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WRECKTHERION(仮題)  作者: montana
134/149

ミズハ参上!

 拙者はミズハ、忍び者でござる!

 遁術に長けるというネコビトを求めこの地へと馳せ参じたまではよいものの、この妖怪変化の巣窟ぶりたるや、仰天する以外に何があらんやこれしかし! 

 それはそうと父上……じゃなかった我が師は、それに凪丸はどこへいったのでござろう? 拙者は迷子でござる! ろっきぃの助けがなければそろそろ泣くところでござったゆえ、恩義は返さねばならぬ!

 とはいえ、勅命もなしに遁術殺法を使用することは本意ではござらん。どうしたものか……。



「……というわけだ。いったん去るが、しばしここを任せるぞ」

 事情を説明するとシフォールは肩をすくめ、

「ちゃんと迎えに来てくれるんですよね?」

「ああ、グゥーに頼んでおくのでそれは大丈夫だ」

「次の攻撃で始末するつもりだが」サラマンダーだ「もし、それでも奴が死ななかった場合は貴殿に頼る以外にあるまい」

 おっと貴殿ときたか。態度の軟化に悪い気はしないけれどな。

「何か秘策でもあるのか?」

「おう、あくまで対獣用であり、人間相手に決まる技ではないが、奴のように隙だらけならば可能だろう」

 いったいどんな……っと、ピッカが戻ってきたか。

「にょほほんのほうときたもんじゃな!」

 なにやら満足気だが……。

「散々いたぶっていたみたいだが……まだ倒せてはいないんだろう?」

「さあのう、トドメに彼方へとぶっ飛ばしておいたからしばらくは戻ってこんのじゃないかの」

「なるべく余力は残しておけよ。さて、俺たちは行くからな」

「ぬう? どこへゆくんじゃ?」

「仲間を助けにな。俺と黒エリだけでいく」

「なんでじゃ、わらわも……」

「だめだ。蒐集者も噛んでいるからな」

「しゅ……」ピッカは急に気後れし「そ、そうかの、じゃあわらわはあの阿呆で遊んでようかのう……」

「ああ、だが無闇に消耗するなよ。よし、行って……」

「あれ」窓辺のフェリクスが眼下を見やっている「あの鎧の人、すごい勢いで戻ってきたよ」

「にゃぬ?」ピッカはうなる「わりと遠くまで吹っ飛ばしたと思ったんじゃがのう」

 全速力で戻ってきたということは、奴は疲弊しない可能性もあるな……。

「……奴は疲労も感じていないのかもしれん。体力を温存しながら戦えよ、長期戦になった場合はこちらがどんどん不利になっていくんだからな」

「その通りです」シフォールは頷く「交代で休みつつ時間を稼ぎましょう」

「いいや、次で仕留める」

 奴が来ているがまごまごしてもいられない。部屋を後にするとサラマンダーもついてきた。

「なるべく早く戻ってくるのだぞ、水や食料は多少あるが何日もは保たんからな」

「ああ」

 そして……来たな、下から激しい足音、こちらへ向けて上って来ている。

「任せろ」

 サラマンダーが前に出て立ち阻むが、

「ゆーるさん、ゆーるさんぞぉおお……ゆるさんぞぉお……」

 なんか歌うように恨み節が聞こえてきて怖いな……。

「叩いて砕いて切って刻んで……でも殺さないぃ……」

 現れた、ジャールトールだ……。

「気が変わった、お前たちは生かしてやる……。その代わりぃ、ダブルエーとあのガキには無限の責め苦を与えてやるぅ……。それを横目に……身悶えるがいいっ!」

 うおっ? 剣を投げてきたっ?

「ぬうっ?」

 サラマンダーも意表が突かれたのかギリギリで弾いたがっ? 得物を手放してどうするつもり……って、背中から新たな剣を抜いた……が、あれはっ!

 刀身が赤い剣だ! 見覚えがあるぞ、宿を襲ったあの凶漢が持っていた……あの剣にそっくりだがまさかっ……?

「かかかかかっ……切る斬る伐るキルゥウウウウ!」

 狂人に狂わせる剣で狂気倍増! とか思ってる場合じゃない、前より速いぞ! 俊敏に突っ込んできたがっ……しかしサラマンダーは攻撃を受け止め足払いで転ばせた、そして怒涛の乱撃だ! ジャールトールも奥の手っぽいものを出したわりにあっという間に防戦一方になったがっ……?

