴という穴に指突っ込んで投げ落とすんじゃ、どうかしとるわい!」

 ……驚きはしない。格闘術を極めるということは文字通りなんでもやるということだ。

「おかしな話じゃが、そのくらいでやめておけという話になったんじゃ。だってあ奴がなんかおかしな肉塊になっとるんじゃもん! そしたらじーじ、見極めたとかいって、あの騎士の回復を待って、逃げ出したところで後ろから掌底をくらわしたんじゃ。そうしたら、なんかすぽーんって、変な球が腹から出てきて、なんかそれがあやつのコア? なんだって話になったんじゃ」

 ほう……。

「ワッシー悪くないじゃろ!」

 うわっ、びっくりした! じいさんかよ、どこから現れた! 微塵も気配なかったぞっ?

「やややっ! ネコビトでござーるぅ!」

「うおっ、なんじゃお前はっ?」

 ミズハは膝をつき、

「至極のトンジュツをご指南いただきたく、ヤマトより推参いたした不肖ミズハと申しまする!」

 じいさんの顔がゆっくりと……笑顔になっていく。

「にゅふふ、トンジュツか、ほうほう、なるほどのう」

 なんか教えたくて仕方ないみたいだからなぁ……ミズハは願ったり叶ったりの相手というわけか。

「ヤマトの忍び、ビョウの特殊任務じゃな」

「左様でござりまする」

 おおっ? なんだそれ? ミズハの事情に詳しいのか……?

 それにこれは……? じいさんの気配が、底知れぬ深みを帯びていくような……!

「だが儂はクゼツムケンリュウの者よ。無論トンジュツにも通じるが、儂の手ほどきに染まると悶着の火種になりかねん」

 クゼツ……あのとき聞いた名だな?

「ややっ……? 不肖ミズハ、その事情には不明でござる」

「とはいえじゃ、他言無用ならばその限りでもなかろうな」

「かっ、かたじけないでござる!」

「よいよい、暇じゃしな」

 まあそれが本音なんだろうが……暇ってなんだ? コーナーを守ってほしいんだが……。

「暇ってどういうことだ? もしかして栄光の騎士を倒したのか?」

「ぬう? いや、それは……」

 なんか急に目を逸らし始めた……。

「なんかしたんだろ……」

「ワッシー悪くないもん!」なんかさっきまでの威厳が一瞬で消えたな「なんかコア? とかいうのがあるという話じゃから、それを取り出しただけじゃもん!」

「そしたらじゃ!」ピッカだ「元の肉体が死なずにコアを追いかけてって、それをおめおめ逃したんじゃ!」

「追撃の手を収めることが修行なんじゃ。とくにパムは本能的にそれの虜となりがちなんじゃが、戦ではその気質を敵兵に利用されたりすることがままあるんじゃな。ゆえに安易な追撃は避けたんじゃ。それをなんじゃ、ぼーっとするなとか、まだボケとらんわい!」

「とかいって騒いでるうちに逃したんじゃ。ぜったい面倒なことになるじゃろって、シフォールたちが追いかけたんじゃが、なんか二人になってるとかいっておめおめ退散してきたんじゃ。しゃあないからわらわが見つけて引導を渡してやったんじゃが、コアのない方でハズレだったんじゃ。トカゲの尻尾切りじゃの」

「そこからじゃ、明白にワッシーらを避け始めおった」

「そうなんじゃ、わらわたちの姿を見た途端、ものすごい速さで逃げるようになったんじゃ」

 強者とは徹底して戦わない……。なるほど、奴の得意な持久戦か……。

 たしかにかなり厄介だな……。奴の狙いはもっぱら皇帝だろうし……。

「そうしたらあ奴ら、ワッシーらをのけ者にし始めたんじゃ!」

「向こうから攻めこなくなったらかえって厄介なんじゃと。だからわらわたちはこの辺でぶらぶらしているんじゃ……」

「除け者なんじゃ、暇なんじゃ、どうにかせんかデッシーよ!」

「ややっ、兄弟子さまでござったかっ?」

 いや違うし、いろいろとめんどくせーなぁもう……!

