弾む妖精の軌跡
また会えたね、私の妖精さん。
謎のロボットは沈黙の後、砂のように崩れて消えた。そう、まるでニプリャのように……。
……そうだ、あのニプリャは……本物なのだろうか? カムドがいっていたように、エリが危惧していたように、あるいはそういう風に振る舞うだけの木偶人形でしかない可能性があるのではないか。
もちろんアリャは違うと断じるだろう。そうかもしれない。いや、そうであってもらわなくては残酷ではないか。魂が実在し、そこに個々を個々であると証明する何かがあって欲しい。そう思うことは当然のことだろう。
そして、そう思えばこそ……俺は、前世なるものを受け入れるべきではないか。魂が実在するならば前世の因縁をも認め、その継続や解消を求めて動くべきではないのか。
……殺しで因縁が紡がれるという話はもっともだと思える。主に遺恨、そうでなくとも普通の仲ではない。あるいは友情や愛情より深い関係性かもしれない。友人も恋人も家族だったとしても嫌い合えば疎遠となるが、殺しの仲では敵同士になる。つまり関係性が継続する。ならばもし好かれれば、愛されれば……?
「どうした?」黒エリだ「顔色が悪いぞ」
「……そう、か?」
悩んでいる間も足は動いている。俺の意思であるが、どことなく自動的にも思える動きで、俺は今、歩いている。
「……まるで貝殻だな」黒エリは周囲を見回し、呟く「砂浜に落ちているきれいな貝殻……」
滅びた高い建物、滅びているのに高い建物、雪原に生えているきれいな建物、でもこれは雪じゃない、砂とも違う、まるで生き物のように温かな……。
『いくど繰り返す?』
……なに?
なんだ……? 建物の間に……背の高い、どこかで見た? ローブを羽織った巨漢だ、仮面? 顔は金属、でかい金槌を持っている、振り上げられ、地面を殴った……!
「うおおっ?」
地震、凄まじい振動! あいつはっ……!
「レクッ?」
黒エリに抱きとめられる、
「……敵だっ? そこに……!」
そこに……あれっ、指差した先には、誰もいない……?
「敵だと? 確かに生体反応は複数あるが……」
いない、近くには俺たち以外……。
しかし、あいつ、あいつが着ていたローブは……どこかで見たような気がする……。
「……レク、どうしたのだ? 具合が悪いのか、撤退しようか?」
「い、いや……大丈夫だ」
……黒エリは心配そうにしている。
大丈夫さ……大丈夫……。
「ここでは奇怪な幻影をよく見るでござる」ミズハだ「よくも悪くも甚だしい場所、ろっきぃも遺恨があるにせよ、こんな危うい場所で戦う必要はないと思うが……ややっ?」
ああ、気配が複数……! 急速接近してくる!
「なんか飛んできたでござるぅ!」
あれは何だ、飛行機? 火を噴きながら飛んでくる、しかしあの雰囲気……!
『レクテリオル・ローミューン……』
通信だっ?
『ストーム4とでもいえば分かるだろう。貴様を排除する』
ああっ……!
ストーム、メンだとっ?
『不意打ちをしないなどかえって失礼かもしれんがな』別の声だ!『我々の、ささやかな矜持と思ってくれればいい』
二人もか! なんでいきなり、こんなところで!
……つーかふざけんなよ! 俺に何の非があるっていうんだ、道理に合わないことをしていたのはお前ら……って、いつの間にかまた黒エリが俺にくっついて……でかい胸が思い切り当たっているんだけれど……!
「なんだ、相手は何者だ?」
「ス、ストームメンという組織の奴らだ、戦艦墓場で衝突してな、凄まじい戦闘力を保有している、かなり危険な相手だ。お前とて気を抜くな……」
……って、また急速接近してくる気配! だがこれには覚えがっ?
なぜこんなところに! 上から降ってくる!
「じゃじゃぁああああああん!」
爆風! とともに砂? 煙が……!
いや、それよりルクセブラ! だとぉ? 付き人みたいなアンヒ……なんだっけ? だかも一緒だ!