「ぐぐぐっ、キルキルキルゥアアー!」

 おっと押し返した……が! サラマンダーが槍の柄で奴の顎を捉えた! そのまま持ち上げて叩き落としたぞ!

 普通なら痛烈な一撃だが、しかし奴に対しては……!

「かかかっ、きかんわぁあああ……! アガッ?」

 うっ? なんかサラマンダーが刃の細い短剣を奴の口の中に入れた、刺したっ?

 ……まっ、まさか!

「地獄を味わえぃ!」

 た、短剣から炎を噴射するっ……! 奴の口から炎の柱が上がっている! 暴れている、悲鳴すらも出ていない、無理矢理に炎を食わせている……!

 たっ、確かに人間に使う技ではない……! おそらく獣に組み付かれたとき用の反撃技なんだろう、しかしあれは……かなり、むごい……!

「……見るに耐えんな」黒エリだ「急がねばならんし、もうゆこう」

「そ、そうだな……後は任せるぞ!」

「おうっ! ゆけい!」

 去る動機があることは幸いだ。敵とはいえあんまりな有様は見たくないしな……。

 ううっ、焼け焦げた臭いもひどい……!

 しかし……もしあれで終わらなかったとしてもサラマンダーはまた同じことを繰り返すだろう。尋常ではない苦痛を与えることで今後の動きを抑制することができるからだ。

 皇帝の呟きもよく分かる。生半に死なないというのも恐ろしいものだな……。

 だが、今は向こうに想いを馳せている場合じゃない。ロッキーだ、俺たちが着くまでに無事でいてくれるだろうか……。

 建物の外へ出ると、すぐにグゥーが迎えにきた。

「なんだ、お前たちだけか?」

「いや、別件だ」

 事情を説明するとグゥーはうなる。

「時の雪原……か。中央部にけっこう近い場所だ、あそこはかなりヤバいらしいぜ」

「……どうヤバい?」

「魔術などの力が激増し、また暴走するとされている。究極を目指す魔術師が修行に赴く場所と聞くが、大抵がろくな結果にならんって話だ。オ・ヴーは無事に帰ってきたけどな」

「力が、激増する……」

 それにオ・ヴーだと? 確かに、奴はかなり凄腕の使い手っぽいからな……。

「それより防寒具の用意が必要なのではないか? 私は平気だが、レクは寒過ぎると戦えんだろう」

「いや、雪原って呼ばれてるが寒いわけじゃないんだ。まっ白い砂のようなもので覆われてて雪が積もってるように見えるんだよ」

「ともかく行ってくれ、ロッキーが危ない!」

「やれやれ……お前といると退屈ってもんが愛らしく思えてくるぜ……」

 そしてギャロップは飛び立ち……しかし、すぐに着陸した……?

「……どうした?」

「いや、そのじいさん連れてくの? あんまりテキトーに人を連れてっていい場所じゃないと思うんだけど……」

 あっ、そうか……。

「なんじゃ」じいさんは寝転びながら腹を掻く「ワッシーの力を借りたいのか?」

 うーん、どうするか……。こちらに来てくれればかなりの戦力となるだろうが、蒐集者やエジーネとの確執に巻き込む道理なんかないしな……。

「そうだな……じいさんにはここに残ってもらおうかな。彼らが劣勢になったときに守ってあげて欲しいんだ」

「よいのか?」黒エリだ「この翁の戦闘力はかなりのものだぞ。組めば蒐集者すら容易だと推測できるほどに」

「なぬ、蒐集者じゃと?」じいさんはうなる「うーむ、あやつは腐れ縁の腐れ縁じゃしなぁ……」

 じいさんはカムドの知り合いで、カムドは蒐集者と共闘したこともあるらしいからな、俺の前世らしき者と戦う際に……。

 黒エリはうなるが、まあこういうのは仕方がない。

「じゃあ、やはりここを頼むよ。じいさんには義理とかないのかもしれないが……せめてピッカとパムの男は守って欲しい。彼らはあの揉め事と関係ないんだし、無事は保証してやりたいんだ」