「……でも、グゥーが迎えにくるのは明日の朝だぞ」

「なぬうっ? なんでじゃ! ワッシーは映画の続きが観たいんじゃ!」

「塩が弱点らしいが……」

 それを持ってくるグゥーの都合があるし、こればっかりはどうしようもない。

 説明を聞いたじいさんらはうなり、

「なめくじじゃな」

「なめくじじゃ」

「なめくじはあまり得意ではないでござる」

「というか、彼らは大丈夫なのか?」

「知らん。なにかあってもワッシーらを除け者にしたからじゃ」

「そうじゃ、除け者にするからじゃ」

 いやはや、もっとも頼りになるこの二人が戦線から外れるとかそんなことあるのかよ……。

「……そうだな、とりあえず別の建物にでもいてくれないか? ここに食料もあるからのんびりしていてくれよ」

「おうおう、腹が減ってきたところじゃ、よかろう」

「お菓子はあるんかいな?」

「他の人のぶんも残しておいてくれよ」

 けっこうな量があるはずだが、じいさんらに渡すと全部食われちまいそうなんだよな……。

「ところでおんし、ミズハじゃったか。いわゆる忍者かの」

「左様でござる! そう仰有るそなたは仙術関連とお見受けするが」

「ほう! わかるかの! にょほほ、見所がありそうじゃな。して、そのごーぐるはどうしたんじゃ?」

「これはでござるなぁ……」

 うーん、こっちはさっそく仲良くやり始めているのにな……。

 癖のある奴らばっかりだし、相性がもろにでるのかな……。

「よし、じゃあ、じいさんらはあの建物にいてくれ。俺たちは向こうへといく。もしかしたら助力をお願いするかもしれないから、そのときは頼むよ」

「ちなみにデッシーよ、トンジュツとはこう書く」

 えっ? なんかじいさんが……石で地面に……東方の漢字だな、書き始めたが……?

「遁術と書く。逃げ隠れる術という意味じゃな。お主のような冒険者ならばその重要性が痛いほどにわかるじゃろう」

 それはまあ、そうだが……。

「遁術は古く、生態系の妙味に遡る。獣の生態、本能、習性……野生の世界は騙し合いじゃ。異論などあるわけもなかろう」

 ああ……それはそう、まさにその通り……。

「ああ、ない」

「気をぬくでないぞ、稚拙極まりないとはいえ、奴の行動は結果的に遁術とその方向性を同じくしとる。逃げ隠れて後ろからグサリというやつじゃ。厄介じゃぞ」

「ふん」黒エリだ「私がいれば問題などない」

「デッシーはな」

 うっ、じいさんの見立てじゃ……。

「彼らだけじゃあ……やっぱりヤバいかな?」

「まあヤバげじゃな」

「……わかった。気をつけさせよう。俺たちはちょっと様子をみてくるよ」

 ……さて、またあの建物だが、奴がいるところにわざわざ出向きたくもないなぁ……。

「結果的に、奴にとって都合のよい状況が生まれている」黒エリだ「流れが悪い。嫌な予感がする」

 そうだな……。

「情報解析をしつつ奴を無事に倒すなんて……甘い考えだ。やっぱりじいさんに頼むべきかなぁ……。下手に追いかけないようにしているとはいったが、あのじいさんなら余裕で瞬殺できると思うんだよな……」

「皇帝らが自ら招いた事態だ。あなたが頼み込む必要などないさ」

 うーん、かといって見殺しにはできんぞ……。

 さて、着いちまったが……。

「いくか……」

 またこのぼろい階段を上るのか、崩れたりしてくれるなよ。

「あーあ、なんか怠いなぁ……」

「当然だ、あんな騒ぎの後なのだからな。様子を見たらあの翁のところへゆこう。食べて休むべきだ」

「そうしようかなぁ……でもなぁ……」

 はあ、ようやく九階まできたが……。

「レク、気をつけろ」

 いるのかぁ、栄光の騎士だ……。

 なんかあの部屋の前で腕を組んで……動かない。何をしているんだ?

 はあ、奴もこっちに気がついたらしい……。

「おやおや、戻ってきたのか。部外者はお呼びでないのだがなぁ」

 ……なんだ? 妙に余裕ヅラのようだが……?

「ふん、私たちも関与する気はない」

 おいおい黒エリ、そんな言い切るかよ?

「ふっふっふ、ではさっさと消えるんだな。これからどうなるかわからんぞぉ!」

 ……なに?

「どういうことだ?」

「いったろう、私は七聖騎士の一人であると。残りの六人が加勢に来るのさ」

 なにぃ……? というか聖騎士とかだっけ……?

「マジかよ、そういやあいつ、ブラッドワーカーと繋がりがあったな。だがブラフの可能性もあるぜ」

「奴に仲間がいるとは思えんしな……」黒エリはうなる「いずれにせよ様子見……」

 ……うっ? この音は?