巻き上がった塵の中から、毛皮を羽織った下着姿みたいな格好の女が悠々と歩いてくる……。
「お前とはところどころで会うことになるものねぇ? でも今回は偶然じゃないの」
んなこといっている場合じゃないっ!
なんか近づいて来ているぞ、地上だ! 煙の隙間、けっこう遠目だが、なんだありゃあ? 大砲? 車両? とにかく兵器くさいのがいやがる!
「おい、あれを見ろ!」
……って、撃った、らしいっ? 飛翔体が? こっちに飛んでぇええ……!
「任せろ!」
黒エリッ! がっ、蹴ったっ? ありゃ砲弾だろ、弾いて彼方へとそらしたか!
「うおお! マジかよお前!」
「気を抜くな! まだくるぞ! 頭上だ!」
太い、光線だっ! 戦闘機から、空から地面を薙ぎ払ってくる……が!
「カトン、花火玉でござーる!」
ミズハがなんか投げた、と思ったらすっげー量の火花が飛び散った、拍子に光線が外れた!
「遮蔽物の多い奥へと逃げ込むでござるよ!」
ああ、そいつは最適解だ! 走れ走れ!
つーか、こうなったらここでの戦いも滅茶苦茶だろ! さすがに状況が悪いとロッキーも考え直すかもっ?
「ミズハ! ロッキーはどこにいるんだっ?」
「わからんでござる! 移動しながら虎視眈々と暗殺の機会を伺っているはずでござる!」
暗殺、なるほど、おそらく狙撃か? まあ戦力差的にそうするしかないわな!
「この辺りはやや狭い、敵にとっても窮屈とみた!」
ミズハがより密集度の高い地区へと入っていく、確かにあそこなら相応のデカさと思われるあの大砲車両も入り辛いんじゃないか!
そしてテキトウな窓から建造物内へと飛び込んだはいいが……内部には何もないな、隠れるにはいまいちか。広めの一室、床も外と同じように砂のようなもので埋め尽くされているばかりで家具などは一切ない。
「あの女……」黒エリだ「以前に見た顔だな」
そういやルクセブラとは絡みがなかったか? というか、今の問題はそっちじゃあないと思うが……。
「それよりヤバいぜ、奴らは俺を……」
「そうか。では排除しよう」
即答かよ! いくら仲間でも合点が早過ぎじゃないかっ?
「待てまて、奴らとはいろいろと誤解があるような、ないような、話せば分かりそうな感じがなきにしも……」
「無駄よ」
うっ……! いつの間にやら、窓の外にルクセブラ……。
「兵器は信用が大事だから、それを回復しようと躍起なのでしょうねぇ」
というか、いったいなぜここに……?
「……あんたは、いったいどうして?」
「ゆえあってね、今のストームメンは私の敵なのよ。時が経ち、あれらは腐敗してしまったから……ときどき懲らしめちゃうようにしてるの」
へえ……いや、うーん……?
あんたが他の組織の腐敗を……否定するのかぁ?
「失礼ながら」おっとアンヒなんとかだ「あなたは彼らに狙われているようですからね、監視しておけばいずれ彼らは現れると思いまして」
「お前とはどことなく縁を感じるわ。昔、どこかで会っていたのかもしれないわねぇ」
俺には微塵もそんな感覚はないがな……。
「まあ、戦うなら勝手にやってくれよ……」
「なんとなおざりな」アンヒなんとかだ「そこは感謝を示すところでは?」
「いいのよ、やるのはこれだし」
ルクセブラはアンヒなんとかを指差し、彼は首をかしげる……。
「えっ、僕ですか?」
「そのくらいやってみせてこそ私の下僕というものよね」
「あの、彼らの方が明らかに格上なのですが」
「だから?」
「勝てないと思います」
「それが何?」
アンヒなんとかは腕を組み、何か考え事を始めたらしいが……。
「いやあの、無理なら別にいいよ。俺の客だし……」
「お前じゃあっという間に殺されるわよ」
「僕もあっという間に殺されると思いますよ」
「いや、俺は殺されんけれど」
ルクセブラは目を瞬き、
「なに? 私が間違っているというの?」
「うん」
「ええ」
そして胸を強調するかのように腕を組む……。
「お前たち……私に文句でもあるの?」
「ある」
「あります」
お前もあるのかよ。いや、あるのは分かるが、下僕とかいわれている立場のくせにめちゃくちゃハッキリものをいうなこいつ……。
「じゃあなに、この私が直々に戦えっていうの? 下僕がいるのに」
なんかルクセブラがびっくりしているが……。
「いや、嫌ならいいよ。別に頼んでねぇし」
「ルクセブラ様ともあろうお方が怖気づいているんですか?」
いやっ、ええ……?