 ついでにフェリクスもといいたいところだが、今回はあいつがもってきた案件だからな。あいつが皇帝を守るんだ、守られる立場はそぐわない。

「というかあの童はどこから来て何がしたいんじゃ。あんまり好きに遊ばせておくと不意にくたばるやもしれんぞ」

「そいつは俺が聞きたい……。まあ暇なんだろうが……」

 しかしじいさんの懸念はマジで分かる。俺たちにふらふら付いてきて、なまじ強いから許容してしまっているが……何が起こるか分からんのがこの地だしな……。

「ともかく任せたよ、じいさん」

「勝手についてきたのはワッシーじゃからなぁ、やむを得んか。つーか、蒐集者とやるのか?」

「ああ、おそらく」

「あやつは霊体じゃそうだし、倒せても殺せんと思うぞ」

 ……なに?

「なんじゃったか、オートスケルトンとか呼ばれる代替骨格に憑依して操っておるとか、体にはストックがあるとか」

「その、霊体って何だ……?」

「さあのう。ワッシーまた聞きじゃしあんまり興味ないもん。しかしそうじゃなぁ……霊体は生体と相性がよいらしいので、脳みそはおそらく培養脳髄じゃろうとかいっておったな。そこを破壊すればまあ勝ちは勝ちじゃろう」

 いや……霊体って何だ?

 まさか……?

「陰気な奴じゃよう、魂を集め憑依させ、様々な姿に変わり、出会った冒険者に対し因縁の清算を迫っとると聞く。巷じゃ殺人鬼とか殺戮怪人と恐れられておるようじゃが、やられたもんはけっきょく、己の業にのまれたのかもしれんなぁ……」

 な、なんだって……?

「さっ、さっきからそれ、どういうことだよっ?」

 じいさんは顎を引き、

「知らんわい、カムドが聞いてもおらんのにぺらぺらしゃべるのを反芻しとるだけじゃもん」

 業に、のまれた……。

 奴は、けっきょくのところ人を狩ってコインを集める……異常な怪人なんじゃないのか……?

「聞きたいことがあるなら直接聞けばいいじゃろ。ワッシーは特にないし、向こうもなんか半笑いで修行頑張れとかぬかしおるからイラついてキックくらわしたっきりじゃ」

 ええ? あいつにくらわせたのかよ……?

 い、いや、それどころじゃない……ええ? じゃああいつは、あいつがいろいろと姿を変えるのは……。

 あの老人や女が俺の、何かだから……?

「……ゼラテア?」

 あいつはどこへ行った? 霊体、魂、憑依、そういうものがあるとするなら、あいつこそそうじゃあないのか……?

 しかし、こんなときに限って返事どころか姿もない……。

「……私の時は、黒い、傷付いた仮面のようなものを被っていたが……」黒エリは咳払いをし「いや、そのようなことはどうでもよい。急がねばならんのではないか?」

 そう、そうだ……。

「と、とにかく任せたぜ、じいさん!」

「おーう」

「よし、今度こそ行くぞ……!」

 じいさんを降ろしギャロップは再び上昇、かつてないほどに加速し始める!

「おおおっ? これまでと比べて、ずいぶん速くないかっ?」

「あの辺はいろいろとヤバい、ちんたら進んでたら変なもんが飛んでくるかもしれないからな! 迅速に向かい、降ろして、俺は少し離れた場所で待機してるからな!」

 ともかく速いのはありがたいな……!

 さて、今のうちに考えておかねば、具体的にどうするべきか。奴から情報を得ないとならないし、ロッキーは止めるべきだろうが……自身の都合を優先して介入したところで話がこじれるだけかもしれんな……。向こうには情報を得るためと説明して場を離れたが、実際問題……情報を捨てるしかないだろう。奴らと組んでロッキーを倒すという選択などあり得ないからな。

