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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
138/149

あるいは聖戦

 君は無限とわかれている道を歩んでいる。

 融通無碍とあれ、ワが我が、我なりと酔歩している。

 だがいつか、酔いは冷める。

 冷めてしまうと、酒瓶の多さに厭になる。

 厭になって、割るための石を探し始める。

 ちょうどよいものがあった。

 よいだろう、それでよい。

 石に落として殺すには手頃な大きさだ。

 やりなさい。

 神を敬いなさい。

 君はいつか、酒瓶の多さに厭になる。


 うっ……嘘だろ、こんなことがあるのかっ? 巨大な溝ができている、なんて規模のっ……まるで乾き切った運河だ! 大地が、深く、広く、そして長く、削り取られちまったっ……!

 だが、俺は、俺たちは無事だ……この大きな柱の陰になったから……いつの間に、魔術でつくったのか? しかし、よく耐えたな? この柱……。

 つーかなんでいきなり攻撃してきたっ? 聖女さまが呼び寄せたのかっ? いや、でも、彼女も柱の陰にいる、攻撃範囲内にいたんだ、もし仲間ならもろとも攻撃するか? というか、さっきからジュッダーレアがなんか、呟いているが……?

「……は僥倖だった。ジャガードはしばし柱に身を隠し、反撃の時を待つのだった」

 なんだ、とんでもない早口? いつの間にか手元に本がある、字は読めない……見たことのない文字だな、しかし発音された内容の意味はわかる、だとしたら翻訳でもしているのか? だが、それにしても、何か妙なような……。

 妙といえばページも変だ、ものすごい速さでめくられ続けているが一向に終わりがおとずれない、延々とめくられ続けている、回転しているかのようだ……この感じ、どこかで見たような……って! 巨人がまた身構えたぞっ……? だがっ? 巨獣たちが飛びかかったぁっ? 腕にくらいついたっ、もつれあっている、やれるのかっ? というかあれは聖女さまが呼んだんだろう、シュッダーと戦うような雰囲気だったがっ? いつの間にかシン・ガード相手に共闘しているような感じになっている……っと! うわっ? 転んだっ? 膝をついた、なんかやられたのか……いやっ? いま、頭上に光が通ったかっ? まだもみ合っているが、巨人の揃えた二本の指先がこちらを向いているっ!

「……ばなければ暗殺の矢が彼の頭部に突き刺さっていただろう。サクシュム王子は奇跡的にもまた命を拾ったのだ」

 ……なんなんだ、これは呪文なのか? 信じられないほどの早口だがよく噛まないな……じゃない、重要なのはその効果? だ、どうにもこいつが語っている内容が自身やあの巨人に……あえていえば、転写されるように……似た状況がつくり出されている……ような?

「これでも、楽しいのか?」

 聖女さま、いつの間にか柱を背に座っている……。

 蒐集者もいるな、

「そりゃ楽しいけどよ」しかし、なんでまたこいつは姿をころころ変える?「あれは楽しすぎるだろ」

「あなたにはいっていません」

「まあ、礼はいうさ」シュッダーだ「やりやすくはなった」

「いっているのかそれは?」ため息の吐き方も黒エリっぽいな「マトラス様とオリランテ殿だ。義理堅い方々でな、協力はしてくれるだろうが、あなたの秘術と合わせたところで、あれに勝てるかはわからんぞ」

『な、なぜゆえにあれほどの者たちを呼んでしまったのですっ? シン・ガードがもう来てしまったでしょう!』

「なんでって……」聖女さまはうなる「腹が立ったから……」

『ああもう、これは大変だ……』

 あれに勝つ、やはりシュッダーとやり合うために呼んだんじゃない? なんかえらく憤慨していたし、聖女さまとバトルが始まるんじゃないかとひやひやしたが……。なんせ中身は黒エリなんだからな……。

「いうまでもないが、依り代の体は私たちのものではない。あれと戦いたいがために利用してはならない。かわいそうに、私がこうして現出している間にも、この子は、自身に何が起こっているのかわからないだろう。エリゼローダ、体はすぐに返しますからね」

 聖女さまは……なんか急に聖女っぽくなったな。

 でも俺側のこいつは……。

「犠牲が必要ならばやむを得まい」

『そうですとも』ゼラテアの奴だ!『たかが依り代の犠牲がなんだというのです? あやつらは猿にすぎない。まるで火を扱うことを覚えたばかりの猿人です。そんな者どもに任せては、これまでの積み重ねが無駄になってしまいます」

 ……こいつ、好き放題いってくれるじゃあねぇか……!

