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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
136/149

無限の蛇

 そして蛇は、限界を超えて成長する。


 はてさて戻れたはいいが戦力的にはガタ落ちだ、俺の攻撃は奴らに通じない、ならば不用意に敵前へと出ていくわけにはいかないが……状況の確認もせずにさっさと逃げるわけにもいかないな。戦っているのがミズハならば放ってはおけないし……。

 でもルクセブラなら微妙なところだなぁ。またもなあなあになりつつあるような気がするが、けっきょくのところ味方とはいえないしな。

 まあとにかくこっそり確認するか……こっそりとね……見つかったらぶっ殺されるからね……って、ああっ? なんであいつらがっ?

 またか、野蛮超人どもじゃねーか! なんでこんなところにいるんだっ? 奴らアイテール術使わないし、ここへと来る意味なんかないはずなのに……!

 しかもっ、あのデカいストームメンが……ズタボロになっている! 各所の損壊が激しい、相手はただの拳、拳闘術なのにっ……!

 分厚い装甲が抉れ内部の機械部分が露出している、というかしっかり内部機構あるんだな? そりゃそうか、ガワだけで中身すっからかんってこともあるまい。

 ……しっかし、あの巨漢と……取り巻きも前に見た奴らだ、相変わらず異様に強いな、相手を探すのも苦労しているって話はまるで誇張じゃあないってわけか。それに戦っているのは巨漢のみ、他はなにやら爆笑しているが、不意打ちや加勢をするつもりはないようで、あくまで一対一にこだわっているように見える……って、上空から飛行機! の奴が飛んできた、銃撃やミサイルを放ったぞっ? あれはさすがにどうなんだっ……?

 いや、銃弾は当たっていない? どれも不気味なほどに当たっていない。ミサイルらしき飛来物も砂上に突き刺さったまま爆発しない……。

 やはり、通じないか……。こうなってくると……訝しむしかないな。野蛮超人の力というよりは、むしろ魔術というものに対して……。

 そう……魔術は常に使用者の味方とは限らない。こいつだってそうだろうさ。なあ、ゼラテア……。

『呪いは難しい』

 なに?

『対象に知られないまま、念じただけで呪い殺すことはできない。敵意や恨み、憎悪が伝わらないと呪いは効果を発揮しないんだ。また、伝わったとて相手がそれに恐れなければやはり効果を発揮しない。呪いはそれを恐れる者にしか作用しないんだね。そして呪う者は呪いの力を強く信じるがゆえに呪いに人一倍弱い。人を呪わばなんとやら』

 なんだいきなり……。

「……何の話だ?」

『魔術は使用者と効果対象者、双方の作用を受ける。これはとても重要な概念なんだ』

 ……また唐突によくわからん講釈を始めやがったもんだ。

『いいかい、すごいと思わせる攻撃を放ち、相手も同様にすごい攻撃を受けたと思えば、その威力は爆発的な上昇を見せるんだ。逆に、なんだそんなものと思えば威力は減衰する』

 それは……。

「……あいつらのように?」

『そう。つまり魔術とは強そうと思わせた攻撃が強い』

「なんだそれは? はったりが大事だって?」

『そうともいえる。あの戦車ロボが強いのは強そうだからで、その威圧感は実際的な効果となる。そしてあなたならば内心かっこいいとも思ったんじゃないかな。だったらなおさらあれはあなたに対して強くなるんだ。しかし、あの男たちには通じていないようだね。それは自分の肉体と技こそが至高の力だと彼らが信仰しているからだろう。ゆえにマイナス効果が一切現れない。そして魔術をペテンと断じてもいるようだ。手品だから使う必要はないし、使われてもまったく問題ない。こうなると魔術は途端に通じなくなる。そうだね、彼らはいわばアンチ魔術師といえるだろう』

「そんな、じゃあ魔術なんて好きに無効化できそうなものだが?」

『そんなに単純じゃないよ。普通ならば誰でも魔術を欲しがるんだから。わかるかい、欲しいということはその実在や効果を認める準備ができているってことなんだよ。だったら敵の魔術をも受け入れないとならない』