「駆動音、ギャロップだな。屋上に着地したらしい」

「噂をすれば、だ」栄光の騎士は笑う「立ち去るなら今が好機だぞ、これより奴らを主菜とした凄惨な宴が始まるのだからな!」

 笑いながら……向こう側の階段の方へと消えたな。屋上へと向かったか……!

「本当に来たのか……ならば離脱するしかないな。時間がない、マストはコーナーだ。他はやる気なら好きにさせる。奴らが降りてきたら時間稼ぎを頼む、いくぞ!」

 まったく、いきなり忙しないな!

 廊下の奥、908、ここだ!

「おいっ、ローミューンだ! 戻って来たぞ、開けてくれ!」

 ……反応がない? だが気配は複数ある、どうした、早くしろ!

「おいっ、早くドアを開けろっ!」

「レク、上で交戦が起こったらしい」

 なにっ……っと、ドアが開いた! 現れたのはシフォールだ!

「おや、意外と早いお帰りで」

「さっきの音を聞いたかっ? 増援らしい、離脱しよう!」

「そういうわけにはいきませんよ」

「コーナーを危険に晒すことは……」

 うっ? なんだ、轟音っ? 上からだ、たしかに交戦しているらしい、奴の味方が来たんじゃないのかっ?

「なんだかわからんがとにかくヤバい! コーナーを……」

「レクッ」

 おっ? なんか、階段から落ちてきた……栄光の騎士だっ? だが頭がないぞ、いや、今度は頭部が落ちてきたっ?

 足音、複数……!

「まだいたのか」

 階段を降りてくるのは……!

 あっ、あいつらはっ!

 さっきやりあったインペリアル・サーヴァント? じゃねーか! だが青と緑の二人だけだ……?

「何者だ? 冒険者か?」

 こいつら……そうか、変身しているときに見かけたんだ、俺たちの姿は見ていないか! 下手に交戦する必要はない、どうにかやり過ごしたいが……。

「ああ……助かった。このよくわからん奴に絡まれて大変だったんだ。だがこいつは不死身らしい、気をつけた方がいい……」

「なに?」

 おっ、栄光の騎士の手が……緑の奴の足を掴んでいる!

「なんだこいつはっ?」

「そいつはすぐ再生するんだ! 倒しても復活しやがる!」

 とかいっている間に、頭みたいなのが生え始めている!

「ぎひひひ!」

 しかも殺人剣をめちゃくちゃに振り回し始めたぁ!

「ちっ、化け物が!」

 風? かなんかの魔術だろうがあまり効いていないらしい! 硬化しているな!

「今のうちだ……!」

 どさくさ紛れに室内へと入ろう!

 さて、どうするか……! シフォールは怪訝な顔だ。

「……いったい何事ですか?」

「新手だ、ドアの先でやり合っている、すぐに撤収……」

 うおおっ? なんだこの揺れっ、轟音! すげぇ揺れているっ……また上だっ……?

「あっ……?」

 窓の外、なんかでかいのが落ちていった……先で爆発音……!

「な、なんなんだよ……!」

 窓から覗き見る、あれはギャロップ……? が炎上している……。

 奴らの乗ってきたもの……?

「むっ……なんだ?」黒エリだ「また複数の足音、さらなる新手らしい。音が硬質的だ、ロボット?」

 なにぃ……って、壁の向こう、廊下の方から声がする、大声で叫んでいる……銃撃音! 猛烈な音がするっ!

「いかんな」

 黒エリだ、光線で壁を切り裂き、蹴りの一発で綺麗に横穴が空いたぞ!

「なにを!」皇帝だ「ここの壁は……!」

「データサルベージは終了だ。このまま突き当たりの部屋まで移動し、そこのドアから出た先の階段で一気に降りる」

 黒エリが蹴りで壁を倒していく、光線はすでに奥まで到達しているのか!

「よしみんな、続け!」

 あっという間に奥の部屋へ、

「よし……だがこのドアは外開きだ、開けた途端に発見され撃たれるかもしれないな」

「ならば内開きにすればよい」

 うわっ、黒エリが無理やり内側に開けちゃった!

 相変わらずの怪力ですねぇ……!

 そして廊下の先を覗くが……とくに攻撃はされないようだな。

「……戦いに夢中でこちらに気がついていないようだ」

「そうか。よしみんな、順番に出て階段を降りろっ」

 そしてみな次々と飛び出していき……最後は俺だ。

「まったく、あなたがしんがりになる必要はないと思うがな」

「お前こそ。……よし、一緒にいくぞ」

「うん」

 ……と、その前に一応、廊下の先を確認しようかな……。すぐに帰れるわけじゃないし、何が来たのか知っておかないと……って、

 なっ……!