お前ちょっと言い過ぎじゃねぇ? 本当に下僕なのかよ?
なんかルクセブラが変な笑みを浮かべ始めたが……。
「お前、誰にものをいっているのか分かっているの?」
「ルクセブラ様こそ、僕が死んで身の回りのこととかどうするんですか? 執事たちを統率しているのは誰だと? 代わりを探すのは大変だと思うな。ご自分がひどいわがまま女だという自覚をもってくださいよ」
ルクセブラの……気配がじわじわでかくなってきたぁっ!
「それはそうと」おおっと黒エリだ?「なんだその格好は、卑猥だぞ」
いや待て待て、なぜに今そんな指摘し始めたっ?
「おいおい黒エリ……」
「奴らと因縁があるならさっさと貴様がゆけ、私たちは奴らにも貴様らにも構っている暇などないのだ」
いやいや、ここはできれば協力し合ってだな……!
「ああーあー……イライラしてきたわぁー……」
気配がさらにざわざわしてきたぁ! が……? 突如としてざわつきが止まった……?
ルクセブラが目を丸くし……黒エリがニプリャになっている……。
「ジュリエット、ジュリエット……。お前にそう名づけたコンパッションは慧眼だったな」
「あなたは、まさか……! どうして……」
いやっ、待てこの気配は……って、壁が砕けでかいのがっ! 無理やり斜めになって細道へ侵入してきやがったぁああっ? ル、ルクセブラたち、轢かれたかっ……?
でっけぇ金属の塊、連結されてるような車輪がゴリゴリ壁を削って粉砕! 部屋に割り入る形で水平に戻る、上部に大砲がついている、やはりさっき撃ってきた奴か、各所にも銃器らしきものが複数! 一斉にこちらを向いたっ……がっ、ニプリャが光線で破壊したぁ! とはいえ今度は大砲が動くが、そんな狭いところで砲口が向くかよ……って、いやいや無理やりこっちに向けようと……壁がまた崩れたっ! うっそだろこんな至近距離でぶっ放すつもりかっ……?
「まずい!」
ニプリャが砲身を蹴り! 方向を変えたがまたすぐにこちらを向くだろう!
どうする、一目で分かる、俺の武器なんかまるで通じないに決まっている! 電撃があるいは通るかもっ?
『ほら、油断しているから』
ゼラテ……あっ? 眩しい!
「はっ?」
あれっ、何だ今の光は、目くらまし、いやそれより砲身だ、どうする、電撃でも……って、いつの間にか俺の武器が変わっているっ? 赤い銃と剣になっている!
なんだこりゃ、ゼラテアのサービスか? これでやれってのか? 砲身が戻ってくる!
「やるしかっ……!」
迷っていても無駄だ、貸してくれたんだからやれるんだろっ? この剣で砲身を斬り落として……! って、マジであっさり切断できたぁっ? がっ、ヤバいぞ分かる、構わず撃ってきやがるだろこいつ!
「うおおおっ?」
跳んだああああ……のか吹っ飛ばされているのかぁああ……瓦礫も飛んでるぅううう……空が青いぃいいい……でっかい壁ぇえええ……じゃない地面だっ!
「いでっ……ええぇええっ?」
つーか勢い止まらないっ、あいたたたたっ……と転がった先で瓦礫に衝突! 身体中しこたま打ったなぁこれ……!
くそっ、どこかやっちまっただろうが……蒐集者とやり合う前にこんな……!