「ゼロ・コマンドメンツだ」なんだと?「根源に近いものはもはや、あれしかない」

 あれ、いまゼロ・コマンドメンツっていったな?

 なんで奴らの話題になる……?

 聖女さまも眉をひそめるが……。

「あなたは死人なのだ、諦めなさい」

「それも……計画のうちですよ」うおっと、ゼ・フォーが地面から出てきた!「リンカフフレスの貴公子が何者かにやられるはずもないでしょう」

「まさか?」聖女さまはゼラテアを睨む!「まさか、リヴァースッ?」

『もともと、そういったシステムなのだと推察されています』

 ……なんだ? 何をいっているんだ……?

「なんと残酷なことを!」聖女さまは眉をしかめる「シュッダーレア、あなたは本気でそんなことをやろうとしているのかっ?」

 シュッダー、黙って頷いたが……。

 ゼラテアは意気揚々としていやがる……!

『うふふふふ、聖女さま、ですが答えはそこにしかありません。この展開は計算外ですが、筋道は大きく逸れていません』

「私もこの子を犠牲にしろと? 馬鹿げている! ニルプレイはどうするのだ!」

『もとよりあれを依り代にする予定だったのですよ。最初から狂っていましたから。ですが大きな誤算がありました。レクテリオラとの激戦で頭が吹き飛び、再生するほどに正気に戻っていったのです。慌ててエリゼローダと融合させましたが、今度は彼女のお守りを始めてしまった』

「……話にならない。リヴァース、あなた、どうしてしまったのだ……?」

『あなたが眠っている間、私にもいろいろあったのですよ』

「そうなのだろうな、あなたはミーハーだから。その見た目はなんの影響だ?」

『ミーハー……』ゼラテアは目を丸くする『いえいえ、あの、聞き捨てならないな、聖女さま、私がそんな、馬鹿みたいな、衆愚を形容するかのような……』

「いいえ、あなたはミーハーだ。すぐに誰かの影響を受ける」

『あなたさまとはいえども、その言いぐさには納得いかない』

 両者、睨み合うが……。

 一転して変な空気になったな……。

「おめーら、何の話をしていやがる?」

 蒐集者だが、この男になってからあの異様さがほとんどなくなった気がするなぁ。

「いずれにせよ」シュッダーだ、無視してやるなよ「我々はあれを倒さねばならん。結果においてこそ理解の進行具合が測れるのだからな」

「戦うことで英知を得るなどと……」またため息をついた「そのやり方には賛同できない」

「なんでだよ? いいじゃねーか、争いで発展してきたのが人なんだぜ?」

 蒐集者だ、まあ一理あるが、また無視されている……。

「理由はまだあるさ」

 うおっ……?

 地面が揺れた、ドラゴンが大地に叩きつけられている……! 起き上がらない、あっさりノックアウトかよっ……っと、巨人の頭上にまた巨人! あいつ、あの黒いの! ケルベロスとかいうやつか! 上から、黒い羽? のようなものの乱れ打ちだっ……が、

「あっ……?」

 なんだ、光っ? 横一線の輝き……って、ああっ? ケルベロスが上下に分断されちまっているよぉっ?

 死んだか、ゼ・フォーッ?

 ……とかいって、さっきからここにいるしな……。

 遠くから操作でもしているのか? 搭乗するだけじゃあないんだな。

 でも、ケルベロスが散り散りになって消えていくが……ゼ・フォーは涼しい顔だな? 破壊されたわけじゃあないらしい?

「そう簡単にはやられませんが、やはりこちらの攻撃も通じ難いですね」

「サポート役として使う。有効な手段を模索しておけ」

「了解」

 あれが通じ難いってマジかよっ?

 そうならお前ら、のんきにくっちゃべっている場合かっ?

「まだ若いとはいえ……」聖女さまだ「オリランテがあっという間に……」

「なればこそ、あんな巨人など、人型兵器など存在させてはならないとわかるだろう。人の業であった戦争、その兵器が人の形に回帰する、その意味をな」

「そういいつつも、あなたたちは人型兵器を利用しているではないか」

「毒を以て……というやつさ」

 鎧ったような姿、輝く目、細かい視線などわかるはずもない。だが、あの巨人はこちらを、睨んでいる!