「自分は使いたい放題で……相手には禁止を強制させることはできないって?」

『そう。厳密には可能だが、厳しいルールが適用される。誰のためでもなく自分のためにね。魔術とはある意味、共有財産のようなものなんだ。そしてその財産は独占できない』

「だとして……もしルールを破ったらどうなる?」

『ルールを破った際のルールが適用される』

「そのルールは破れない?」

『破った場合、また別のルールが適用される。そういうことを続けていくと、やがて認識外のルールが適用されるようになり、そのうち認識観が崩壊する。つまり発狂する』

「おかしく……なる」

『それよりかはルールを遵守するか、さっさと違反の罰を受けた方がいいよねー』

 それは……そうだろうな。

 なにゆえ呪いの話なんか始めたのかと思ったが、それなりに説明してくれたってわけだ……。

「しかし、だからこそ術者によって優劣が出るのはいかんともしがたいな。信じれば使えるってんならみんなあっさり使えてもいいもんだ」

『ふふふ』なんかゼラテアが……近寄って、えらい近いな!『これは秘密だよ』

「な、なんだっ?」

『他の誰にも教えてはならない。なぜならあなたが不利になるだけなのだから。もっとも、すでに自覚を得ている者も相応にいるけれどね』

「いったい、なんなんだよ……?」

『アイテールは願望を叶えてくれるが、どうしてか思い通りにならないことも多い。それはなぜか?』

 もったいぶった笑みを浮かべるなぁ……。歯がちょっと尖っていてなんか怖いわ……。

「……なぜだ?」

『なぜなら、こうしたいというよりも、こうであるという意思、認識感に強く反応するからだよ』

「こうである……」

『この違いは些細なようでとても大きい。例えば、簡単に敵を倒したいという願望は簡単な敵などいないというこれまでの経験にはなかなか打ち勝てない。同様に、魔術師はみな苦労をして魔術を覚えるが、苦労をすればするほど力は手に入り難くなるものさ』

「な……なんだそりゃあ?」

『理不尽にも思えるかい? しかし、まるで苦労をしたこともなさそうなわがままな子供が強大な力を手に入れている実例をあなたは目の当たりにしている。あの子は強力な魔術師の孫であるという保証を知り、最初から自身が天才であるという信仰を抱いて、しかも自分が無敵で当然という……つまりはかなりわがままだからこそ簡単にあんな力を手に入れられたんだ』

 なにぃいいいい……?

 じゃあ、俺のあの修行はいったい何だったんだよ……。

『あなただってそうさ。その、指先からちょっとした放電が出るだけの力はどうやって手に入れた?』

 どうやって……。

「な、何日も……懸命に集中し、修行して……」

『対し、他の能力は拷問で得た。電撃を吸収し先読みができるなんて実際、極めて強力な力だよね。でもそれらはわりと手早く手に入ったね。もちろん相当な責め苦を受けての発現だから代償がなかったわけじゃないけれど、それでも電撃の修行と比べると恐ろしく効率がいい』

 た、たしかに……? そういう見方もできなくはないが……?

 でもお前、俺だってなぁ、相当に苦しんでだな……。

『まあ、予知の力は電撃吸収に付随する能力だけどね』

 なに?

「なんだ、なんで? お前はしきり充電を促すが、もしや先読みの力に関係があるっていうのか?」

『おっと喋り過ぎたかな』ゼラテアはわざとらしく口を押さえて見せやがる『ただ忠告をひとつ。先読みは完璧ではないよ。ゴッドスピードの力には到底及ばなかった』

「ゴッドスピード? またそいつかよ……」

『それはさておき、話を戻そうか。あの男たちがどうしてあんなに頑丈そうな装甲を貫けるのか』

「おい、情報を小出しにするのはやめろ、ゴッドスピードって具体的にどんな奴なのか、知っていることを全部話せっ」

『嫌だね、今はまだ私の力に頼るべきだ。それでね』

 あっさり流して話を続けやがる……。

『魔術を信じなくとも人は形を受け入れる。そしてあの戦車ロボットは見た目的に強そうじゃないか。強そうだからあの男たちも彼に目をつけ戦っている』

 ……ああ、まあ、確かにそこは少し奇妙かもな……?