……でもほとんど痛みはない……ないってのもヤバいだろ……ぶっ壊れた建物とでかい砲台車両が見える、二十メートルくらい吹っ飛ばされたな……!
黒エリ、無事か、ミズハ……!
……寝ている場合じゃない!
「くそっ、動けるか……?」
……って、あれっ? 動けたわ。普通に、どこもひどいことになっていない……っつーかなんか赤いかっこいい鎧着てんじゃん俺! なんだよ鎧もサービスかいっ?
そーかそーか、だから無事だったんだ……。
そうか……なんかまた胸があるような気がするが……。
身長も縮んでいるよね……。
これってまさか……とかそんなことは後だ、敵車両が動き出した、どころか可変し始めたっ? ななっ、なんか人型になった! でかいぞ、六、七メートルはありそうだ!
あれは遺物か? いや、奴の肩口にあるのは先ほど切断した砲台、その先端が溶けたような状態になっている、あるいはこの剣による効果なのかもしれないが、修復される過程であると解釈した方が慎重だろう! ストームメンだし、あれはスペシャルである可能性が高い!
「動くな」デカブツがでかい銃を向けてきやがった……!「レクテリオル・ローミューンの仲間か? 我々の狙いは奴だ。邪魔立てしないならば生かしておいてやる、消えろ」
これは……。
やはり……レクテリオラさんになっちゃっている感じ……?
となると、俺自身はいったいどこにっ? まさかさっきの一撃で吹っ飛んでいないよなっ……?
「いきなり挿れたら!」
えっ、おおっ? なんか地面から飛び出してきた、ルクセブラだ!
「痛いでしょう!」
そしてなんか輝く急降下キックをデカブツにくらわした……が! 防御されちまった!
「ハエが!」
デカブツのくせに速い! ルクセブラが思い切りブン殴られ真横にかっ飛んでいっちゃった! 先に追い討ちのミサイルが飛んでいき爆発が起こる!
うわあ……ルクセブラとてあれはどうなんだろう……って、すげぇ破砕音っ? とともにデカブツがぶっ倒れた! 今度は何だと思ったが、宙を舞っているあの姿はニプリャだ!
「どろん!」
おおっ? なんか煙とともにミズハが出てきたっ!
「身代わりの術でござるか? やるものでござるなぁ!」
……おお?
「……ええっと、俺だと分かるの?」
「軽んじてもらっては困るでござる。砂が吹き出し、気づいたときにはその姿でござった! ゆえに変わり身でござる!」
あの、眩しかったときか!
そうか、地中にね……。
『さすがに危なかったので緊急お試しサービスですよー』
ゼラテア……。
「ああ、助かった……」
……のは確かだが、これはこれで別の問題が……。
やはりというか、ニプリャが、こちらを見ている……。
凝視している……が、危ない後ろだ! デカブツが回転する、足払いのような蹴りっ、まともにくらった! ニプリャが吹っ飛んで近くの建物に突っ込んでいった……!
「くっ、黒エリィイイッ?」
「驚いたぞ、凄まじい一撃だった!」爆発のような噴射とともにデカブツが起き上がった!「だが、油断にもほどがある!」
確かに奴の超硬そうな胸部の装甲が大きくへこんでいる! ニプリャの力だとあそこまでできるのか!
「拙者は決闘などに興味はない。虎視眈々と必殺の機会を伺うのみでござる。どろん!」
煙とともに消えたか。
さあて……もう、説得とかいう次元じゃないな。
やられた分はやり返す!
「ようようレクテリオラさまのご登場だ! かかってきやがれ!」
デカブツはこちらを見やり、
「レクテリ……オラだと? 女だったのか? まあいい、消えろ!」
奴の手が輝く、光線だろうなっ!
「させるかよ!」
今度は銃を試すぜ……って、あわわわわっ、ちょっと引き金を引いただけなのに、なんかとんでもない勢いで大量の赤いブレードが出まくるぅううう……?