「あれらは人類が破壊せねばならない。我々は戦わねばならんのだ。そのためならばなんだって使うぞ!」

 また本が、開かれる!

「こいつはどれだけ規則を破った?」

「いまだ調査中ですが……」

 ゼ・フォー、ふとゼラテアを見やった?

「どうにも黒い遣いが見えているそうだな?」

 語りかけてもいる? こいつにも見えるのか?

『ああ、不要因子を殺せと命じられているらしい』

 なに……!

 なんだ、あのことがこの戦いと、何か関係があるのかっ……?

「不要因子だと?」本のページ、その回転が速まる!「具体的に何を指す?」

「まだなんとも……」

「それいかんによっては、相当にやっているな」

「ええ、それはきっと」

 なにがっ……?

 なにをっ……?

「ここでやれればいいがな! いくぞっ、戦の王よ!」

 巨人、シン・ガード、剣を構えた! 各所が発光する!

「それは毒虫の群れだった。かするだけで各所が腐っていく猛毒をもつ極めて危険な虫の集合がマッベィへとまっすぐに飛んできていた。しかし彼は冷静だった。松明を点け身をかがめることが最善の策だと知っていたからだ」

 また超早口! ほとんどひとつの音にしか聞こえない! でもなぜだか意味がわかるな?

 というか炎が中空に現れたが……そんなものでどうにかなるかっ……?

「いまなら私にも内容がわかります、ですが虫とはっ? 状況との相関性が低いのでは!」ゼ・フォー、なんか慌て始めやがったっ?「まずい!」

 まずいもなにも、

 なにか猛烈な光が横を、数多に、通り過ぎていくが……。

 地面がまた削られなくなって……。

「おお、ファフニールの光に似ているな」

 蒐集者だ、お前どれだけお気楽なんだよ、あんなもんかすっただけで死ぬっ……いやっ? 黒い何かが周囲を覆った!

「くっ!」なんかゼ・フォーが頑張っているらしい!「そう長くは保ちませんよ!」

「……先ほどから文が簡易に過ぎる……」シュッダーの呟きだ「……こいつ、まさか……」

 なんか黒い壁がものすごい威力に耐えているっぽいことだけがわかるが……。

 だが、これはたしかに、そう保たない気がする……。

「……猶予を与えられているな」

 猶予……?

 あ、ああ……。

 たしか、なんか、そんなこともあったような……?

 そう、俺は、なんでか猶予をくれって、あの黒い鳥たちに頼んだんだった……?

 そしてあれらは、あっさりとそれを承諾した……。

 自分でもよくわからないやりとりだったが……。

 ……だが、なぜにそんな、こいつ、ピンポイントでわかった?

 こいつら、何をどこまで知っているんだ……!

「申し訳ありません、我々も分析を急いでいるのですが、いかんせん奇妙な事象が多く……」

「依り代としては厄介だが、贅沢はいっていられんな」

「そろそろ耐えられません……!」

 黒い壁がめちゃくちゃ震えている、がっ? 隙間、ものすごい光がっ……!

 壁がああっ、裂けたっ?

 まばゆいっ、おいこれ終わりなんじゃねぇーかっ……?

 ……っと思ったら、急に光が去った……。

 ……おお、よくわからんが、なんとか耐え切った、のか……?

 浮いていた炎も、小さくなって……消えた。

「……ああ、ギリギリでした。人史の法があってこれとは……」

「くるぞ」

 よかった……よくないっ!

 巨人が、いないっ?

 いないのはヤバいだろ! どこへ行ったっ?

「熱された油がロブとアンの頭上にふりかからんとしていた。浴びてしまえばさぞかし悶え苦しんだ上に死に至ったことだろう。しかし、そこに彼の祖父が覆いかぶさり幼きロブとアンは助かった」

 頭上、上かっ? マジだいるっ、奴の右手に剣がない、盾に収まっている、その代わり手が、燃えている! ものすごい火球が、降ってくるぅうううっ……?

「火球ですか? あれにしてはぬるいような?」

「地面を突き抜けては一大事だからな」

「しかし、内容からして、耐えられない可能性が……?」

「案ずるな、お前ではない」

 うっ……ううっ?

 なにか細長いもの、鎖分銅のような、いやっ、あれは鎖に捕まっている、デヌメクじゃねーのっ? まだ捕まってんのあんたっ?

 つーかあの勢い、だっ、大火球と衝突しちまぅううっ!

 ……って案の定、中空で大爆発っ!