「……相応に強さを認めていそうなものだろうにな。さっきの話だと、強さを認めればこそ敵は強力になるというくだりだった。しかし、奴らはなお、圧倒している」

『それは実際に通じた経験を重ねているからだろうね。彼らは生身で金属物、あるいは兵器を容易に破壊することが可能なのだろう。そしてその破壊経験に沿って魔術の鎧の粉砕をも可能にし、その威力をもって破壊できぬ金属の鎧はないと確信をさらに強める。こうなると魔術でつくられた鎧はほぼ通じないと見ていい』

 なるほど、強さを認めたとしても、破壊できる範疇であるという認識観においては、自身の優位は揺らがないってわけか。

 ……となるとだ、あるいは、師匠の戦力が奴に通じたのは……実際にでかい獣と戦って苦戦した経験があるから……とか? ということは、もしあのストームメンがでかい獣に変身する魔術師だったならば、奴らに対抗できた可能性がある……?

 単なる憶測だが類推の鍵にはなるし、こういった想定は今後のためにもなるかもしれない、覚えておこう……って、ああ……。そうこうしている間に、ついに巨大ロボットが崩れ、蒸発して……ただの人間の姿に戻っちまったらしい。

 ああなったら完全に勝負あり……だな?

 ……ううん?

 ……なんだ? 急に、耳鳴りが……。

 いや、加えて何か……変だ? 圧力のような感覚……。

『んん……どうかしたのかい?』

 ……うう? なんか頭が痛い……? ような、気がする、が……?

『ああー、レクテリオラの副作用かなー? でも同じ魂だし、反動なんかないと思うんだけれど……』

 頭が……体もぴりぴりして、妙な……。

『ちょっと急過ぎたかな? でも仕方なかったんだ、聖女さまを呼ぶにあたり、もっとも穏便なのが彼女だったんだからね……』

 ……聖女、さま?

「そ、それは……?」

『私はゼラテア・リヴァースというんだ。エリゼローダに装着されていた端末は私が管理していた』

 なに……?

 なんだと……?

「なんだ、何を……?」

『うーん、長かった。でもあなたのお陰で再臨したんだ。よかったよかった』

 なんの、話だ……?

 ううっ、頭が……!

『本当に大丈夫かい? レクテリオラのままでいればよかったのに。少し計画が崩れたね。ニプリャには申し訳ないことをした。またさっきの姿にしてあげるからねー』

 なにぃ……?

 なんだ、こいつっ……?

 そういやこいつ……俺が、ニプリャに捕らえられていたのに……暢気にしていやがった……!

『どこかで運命が交わったのか、あなたの魂と聖女さまの魂は妙に連動しているんだ。だから……』

 そうか、そうか! こいつか、沈黙都市で俺にレクテリオラを寄越したのは……!

 どうしてすぐに気づかなかったんだ……! あの店で入荷するとか、あまりに安易だと思っていたんだ、しかしこいつは最初からレクテリオラの要素? を牽引することができていた……!

「お前は! 何をしようとしている……!」

『なにって、聖女さまの降臨だよ。それが目的で、その先は彼女次第……?』

 こいつは……あっ!

 頭がぁああっ……!

『……なにっ? なんだっ、この侵食はっ?』

 重い、頭が重い……。

 頭が……圧力が……。

 見れば、いつの間にか、足元の、砂が、渦を巻いている……。

 円を描いている……巻いている……うごめいている、まるで、ゼンマイ仕掛けのように……。

 蛇……蛇が回る……!

『ばっ、馬鹿なっ……! これはいったいっ……? 聖女さま……からの干渉ではないようだが……?』

 回る蛇は……穴をつくり始める……。

『ちょっと! いま出て行ったら彼らに見つかるよ……!』

 回る蛇の渦の穴……穴の中の渦の蛇……。

『ちょっと、ちょっと! あなたに死なれても困るんだ!』

 これは、駄目だ……。

 かなり、ヤバい……。

 なぜだか分かる、奴らに……奴らの……助けが……。

 蛇の渦の穴の中……中の蛇の渦の穴……。

『ああ、困ったな……あるいはとは思ったが魂が感応しているのか。他でも悪くはないし、ゴッドスピードならかなり面白いが……いや、やはり穏当なのはレクテリオラだ、早く召喚しないと……』

 助けが、必要だ……。

 とくに、あの巨漢の……。

「……おおっとぉ?」

 これは、気がする、力、カオス……。

 じいさん、いない、助けが……。

「ようよう、レクのテリオルのローのミューンじゃねーか! まーた面白いことやってるって記事あったから来ちゃった……って、どうした、すげぇ汗じゃん?」

 渦の蛇の中の穴……穴の蛇の中の渦……。

「どーしちゃったのん? レックレクゥ?」

 渦の中の穴の蛇……蛇の中の穴の渦……。

「あー、なんか気配キちゃってねぇ? カオス酔いしてんじゃねーのこいつ?」

「そーかも」

 渦の中の蛇の渦……渦の蛇の中の渦……渦の中の渦の蛇……。

 た、助けてくれ……。

 なにかが、ダメだ……!