しかもなんかまっすぐに飛ばない! 鳥みたいにあちこち飛び回って……でもでもなんかすごいぞ! あんまり当たっていないような気がするけれど、デカブツの分厚そうな装甲を確かに裂いている!
剣も異常な切れ味だったし、なんかこの装備凄すぎねぇ……? ……って、上だっ? 上空にたくさんの……?
たっ……い量のミサイルが降り注いできているぅううっ……?
「あわわ、にに、逃げないと!」
……って、なんか腰からすごいいぃいいいい勢いで、なんか光が出ていつの間にか青い青い空へ向けて飛んでるぅうう……っていうか目の前建物ぶつかるぶつかる!
「あああっ! とまとま!」
出ている光は止まっ……たね、でも勢いは止まらないっ? 壁! ぶち破っ! ……った先の壁も! ぶち破っ! ……ってようやく勢いがなくなったけれど死ぬほど床に転がるーっ! ここまでやらかしても痛くなーい! いやっ、ちょっと痛いっ? そういやさっきもそうだった、なんでっ?
『痛みがまるでないとかえって感覚が鈍るんだよ。だからあえてそういう機能をつけているんだ』
ゼラテアだ……。
なるほど? そう、いうものか……?
とかやっている場合じゃない、まだ戦闘中なんだ戦いに戻らないと、いったいどこまで飛んだ……って、うわわ! すっごいヤバい予感がする! ここにいてはいけない!
つくった穴から脱出! した途端にまた大量のミサイルが飛んできちゃってるぅううう……!
「わあああっ!」
勢いあまって飛び降りた! はいいが思いのほか高度がたかーい! つうか背後ですげぇ爆発!
馬鹿野郎、なんだお前ら強過ぎだろやり過ぎだろ頭おかしいのか! とかやっている場合じゃない、すごい勢いで落ちるぅううう……ので、また飛ばないと……って思った瞬間、また腰から光がでるぅううう!
「なんなんだよぉおおお!」
思っただけで飛んだりするのはすごいけれど! 緩急がとんでもないっていうかさぁああ! 向こうからなんか飛んできているぅうう、やはりロイジャーみたいな戦闘機タイプのやつだ、すっごいバリバリなんか撃ってきてもいるよっ?
「俺が何したっていうんだよ!」
こっちもひたすら撃ってやる……っていうか曲がる曲がるなんでこのシューターこんなに曲がるんだよ、まるでまっすぐ飛ばない……ってんならいっそ横に連射してみる? ……みるとぉ? やったね、ようやくまっすぐいったぁ!
つーかすっげぇ、空の上で大量のブレードがえらい勢いで舞っている、戦闘機は急旋回するがなんかバランス崩した、いくらか当たったみたい?
「なんだか分からんが、やったぜ!」
……とか喜んでる場合じゃない! 地面がもうすぐだよっ?
「あわわっ、勢いを殺せっ!」
……と、ようやく控えめの推力が出てぇええ……? いい感じに着地できそう!
「よぉおおおし……」
……ぃいいっ? いや、瓦礫に躓いてっ……ててっ、ててててっ……!
「いでぇっ!」
思いのほか死ぬほど転げ回って瓦礫に激突したが、なんとか大丈夫……か?
……少なくとも手足はまだ動くか。しかし、どうする? このレクテリオラ装備はとんでもなく強いくさいが、いろいろと持て余してしまいまともな戦いにならない……。
……だが、遠くから戦闘音が聞こえる。こうして寝ているわけにも……って、なんか、影が上から……?
覗き込んでいるっ……? ローブの、金槌の巨漢だ!
『得たのではない。背負ったのだ。業は受け継がれてゆく』
「へっ……?」
……なんだとっ?
なんなんだ、こいつは……?
「お前は……いったい?」
『魂が規定され、人は繰り返す。そして繰り返される魂は天の環を回す一部となる。それを運命という』
「運命……?」
『不要因子を殺せ。お前が天の環を超えるために不要となる因子を』
「それは……」
うっ?
瞬きしたら、消えた……。
出たり消えたり、あいつは、幻覚……?