 おいおいおい!

 デヌメクお前なにやられているんだよぉっ……?

「目くらましだ」

 奴がっ、巨人が突き抜けてきたあああっ……!

「気づけば巨岩が降り注いできていた。ボーディアスはとっさに駆け出し難を逃れるに至る」

 みんな散り散りに飛び退いたっ、巨人が着地、爆風、すっごい砂煙、砂塵がこっちにくるぅううっ?

 というか体がっ、すっごい高い! 一気に高度が上がっている!

 でもおいっ! 砂煙を裂いて巨人が突っ込んでくるぞぉおおおおおっ……?

「まとわりつくわずらわしい小虫に執着しているがゆえに、その騎士は近くに潜む獣に気がつかなかった。どう猛な牙と爪が鎧に突き立てられ、両者は組み合っては転がり、やがて地面に伏せるのだった」

 おわっ、巨獣がっ、また巨人に襲いかかった! サンダーコール? は帯電している、猛烈な電撃だっ! 稲光が四方八方に、こっちにもくるかもっ?

「ちっ!」

 シュッダー、身構えた? そうか、例の無効化ができないんだ、というかこいつも帯電し始めたな、電撃には電撃で防御ってわけか? このくらいのことならその本は使わない?

 だが、そもそも俺には電撃が効かない、ダメージは共有されているようだし、よくわからんが、こういうのだって同じなんじゃないのか?

「なにっ?」

 ああやっぱり、まとった電撃が吸収されちまったらしい。つまりは充電だが、状況的にはよくないか?

「馬鹿な、まさかこいつ……!」

 えっ、なんだ? シュッダーのやつ、急に慌て始めた?

「ゼフ! こいつっ、電撃を吸収できるのかっ?」

「は、ええ!」おっと、近くにいたのか「それが何かっ?」

「俺のバトルスーツにはない機能だ!」

「なんですって? ですが、OSはリヴァースでしょうっ?」

「あいつ……! 呼び戻しを重ねたな!」

「えっ、ええ、レクテリオラが確認されていますが!」

「あのスーツにもその機能はない!」

「では、単にレクテリオルのスペシャルなのではっ?」

「そうかレクテリオル! こいつ、本当にレクテリオンズの系譜なのか!」

「そっ、それは……?」

「くそっ、体が崩壊する! ゼラテァアアッ!」

『はい、こちらゼラテア・オリジンですわ。あなたは正規の登録者ではありませんのね』

 うおっ、あれっ?

 あのゼラテアじゃない、なんか淑女っぽい人が現れたっ?

「オッ、オリジンだとっ?」

 なんだなんだ、ゼラテアにもいろいろいるのか?

「まさか、セラティア・ローミューン?」

 ……ロー、ミューン?

『あら、よくご存知で。ともあれ、機能は解放いたしません、悪しからず。それではごきげんよう』

 消えちまった、が……。

「おい! この依り代、まさかレクテリオル・ローミューンだなどといわないだろうなっ?」

「はっ……? えっ、ええ、その通り、ですが……」

「……ちっ、今回はこれまでだな。こいつの素性を調べ尽くしておけ!」

「隊長っ?」

「そうは都合よくいかんものだ。今後とも、慎重にことを成せよ」

「りっ……了解!」

「それとだ……成せる者は俺だけとは限らん。このことも念頭に置いておけ」

「なんですか、それは……?」

「任せたぞ」

 うっ……なんだ、眩しい……!

 いや、それより、さっきから何をいっているんだ、ゼラテア、セラティア、ローミューン? レクテリオンズ……?

 俺は……。

 俺たちは……?

 ……つーか、あれっ?

 なんか、あれっ?

 変だ、いや変じゃない! まるで変じゃないっ!

 かっ、体が、正常に動くっ……?

 手が動く、ちゃんと動いている……!

 顔、顔には、何もはりついていない……。

 俺の服、足……。

 そういや体が崩れるって……。

 まさかっ?

「うおおおおおおおおおぉっ?」

 ばっかおい普通に落下しているじゃねーかっ!

 この感じだと絶対大怪我するやつ!

 そろそろ地面がぁああああっ……?

「おっと」

 おおっ……?

 おおおっ……?

 ゼ・フォーか! 受け止めてくれたっ?

 ……そして、無事に、着地、したぁああああ……。

 地面に、足が、ついたぁああ……。

 ああ、よかった……。

 ……って、なぁああああああるかっ?