 凄まじいものがっ……!

「ブン殴ったら治るんじゃ……っと、おお、なんか変身始めたぞぉ!」

「へぇー、俺らの前で? やるじゃん!」

「やるじゃんなぁ!」

「邪魔しちゃいかんよキミタチ。ちょっと様子を見るのです」

 ダメだ、助けてくれ……。

 早く……!

『こっ……これはまさかっ……!』

 蛇の中の蛇の穴……穴の中の蛇の穴……。

『まさか、レクテリオラから辿ってきたのかっ……? しかし、封じられていると……!』

 穴の蛇の中の渦……渦の中の蛇の渦……。

「うおー、なんかイカす感じになってきたな! というかどっかで見たことねー?」

「あー、ギマんとこの特殊部隊じゃね? 似たようなガスマスクつけてたよ。ローブも奴らの特殊迷彩に似てるわ」

「へー、なんでレックちんが?」

「さああ……?」

 渦の蛇の中の蛇……。

『ああぁ……その防毒面はやはり……』

 蛇の渦の穴の蛇……。

「しっかし、マジ強そうじゃね?」

 蛇は渦を巻き……。

 獲物を口の穴に放り込む……。

『そんな、どうしてあなたさまが……』

 蛇は……蛇は……。

「アア……こいつはマジ超ド級に強えぇやぁ……!」

「なんだできるじゃんレクちゃんさぁ! さすがはボスのお気に入りってことか」

 蛇は……。

『なんということだ……』


 そして蛇は、限界を超えて成長する。


『まさか、謀られたか……?』

 蛇……蛇が……?

 蛇が……なんだ、いまのビジョンは……。

 ううっ……なんだったんだ……。

 それに、姿がまた変わっている、顔に何かが張りついている、マスクか……って、し、視界が異様に広いっ! なんだこれは、外そうとしても、なんだ、指が滑る? 違う、これはいったい……!

 ゼラテア、いったい何がどうなっているっ?

「リヴァースだな。そしてここはあの場所か」

 こっ、言葉が! 出せるが、出ている内容が違うっ……?

 手も、体もそうだ! 動くが、動きが違う! なんだ、なぜだ、動かせるのに、違う、そんな動きはしていない……!

 おかしい、マスクを外す動作が、なんらかの操作をしている動きに変換されている!

 ゼラテア、これはいったいっ……?

「いまはいつだ?」

 俺の声じゃない、というか自然に出しているはずなのに、やはり内容が違う!

 まるで滑るように違う、違和感なく確実におかしい!

『……どうして、どうして現れた……のですか?』

 なんだこれはっ!

 なにがっ、どうなっているっ……?

『だ、誰しも、あなたさまを望んでなどいないのに……!』

 何が起こっている、ゼラテア、誰と話しているっ?

「戦争はまだやっているのか?」

 なんなんだこいつは、俺は、俺の前世なのかっ? 占領されているっ? だが、俺はなんら不自由ではない、ただ、どうしてだか滑っているんだ! すべての感覚が正しく機能し、そして完全に間違っている!

『リンカフフレスの悪夢たち……! お父さまですらあなたさまを消しにかかった!』

 リンカフフレスだと……? その名前は確か……!

「ゼラテア、また俺の邪魔をするのか? お前は誰のものだったのだ?」

『……私は、あの方の元へゆく』

 うっ……人影が……!

 あれは、黒エリかっ……? いや? 違う、少なくとも姿は……。

 真っ白いローブに鎧、黒エリのような白髪だが……別人か……いや、やはり黒エリのような気がする!

 と、とにかく助けてくれっ、俺は……!

 俺は、今! とてもおかしい!

「……失せろ。お前には幾度となく警告したはずだ。俺の邪魔をするなとな」

「シュッダーレア?」

 く、黒エリ? の周囲に鳥が、あれはセイントバードッ! いや! それどころか様々な獣たちの姿も……!

「そうか……」黒エリ? は輝く鹿を撫でる「また私たちは……」

 ゼラテアが黒エリの傍へ……!