「死なないと聞いたが」黒エリだ「奴を始末してみないことには真偽のほどは分からんな。まあ、状況次第だが……」

 ……状況、か……。

「……黒エリ、話しておきたいことがある。いま、奴と同行している女は俺と関わりがある存在なんだ……」

 ……エジーネのことを説明すると、黒エリはうなる。

「肉親の殺害容疑……を、否定しなかったというのか。お前に追われるのならば分かるが、追ってくるとは……まともではないな」

「そう、あれはまともではない。性格だけではない、能力的な意味でも……。あいつが嫌ったであろう者はみんな不幸になったからな」

「……なに?」

「あいつが何かをしたという証拠は一切ない。だが、あいつが敵視した人間は必ず不幸になるんだ。みんな……内心、理解していたんだろう、好き好んであいつに近づきたがる人間はいなかった。あいつは積極的に周囲と絡み、愛想笑いに包まれていたがな……」

「なるほど」黒エリは頷く「そしてロッキーもなぜかその女を憎悪していると……。しかしそうだな、敵とはいえまい」

 敵ではない……か。

「一応はあなたの身内でもあるからな、配慮はする。……とはいえ、蒐集者と同行しているのだ、事故が起こる懸念は払拭できない」

「……ああ」

 ……って、なに?

 なんだか、言い回しが……。

 ……しかし、そのことについて俺は尋ねない。

 追及したりはしない……。

「そろそろだ、具体的な座標の指定はあるのか?」

「いいや……なかった」

「だったらあそこだろうな」

 森が切り取られたかのように、突如として広大な白い世界が眼下に広がった。ところどころに瓦礫のような複雑な隆起があり、それは雪原の中央になるほど原型を留めている。

「これ以上はヤバい、ここいらで降りろよ。先に建築群があるから何かやってるならきっとそこだろう。なるべく近くで待機するが、すぐには駆けつけられんかもしれない、離脱したかったら早めに呼べよな」

「ああ」

「いいか、おかしな事態に見舞われたらすぐに戻ってこいよ。ここは異常現象が多発するらしいからな」

「わかった。日の出までに戻って来なかったら向こうに戻って彼らを回収してくれ。その後は任せる。おそらくジャールトールは倒せていないだろうから、回収の際には気をつけろよ」

「おいおい、くたばるなよ」

「……なるべくな」

 そしてギャロップは雪原もとい、真っ白な砂漠に着地し、すぐに飛び去っていった。

 ここは……雪原のようで砂漠みたいでもあるが、気温は涼しい程度だ。ときどきそよ風がまっ白な砂……のようなものを舞わせている。そう、かつて向かったクリスタルジオサイトに似ているような……。

 そして胸が、ざわつく……。

 ざわついて、俺は、少なからず恐怖を抱いている……。

 これは何の恐怖だ……?

 蒐集者への、エジーネへの……?

 ……ふと、黒エリはうなり、

「さて、具体的にどうする?」

「……迷う必要は、ないだろう」

「いや、不意打ちの仕方だ。決闘でもあるまいし、形式にこだわる理由もないだろう」

 それは……そうだが……。

「……俺は真っ向からやる。不意打ちができると信じ込んでいる状態を客観視するほどの経験がないからな」

「……なるほど、一理ある。狙っているときこそが無防備だとアリャもいっていた。馴れないことはすべきではないかもしれんな」

 しかし、これは言い訳か……? いいや、今はよせ。奴とは……なるようにしかならないだろう。それでいい。

 ……黒い影となってそびえ立っている建築群まではそう遠くもない。数十分も歩けば着くだろう。しかし……。

「気配が、かなり多いだと?」

「ああ」黒エリは頷く「多数の反応があるようだ」

 三人だけじゃあないのか?

 ……あり得るとしたらロッキーだろうか? エジーネを殺すために戦力を雇ったのかもしれないな……。

 しかし、だとしても多過ぎる。十数はあるぞ、あいつそんなに金とか……って、爆発音が……!