 なにぃいいいいっ?

 あれはまさか、まさかまさか! なぜだっ?

「これレク、あまり覗き込むな……。さっさと出よう」

 そうか、黒エリはよく知らんか、あのときニプリャになっていたからな……!

「……黒エリッ……」

「むっ?」

「あいつら、あのロボットは絶対に攻撃するなっ……」

「なに?」

「絶対にだ……! お前とて、命に関わるぞ……!」

「わ、わかった……?」

 栄光の騎士がバラバラになっていた、それにサーヴァント? の誰かも倒れていた、おそらく死んでいるだろう……!

 ぐ、軍隊蟻……! よりにもよってなんであいつらが……!

 しかも、見た目が、装備が以前よりずっと充実していた!

 もはや、撤退以外の選択肢は確実にない……!

「……よし、いこう」

 部屋から飛び出し、一気に階段を降り、建物から出る、近くではまだギャロップが炎上している……。

 上の様子は……霧でよく見えないが、まだ轟音が響いている……。

 よし、全員いるな……。

「……参りましたね」シフォールだ「どういうことですか、これは?」

「栄光の騎士が増援を呼んだらしいが、来たのはインペリアル・サーヴァントを名乗る六人組のうち、二人だった」

「……なんですって?」

「ついさっき、時の雪原で見かけたんだよ。単に同じ名前の集団ってだけかもしれないが」

 シフォールはふと皇帝を見やり、うなる……。

 それにしてもあいつらマジで何なんだ? どこからともなく出張ってきては返り討ちに遭ってばかりいるが……。

「……そしてそのあとさらに新手が来た。こっちは軍隊蟻と呼ばれる機械兵士の集団だ。攻撃するなよ、栄光の騎士のように延々とつけ狙ってくるらしい。奴は弱いかもしれんが、軍隊蟻は単体でも相当に強いぞ……!」

 しかし栄光の騎士がやられたということは今後も狙われ続けるのか? それとも殺したとみなされて追撃は解除されるのか……。

「ともかくじいさんらと合流しよう……」

 まったく、いちいちとんでもない事態に発展しているな……っと、この建物だ、ここのどの部屋にいるのかよくわからないが……ああ、ピッカの気配があるな。二階辺りか?

「こっちだ」

 二階に上ってすぐの部屋だ、ドアをノックし、

「俺だ、ちょっと話がある」

「鍵はかかってないわい」

 本当だ、やや不用心だが……じいさんいるし問題はないか。

 室内では……さっそくみんな飯を食っている。じいさんはひとこと、

「なにか来おったな」

「ああ、大変なことになった。どういうことかわからんが、栄光の騎士が新手を呼び寄せたらしい」

「ああ、あった、アーバーだ」おっとコーナーだ?「つまりはあの野郎、あそこの情報を不特定多数の場に流したんだよ」

「……それは?」

「ネットワークサービスだ。アーバーは強力な匿名性が売りで、有象無象、重要無用の情報が錯綜している」

 ネットワーク、不特定多数……? ルナの番組みたいなやつかな……?

「……それでなぜ、軍隊蟻が?」

「軍隊蟻っ?」コーナーは目を丸くする「まさか、いま来ているのはオートアーミーなのかっ?」

「断定はできないが機械兵士なのは確実だ。まあ最悪のケースを想定しておいた方がいい」

 もしかしたら別種なのかもしれないが、命を懸けて確かめるわけにもいかない。

「ほう、面白いのう」じいさんだ「奴らが消したいデータがあったというのか」

「しかし、なぜ今……?」

「スタンドアロン化されておる保存箇所は膨大にあるじゃろうからのう。とはいえ、ここで見つかったということは、全域ガサイレが入るじゃろうな」

「ガサイレ?」

「捜査が入るということじゃ。ここもすぐに安全ではなくなるじゃろう」

「マジかよ」

「うむ。なるべく離れた方がよいじゃろうな」

「わかった、すぐに動こう、まずはその食べ物とか片付けてね……」

 こいつらみんな箱から出しやがってよう……。

 しかもミズハしか動かねぇし……って、なんか音が聞こえる……?

「……ややっ? あれはなんでござる?」

 たしかに気配はある……こっちへと向かってきている? 霧が濃くてよく見えないが、パパパンパパン……って音、あれ銃撃音じゃねぇ?

「なにか、来るでござる……」

 なんだ、なんだありゃあ……?