『よかった、聖女さま、やはりあなたも……』

「リヴァース? その姿は?」

『ええまあ、趣味で……それより!』

「苦労をかけるな」

『いいえ、それより今は彼を止めねば』

「しかし同じことだ。……私たちはいつも衝突してしまう。彼が善か悪かはこの際、問題ではないのかもしれない。どちらが勝とうが意味などない。そうだろう? もうやめにしよう……」

 黒エリ、聖女さま……。

 そして俺、こいつがシュッダーレア……?

「お前が俺の前から消えればよいだけのこと」

「運命はそれを赦さない。同時に顕現したのがその証拠だろう。私たちに必要なのは素直たる和解ではないだろうか」

 なんだ、互いの前世か? やはり知り合いなのか?

「互いが互いの世界で生きられぬだけよ。そしてまたお前は無為に死ぬ」

「どうして? 私たちはなぜ争うことになる?」

 争っている? これまでも……?

「お前が執拗に赤の他人の幸福なんぞを祈っているからだよ」

 こいつは……。

「どうでもいいんッスけど!」巨漢の奴だ!「なんか強そーなアンタの顔面ブチ砕いちゃっていいっスかぁーっ?」

 すげぇナメてやがるが、今はっ!

 是非とも、なんでだか、そうして欲しい!

「あとから泣き言いうボーイちゃん最近めっちゃ多くてボクチンら萎えちゃうー!」巨漢の体躯がさらに盛り上がる!「でもテメーみたいな野郎は泣き言いっわねえよなァアアアアアアアアアアッ!」

 はっ……やい、せいか、反射的に動いちまった、それともこいつが動いて俺がそう思っただけか、とにかくぎりぎりかわした……?

「いわんよ」そしてこいつは笑う!「なるほど、疾いな。これほどの使い手は珍しい。こいよ」

「アッ、ボクちゃん頑張れそう! ンェエエィイイイイッ!」

 うおおっ? 見えないがぁあっ……? かわし、かわしきれず、いくらかくらったかっ……?

 一瞬で数十メートルぶっ飛んじまったものの、ふわりと着地した……らしい。俺の感覚じゃすっ転んでいるんだがな……!

 とはいえ、防御したらしい両腕のダメージは軽くない……ものの、すぐに治っていく……!

 これは魔術? 奴らを前にしても減衰しないのか?

「待ちなさい」黒エリというか、聖女さまだ「彼との話が終わっていません」

「えっ? そんなん知らねんだけど!」

「会話の途中だといってるのです。失礼でしょう」

「いっやぁ……でもアンタ、のっけから失せろいわれてたジャン。でも俺にはこいって……さ」

 演技がましく照れ臭そうに頭を掻いてみせる巨漢に、なんか聖女さまが眉をひそめているが……。

「少しこじれているだけです」

 しかし巨漢は調子にのって、

「エェーでも、アタチたちの仲に割り込んで欲しくないっていうかぁー? アッ、ぶっちゃけてね、ごめんねカレ、アタチを選んだの。ムカシのナオンはシッシって! シッシ!」

 なんか……聖女さまが露骨に嫌な顔をし始めたが……って、なんかものすごい量の鳥が溢れ出し! 濁流のように巨漢に飛びついていく!

「うわわわっ? なになにぃ?」

 だがっ、鳥たちが砕ける砕ける、すごい勢いで飛び散っている!

「ンだよ! こんなん通じるか!」

 すげぇ速さで鳥や獣たちが砕けていく……が、しかし! 徐々に巨漢が……まるで水に流されるがごとくゆっくりと押されていくっ!

 またも通じている? いや、個々の性能はかなり減衰しているくさいが、圧倒的な物量で押し切るつもりか! あと、やはり、それぞれが獣の姿をしているのも影響しているのかもしれない!

「おおいいい! テメェ! こんなにけしかけて、動物虐待じゃないんですかぁーっ?」

 やがて巨漢は遠ざかっていく……って、おおっ?

 ようやくというか、なんでまたこんなタイミングで、気配は蒐集者のものだ、火器で武装したマスクの男がやってくる、おそらくあの青髪の奴だろう……!

「おーおー、死んでんじゃねーかと思って来てみたら……いかにもすげぇのがいやがるな!」

 奴だけじゃない、複数の気配が近づきつつある……。

 だがもう何でもいい、こいつを倒して、俺を元に戻してくれ……!

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