「とっくに始まっているな」黒エリだ「しかしレク……本当にやれるのか?」

「……なんだ?」

「乗り気ではなさそうだが」

 ……エンパシアたる黒エリに対し、無駄に強がっても無駄か。

 ……奴とはいろいろあった。最初は訳の分からんいいがかりより罠に嵌められ、そのまま敵同士となったが……カタヴァンクラーのところで再会したときには態度が軟化しており、いつしかなあなあに近いような間柄になってしまったような気がする……。

『そろそろ再充電したらどうかなー。かなり保つようになってきたけれど、随時減ってはいるんだからねー』

 ゼラテア、だ……。

 背後にいる……。

「……お前は霊体なのか? だから俺に取り憑いている?」

『なんにでも取り憑けるわけじゃないよ。互換性のある媒体にだけ』

「互換性、だと……?」

『お客さまー、あの方を倒してもポイントは入りませんよー』

「奴は……俺の何なんだ? 敵なのか、それとも……」

『敵だよ。でも、敵ってとても大事じゃあないかい? ときには仲間よりも』

 そう、だろうか……。

『それで充電は? 今しておかないと後で困ることうけあいだよー』

 それは、そうだが……。

「すまん黒エリ、電撃をくれないか?」

「ああ、いくらでも」

 電撃をもらいぃ……! 充電できた……がっ?

 なんだっ? これまで感じなかった気配がすぐそこにあるぞっ……?

 すぐ先の建造物、の瓦礫、にいる? 姿は見えないが……って、何か動いた!

「ややっ、拙者が見えているとみた!」

 うおっ! 何やら壁から飛び出したっ……!

 そして、着地したのは……女の、子か……。

「むううっ、不覚でござる!」

 なにか妙に悔しがっているが……あの独特な服装、この大陸の者じゃないな。そうだ、着物だったか? そういう類の風体だ。それで、ええっと、昔……何かの文献で見たな……東の国の……。

 黒エリはどうする? といった目でこちらを見やるが……まあ敵性のある気配はないな。

「ええっと……君は?」

 少女はこちらを見上げ、

「セッシャはミズハと申すもの、ヤマトの国より参上した忍び者にてござる!」

 忍び者……おお、そうか、あれだ、ニンジャとかいうやつだなっ! しかし、何やら服装と似つかわしくないような意匠のゴーグルを装着しているが……。

「文献で見たぞ、東の島国ヤマトの……なんかスパイ的な役職だろう?」

「すぱい?」少女は首をかしげる「それはそうと、この先にて戦いが勃発しているゆえ、ゆかれぬよう進言つかまりまつる!」

 しかしこの翻訳機、イングリッシュ語源はダメなのに遥か東にある謎の国の言葉はちゃんと翻訳してくれるのか……って、あれっ? この子、俺の言葉が分かるのか……?

「君って、俺の言葉が理解できるのか?」

 すると少女は頷き、

「うむ! この、ごーぐるとかいう、未来からくりのおかげで大方分かるでござるよ!」

「どこでそんなものを?」

「さあ……拙者は師より与えられただけでござるからな。溶けずに伝来せしめし逸品でござる!」

「溶けない……?」

「うむ、この地の未来からくりはある範囲を超えると溶けるそうなのでござる!」

「シン・ガードに潰されるんじゃなくて?」

「しん……?」

 いや、超技術というならネジ一本だってそういうものがあるだろう、そんなものをいちいちあんなデカブツが処理をしに来るか……?

「……ええっと、溶けるってどういうことだい?」

「何だといわれても、おそらく神通力の影響でござろうな。そういう規則が与えられているのだと察する」

 なんだ、ええっと、クリエシションマシンでつくられたものは、ボーダーランドを超えると溶けるってのか? だから外界に運ばれていない?

 そしてもちろんシン・ガードが潰しに来る場合もある……。

「レク……大事な問いかけがまだだぞ」黒エリだ「ミズハとやら、あなたはロッキー側なのか?」

 少女は目を大きくし、

「ややっ、ろっきぃの知り合いでござったか! てっきり所縁のない旅人かと思ったでござる!」

 よかった、味方側か……。

「そうか、俺たちはロッキーの友達なんだ」

「しかし、加勢があるとは聞き及んでおらぬが……」

「止めに来たんだからな。君がどれほどの使い手か知らないが相手が悪い……。この戦い、深入りはすべきじゃないぞ」

 少女はうなり、

「むう、拙者とて勅命なき殺生は望まぬ。しかし恩義があるゆえ……」

「そもそも、どうしてこの地へ?」

「待て、急がないでよいのか?」

 それは分かっているんだが……。

 くっ、気になるワードがほいほい出てくるから尋ねずにはいられない……!

「い、移動しながら話そう。ロッキーのところまで連れて行ってくれ」

「うむ、加勢は歓迎でござる! しかし」

 うっ……!