 なんか変なの……が這いずっている、その後ろに人影、軍隊蟻の一体だ? 手元あたりが光っている、銃撃しているのはあいつか、変なのの後ろに追従している、銃を撃ち続けている……?

 それらはやはり、確実にこっちへと向かっている……。

「これは……ひどいことになりましたね……」

「見えるのか? なんなんだありゃあ?」

「ジャールトールが、撃たれながらこちらへと向かっているようです……」

「ええ?」

「攻撃を受け続けて形を崩したあの男が……それでもこちらへとやってきています……」

「はああっ……?」

 ああ、あああっ? あの変なのは栄光の騎士なのかっ? あいつ、延々と撃たれながらこっちへとっ……?

 おいおいおい、どういう状況なんだよっ……? 俺にも見えてきた、うわぁ、体がぐちゃぐちゃだ……! なめくじみたいに這ってくるぅうううう……!

「たしか、あのロボットに攻撃してはいけないんですよね……?」

「あ、ああ……おそらくは……」

「ということは、あれに攻撃を加えるのもリスクがあるということですね……」

「まあ、間違ってあの機械兵士を攻撃したら……今度はこっちが標的になるかもしれんしな……」

「うっ……加速しましたね。すぐに離れた方がいいでしょう」

 うわっ、なんかほんと、動きが速くなっている! 気持ち悪い!

「片付けたでござる!」

「よ、よし、ではみんな、動くぞ!」

 二階でよかった、もっと上の階だったら入り口で鉢合わせになっちまうところだったぜ……!

「よし、みんなついてこい……! なるべく離れるぞ!」

 うっ……?

 奴の気配が、さらに加速したっ?

 なになになに、急接近してきているんだけれどっ? めっちゃ速くねぇっ?

「まっ、まっ、まぁっ……でぇエェエゥ……!」

 奴の声が後ろから聞こえてくるぅうううう……!

「あっ……アあっ、しんじゃアァゔぁああァア……!」

 ひぃいいい……!

「気色が悪いでござるぅー!」

 箱を担いだミズハが加速していく!

「これ美味いじゃふぅ!」

 じいさんはなんか食いながら走っているし!

「どうするんじゃっ?」

 ピッカだ、おお、水玉がもうひとつ、コーナーを乗せている!

「とりあえず、じいさん、ピッカ、ミズハ、コーナーは固まって動いてくれ! 明日の朝六時から七時の間にグゥーが迎えに来るから、それまで身を隠していて欲しい! 時間になったらなるべく屋上にいてくれ! 探しやすいだろうからな!」

 彼らは本来関係ないんだ、コーナーにも世話になった、間違っても軍隊蟻なんかと関わらせたくない!

「そっちはどうするんじゃっ?」

「やむを得ん! 奴らを引きつけつつ! 夜明けを待つ!」

「やれるんかいなっ?」

「まあ、なんとかするさ!」

「にょほほ、格好良いのう……!」

 気配が遠のく、離脱していったようだな!

 そして案の定、栄光とは無縁の騎士はこっちに、正確には皇帝だろう、追いかけてきている!

「やっ、やダァああぁああっ……ゔヴヴゥッ!」

 後方から炎っ? なんだ、今度は火炎放射されているのかっ? 機械兵士はでかいバックパックを背負っている、一定の距離を保ちつつ、躊躇や慈悲など一切なく……奴を炙り続けている……。

「おいっ!」

 黒エリだっ? だが俺にいっているんじゃないな?

「約六百メートル先に大型施設があるようだ! そこから出ずに奴を撒き続けろ!」

「ぬううっ?」サラマンダーだ「どういうことだっ?」

「このまま走り続けられんだろう! それに我々とはぐれた場合、貴様らに勝機はない! 指定の施設で逃げ隠れし、翌朝を待て!」

 沈黙……があるが?

「……承知した!」

 了解したらしいな……黒エリがこっちに来る!

「聞いたな」

「ああ、巨大施設で時間潰しか」

「私たちは近隣で待機だぞ」

「ええっ……?」

「何を驚く、今回は攻撃できないのだろう? 数を多くしても見つかる懸念が大きくなり、有利は薄い」

 それはまあ、そうだが……。

「もう充分に手助けをした。これ以上あなたがその身を危険に晒す必要はない」

「うーん、でも……」

 あいつらで大丈夫かなぁ……?

「わかった……時々は様子を見にいこう。それでいいな?」

「あ、ああ……」

 本当に大丈夫かなぁ……? フェリクスのやつも、こんな事態になっているのに終始ぼーっとしているし……。

 いやぁ、心配だぜ……!

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