「……無事かね? ご協力に……」

「うおぉおおおおらぁあ!」

 ああああっ! ブチ込んでやったぁあああっ!

 渾身の、すっげ、拳がいたたたたっ!

 で、でも、すげぇ全力の一撃がでちゃった、ゼ・フォーの顔面に入ったぁあああ!

 ははは、きんもちぃいいい!

 ……じゃねーよ! こいつっ!

「おいこらっ! 寝てんじゃねぇえええええよっ! ふっざけたことしやがってっ!」

「……いい拳だ」

 あれっ、なんかそれなりにダメージ入っているっぽい?

「しかし、いまは、それどころではないのではないかね?」

 なに?

 ああ……それはそうさな。

 巨人と巨獣が、にらみ合いをしている……。

「さっさと逃げんと巻き込まれて死ぬぞ」

「……なんでまた、シン・ガードがやってきたんだ?」

「呼び戻しを使ったからだ。奴からやってくるのだから手間がはぶける……といいたいところだが、その都度、敗れている」

 呼び戻し、俺にかけやがった魔術? か……。

「……次やろうとしたら、ぶっ殺す」

「できるものなら」

 できるさ、あんたにはケルベロスがあるが、その状態なら普通に攻撃が通ることは確認できた。

 まあ、ケルベロスに乗られたら勝ち目はないが……。

「……して、どう逃げる?」

 ……すべてがめちゃくちゃだ。そもそもロッキーとエジーネの件で来たのになんでこんなことになる……?

 向こうで、巨体同士が戦いを繰り広げているが……。

 本当に、めちゃくちゃだぜ……。その一撃、一撃が即死級、どころか建造物すら粉々にする破壊力を秘めている……。

 しかも、なにより速い、速すぎる……。

 いかれている、サンダーコール? がマジで稲妻のようだ、ものすごい帯電をし、辺りを超速で往復している、巨人も翻弄されている……。

 まるで、神々の戦い……。

 だが、あの巨人……。

 あいつ、人の技を駆使している、ような……。

 剣技、体術……あるいは心理術をも駆使している……。

 ときどき剣と盾を手放しているのがおそらくそう、体術でさばくからと見せかけて、武器を狙う巨獣の隙を突こうとしているんだ。

 だが巨獣はその意図を見抜いているのか落ちた武器に触れない。巨人はひたすら往復する稲光をさばいている、らしい、足はその場から動いていない、がっ? 稲光が真上に軌跡を描いたっ? いや違うっ、たぶん、投げられた、叩きつけられた、捨てた盾の上にかっ? 巨獣の帯電が消えているっ、しかも、背負い投げた姿勢、下方に向けた姿勢、その手の先に剣があるっ!

 まずいっ! 剣を拾って飛ばすっ? 串刺しに……ああっ? ふわりと巨獣が中空で、綿のようにまわった、剣を口にしている! 効いていたんじゃないのかっ? 巨人はどうする、盾を踏んだ、持ち上がったそれを手にする、巨獣がまた帯電するっ! 剣が発光している、使えるのかっ?

「うおおおっ!」

 両者、激突した、らしい!

 どうなった?

 どうなったっ?

 あれは……!

「すっげ……!」

 でかいとか速いとかもそうだが技がすげぇ、盾に剣が収まっている、巨人が上手くやった、感じじゃあないだろう、サンダーコール? がじっと、意味ありげな瞳で見すえているから……。

 剣を盾、鞘に納めた……。

 今日はこれまで、そんな感じじゃあ、ないか?

「そうですか」聖女さまだ「その義理堅い生き方に敬服します。助力を感謝いたします」

 あっと、巨獣がドラゴンを起こした……生きていたのか、ふらふらな感じだが……。

 その隙を巨人は襲わない。矛ならぬ剣を収めた、からか……。

 巨獣たちは聖女さまをふと見やり、あっという間に去っていっちまった……。

 巨人も……その発光を止めたか、もとの姿に戻ったな。

 そして、こっちを見ている……。

「……また会ったな。あんたは何者なんだ? どういった使命で動いている?」

 巨人、シン・ガード……。

 あんたは何者なんだ?

 聞いてみたが、案の定、何も答えない……か。

 つーか、いま思い出したが、これ危なくねぇ?

『ゼロ・コマンドメンツ』

 うっ……。

 なにっ?

 いま、巨人がしゃべったのかっ?

 でも、またそれっ……?