「わけのわからんことばかり……」
……だが、さらなる混沌の時間となるかも、な……。
ニプリャ……が、目の前にいる……。
無事なようだが……なんだか様子が……。
「……待て、俺は、レクテリオラ本人ではない……」
しかしニプリャは妖しく微笑み、
「懐かしい。あなたはそうやっていつも転げ回っていた。破茶滅茶で、しかし、行動はいつも面白おかしい収束を見せるのだ」
ニプリャは手を差し出し、それを受けると……すごい力で引き寄せられた!
「私の妖精さん、また一緒に雪だるまをつくろう。もっと弾んで転がって、運命のうねりを形にしよう」
「まっ、待てニプリャ……!」
「あなたにとっておきの贈り物があるんだ」
「なにっ……?」
「一緒にもっと大きい雪だるまをつくろうね」
なんだ? 訳が分からんが、ヤバい気しかしねぇ……!
ぐっ……止むを得ないか! しかし、この状態の解除はどうやってやるんだっ……?
「ゼラテア……!」
『サービスなのにもう終えちゃうんですかー?』
「そうはさせない!」
うっ……! 何だっ……?
一瞬、ビリッとしたが……!
『おやおや、ロックがかかってしまいましたねー』
えっ、なにっ?
ロック、だって……?
「なんだよっ、まさか解けないってのかっ?」
『まあー、お客さま次第なんじゃないですかねー。本体に触れられれば確実と思いますがー』
なんだそりゃあっ?
「ふふふ、諦めてそのままの姿でいようよ。そのうち心もあの頃に戻れるから」
「ばっ、馬鹿ぬかせ……!」
くそっ、解けろ! 解けろ……!
……だめだ、できないってのか? マジかよ、解けないのかっ……?
このままじゃあまずい! どうにか……!
「くっ……黒エリ! 起きろ!」
しかし、ニプリャが鼻で笑う……。
「無理だよ、あの子は弱い。いや、力が強すぎるというべきか。無理をさせてはいけないよ」
「黒エリッ! 起きろよ!」
「私が守ってあげているのだ。望むならばあとで会う時間は与えてあげるよ。私は何も、彼女から奪わない」
「黒、エリィイイ……!」
「しかし、あなたからは奪ってみせる……!」
こいつっ、やっぱりそういう企みがあったのかよ……!
「くっ、黒エリ! ちょっとの間でいい、こいつを奥へと引っ込めろよ!」
「無駄無駄……。固定まではまだかかる。しばらくこうして抱き合っていましょうか」
お前がすげぇ腕力で拘束しているだけだろっ……!
「黒エリおいっ! 黒エリ……!」
だめか、なぜだ、くそっ、怒らせてでも起こしてやる……!
「……じゃあ、エリゼッ! エリゼッ……! どーだエリゼ! このエリゼ! いやちょっとマジで起きろって!」
「ははは、だめだめ」
「……エリゼッ、リゼかっ……? リーゼ! リゼちゃん? リゼさん! こらリゼ! これからずっとリゼ呼ばわりするぞ! おいっ……!」
「ふふふ……諦めなよ」
ぐっ……だめか……!
「……エリゼ、ローダ……!」
うっ……!
おっ……と……?
おおっ? やった、なんか解放されたっ……?
「なにっ……?」
ニプリャが、膝をつく……!
「……なんだと? 急に外へなんて、私の庇護もなく、あなたは……」
はあ……ああ……。
ようやく、やっとお目覚めかよ……。
「……さっさと戻れよ、彼女の意思だろ……!」
「違う、戻り過ぎだ……! エンパシアとて、その濃度はそれぞれ違う! 彼女は、私を介してこそ……」
なに……?
「……世界と、均衡が保てるのに……」
均衡って……。
「はっ……!」
えっ、おおっ?
ここは……いつの間にか、元の、ぶっ壊された建造物内……だな……。
それはそうと、ああ、懐かしい気すらするこの手、このジャケット、無精髭を感じるこの顎よ……!
戻ったか……!
しかし、黒エリはっ……? どうなったっ……?
というか近場からえらい轟音がする……! 交戦しているのか? ルクセブラか、あるいは……。