 一瞬で、ほがらかな気配が……冷たい鉄のような雰囲気になる……。

「もし、そなたらが拙者をたばかっているのならば、ただではおかん」

「あ、ああ……大丈夫……」

 なるほど、これが忍者か……。徹底した感情制御、立ち籠めている気配も実に静かだ。活性状態でなければとても感知できなかったろう。

 そして建築群に入ってゆくが……廃墟というより岩に近いな。どれもが真っ白い砂のようなもので覆われ、窓らしきものから中を覗いても内部はがらんどう、もしくは謎の隆起ばかりだ。

「しかし……どうして君はこの地に?」

 少女は俺を見上げ、

「より高度なトンジュツを学びに」

「トンジュツ?」

「身を隠す術にてござる。この地のネコビトが優れたトンジュツを扱うと聞き及んでいる」

「ネコビト?」

「猫のような姿の人でござる」

「ああ、パムか」

「ややっ、どこにいるのかご存知でござるか?」

「住処は知らないが知り合いはいるよ」

「おお、僥倖にてござる! ぜひ紹介して頂きたい! なるべく早く!」

「お、おお……。よし、ならば俺たちに手を貸してくれ」

「というと?」

「先にもいったが、できればロッキーを止めたいんだ。相手が悪過ぎる、本気でやるつもりなら死力を尽くした総力戦になるぞ。君とて目的はパム、ネコビトだろう? ここで生死をかけた戦いをする意味などないはずだ」

「それは……」少女はうなる「……実は拙者も困惑している。一目で分かろう、あれらはかなりの難敵、あわよくばは浅慮でござる。拙者は勝ち手が明瞭でないまま動きたくはない」

 うん、かなり文化圏が違うところの子だけれど、言葉さえ通じれば思いのほか話が分かるな。

「だろう? ロッキーを説得できないかな?」

「難しいと思う。どうやら凄まじい遺恨がある様子、怨みは神通力としても恐るべき威力を発揮するゆえ、いろいろと懸念があるのでござる」

「神通力……? 魔術か」

「うむ、この大陸ではそう呼ばれているようでござるな」

「ヤマトの国でもそういうのあるんだ?」

「むろん。民には妖術として禁止しているが……と、敵襲でござる!」

 ……ああ、何かの気配が……って、なんだあれはっ? 首のない鶏のようなフォルムの……でかいロボットが辺りをうろついている……。

「謎の未来からくりでござる。不用意に近づくとえらい勢いで鉄砲を撃ってくるので注意が必要でござるな」

 しかし少女は身をかがめて近づいていき……すぐにロボットが反応した! 銃撃っ、少女が撃たれたぁあっ……が、いや? まったく意に介していない、というか弾丸がすり抜けている……と、彼女が超加速し! ロボットが崩れ落ちた! 足が切断されている……!

 そして少女は刀を抜き、それを幾度も突き刺してロボットは完全に沈黙した……胴体にとどめを刺したんだろうが……。

「あれは……なんだ? 一種の幻惑術か?」

「そのようだな」黒エリは頷く「あの娘……のほほんとしているが、かなりやる。気づいていたか? さきほどから話していたのは偽物だ」

「なにっ……?」

「正確には少しズレている程度らしい。本体は左斜め後ろにいたようだ。おそらく不意打ちを警戒してのことだろう」

 ……ニプリャの助言らしい。なるほど熟練ほど攻撃は正確なもの、少しズラすことで致命傷を避けられる場合が多いのかもしれない。

 やはり甘くないな。妙にほがらかなのも演技か? いや、それより……そうなのか、少しズレている程度では俺は気配に違和感を抱けないのか。感知はできても思ったより位置的な精度が甘いらしい……。

「というわけで気をつけるでござる!」

 戻ってきた少女はやはり明るく、ほがらかだ。

 唐突に現れた異国の忍者だが……正直、興味があるな。彼女が住まう国においてアイテール術にはどういった解釈が成されているのか。何ができるのか。

 カオスは本当に実在するのか。するとしたらそれは何なのか……。

 しかし、それは今、気にすべきことか?

 これは逃避ではないのか……? 恐ろしい事態を前に、俺は……。

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