「なんなんだそれは、あんた、カムドの仲間……?」

 いや、いやいや、馬鹿げている。とてもそんな感じではない。

 でも、じゃあ、どういうことなんだ?

「それはいったい、なんだ?」

『君はいつか、酒瓶の多さに厭になる』

 なに?

「なにそれ……?」

 ……って、巨人、飛んでいってしまった……。

 なに、なんだっていうんだ? わけわかんねぇよ!

 ゼ・フォー、はだめか、どうせなんにも話すまいよ!

 聞くなら聖女さまだ!

「なあっ? ゼロ・コマンドメンツってなんだっ? あの凶賊集団のことじゃないよなっ?」

「なんと、あなた、シュッダーレアにそっくりですね。目の色は違いますが……」

 えっ、そうなのっ? いや、そんなんどうでもいいんだがっ?

「いいから、ゼロコマンドメンツってなによ! こいつらなんにも俺に教えてくれねーんだよっ!」

「依り代ですからね。余計な知識をもたれては面倒なのでしょう」

 いやっ、そうなんだろうがよ!

「ゼロコマってなにさ! なんなのっ? 簡潔に教えてちょうだいよ!」

「君はいつか、酒瓶の多さに厭になる……。古い詩です。解釈は様々ですが……」

 もー! もったいぶるなよぉー!

 なんなのっ? なんなのこいつらっ?

 ずっっっっとこんな調子!

 小出し小出しで、すぐ煙に巻く!

「いけません、余計な知識を与えられては困る」

 ほらきた邪魔きたうっせーんだよシュッダーの腰巾着野郎っ!

「またぶっ飛ばされてぇかっ!」

 ……って、黒い羽みたいなもんが漂っているし!

「あんだよあの巨人にビビりまくりのくせに俺相手にはすぐそれか! いっそケルベロス出すかおいっ? 出せよボコボコにしてやるよこいよおらっ!」

 なに肩をすくめてやがるんだよこいつ!

 余裕のつもり……って、その肩に手が?

「いいじゃないか、教えてあげても」

 デデッ、デヌメクッ?

 いやっ、あんた、体、焼け焦げているがぁああっ?

「彼はあの子にあげるんだ。邪魔しないでほしいな」

 あっ、あんた、そんなことより自分の体を気にしろ?

 でもなんか元気そう、ニッと笑った……。

 ゼ・フォーはやれやれといわんばかりに、鼻を鳴らす……。

 ……で、だ。

 答え、待っているんだけれどもよっ?

「おい聖女さまっ? さっきから答えを待っているよっ? 解釈が様々なら一例でもいいからなんなんだってマジでマジでっ?」

 ……って、あれっ……?

 聖女さま……なんか、むっとしたらしい?

「頼むなら相応の態度があるのではありませんか?」

 ああああっ、もうっ!

 そういう面倒くさいところ、ほんと黒エリっぽい!

「いっ、いえいえ、違いますよ、ええ、聖女さまはええっと、親しみやすくて、ええ、ついつい甘えた態度をとったのは謝りますとも! でもあの……」

「ふふふ……」

 えっ、なんかいきなり上機嫌になったっ?

「シュッダーレアに乞われているようでたのしい! ふふー!」

 はっ?

「ええっとそうですね、じゃあ、謝ってほしい!」

 はっ……?

「相席を断ったこと、謝ってほしい!」

 ……はあ?

 ああ……なんか、さっきキレていたときなんかそんなことを……。

 でも、はああ? なんで俺が?

「謝ってほしい!」

 なんか超かわいい笑顔だが……。

 なんだ、

 なんだろう、

 すごい癪に触るな……。

「ふふー! はやく! ふふふー!」

 超嬉しそう!

 楽しそう!

 ふざけんなよ!

 こいつぜってー聖女じゃねーだろ!

 つーかなんだ、なんかこいつ黒エリに見えてきた……。

 この理不尽さ、いきなり鞭でしばかれたあのときみたいだ……。

 ああ……ああ!

 なんかめちゃくちゃ謝りたくなーい!

 いやマジすごいな! ゼロコマの情報と釣り合うくらい謝りたくないっ!

 損得でいえばすっごい損だがっ、感情的に……ってよ、なんかヤバくねっ?

 来てるわっ? あの、すごい顔の、仮面の女!

 ゆっくり、歩いてくるっ……!

 鎖でがんじがらめのニーマナティアを引きずりながら……!

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